久留米昆蟲研究會より会誌 KORASANA 103号が2024年11月25日に発行されました。
事務局では希望される方にそのKORASANA 103号を3000円で頒布しておりますので、その内容について紹介したいと思います。
KORASANA 103号をご希望の方は、このホームページ右上の「おたより」をクリックして申し込まれるか、あるいは直接、事務局 國分謙一 kokubu1951@outlook.jp
までお申し込みください。
また、スマートフォンやタブレットでご覧の方は、左下のメニューから、最下段のおたよりを選び、申し込んで下さい。
KORASANA № 103. 20241125 目次
報文
今坂 正一・畑山 武一郎・國分 謙一・大塚 健之・堤内 雄二・有馬 浩一・斎藤 猛・和田 潤
[ 久留米昆蟲研究會メンバーによる「綾町・照葉樹林」の甲虫調査 ]・・・・・・・1
今坂 正一 [ 下甑島のアオハムシダマシ属について ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・88
越智 恒夫 [ 小笠原隆氏より頂いたアオハムシダマシ属の記録
(コウチュウ目:ゴミムシダマシ科, ハムシダマシ亜科) ]・・・・・・・・・104
今坂 正一 [ ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・109
今坂 正一・佐々木 公隆
[ 福岡県で2023 年に採集した蛾 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135
今坂 正一・塚原 和之
[ 福岡県で2023 年に採集したバッタ類 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・137
緒方 靖哉 [ 昆虫採集逸話“福岡市とその近郊でのカミキリムシ採集回想録” ]・・・・・・140
緒方 靖哉 [ 昆虫採集逸話“やけど虫” ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145
緒方 靖哉 [ 昆虫採集逸話“タイ国産ツチハンミョウ” ]・・・・・・・・・・・・・・・・150
城戸 克弥 [ 丸山式FIT で得られたうきは市浮羽町新川の甲虫類(2) ] ・・・・・・・・・・155
城戸 克弥 [ うきは市浮羽町新川で採集した甲虫類(2) ] ・・・・・・・・・・・・・・・・166
城戸 克弥 [ 日本最初の昆虫専門誌「昆蟲雑誌」斜め読み ]・・・・・・・・・・・・・・・187
編集後記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・199
訂正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・200
投稿規定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・201
(表紙)
表紙解説
日本最大規模と言われている宮崎県綾町の照葉樹林。綾南川沿いの県道26 号線からの眺め。上部
に並べたのは、2023 年の調査で見つかった特筆種、現状では、綾町のみで見つかっている甲虫たち。左から、(仮称)アヤコオビオオキノコムシ(属不明)、(仮称)アヤオオチャイロコメツキダマシ、チャイロツツクビコメツキダマシ、オオヒラタホソカタムシ、(仮称)アヤキボシツツハムシ、(仮称)アカムネアシブトゾウムシ(属不明)。(仮称)を付けている種は全て新種候補である。
表紙デザイン・解説・今坂正一
今号では、13名の著者(共著含む)による12編、201ページの大冊となっております。
今回は表紙にあげたように、綾町照葉樹林の甲虫がメインです。
まずこの報告から紹介しましょう。
この報告は、上記8名の著者が2023年7月22日から26日まで、日本最大規模と言われている宮崎県綾町の照葉樹林での採集・調査記録をまとめたものです。
私のホームページでも以下のように紹介しました。
この記事を元に精査し、採集データと考察を加え、綾町から571種を記録しました。そのうち、宮崎県初記録58種、綾町初記録種158種を含んでいます。
詳細はホームページ、および、会誌本文をご覧ください。
(綾町での採集地と採集状況)
(綾町固有種と未記載種など)
(綾町で採集した興味深い種1)
(綾町で採集した興味深い種2)
次いで、下甑島のアオハムシダマシ属について です。
この報告も、当ホームページで紹介した内容を改訂したものです。
甑島からは、緑のアオハムシダマシと、赤紫のヤクアオハムシダマシが記録されていました。
(甑島のアオハムシダマシ類)
これら両方の色彩のものが同時に得られたことをきっかけに、この2型が同一種ではないかを調べました。
(甑島の緑型と赤型のアオハムシダマシ)
足の色、♂交尾器、上翅の立った毛の数など、様々な形質を比較してみましたが、その結果、両型は同一種の色彩型であることが解りました。
さらに、では、この種は国内産のどの種に最も近いかを考えるために、国内産の検索表をひいてみました。
(日本産アオハムシダマシ属の絵解き検索)
形質比較表も作って比較し、
その結果、アカハムシダマシに最も近いことが判明しました。
(形質比較表とアカハムシダマシの緑型と赤型)
1点、足の色に違いがあるのみなので、甑島産はアカハムシダマシの亜種程度と判断しています。
次は、越智さんによる、小笠原隆氏より頂いたアオハムシダマシ属の記録 です。
中部・関東地域に生息する5種と奄美大島産の計6種を記録されています。
この仲間は、種によって、緑型と赤紫型の片方しかない種と両方がある種があります。ずらっと並べると綺麗ですね。
(越智・アオハムシダマシ図版)
次いで、今坂のヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索 です。
これもまた、当ホームページに掲載した話題です。
ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索を作る その3
https://coleoptera.jp/2023/10/26/8891/
この報告は、図鑑や検索表の記述だけではなかなか同定できない種群を、何とか、記述の意味を1つ1つ図示することによって、理解していこうという試みでした。
(絵解き検索の最初)
ホームページでは、当初、2種について、情報が不足していました。
それを読者の方々が補足・助力していただいて、結果として、より充実したものになったと思います。
(日本産全種の写真、すべての種がほぼ同じ倍率になっています)
本誌に発表する報告を、一度、ホームページに掲載して、読者に不足を補っていただくことで、充実した文章になっております。
今後もよろしくお願いしたいと思います。
今坂・佐々木の 福岡県で2023年に採集した蛾は、甲虫採集時に同時に得られた蛾を佐々木さんに同定していただいた結果です。
同様に、今坂・塚原の 福岡県で2023年に採集したバッタ類は、無理を言って塚原さんに同定していただきました。
採集を繰り返すと、甲虫以外の虫も様々に採れてしまいます。それをゴミにするのは簡単ですが、見てくださる方がいれば、何とか、記録だけでも残していきたいと考えています。
各種、分類群を専門にされている虫屋の皆様、よろしくお願いいたします。
さて次は、、緒方さんの、昆虫採集逸話“福岡市とその近郊でのカミキリムシ採集回想録”です。
緒方さんは、「前略・・福岡市とその近郊を主に採集地にした昭和35(1960)年頃からである。昭和後期は、城戸氏も同じく、福岡市地域で採集しているので、城戸氏に合わせて、私も採集の回想を楽しみたくなった。紀貫之の”土佐日記”の冒頭の文章がパロディー「巧なる虫屋もすなる回想録といふものを、凡なる虫屋もしてみむとてするなり」の気持ちになって書いたカミキリ屋回想日記である。」と書かれています。
ナツメロならぬ虫屋の昔語りと言ったところでしょうか。福岡近郊の古い虫屋なら、「そうそう、そんなことが・・・」と思い出されると思います。
緒方さんの昆虫採集逸話“やけど虫”は、触ると火傷様にかぶれる虫のことですが、ここでは、日本産ツチハンミョウ~ゲンセイ類のお話です。
コレクションとしても、日本産を一通り集められていて、次の図版に披露されています。
(日本産ツチハンミョウ~ゲンセイ類)
また、さらに、その余勢を駆って、タイ国産も披露されています。
昆虫採集逸話“タイ国産ツチハンミョウ”
(タイ国産ツチハンミョウ1)
(タイ国産ツチハンミョウ2)
日本産と違って色彩豊かですね。最後の、生態写真の種なんて、ETを連想するのは私だけでしょうか?
しんがりは、城戸さんの3編です。
城戸さんは、毎年、場所を決めて通年その場所に通い、トラップ類を含めて、あらゆる採集方法を試みて、その場所のファウナを可能な限り掴む、という試みを繰り返されています。
2023年度は珍しく、前年調査された場所の補足調査と言うことで、うきは市浮羽町新川の甲虫類(2)という形で、報告されています。
(調査地の地図)
これも例年ですが、丸山式FIT で得られたリストと、それ以外の採集方法で得られたリストの2本立てで、前者が263種、後者が352種です。
2022年度は同じくうきは市浮羽町新川から782種記録されていて、2023年分を加えると、1026種になるそうです。
(城戸図版1)
城戸さんの話を伺って、どんなところで調査されているのか、一度、現地を見に行きましたが、山また山の大部分がスギ・ヒノキの植林地で、その中に、ごく狭い範囲のアカマツ混じりの雑木林が点在する環境でした。
あんな所(失礼)で、よくもまあ、2年も通って調査されたものと、感心するやら、あきれるやら。その上、思いがけない珍品を含めて、1026種も記録されるとは・・・。
福岡県の山林は、どこで採集しようかと悩むくらいに、どこへ行っても植林ばかり、自然林はごくごく少なく、規模も小さいものです。
それでも、手を変え、品を変え、調査すると、それなりの成果が得られるから不思議です。
(城戸図版2)
さて、トリと言うべき最後の報告は、城戸さんの 日本最初の昆虫専門誌「昆蟲雑誌」斜め読み です。
この報告も、当初、当ホームページに掲載していただき、読者から、様々な反響をいただきました。
そのご教示を生かして、改訂されたのがこの報告です。
この雑誌について、城戸さんは以下のように解説されています。
(昆蟲雑誌付図1)
「本誌は昆蟲雑誌社から1895年(明治28年)10月に日本で最初に発行された昆虫専門雑誌である。それまで日本には昆虫専門雑誌はなく、昆虫関係の論文はもっぱら1889年(明治22年)発行の「動物学雑誌」に掲載されてきた。「昆蟲雑誌」はA5版、縦書きで、全体として害虫関係を取り扱っていて農業や害虫関係の記事が多いが、昆虫に関する啓蒙的な記事も見られる。発行を重ねるごとにいろいろな分野を取り扱っているのが分かるが、総じて農業害虫関係の記事が多い。発行は1897年12月(明治30年)の12号まで続き、実質わずか2年程で終刊する。」
(昆蟲雑誌付図2)
日本の昆虫学の黎明期の様子が詳しく書かれており、普通種がそんな名前で呼ばれていたとの面白さや、先人がどんな活動をされていたか、興味が尽きません。
(昆蟲雑誌付図3)
是非ご一読ください。
久留米昆蟲研究會では、次号104号を来年(2025年)早々にも発行したいと考えています。既に、かなり多くの原稿をいただいていますが、まだ多少の余裕があります。奮って早めに原稿を提出していただけば助かります。よろしくお願いします。