ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索を作る その1

はじめに
手っ取り早く、ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索を引きたい方は、その3にお進みください。
ただ、その1とその2を読まれた後の方が、絵解き検索は理解しやすいと思います。

ヒメヒョウタンゴミムシ属 その3 絵解き検索

発端

今年(2023年)の久留米昆の採集会は、7月1日と15日の2回、筑後川下流域に位置する久留米市安武町武島で計画していた。
それが、2回とも、浸水被害が出るくらいの大雨で中止せざろをえなかった。
しかし、このままでは、どうもスッキリしないので、お盆過ぎの8月19日になって、声を掛けやすい有志数名で、リベンジとばかり同所で灯火採集を行った。

その時の採集品の中で、鳥栖の大塚さんがコヒメヒョウタンゴミムシを採集したと知らせてきた。

私は、手元の標本を示して、前胸にY字の点刻列があるのがチャヒメで、筑後川産もチャヒメではないかと言ったが、体形が細っそりしており、甲虫図鑑IIのチャヒメの体形(幅広)とは合わないとして、大塚さんは納得しなかった。

チャヒメの前胸にあるY字の点刻列についても、「どれがそうなのか良く解らない」と言う。
確かに、あると言えばあるし、無いと言えなくもなくて、私も段々、自信がなくなってきた。

それで、自身の同定業にも関わることでもあり、大塚さんが持ってきたヒメヒョウタンゴミムシ属の種を手元に預かり、自身の標本と併せて、見直してみようと考えた。

途中、大塚さんから、結果がどうなったか催促のメールが入ったが、様々に用事があり、ようやく手を付けられたのは1ヶ月以上経った、10月中旬に入ってからである。

ヒメヒョウタンゴミムシ属 (Clivina)の検索

ヒメヒョウタンゴミムシ属については、中根(1953, 1978)の解説がある。
原色図版としては、中根ほか(1963)の大図鑑、上野ほか(1985)の甲虫図鑑IIが参考になる。

中根猛彦, 1953. 日本の甲虫 (9), 新昆蟲, 6(5): 45-52.
中根猛彦, 1978. 新シリーズ 日本の甲虫 (46) ひょうたんごみむし科, 昆虫と自然, 13(1): 4-8.
中根猛彦・大林一夫・野村 鎮・黒沢良彦, 1963. 原色昆虫大圖鑑 II 甲虫扁, 443pp. 北隆館.
上野俊一・黒澤良彦・佐藤正隆, 1985. 原色日本甲虫図鑑 (II), 514pp. 保育社.

従来、この類を同定する際は、見慣れている上野ほか(1985)の図版と解説を読みながら、同定していた。

この図鑑にはヒメヒョウタンゴミムシ属の検索表は付いていないので、それだけではどうも不十分だったようである。
自身の頭の中を整理する意味でも、改めて、中根(1978)の検索表を引きながら同定することにした。

以下に中根(1978)の検索表を全文引用してみよう。

中根(1978)によるヒメヒョウタンゴミムシ属の検索表
(以下、適宜、ヒョウタンゴミムシの文字は省略することにして、和名は私が加えた)

1(8)腹部末端両側にある各2孔点は近接している;頭楯は横溝(前頭会合線)により前頭から区分される;上翅第1-3条溝は各基端が遊離している。

2(3)中脛節は先端前に辣突起を具えない;上翅第3間室上の孔点は4個で間室のほぼ中央に並ぶ; 黒褐色, 触角・ロ枝・肢は赤褐色; 5-6mm……niponensis (ヒメ)

3(2)中脛節は先端前に幅より長い1棘突起をもつ。

4(7)前胸は矩形か多少とも角はり,背面は横から見ふつうに凸隆する;頭は前胸よりあまり著しく狭くはない;上翅第3間室の4孔点はすべて第3条溝に接する;頭の翼片は頭楯と鋭い切れこみで分けられる。

5(6)腹部第2-4節両側は微細印刻をもつが,明らかな点刻はほとんどない;褐-濃褐色; 4.5-6mm……lobata ryukyuensis (ミナミヒメ)

6(5)腹部第2-4節両側には明らかな点刻をかなり密に具える;黒-黒褐色,触角・口枝・中後肢など赤褐色; 6.5-7mm …lewsii (クロヒメ)

7(4)前胸は強く凸隆し,側部は丸まり後方へ明らかに拡がる;頭は前胸よりはるかに幅狭い;上翅第3間室の4孔点中第1は基部に近くて第2条溝に接し,他は第3条溝に接する;頭の翼片は頭楯と鈍い切れこみで分けられる;光沢のある黒色,触角・口枝・符節は赤褐色; 7-10mm……castanea (ツヤヒメ)

8(1)腹部末端両側の各2孔点は離れている;頭楯は前頭と横溝によって分けられない;中脛節は先端前に1棘突起をもつ。

9(12)頭楯前縁は翼片と多少とも明らかに分けられる;上翅第1-4条溝は基端が遊離している;上翅第3間室の4孔点は第3間室に接する。

10(11)前胸背は各半面にY字形の点刻条を具えるが,時にほとんど消失する;腹部両側には明らかな点刻がない;濃褐色,触角・口枝・肢は赤褐色; 6-7mm…westwoodi (チャヒメ)

11(10)前胸背面の両側にはY字形の点刻条はない;腹部両側には明らかな点刻を具える;黒褐-褐色,触角・口枝・肢は赤褐色; 6mm内外……vulgivaga (コヒメ)

12(9)頭楯前縁は翼片との間に彎入-切れ込みがない。

13(14)上翅第1-5条溝は基端が遊離している;腹部末節は明らかな点刻がない;前頭は細かく弱い点刻を密でなく具える;上翅第3条溝は4-5孔点がある;黒褐-褐色,口枝・肢など赤褐色; 5. 5-6 mm.……fossor sachalinica (カラフトヒメ)

14(13)上翅第l-3条溝は基端が遊離している;腹部末節は少なくも小点刻を具える。

15(16)前胸は長幅ほぼ等しいか,わずかに幅広い;前胸背面は横皺条のほかに小点刻を具える;上翅第3間室は4孔点をもつ;赤褐色,前胸背前縁部は黒っほい; 5.3-5.8mm……yanoi (アカヒメ)

16(15)前胸の長さは幅の1.25倍ある;前胸背面は横皺条をもつが点刻はない(小局部を除く);上翅第3間室には3-4孔点をもつ;黒褐-暗褐色,体下・触角・口枝・肢などは赤褐色;5.l-6.2mm……extensicollis (ギョウトクヒメ)

この手の検索表を余り引いたことのない人のために解説すると、まず、1(8)の特徴を確認して、それが合っていれば、2(3)へと進む。
合わなければ、8(1)を読んで、それが合えば、9(12)へ進む。
同様の作業を繰り返して、種名に到達するというやり方である。

検索を引いてみる

a. ヒメヒョウタンゴミムシ

1(8)腹部末端両側にある各2孔点は近接している;頭楯は横溝(前頭会合線)により前頭から区分される;上翅第1-3条溝は各基端が遊離している。

検索表のすぐ下に出てくるヒメと思われる標本1の形質を確認してみる。

(標本1の背面: 福岡県中間市遠賀川産)

標本1の背面: 福岡県中間市遠賀川産

この後、検索文の形質1つ1つを、写真を提示しながら、検証してみよう。

<腹部末端両側にある各2孔点は近接している>

標本1の腹部末端の写真は次の通り。

(標本1の腹部末端)

標本1の腹部末端

確かに立った長い毛が生えた孔点が2つ(矢印)、隣接してある。

<頭楯は横溝(前頭会合線)により前頭から区分される>

頭部の写真を撮ってみた。

(標本1の頭部)

標本1の頭部

赤枠部分が頭楯、黄枠部分が前頭で、黄矢印部分がその横溝である。
確かに、横溝で、前後に区分されている。

<上翅第1-3条溝は各基端が遊離している>

上翅の基部の写真である。

(標本1の上翅基部)

標本1の上翅基部

上翅側縁は肩部から基部側に曲がって、基部では外側から第4間室まで繋がっている。
しかし、第3間室から内側では間室・条溝と基縁が繋がっていない。
このため、第1、2、3条溝までは、基端が遊離という表現になるようである。

以上、標本1は検索表1番の条件を満たしている。それで2番に進む。

2(3)中脛節は先端前に辣突起を具えない;上翅第3間室上の孔点は4個で間室のほぼ中央に並ぶ; 黒褐色, 触角・ロ枝・肢は赤褐色; 5-6mm……niponensis (ヒメ)

<中脛節は先端前に辣突起を具えない>

(標本1の中脛節)

標本1の中脛節

標本1の中脛節には、短い辣突起みたいなものを備えるが、3(2)で、先端前の辣突起というものは、脛節の太さよりさらに長い辣突起とある。
従って、この標本1の脛節は、辣突起を具えないということになる。

<上翅第3間室上の孔点は4個で間室のほぼ中央に並ぶ>

(標本1の上翅第3間室上の孔点)

標本1の上翅第3間室上の孔点

上翅の4孔点は確かに、ほぼ第3間室の中央に並ぶ。

次の、
3(2)中脛節は先端前に幅より長い1棘突起をもつ。
となっているので、標本1は辣突起を具えず、上翅の4孔点は第3間室の中央に並ぶことから、2(3)で確定で、ヒメヒョウタンゴミムシ C. niponensis Batesと同定できる。

次に、1(8)と相対する8(1)の方に移る。

手元のマウント標本の内、コヒメと同定していた標本2である。

(標本2: 長崎県島原市白土町産)

標本2: 長崎県島原市白土町産

8(1)腹部末端両側の各2孔点は離れている;頭楯は前頭と横溝によって分けられない;中脛節は先端前に1棘突起をもつ。

<腹部末端両側の各2孔点は離れている>

(左が標本2の腹部末端、右が前記ヒメの腹部末端)

左が標本2の腹部末端、右が前記ヒメの腹部末端

標本2の2孔点は離れているとは言えず、比較のために、先のヒメを右側に配置してみたが殆ど替わらない。

<頭楯は前頭と横溝によって分けられない>

(標本2の頭部)

標本2の頭部

横溝が無いことになっているが、明らかに黄矢印の部分に横溝がある。

<中脛節は先端前に1棘突起をもつ>

(標本2の中脛節)

標本2の中脛節

確かに、太くて長い棘突起がある。

しかし、腹部末端両側の各2孔点は接近し、頭楯は前頭と横溝によって分けられるので、標本2はコヒメではない。

始まりから、同定誤りが見つかってしまった。

気を取り直して先へ進もう。
では、標本2は何なのか。

むしろ、前に戻って、1(8)の形状に合致する。そして、中脛節に棘突起が有るので、2(3)のヒメとは異なり、3(2)へ進む。

次いで、
4(7)前胸は矩形か多少とも角はり,背面は横から見ふつうに凸隆する;頭は前胸よりあまり著しく狭くはない;上翅第3間室の4孔点はすべて第3条溝に接する;頭の翼片は頭楯と鋭い切れこみで分けられる。

と、
7(4)前胸は強く凸隆し,側部は丸まり後方へ明らかに拡がる;頭は前胸よりはるかに幅狭い;上翅第3間室の4孔点中第1は基部に近くて第2条溝に接し,他は第3条溝に接する;頭の翼片は頭楯と鈍い切れこみで分けられる;光沢のある黒色,触角・口枝・符節は赤褐色; 7-10mm……castanea (ツヤヒメ)

を検討してみる。

前胸は丸まってなく、上翅第3間室の4孔点(緑矢印)はすべて第3条溝に接している。

(標本2の上翅孔点)

標本2の上翅孔点

と言うことは、上翅第3間室の第1孔点が第2条溝に接する7(4)ではなくて、4(7)に進むべきである。

そして、5(6)か6(5)のどちらかと言うことになる。

5(6)腹部第2-4節両側は微細印刻をもつが,明らかな点刻はほとんどない;褐-濃褐色; 4.5-6mm……lobata ryukyuensis (ミナミヒメ)

6(5)腹部第2-4節両側には明らかな点刻をかなり密に具える;黒-黒褐色,触角・口枝・中後肢など赤褐色; 6.5-7mm …lewsii (クロヒメ)

(標本2の腹部)

標本2の腹部

標本2の腹部には、明らかに点刻があることから、6(5)であり、クロヒメヒョウタンゴミムシ C. lewisi Andrewsと同定できる。

長らく、コヒメと思っていた標本2は、実は、クロヒメだったわけで、今後、島原市産の記録を訂正する必要が出てきた。

c. ミナミヒメヒョウタンゴミムシ

手持ち標本の中に、石垣島と与那国島の標本があり、やや細い体型と分布から、ミナミヒメと同定していた。
次にこの石垣島産を検証して見よう。

(標本3: 石垣島米原産)

標本3: 石垣島米原産

だいたい、同定のポイントが解ってきたので、標本3の形質をまとめて以下に示す。

(標本3の形質1)

標本3の形質1

上の段、腹端の2孔点は近接、頭楯と前頭の間に横溝(黄矢印)、
下の段、上翅第1-3条溝は各基端が遊離、中脛節に棘突起が認められる。

よって、1(8)から、2(3)はパスして、3(2)、4(7)と進むことが出来る。、

(標本3の形質2)

標本3の形質2

検索4(7)のうち、上段: 上翅第3間室の4孔点は第3条溝に接し、下段: 頭の翼片は頭楯と鋭い切れこみで分けられる(矢印)で、クリアー。

念のため、7(4)を確認すると、前胸側縁は丸まらずストレート、上翅第3間室の第1孔点は基部に近くて第2条溝には接しないし、体長は7-10mmはなく、5mm前後と、明らかに、7(4)には該当しない。

そのため、4(7)から、5(6)へ進むと、

(標本3の腹部)

標本3の腹部

腹部第2-4節両側は微細印刻のみで、明らかな点刻はない。
体色もやや赤みを帯び、先の標本2のクロヒメとは明らかに区別できるので、ミナミヒメヒョウタンゴミムシ C. lobata ryukyuensis Habuと確定できる。

d. ツヤヒメヒョウタンゴミムシ

実は、ツヤヒメについては、半世紀以上前の1977年に、ゴミムシ類の大家 土生昶申(はぶ・あきのぶ)博士に同定していただいた標本を所有している。

この標本は、長崎市在の野田さんに仲介をお願いして同定依頼をしたもので、50種近くを同定していただいた。
その中に含まれていた島原市と雲仙のゴミムシ3♀は、キュウシュウホソヒラタゴミムシ Trephionus kyushuensis Habuのホロタイプとパラタイプに指定されている。

(土生さんによる同定標本4の背面)

土生さんによる同定標本4の背面

余談はさておき、土生さん同定標本を改めて検証することもないが、形質を紹介するために掲載しておく。

(標本4の形質)

標本4の形質

上の段、腹端の2孔点は近接、頭楯と前頭の間に横溝(黄矢印)、さらに、頭の翼片は頭楯と鋭い切れこみで分けられる(矢印)
下の段、上翅第1-3条溝は各基端が遊離、中脛節に棘突起が認められる、中脛節に棘突起。

前胸は強く凸隆し,側縁は丸まり後方へ拡がる。
頭は前胸よりはるかに幅狭い。
光沢のある黒色で、体長は8mmほどあり、確かに、ツヤヒメヒョウタンゴミムシ C. castanea Westwoodである(なお、Balkenhol(2021)により、日本産の本種とされていたものの学名は、C. shillhammeri Balkenohlに変更された)。

ここまで済んだ後で、中根さんの最初の解説である中根(1953)を見返してみる。

中根(1978)ではクロヒメの絵が1つ有っただけだが、こちらには、部分付図が豊富に入っている。
検索表の内容も表現が少し違うだけで殆ど変わらず、こちらを先に見ていれば、形質の状態の理解もし易く、簡単に同定できたのにと後悔した。

中根(1978)では2回目なので、付図は省略されたのだろう。

この付図は解りやすいので、中根(1953)の付図を見やすいように改変して引用する。
ナンバーの説明を読んで、和名等の説明は私が加えた。

(中根の付図1)

中根の付図1

6種について、頭部の頭楯と前頭の間の横溝、頭の翼片と頭楯の間の切れ込み(溝)などが描かれていて解りやすい。

(中根の付図2)

中根の付図2

腹部末端両側にある各2孔点が近接(ヒメ)か、離れる(コヒメ)かが解りやすく示されている。
この特徴で大きく2つのグループに分けられるので、この図を見ていれば、b. コヒメヒョウタンゴミムシかな、とした標本2で、近接・離れるを迷うことは無かった。

さらに、中脛節のトゲの状態と、クロヒメ、ツヤヒメの背面図が描かれている。

(中根の付図3)

中根の付図3

♂交尾器の図も4種ほど掲載されている。
1953年に既に内袋の骨片が示されているのも驚きである。
オサムシで既に内袋の骨片が注目されていたためであろうか。

残りの、腹部末端両側にある2孔点が離れる5種については、次回、検討する。
それが終了したら、この属の日本産種の絵解き検索を作ってみたいと考えている。

ヒメヒョウタンゴミムシ属 その2

に、つづく

追記(2023. 10. 31)
ホームページに掲載後、東京大学の中村さんからご教示があり、この中根(1953)の付図は、同じくNakane(1952)のカラフトヒメヒョウタンゴミムシを日本産の亜種として記載した論文に於ける付図を流用したものであることを教えていただき、論文のコピーも送っていただいた。中村さんに厚くお礼申し上げる。

やや重複するが、Nakane(1952)の付図も参考のために、引用しておく。和名は私が加えた。

Nakane, T., 1952. New or little known Coleoptera from Japan and its adjacent regions. VIII. -Caraboidea-. Ent. Rev. Japan, 6(1): 1-3.

(Nakane, 1952付図1)

Nakane, 1952付図1

(Nakane, 1952付図2)

Nakane, 1952付図2

(Nakane, 1952付図3)

Nakane, 1952付図3