最新ハムシ事情図説7 カサハラハムシ属紹介2

前回、Demotina属のうち、

1. オオアラゲ(major)種群
2. マダラアラゲ(fasciata)種群
について紹介しました。

今回は引き続き、

3. カサハラ(modesta)種群
の紹介です。

カサハラ種群は、皆良く似ていて、おまけに同時に複数(多いところでは3-4種)採れるのでやっかいです。
カサハラ種群の特徴として、Isono(1990a, b)の総説、その引用である木元・滝沢(1994)のハムシ図鑑の検索表から読みとれるのは、

翅端会合部が側縁部分より後ろに尖って突出することがないこと、
脛節のほぼ中央と先端前に、暗色環部分を持たないこと、
上翅に鱗毛による斑紋や顕著な瘤状突起を持たないことなどです。

ただ、上翅基部後方の、マダラアラゲ種群では顕著なお腕状の突起が出る部分は、本種群でもゆるやかに盛り上がり、その直後は、逆に凹み、新鮮な個体では、その部分に鱗毛が密集し、白粉も付いて、白っぽい紋に見えます。
いずれも、積極的な特徴でないことも、この群の解りずらさを助長しているかも知れません。
小型で、一部の暗色紋がぼんやり出る種を除くと黄褐色の一群で、上翅の鱗毛はほぼ一様に黄白色〜白色です。
腿節のトゲ状突起は、小さくて、ほとんど目立ちません。

カサハラ種群は、以下の検索表で2群に区別されます。

G. ♀の腹節末端3節は

  側縁にのこぎり歯状の
  構造を装う
  →Hに進む
  3-1.フタモンアラゲ種亜群

  側縁にのこぎり歯状の
  構造を装わない
  →I に進む
  3-2. カサハラ種亜群

前回も、この腹節にあるこぎり歯状の構造が、大部分の種について(別属のクロオビカサハラでも)、存在することを紹介しました。
♀に顕著で、♂では見られない構造なので、多分、産卵のために有った方が都合の良い(サルハムシにとっては)普遍的な構造だろうと考えています。

Isono(1990)と、ハムシ図鑑の検索では、この構造については、ここまで来てやっと検索表に登場するので、当初、フタモンアラゲ種亜群に固有の特徴と考えていましたが、全体を見ていくと、むしろ、一般的で、装わないというカサハラ種亜群の特徴が、特殊だという考えに変わりました。

どちらにしても、カサハラ種群においての、腹節末端の歯状構造の有無の確認は非常に重要です。
しかし、非常に細かいのと、歯状突起の生えている方向が、後方というよりむしろ下方に近いので、標本を単に腹側から見るだけではなかなか確認できません。
確実に検鏡するには、腹節を取り外して観察する必要があります。

3-1.フタモンアラゲ種亜群
♀の腹節末端3節は側縁にのこぎり歯状の構造を装うのが本種亜群の特徴です。

国内産は2種で、頭楯の長さと幅の比率で、分けられています。
Isono(1990)の付図と説明によると、左右の触角孔と上唇で囲まれる部分の(前広がりの台形なので、どのあたりを計っているか少し解りづらいのですが)、縦横の比率を問題にしているようです。

H. 頭楯の長さと幅の比率は

  約2.5倍と幅広
  背面を被っている鱗毛はより太い
  上翅は赤褐色で、地色に黒紋は無く、
  肩部後方の鱗毛の紋は目立たない→
  3-1a. クシバアラゲサルハムシ
  Demotina serriventris

  約1.7倍と縦長
  背面を被っている鱗毛はより細く、白く疎生、
  肩部後方の鱗毛による白紋は目立つ→
  3-1c. フタモンアラゲサルハムシ
  Demotina bipunctata

<種の説明>
3-1a. クシバアラゲサルハムシ Demotina serriventris Isono
九州(福岡・長崎),屋,奄,沖縄,石,西; 台湾

2.5-3.2mmと本種亜群ではより大きめ。
頭楯の長さと幅の比率は約2.5倍と幅広で、背面を被っている鱗毛がより太い。

実は頭楯は先端1/3付近で内側へ折れ曲がっており、その点もあり、前面から見ると長さが短く見えるわけです。

上翅は褐色で、地色の目立った斑紋は無い。
腹面も通常は褐色。

♀の腹節先端3節の側縁には歯状突起が並ぶ。
その山は歯車の歯のように四角張って、山と谷がはっきりしており、腹節末端に近づくほど、山の幅が狭くなる。
ただし、末端節中央部分は低く波打つ程度で、山にならない(写真)。

種小名のserriventrisは、この腹節の状態の説明で、serra(のこぎり状の)+ventris(腹板)です。

手元に、本種のパラタイプである、ホロタイプと同産地の台湾蓮華池(Lienhoachi)産、同・日月潭(Jiuyuehtan)産、石垣島オモト岳産、長崎県大村市狸尾産などを保管していますが、台湾産と石垣島産は上記と同様の傾向を示しています。

しかし、大村市狸尾産は歯状突起の山は丸みのある山形で緩く、山の形や間隔が不揃い(写真)、末端節後縁の突起は、逆に、蓮華池産より発達して山形になります。

狸尾産は頭楯の前縁が斜めに折れ曲がり、幅広に見える点では蓮華池産に比較的似てますが、頭楯の形そのもの(写真)は少し違うようです。

パラタイプの中でも、それぞれの地域の個体が複数あって、地域ごとに一定の傾向がありますから、台湾産-石垣島産と、本土の長崎県産は、それぞれ別物と考えた方が良いと思います。

ということで、今のところ、確実にクシバアラゲサルハムシと言えるのは、上げられている分布:九州(福岡・長崎),屋,奄,沖縄,石,西; 台湾のうち、石,西;台湾産を、考えておいた方が良いと思います。
それ以外の地域の、本種とされているものは、島ごとに再検討が必要でしょう。

とりあえず、別種と考えられる九州の狸尾産などを仮に、
3-1b. タノオアラゲサルハムシ Demotina sp.
九州(長崎・福岡)
としておきます。

手元にある長崎市岩屋山産や今住んでいる福岡県久留米市産も狸尾産と同種と思われます。

成熟個体は、上翅の基部から合わせ目中央付近までと、側縁の前半部分に暗色の紋が出る傾向がある(写真)ようです。

狸尾はシイとイチイガシの発達した林で、他の採集地は、鎮守の森的なシイ林です。
3, 4, 5, 9, 10月に採集しています。

3-1c. フタモンアラゲサルハムシ Demotina bipunctata Jacoby
本州(静岡以西),四国,九州(長崎),対,屋

2.7mm前後と、前種よりは小型。
頭楯は扁平で長さと幅の比率は約1.7倍で縦長。
背面を被っている鱗毛はより細く、白く、疎生する(写真右)。

上翅は基部後方の、凹みとその後方に、比較的顕著な鱗毛の丸い密生部分があり、新鮮な個体では白粉も付着して、和名の元となるフタモンが見える。

十分に成熟した個体では、上翅は基部から合わせ目沿いにフタモンの後方までと、その斜め後側方に丸紋、さらに上翅外周と翅端に、黒褐色の紋が出る。

上翅が短く幅広の体型からも、クシバアラゲやタノオアラゲと区別できる。

成熟個体では、腹面も暗色になる。

♀の腹節先端3節の側縁には歯状突起が並び、クシバアラゲの蓮華池産と良く似た、歯車の歯のように四角張り、山と谷がはっきりしており、腹節末端に近づくほど、山の幅が狭くなる状態が見られる(写真)。
末端節中央部分の歯はより山形になる。

本種は、低山地で見つかっており、狸尾などシイ林の近くにあるクヌギの葉上で見つかりました。その他、奈良公園や、手元の長崎県国見町田代原、熊本県合志市灰塚など、すべてクヌギ林のようです。

採集したのは4, 6, 7, 8月と奈良の越冬個体は2月ですから、周年見られるような感じがします。

本種の種小名はbi(2つの)+punctata(点)で、上翅基部後方の凹みと、白紋を含めた意味と理解しています。

3-2.カサハラ種亜群
♀の腹節末端3節の側縁にのこぎり歯状の構造を装わないことで区別される(写真)。

I. 触角第2節は第3節より

  明瞭に長い→
  3-2a. チビカサハラハムシ
  Demotina decorata

  明瞭に短い→Jへ進む

J. 前・中肢の第1および第2フ節は

  拡大し、
  後肢フ節より極端に広がる→
  3-2b. ヤクカサハラハムシ
  Demotina elegans

  特に拡大することはなく、
  後肢フ節とほぼ同じ→Kへ進む

K. カサハラ種群中

  最も大型(2.9-4.2mm)、
  上翅はより長く、凹凸が少なく鱗毛を密生
  上翅側片の基半では、
  鱗毛がやや不規則に2列に生える→
  3-2c. アラゲサルハムシ Demotina squamosa

  より小型(2.8-3.5mm)
  上翅はより短く、鱗毛はより疎
  上翅側片には、一様に鱗毛は1列に生える→
  Lへ進む

L. 小楯板は

  逆台形で、基部で強く広がる
  上翅末端が90度より少しだけ鋭角になる→
  3-2d. ヒメアラゲサルハムシ Demotina vernalis

  基部で強く広がることは無く先端は舌状
  上翅末端はほぼ90度で角は丸い→
  3-2e. カサハラハムシ Demotina modesta

<種の説明>
3-2a. チビカサハラハムシ Demotina decorata Baly
本州(愛知以西),四国,九州,対,平戸,五,種

触角第2節は第3節より明瞭に長いことで、全てのカサハラ種群の種から区別される。

他の種と比較してみると、第2節が長いのではなくて、他の種では長い第3節が、本種では短くなっている。
本種は日本産Demotina属の中で最も小型(2.0-2.2mm)。
上翅が極端に短く、幅と長さがほぼ同じ。

上翅には、肩部、合わせ目中央、その側方の白紋の後方、さらにその側後方、翅端前の側方には暗色紋を装う(写真)。

新鮮な個体では、密生した鱗毛と白粉も相まって複雑な文様が現れる。
成熟個体では、腹面も暗色。

♀の腹節には、のこぎり歯状の構造は無く、末端節の側縁は細かく波曲する(写真)。

本種は、長崎県大村市狸尾のイチイガシ原生林で、シイ林冠の葉上から4-5月に無数の個体をスウィーピングで採集したことがあります。
その他、熊本県水俣市久木野大川では12月にシイ林の林床の落葉から、長崎県波佐見町村木郷では発達したシイ林葉上から7月に採集しています。
7月の個体が最も新鮮なので、この時期に羽化して、越冬し、春過ぎにいなくなるのではないかと推定しています。

今のところ、シイ林はあっても久留米市では採集していないので、ベーツヒラタカミキリ同様、直接、暖流の影響を受けるシイ林に生息しているのではないかと思います。
昆虫総目録などにある奄美大島の記録は、再検討が必要ではないかと思います。

なお、種小名は飾られたという意で、白紋と黒紋の組み合わせの妙を述べたと思われます。

3-2b. ヤクカサハラハムシ Demotina elegans Chujo et Shirozu
本州(福島以西),九州(大分・長崎・熊本・鹿児島),伊,屋,奄,沖縄,石,西; 台湾

前・中肢の第1および第2フ節が拡大し、後肢フ節より極端に広がることで、全てのカサハラ種群の種から区別できる。
(写真:左から、前フ節、中フ節、後フ節)

成熟した個体は、上翅先端1/4付近の合わせ目側方に顕著な丸い黒紋を持つことでも、区別しやすい。

体長は2.7mm前後、成熟個体でも、腹面は褐色。
♀の腹節の側縁は細かく波曲し、末端節の側縁先端半だけ、細かい歯状突起を数個備える。

沖縄本島ではかなり多く見られたほか、鹿児島県大隅半島南部の川辺町、熊本県天草町、長崎県島原半島南端の岩戸山、同じく半島中部の国見町田代原、佐賀県有田町戸矢のそれぞれシイ林で採集しています。前種よりさらに暖流の影響を受けるシイ林に生息しているのではないかと思います。
九州では6〜8月に採集しています。

なお、学名は優雅なという意ですが、特にどのあたりが優雅なのか不明です。

3-2c. アラゲサルハムシ Demotina squamosa Isono
本州(岐阜以西),四国,九州(福岡・長崎),伊八,対

カサハラ種群の中、最も大型(2.9-4.2mm)、上翅に鱗毛を密生する(写真左)
上翅肩部の後方には、新鮮な個体は白粉などにより白紋を生じることはあるが、地色の黒紋は観察できない。
上翅はかなり長く、カサハラ種群では最も胴長。

上翅側片の基半では、鱗毛がやや不規則に2列、後半は1列(写真右)。

[img]http://www.coleoptera.jp/uploads/img4ba99b5e4dc16.jpg[/img]

成熟個体の腹面は褐色。
♀の腹部末端節にはごく弱く細かい波曲が見られる。

手元に、パラタイプが21個体存在し、長崎市金比羅山、長崎県島原半島岩戸山、同じく半島中部の国見町田代原、大村市狸尾、五島若松島の6, 7, 9月採集の標本が含まれています。

さらに、鹿児島県下甑島、長崎県波佐見町村木郷、佐賀県有田町戸矢では6-7月にそれぞれシイ林で採集し、熊本県水俣市久木野大川では12月にシイ林の林床の落葉下から採集しています。本種も暖流の影響を受けるシイ林に限って生息しているのではないかと思います。

なお、種小名は鱗状のという意で、上翅の密な鱗毛を表現していると思います。

3-2d. ヒメアラゲサルハムシ Demotina vernalis Isono
本州(岩手〜大阪)
(写真: 千葉県柏市産パラタイプ)

次種カサハラハムシに良く似るが、小楯板が逆台形で、基部で強く広がること(写真: 島根県江の川産)、

上翅末端が90度より少しだけ鋭角になること(写真: 千葉県柏市産パラタイプ)で、区別される。

背面は褐色で顕著な暗色紋は無いが、成熟個体は腹面は黒褐色で、前胸中央部や上翅肩部の盛り上がり部分など、多少暗化することも有る。
上翅の点刻は多少列状、間室は側方ではやや盛り上がり、鱗毛は黄褐色で次種より細い。
(写真: 千葉県柏市産パラタイプ)

体長は2.8-3.3mm。
♀の腹部末端節の側縁には構造物は見えない。
(写真: 大分県黒岳男池産)

千葉県柏市で故・江本健一氏が1966年6月に採集されたパラタイプ1頭を保管しています。
他に、島根県江の川・5月産と、大分県由布市庄内町黒岳男池と同九重町飯田高原の6月採集分があります。

男池にはブナとミズナラ、飯田高原ではカシワとコナラがありますが、採集時の記憶はありません。

九州からは初めて報告しますが、大分県産は小楯板(写真左)と上翅末端(写真右)の傾向は本州産と同じですが、

上翅の点刻はより列状で、間室はさらに盛り上がり、鱗毛は白色で、ほぼ列状に生えており、千葉県柏市産パラタイプとは、多少違っています(写真)。

将来的に九州産については検討の必要があるかもしれません。

なお、学名は春のという意で、主として本州では若葉の時期の5-6月に採集されるので、そう名付けられたものと思われます。

3-2e. カサハラハムシ Demotina modesta Baly
本州(茨城以西),四国,九州(大分・長崎・熊本),伊八,種,屋

図鑑や九大の昆虫総目録では本種の分布に、奄,徳,沖縄,石,西,与那などが含められていますが、これは、Isono(1990a, b)の研究以前のデータと考えられますので、彼の分布範囲を採用しておきます。

小楯板が基部で強く広がることは無く、先端は舌状(写真左)、上翅末端はほぼ90度で丸まる(写真右)。
体長3.0-3.5mm。

上翅は肩部後方の盛り上がりを除いて凹凸が少なく、間室も盛り上がらず扁平、鱗毛は黄白色で前種より太く、アラゲサルハムシに次いで密生(写真)。

背面は黄褐色〜褐色で暗色紋は無く、成熟個体でも腹面は黄褐色。
♀の腹部末端節の側縁には特に構造物は無い(写真)。

岡山県倉敷市庄、大分県九重町宝泉寺ヌクミズ、佐賀県有田町戸矢、長崎県波佐見町村木郷、同外海町県民の森、同長崎市野母崎、同諫早市白木峰、同島原市新山、熊本県合志市西合志灰塚、同菊池市旭志、鹿児島県知覧町下郡などで6-9月に採集した標本を保管しています。

ざっと地名からの記憶では、低地から低山地のクヌギ・コナラ・クリなどで採れているようで、耕作地のクリ園でも採っています。

カサハラ種群の、タノオアラゲ、フタモンアラゲ、ヤクカサハラ、ヒメアラゲの未熟個体は、本種と混同する可能性が強いので、細かい形質のチェックが必要です。

本種は、体色は淡色化し、上翅の凹凸や斑紋も観察されず、♀の腹部末端節の側縁の構造が失くなり、耕作地でも見つかることから、人為的な場所に適応するためにも、成熟しないまま親になってしまうネオテニーの状態が固定した種であろうと想像されます。

なお、学名は中庸の、上品なという意で、淡色の体色を指していると思います。

さらに、国内からは、
4. コアラゲサルハムシ Demotina aurosquama Chujo
伊八,奄

と言う種が記録されていますが、Isono(1990a, b)にもハムシ図鑑にも詳しい解説がないので割愛しました。

チビカサハラハムシ程度に小さい、カサハラハムシのような淡色の種ということしか読みとれません。
もし、この種について、何か情報をお持ちの方がありましたら、ご教示下さい。

以上概観したところで、Demotina属の地域ごとの分布と依存するホストなどについてまとめておきます。

1. Demotina属の地域ごとの分布

Demotina属は、国内から既知種が13種知られていますが、さらに2-3種は追加される可能性があります。
既知種13種のうち、北海道からは記録が無く、

本州から8種、マダラアラゲ、コブアラゲ、フタモンアラゲ、チビカサハラ、ヤクカサハラ、アラゲ、ヒメアラゲ、カサハラ、

四国から6種、マダラアラゲ、コブアラゲ、フタモンアラゲ、チビカサハラ、アラゲ、カサハラ、

九州から9種、マダラアラゲ、コブアラゲ、イマサカアラゲ(九州固有)、フタモンアラゲ、チビカサハラ、ヤクカサハラ、アラゲ、ヒメアラゲ、カサハラ、

伊豆諸島から4種、マダラアラゲ、ヤクカサハラ、アラゲ、コアラゲ、

九州周辺の島嶼から5種、マダラアラゲ、コブアラゲ、フタモンアラゲ、チビカサハラ、アラゲ、
記録されています。

これらの種の内、コアラゲを除く9種は全て九州にいますので、ざっと九州系と考えて良いかも知れません。

屋久島〜与那国島までの琉球からは、オオアラゲ(沖縄・沖永良部固有)、ササカワアラゲ(奄美諸島固有)、マダラアラゲ、クシバアラゲ、フタモンアラゲ、チビカサハラ、ヤクカサハラ、コアラゲ(奄美固有)の8種が記録されています。

このうち、マダラアラゲ、フタモンアラゲ、チビカサハラの3種は屋久・種までで、その南には記録がないことから、この3種を除く5種が琉球系と考えて良いでしょう。

2. ホストとの関係

ホストは大部分がブナ科植物と考えられますが、
標高の高い方から、ホストの可能性がある樹種として、

落葉系
ブナ・ミズナラ・カシワ:マダラアラゲ、コブアラゲ、ヒメアラゲ、イマサカアラゲ

コナラ・クヌギ・クリ:マダラアラゲ、コブアラゲ、ヒメアラゲ、フタモンアラゲ、カサハラ

常緑系
シイ・カシ:マダラアラゲ、コアラゲ、チビカサハラ、ヤクカサハラ、オオアラゲ、ササカワアラゲ、クシバアラゲ、アラゲサル

のようになるのではないかと思います。

つまり、マダラアラゲはオールラウンドですが、落葉ブナ科喰いのカサハラなど5種と、常緑ブナ科喰いのアラゲサルなど7種に別れるような気がします。

私のベースグラウンドである、大村市狸尾と島原半島の田代原では、どちらも隣接してシイ林とクヌギ林があり、
シイ林でチビカサハラ、ヤクカサハラ、アラゲサル、
クヌギ林でフタモンアラゲ、カサハラ、両方でマダラアラゲと、
いずれも6種出ているのは興味深いところです(実際には、さらに狸尾ではシイ林でタノオアラゲも出ているのですが)。

以上のことから、これら九州系9種のうち、琉球系5種と分布が重複するのはヤクカサハラ1種のみで、他は全てどちらか片方だけの固有種です。
多分、このヤクカサハラを除く九州系8種のうち、落葉喰い5種と、常緑喰い2種は、渡来の経路や時期が別で有ろうと思います。

同様に、琉球でも、列島中央の固有種であるオオアラゲ、ササカワアラゲと、それ以外のクシバアラゲ、ヤクカサハラ、コアラゲとは侵入時期や経路が違うと考えられます。

今後も、Demotina属のそれぞれの種の出現について、ブナ科植物の指標甲虫としての見方からも、注意していきたいと思います。

Demotina属のそれぞれの種のホストについて、上記とは違った観察をされている方はご教示下さい。

3. 和名の提案

Demotina属をまとめられた磯野氏は和名は提唱されていません。

大野さんの日本産ハムシ科名彙(1971)を見ると、属の語幹として松村正年・中根猛彦両氏はカサハラ、中條道夫・大野正男両氏はアラゲサルを使用されていて、さらに種名はそれぞれに違った名前を使用されているようです。

磯野氏が整理されるまで、それぞれの種の認識自体が、あいまいだったのかもしれません。

そんなこともあって、ハムシ図鑑では、この、カサハラハムシとアラゲサルハムシの両方の語幹が入り交じって使用されています。

どちらかに統一するのが理想的ですが、種名としても、カサハラハムシとアラゲサルハムシの両方があり、単純に変換することは難しいでしょう。

この2種のどちらかを改名して、統一するのも1つの方法ですが、次のような提案はいかがでしょう。

カサハラハムシ種群についてのみ、ホストと関連づけて、落葉喰いをカサハラ、常緑喰いをアラゲサルにするという案です。

この案に従うと、ヒメアラゲと、フタモンアラゲを、それぞれ、ヒメカサハラとフタモンカサハラにして、

さらに、チビカサハラとヤクカサハラを、それぞれ、チビアラゲ、ヤクアラゲに変えます。

これで、落葉喰い、常緑喰いがそれぞれ和名で判断できることになり、植物との相関もすっきりして、良いような気がするのですが・・・。

以上で、2回に渡るDemotina属の紹介を終わります。
多少は、同定の手引きになりましたでしょうか?