ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索を作る その3

この報告は、ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索を作る その2の続きである。

一通り、日本産ヒメヒョウタンゴミムシ属(Clivina)について形質を見てきたので、いよいよ、絵解き検索を作ってみたい。

文章を読んで同定できる方は、先に「その1」で挙げた中根(1978)の検索表をお勧めする。そちらはちゃんと、系統順に沿って検索されているものと思う。

ここでは、「絵解き検索」作りを目指しているが、絵解きと言うからには、絵を見ればスイスイ分けられるものが、初心者には有り難いはずである。
それで、系統順は度外視して、なるべく、1つ、2つの形質を見れば分けられる検索にしたい。

また、その2の最後に述べたギョウトクヒメについては、偶産種と思われるので、絵解き検索から省く。
縦長の細い体型と言うだけで、もし、発見されたら区別できるであろう。

日本産種に限ると、ヒョウタンゴミムシ亜科のなかで、15mmを超える大型種はヒョウタンゴミムシ属 (Scarites)、中型の5-10mmがヒメヒョウタンゴミムシ属(Clivina)、5mmに満たない小型種がチビヒョウタンゴミムシ属(Dyschirius)である。

中型で7mmほどのアトモンヒメヒョウタンゴミムシ Aspidoglossa subangulata (Chaudoir)が奥多摩で記録されているが、この種も北米原産の偶産であろう(中根, 1978)。

よって、5-10mmの中型のヒョウタン型のゴミムシなら、ヒメヒョウタンゴミムシ属(Clivina)である可能性が高いので、以下の絵解き検索で同定可能となる。

ヒメヒョウタンゴミムシ属(Clivina)の絵解き検索

まず、1点の形質を見れば種が確定できる種を分ける。

(検索1)

検索1

中脛節の先端前に脛節の幅より長い棘突起があるかどうかを見る。

ごく短い突起しかなければヒメヒョウタンゴミムシで、あれば①に進む。

(検索2)

検索2

①では、上翅第3間室の4孔点のうち、最も基部の第1孔点が第2条溝に接するのか、第3条溝に接するのかを見る。

第2条溝に接するならツヤヒメヒョウタンゴミムシで、第3条溝に接するなら②に進む。

なお、この第1孔点は、やや、見つけにくい傾向もある。
それで、一応、ツヤヒメヒョウタンゴミムシとしておいて、多少心配になるなら、以下の点を確認する。
黒くて体長が8-10mmとかなり大きく、前胸は丸い感じで、頭部が前胸よりかなり小さい感じがあれば、本種で間違いない。

(検索3)

検索3

②では、腹節末端にある2孔点が2つ接してあるのか、1つずつ離れているのかを見る。
中根(1953)の線画が解りやすいので、引用して追加した。

2つ接していれば③に進む。
なお、検索1と2で既に確定したヒメとツヤヒメは、2孔点が接する第1グループに含まれる。

1つずつ、離れていれば④に進む。

(検索4)

検索4

③では、腹部に点刻があるかどうかを見る。
腹部には全面に細かい網目状の印刻があり、これと、細かい点刻の区別に迷うことがある。
体色が赤っぽく、目立った点刻が見えないなら、ミナミヒメヒョウタンゴミムシ。

体色が黒っぽく、特に両側でハッキリ点刻があれば、クロヒメヒョウタンゴミムシ。

(検索5)

検索5

④に含まれるのは、全て、腹節末端にある2孔点が1つずつ離れている第2グループである。
このグループ内では、特に、上翅条溝の基部が、側縁-基縁から何条溝まで離れる(遊離する)かで分けることが出来る。

第1-3条溝が離れる(第4間室が基縁と繋がる)なら、アカヒメヒョウタンゴミムシ。

第1から第4条溝、あるいは第5条溝まで離れるなら、⑤に進む。

(検索6)

検索6

⑤では、中根(1978)の検索では、頭楯前縁が、側方にある翼片との間にハッキリ切れ目があるか、ひと繋がりで切れ目がハッキリしないかで区別してある。
しかし、この形質は、1個体だけを見ても、その形がどちらなのか判断に迷う。

それで、上翅条溝の基部が、側縁-基縁から第1-4条溝まで離れるか、あるいは第1-5条溝が離れるかで分ける。

第1-4条溝まで離れるなら⑥に進む。

第1-5条溝が離れるなら、カラフトヒメヒョウタンゴミムシになる。

本種については、「実際の標本を確認していないので、もし、所有されている方で、貸与していただける方があれば、是非、お貸し下さい。」と書いたところ、さっそく、北海道博物館の堀さんから、標本を恵与いただいたので、補足・紹介した。

(検索7)

検索7

⑥では、最後に、コヒメとチャヒメを区別する。この2種の区別が一番難しかったので、ここでは、2つの形質を使う。

第1は、検索表にあった腹部の点刻の有無で、点刻があればコヒメ、無ければチャヒメである。
この点刻もやや見にくいので、さらに、第2として、前胸の形を見る。

前胸が縦横ほぼ同じで、側縁は直線的に前縁へ狭まるのがコヒメ、前胸は幅広で、縦より横が長く、側縁は丸みがあるのがチャヒメである。
上記、2形質を併せて見れば、まず間違わないと思う。

以上、絵解き検索で当たりを付けた上で、その1、および、その2における、各形質の詳細を見直していただければ、さらに、確実な同定が可能になると思う。

ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索を作る その1

ヒメヒョウタンゴミムシ属の絵解き検索を作る その2

最後に、各種について、解っている情報を追記しておく。

第1グループ
〇ヒメヒョウタンゴミムシ Clivina niponensis Bates, 1873 本州,四国,九州; 東中国
〇ツヤヒメヒョウタンゴミムシ Clivina schillhammeri Balkenohl, 2021 本州,四国,九州,対,ト(口,中),奄,石,西,与那; 韓国,中国,台湾,東南アジア
〇ミナミヒメヒョウタンゴミムシ Clivina lobata ryukyuensis Habu, 1975 奄,徳,石,西,与那
〇クロヒメヒョウタンゴミムシ Clivina lewisi Andrewes, 1927 本州(神戸が基産地),四国,九州

第2グループ
〇アカヒメヒョウタンゴミムシ Clivina yanoi Kult, 1951 九州,甑,屋,ト宝,奄,沖縄,石,与那; 台湾
〇カラフトヒメヒョウタンゴミムシ Clivina fossor sachalinica Nakane, 1952 北海道,本州
〇コヒメヒョウタンゴミムシ Clivina vulgivaga Boheman, 1858 北海道,本州,四国,九州; 台湾,中国,東南アジア
〇チャヒメヒョウタンゴミムシ Clivina westwoodi Putzeys, 1867 本州,四国,九州,琉球; 台湾,東南アジア,ニューギニア,セイロン

〇ギョウトクヒメヒョウタンゴミムシ Clivina extensicollis Putzeys, 1846 九州(偶産?); 南中国,東南アジア,インド

なお、Balkenohl(2021)は、アジア産のClivina castane-species groupの再検討をして、13新種を記載している。

Balkenohl, M.2021. Revision of the Clivina castanea species-group from Asia (Coleoptera: Carabidae: Clivinini), Belgian Journal of Entomology, 115: 1-83.

そのなかで、日本を含むアジア地区の広い範囲から、Clivina schillhammeri Balkenohlを記録している。

これを受けて、ジャパニーズビートルでは、

ツヤヒメヒョウタンゴミムシ Clivina schillhammeri Balkenohl

と表示してある。

(ジャパニーズビートル 日本列島の甲虫全種目録 (2023年)
7.6 Subfamily Scaritinae Bonelli, 1810 / ヒョウタンゴミムシ亜科
https://japanesebeetles.jimdofree.com/%E7%9B%AE%E9%8C%B2/5-%E3%82%AA%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%82%B7%E7%A7%91/5-7-%E3%83%92%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%9F%E3%83%A0%E3%82%B7%E4%BA%9C%E7%A7%91/ 2013年10月25日アクセス)

(訂正
「当初は、Balkenohl(2021)では、そもそも、Clivina castanea Westwoodの形態についての説明も無く、従って、Clivina castanea Westwoodと、Clivina schillhammeri Balkenohlの異同についての説明も無い。

本来、「castane-species groupの再検討」と言うからには、castaneaの形態等を説明をした上で、castane-species groupの定義をすべきと考えるが、いかがであろうか?」
と書いた。

しかし、こちらも、東大の中村さんのご教示によると、castane-species groupの定義は9ページに、castaneaを含む検索表は9-13ページに掲載されていた。筆者が読み取れなかっただけであった。

この点、前言をお詫びし、訂正しておきたい。ご教示いただいた中村さんには、重ねてお礼申し上げる。

なお、この論文の付図のうち、C. castaneaと、C. schillhammeriの図があるので、引用しておく。


(背面、左から、C. castanea、C. schillhammeri)

背面、左から、C. castanea、C. schillhammeri

(頭部腹面、左から、C. castanea、C. schillhammeri)

頭部腹面、左から、C. castanea、C. schillhammeri

(前胸背、左から、C. castanea、C. schillhammeri)

前胸背、左から、C. castanea、C. schillhammeri

蛇足ながら、本来、筆者はこのグループへの理解が乏しく、従来記録した手元にある標本を見直したところ、同定誤りがいくつも見つかった。

今坂(1999)の中で長崎県島原半島産を記録した3種はいずれも同定誤りであった。

ヒメヒョウタンゴミムシ(田代原)→ツヤヒメヒョウタンゴミムシ

コヒメヒョウタンゴミムシ(島原市白土産)→クロヒメヒョウタンゴミムシ

チャヒメヒョウタンゴミムシ(雲仙ゴルフ場、諏訪池、中島、前浜)→コヒメヒョウタンゴミムシ

今坂正一, 1999. 島原半島の甲虫相1. 長崎県生物学会誌, (50): 125-170.

また、今坂ほか(2021)では甑島列島からツヤヒメ、ヒメ、コヒメ、アカヒメの4種を記録しているが、コヒメはミナミヒメヒョウタンゴミムシの間違いで、その他の3種は合っていた。

ミナミヒメヒョウタンゴミムシは従来、奄美大島以南で記録されているので、甑島は北限記録になりそうである。

今坂正一・細谷忠嗣・國分謙一・伊藤玲央・有馬浩一, 2021. 甑島採集紀行 その3 (2020年7月). KORASANA, (96): 21-98.

以上の記録については、改めて、記録の訂正をしたいと思う。

末筆ながら、このような誤りを訂正するきっかけを作っていただいた、鳥栖市在の大塚さんに、厚くお礼申し上げる。