久留米昆メンバーによる「綾町・照葉樹林探訪」その4

綾ユネスコエコパークの中心部の紹介は終わったので、今回はその他の周辺地域を紹介します。

7月23日に戻します。

前日、灯火採集など、遅くまで頑張ったので、この日はダラダラとユックリ活動を始めました。

まず、コンビニに行って、昼食を買います。

それから、木野田さんのお勧めで、綾神社に出かけます。

(綾町の市街地図)

綾町の市街地図

綾町ユネスコエコパークセンターからほんの車で5分、直線距離で、1kmもない近さです。

(センターと綾神社の位置関係、グーグルより改変引用)

センターと綾神社の位置関係、グーグルより改変引用

ここは神域なので、調査の手も入っていなかったようなのですが、「綾ユネスコエコパークの生物基礎調査で、移行地帯の調査を進めてほしいという依頼があって、今年から、大手を振って調査できるようになった」との木野田さんの言葉です。

こんな目と鼻の先に、ほぼ、原生状態の林があるなど、綾町は尋常ではありません。

(綾神社)

綾神社

境内にあるクスノキは樹齢300年となっています。

(境内のクスノキ)

境内のクスノキ

この神社の森はざっと、150m×300m程度ですがが、ほぼ原生状態に近く、中央は深い谷の細流になっていて、中に入ってしまうと、ほぼ、山間の渓流といった風情です。

(綾神社の森の広がり、グーグルより改変引用)

綾神社の森の広がり、グーグルより改変引用

この森を探索した後、その谷に架かる吊り橋の上から見た景色が以下の写真です。なかなか良い林である事が解ると思います。

(上流側)

上流側

(下流側)

下流側

この林の中を探索してみることにしました。

(採集支度の木野田さんと國分さん)

採集支度の木野田さんと國分さん

林内には散策道路が完備されていて、畑山さんは、ビーティングを開始します。

(ビーティング中の畑山さん)

ビーティング中の畑山さん

しかし、ライトFITを掛けた方が良いと判断されたようで、トラップ掛けの方にシフトされていました。

林内はまったく町中とは思えず、谷間に入ってしまうと、小流の周りに倒木あり、立ち枯れも有ります。
さらに、遊歩道脇には伐採された枯れ木が積んであるなど、大森岳や綾南川より、よほど虫が採りやすそうな環境です。

適当な空間や木漏れ日もあって、道横の葉上や、伐採木上など、大型ハナノミやカミキリ、ハムシなども留まっていてもおかしくない感じです。
大変雰囲気の良い遊歩道沿いで、もし、近くにあったら、頻繁に訪れたくなる場所だと思いました。

しかしながら、この日は暑く、そして、沢沿いのことで、湿度100%に感じます。
多少は枯れ木や、朽木のキノコを探し、樹葉を叩いたりしてみましたが虫は少なく、殆ど落ちません。
滝のように汗が溢れだして1時間ほどでギブアップしてしまいました。

採集できた甲虫は以下の通りです。

(綾神社で採集した甲虫)

綾神社で採集した甲虫

オオアオミズギワゴミムシ、ニセマルガタゴミムシ*、コヨツボシアトキリゴミムシ、クロケシタマムシ*、クズノチビタマムシ、ナミガタチビタマムシ、サビキコリ、アミモンヒラタケシキスイ、ウスオビキノコケシキスイ、アミダテントウ、コクロヒメテントウ、ヒメカメノコテントウ、ニジゴミムシダマシ、アオガネヒメサルハムシ*、ドウガネサルハムシ*、クロウリハムシ、カミナリハムシ*の17種です。

町の近くの雑木林で採れるような普通種ばかりですが、それでも、綾町から記録されていない種が4種も含まれています。
このうち、クロケシタマムシは駐車場横の、公園内の下草をスウィーピングして採集しました。

(クロケシタマムシ)

クロケシタマムシ

國分さんは他に、ヨツスジトラカミキリ*、イチモンジハムシ、ヒゲナガホソクチゾウムシを採られていました。

採集を切り上げる前に、先ほど書いた吊り橋の上で記念写真を撮ります。

(綾神社の吊り橋の上で)

綾神社の吊り橋の上で

この日、畑山さんは、4-5基のライトFITを設置されていて、これを、最終日26日の午前中に回収されました。

綾神社のライトFITの成果は以下の通りです。

(ライトFITの成果)

ライトFITの成果

中には、オオホシボシゴミムシ、キイロチビゴモクムシ、イツホシマメゴモクムシ、コキノコゴミムシ、ヒラタアトキリゴミムシ、アカケシガムシ、カドマルエンマコガネ、ヤエヤマニセツツマグソコガネ、サツマコフキコガネ、マルガタビロウドコガネ、ヨツバコガネ、アオドウガネ、ヒメコガネ、ムナビロツヤドロムシ、フタモンウバタマコメツキ、オオクシヒゲコメツキ、クリイロアシブトコメツキ、オオナガコメツキ、チャイロコメツキ、コヒゲナガコメツキ、クシコメツキ、クロハナボタル、ウドハナボタルなどが入っており、感触としては、大森岳林道の入り口付近や、綾南川のライトFITと内容が余り変わりませんでした。

畑山さんによれば、ここでも、カミコシキオオチャイロコメツキダマシ(仮称)が採れていたことから、精査すれば、この社叢でも様々な珍品が採れそうな気がします。
依頼もあり、木野田さんは、その後も、ライトFITによる調査を継続されているそうです。
今後、面白い種の報告が期待されます。

さて、綾神社の次は、すぐ東側に隣接してある綾城の麓にある材置き場に向かいます。

綾町初日の22日午前、斉藤さん・大塚さん組が、ここで、タマムシ*と大型ハナノミを採ったと言っていた場所です。
大きなケヤキと思われる材が積んであるところに、この2種が飛来していたそうです。

ハナノミは、多分、アヤオビハナノミと思われ、実は、畑山さんは50年余りハナノミ屋をやっていながら、アヤオビハナノミを自分で採ったことは無かったそうです。
宿を出る前に、シッカリ、二人から場所を聞いていました。

(北俣の材置き場)

北俣の材置き場

確かにでかい材が一杯積んであります。

(材の周りを探索)

材の周りを探索

さっそく、大きな羽音を上げて、タマムシが飛んできました。
木野田さんは写真を撮ろうとしています。

(産卵場所を探すタマムシ)

産卵場所を探すタマムシ

問題はハナノミなので、畑山さんは舐めるように木肌を眺めていきます。
しばらく経ってから、「いたー!」、ようやくいたようです。

そうこうしている間にも、次々飛来したようで、結局、3個体を採集し、「初めてのアヤオビハナノミを、3匹も採ったもんね」とご満悦です。

(材に飛来して産卵場所を探すアヤオビハナノミ)

材に飛来して産卵場所を探すアヤオビハナノミ

しかし、この話にはオチがあって、後日、ちゃんと確認されたところ、アヤオビハナノミは1個体だけで、後の2個体は、ザウテルオビハナノミだったとのこと。

最初に見つけた大塚さんの採集品も、ザウテルオビハナノミで、結局、この場所では、この写真に写っている1個体が、唯一のアヤオビハナノミだったということです。
畑山さんは、よほど、アヤオビハナノミには嫌われているのでしょうかね。

なお、大塚さんに後で標本を見せて貰ったところ、この場所で、上記以外に、ホソコハナムグリ、シラホシナガタマムシ*、クロトラカミキリを採られていました。
このうち、クロトラカミキリはちょっと問題があります。

と言うのも、藤田ほか(2023)によると、本種は3亜種に分類され、九州産は亜種 ssp. kurotoraとして、本州から九州と対馬、上甑島に分布することになっています。
また、近似のヤエヤマトラカミキリは伊豆諸島と、九州の周辺離島、屋久島以南の琉球に分布することになっていて、九州本土では記録されていないことになっています。

藤田 宏・平山洋人・秋田勝己, 2023. 月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ 11 日本産カミキリムシ大図鑑 (II). むし社. 407pp.

一方、宮崎県昆虫目録では、ヤエヤマトラは延岡市と日向市で記録され、クロトラも県本土各地で記録されています。

藤田図鑑では各種の斑紋等の個体変異が詳しく解説され、各種の変異個体の写真が豊富で、この2種も、それぞれ、20個体以上の写真が掲載されています。

この図版を見れば見るほど両種の差は微妙で、本当に別種?と思えるほどです。
両種は亜種、あるいは、それ以下のタームという意見もあるようです。

結局この図版を総括すると、前胸の黒紋が大きくてハッキリし、上翅中央の黒帯が広いものをクロトラ、逆に、前胸の黒紋が縮小して小さく、上翅中央の黒帯が狭いものをヤエヤマトラとしているようです。
図版の写真を借用して、綾町の個体と並べてみます。

(左から、図版の新島産クロトラ、綾町産、図版の硫黄島産ヤエヤマトラ)

左から、図版の新島産クロトラ、綾町産、図版の硫黄島産ヤエヤマトラ

こうして見ると、綾町産は、前胸はクロトラ、上翅はヤエヤマトラにそれぞれ似ています。

綾町は、両種の分布範囲のちょうど中間地点と言える場所なので、この個体は、両種のハイブリッドなのでしょうか?
それとも、そもそも、両種は本当に別種なのでしょうか?

もう少し厳密に、両種の関係を突き詰めた方が良いような気がします。

さて、この材置き場の後は、木野田さんに、「大森岳林道と綾南川以外のおすすめの場所に案内して欲しい」とリクエストをしたところ、茶臼岳林道を案内していただきました。

茶臼岳林道は、大森岳の山塊の東側を流れる綾北川の、東側に聳える釈迦ヶ岳の、さらに東側の谷を流れる深年川沿いに、北西側へ入っていく林道です。
その終点からは式部岳(しきぶだけ・標高1218.9m)、さらには掃部岳(かもんだけ・標高1223.8m)へ登山するルートがあるようです。

綾の町から綾北川を越えて、北へ向かい、法華岳公園の脇から左に折れて、茶臼岳林道に入っていきます。
この奥では今も伐採中ということで、林道は所々舗装してあり、地道の部分も掃除がいきとどいていて綺麗です。

林道は深年川沿いに、西北方向へ延々と走り、1時間ほどかかって、伐採現場の分岐までたどり着きました。

ちょうどお昼になったので、弁当にします。

(持参のイスを並べて)

持参のイスを並べて

せっかくなので、ここでも記念写真。

(茶臼岳林道での記念写真)

茶臼岳林道での記念写真

それから昼食を済ませると、せっかく、ここまで来たので採集を始めようと、分岐まで戻って、伐採現場へ登っていきます。

伐採木や枯れ木が少しはあって、さあ、叩こうと採集を始めた途端、ポツポツと降ってきました。
それでも少しくらい・・・と思って、続けていると、雨粒がでかくなった、と思った瞬間、雷が鳴り、すごい土砂降りがやってきました。

みんな這々の体で車に走り込み、何とかセーフ。
それでも、こんな山の中で凄い土砂降りが続いたら、川は溢れ、道は崩れて、戻れなくなっても不思議ではありません。ダッシュで戻ることにしました。
結局、私はせっかく来た茶臼岳林道では何も採っていません。

雨は半時間ほど降り続いて、あっけなく上がり、林道の入り口まで戻ったときには小降りになっていました。
しかし、道路には水溜まりもあちこちに見られたので、綾の町中でも結構降ったのでしょう。

その後、宿に戻って作戦会議。その結果、この日(23日)は丸目岳で灯火採集をすることになりました。
この丸目岳と言うのは、宮崎市の南部・清武町にある山ですが、オオスミヒゲナガカミキリの産地として知られています。
綾町内ではないので、このシリーズの最後に、番外編として紹介したいと思います。

さて、2日目23日は別行動をとっていた、斎藤さん・大塚さん組のうち、大塚さんの標本をみせていただいたので、ここで、彼の採集品を紹介しておきます。

斎藤さん・大塚さん組は、22日午後は、綾南川の県道沿いで採集して、そこで灯火採集。

23日は日中は川中で採集して、夜間の灯火採集は、綾南川の県道沿いの町からそう遠くない南俣でやられたそうです。

大塚さんは、22日綾南川の日中には、ウスグロモリヒラタゴミムシ*、ヒコサンモリヒラタゴミムシ、イクビモリヒラタゴミムシ、フタホシアトキリゴミムシ、コヒゲシマビロウドコガネ、セマダラコガネ、コヒゲナガハナノミ、ベニヘリテントウ、オスグロオオハナノミ*、ヘリアカアリモドキ、ヒメニシキキマワリモドキ、セアカケブカサルハムシ、ムナグロツヤハムシ、タイワンツブノミハムシ*、サビクチブトゾウムシ、エグリクチブトゾウムシ、カシワクチブトゾウムシ、ヒメクモゾウムシの一種②*を採集されていました。

このうち、ヒメクモゾウムシの一種②は未記載種です。
藤澤さんのウェッブサイト 「Gallery of Weevil Images」に掲載されている種で、近畿以西の本州、四国、九州で見つかっているようです。

(ヒメクモゾウムシの一種②)

ヒメクモゾウムシの一種②

また、22日の綾南川の灯火採集では、私や有馬さんの採集品以外に、ミスジツブタマムシ、カワムラヒメテントウ*、ミカドテントウ*、ナガセスジホソカタムシ、アバタツヤナガヒラタホソカタムシ、ヒュウガホソカタムシ、ヒゲブトコキノコムシ、ナガニジゴミムシダマシ*、キマワリ*、キマダラカミキリ、クロホシクチブトゾウムシ*、トサヒシガタクモゾウムシ*、ヒラセクモゾウムシ*、ワシバナヒメキクイゾウムシ、キクイサビゾウムシを採集されています。この中には、灯火採集以外の任意採集分も含まれているようです。

すぐ近くで採集した私や有馬さんの灯火採集で採れていない種が、これだけあるということは、やはり、綾南川の甲虫の多様性は凄いとしか言いようがありません。

(ヒュウガホソカタムシ)

ヒュウガホソカタムシ

ヒュウガホソカタムシは、宮崎県産を基に、比較的最近、新種記載された種です。対馬と宮崎県以南の屋久島、奄美大島、西表島などで記録されています。

23日の川中では、クロミズギワゴミムシ*、ヤセモリヒラタゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、ツヤヒラタガムシ*、キベリヒラタガムシ*、ルイスチビヒラタムシ、クロオビセマルヒラタムシ、アカグロムクゲキスイ、コモンヒメコキノコムシ、アヤモンヒメナガクチキ、クリイロクチキムシ*、チビコブツノゴミムシダマシ*、クロホシテントウゴミムシダマシ、テントウゴミムシダマシ、ナガゴマフカミキリ、チビカサハラハムシ、ムツボシトビハムシ*、ヒゲナガルリマルノミハムシ*、ルイスコトビハムシ*、ヤツボシヒゲナガゾウムシ、ウンモンヒゲナガゾウムシ、アカマダラヒゲナガゾウムシ屋久島亜種、アカクチホソクチゾウムシ*を採られています。

河川水辺で採れるクロミズギワゴミムシ、ツヤヒラタガムシ、樹幹の湿ったコケにいるムツボシトビハムシ、シダを食べる暖地性のルイスコトビハムシなど、綾町初記録になる興味深い種を採られています。

さらに、23日夜は、綾南川沿いの、大吊り橋から市街地にかなり戻った地点(南俣)で灯火採集をやられたようです。ドロムシ類が大量に来て閉口されたようですが、オオホソチビゴミムシ*、オオアオミズギワゴミムシ、ウスオビコミズギワゴミムシ*、ウエノコミズギワゴミムシ*、クリイロコミズギワゴミムシ、チャイロコミズギワゴミムシ*、クロズカタキバゴミムシ*、ムナビロアトボシアオゴミムシ、トゲアトキリゴミムシ*、チビゲンゴロウ、コモンシジミガムシ、オオシロカミキリ、イチゴハムシ*、モンキアシナガハムシ*など、主として砂地の河川敷で見られる種や、草地で見られる種を多く採集されています。

これらの種の多くが、綾町から未記録ということは、やはり綾町では森林性の種が注目されているからでしょう。

(左から、オオホソチビゴミムシ、ウエノコミズギワゴミムシ)

左から、オオホソチビゴミムシ、ウエノコミズギワゴミムシ

このうち、ウエノコミズギワゴミムシは、元は、台湾産で新種記載された種で、その後、愛知県の小学校の給食室から大量に記録されたり、東京や広島、四国の高知県で記録されたり、与那国島や上甑島(今坂ほか, 2021)などからも記録されていますが、図鑑にも掲載されておらず、余り良く知られていない種です。九州本土では唯一南阿蘇村(大塚, 2013)の記録があるだけで、宮崎県では初記録になると思います。

今坂正一・細谷忠嗣・國分謙一・伊藤玲央・有馬浩一, 2021. 甑島採集紀行 その3 (2020年7月). KORASANA, (96): 21-98.

大塚健之, 2013. 熊本県南阿蘇村で灯火採集で得た甲虫の記録. KORASANA, (81): 45-47.

さらに、前回お約束した、和田さんの採集品です。こちらも全体を見せていただきました。

和田さんは、ベイトトラップによるオサムシ類の採集を主力にされていますが、オフ時間には、ビーティングや、花掬い、灯火採集と、多様な採集を実行されています。

和田さんは、他のメンバーとは違う日程で調査をされています。
見せていただいた採集品の記録から判断すると、25日川中から綾南川で任意採集、大吊り橋近傍でベイトトラップ設置、さらに、大森岳林道の上部と下部でもベイトトラップ設置、以上全て27日回収。
26日は大森岳林道で任意採集、夜の夜間採集まで。
27日は上記3箇所ベイトトラップ回収と、夜間は、川中で灯火採集となっています。

順に見ていきましょう。

大吊り橋近傍でベイトトラップでは、ヒメオサムシ、ルイスオオゴミムシ、ムナビロアトボシアオゴミムシ、スジアオゴミムシ、オオホソクビゴミムシ、ツヤエンマコガネを採られています。

大森岳林道の上部では、期待したオオオサムシもヒメオサムシも採れずに、残念がられていました。
上記に追加して、アカバハネカクシ、センチコガネ、ムナビロサビキコリが、下部では、ヒロモリヒラタゴミムシ*、オオスナハラゴミムシ*、クロバネハバビロオオハネカクシ、ビロウドコガネを採られています。

(大森岳林道の下部のベイトトラップ採集品)

大森岳林道の下部のベイトトラップ採集品

このうち、ヒロモリヒラタゴミムシは照葉樹林の林床に生息する九州固有種で、熊本県湯山・市房山、宮崎県鵜戸などで記録されています。
綾町の記録はありませんが、宮崎県では比較的多いようです。

(ヒロモリヒラタゴミムシ)

ヒロモリヒラタゴミムシ

25日の川中については、前回紹介しました。
27日の川中の灯火採集では、前回紹介した(仮称)アヤキボシツツハムシ*を始め、サツマコフキコガネ、キイロテントウダマシ、ナミテントウ、カシワツツハムシ*、トゲアシゾウムシ、カシワクチブトゾウムシを採集されています。

甲虫が7種しか採れていない中に、新種と思われるツツハムシが含まれていたのは、驚くべき事です。

26日の大森岳林道でも、前回紹介した(仮称)アカムネアシブトゾウムシ*を始めとして、クロモリヒラタゴミムシ、フタホシアトキリゴミムシ、コヒゲナガハナノミ、クチボソコメツキ*、ドウイロムクゲケシキスイ、ヨツボシオオキスイ*、クロチビアリモドキ、フタオビミドリトラカミキリ*、マダラアラゲサルハムシ*、ムナグロツヤハムシ、キバラヒメハムシ*、ミツギリゾウムシを採集されています。

また、その夜の大森岳林道下部での灯火採集では、さらに、オオアオミズギワゴミムシ、ハギキノコゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、クリイロコガネ、ムナビロツヤドロムシ、オオクチキムシ、マルツヤニジゴミムシダマシ、ノコギリカミキリ、ニセノコギリカミキリ、シロアナアキゾウムシ*を採集されています。

和田さんは、5月に行われた、甲虫学会の観察・調査会にも参加されていて、その時の採集品も見せていただきました。
「久留米昆のメンバーによる・・・」夏の分ではないので、全容については省略して、特に興味深い以下の2種についてのみ、紹介しておきます。

(ヒュウガクシヒゲベニボタル、右は♂交尾器)

ヒュウガクシヒゲベニボタル、右は♂交尾器

2023年5月17日川中 灯火採集 1♂

この種も松田さんに同定と写真撮影をお願いしました。心よりお礼申し上げます。

この種は中根(1994)において、宮崎県の須木村(現・小林市)産を基に新種記載された種で、木野田さん採集の延岡市愛宕山産もパラタイプとして入っています。
須木は綾町の西部で、山続きですから、当然いて良いですね。
それでも、その後の記録は無さそうです。今のところ、宮崎県の固有種と言うことになります。

中根猛彦, 1994. 日本産クシヒゲベニボタル属の種について. 長崎県生物学会誌, (44): 3-9.

また、同日、大森岳林道で採集されている次のクモゾウムシも該当種が見つかりませんでした。
上翅の合わせ目部分に、小楯板を含めて5つの白紋が並ぶのが特徴的で、シロモンクモゾウムシ*と仮称しておきます。

(シロモンクモゾウムシ)

シロモンクモゾウムシ

2023年5月17日大森岳林道

小楯板が大きいので、オオツノクモゾウムシに似ていると思うのですが、前胸腹面にツノは認められませんでした。
オオツノクモゾウムシ♀の斑紋変異の可能性は残ります。
本種について情報・ご意見をお持ちの方はご教示下さい。

最後に、もう1種、びっくりするような種の紹介です。

実は畑山さんが、ライトFITで採集されていた種ですが、当初、丸目岳産と聞いていたので、次回の丸目岳の回で紹介するつもりでした。
その後、あれは大森岳林道産だったとの訂正が入り、ということは、7月22-24日大森岳林道のゲート手前付近のライトFITで採集されていたことになります。

(謎のオオキノコムシ)

謎のオオキノコムシ

とりあえず、(仮称)アヤコオビオオキノコムシ*と呼ぶことにします。

前胸背の側縁と腹面が褐色ですが、1固体だけなので、今のところ、未熟固体かどうかは判断できません。

背面全体の感じからは、一見、ヒメオビオオキノコムシやミヤマオビオオキノコムシの上翅の赤紋を灰黄色にしたような感じに見えますし、キオビオオキノコムシの生時の真珠光沢をとった感じにも似ています。
しかし、これらEpiscapha属の種が体長10-15mmあるのに、この種は7mm程度しかありません。

(左から、アヤコオビオオキノコムシ、カタボシエグリオオキノコムシ、ミヤマオビオオキノコムシ)

左から、アヤコオビオオキノコムシ、カタボシエグリオオキノコムシ、ミヤマオビオオキノコムシ

その点からすると、ベニモンムネビロオオキノコムシ(5-7mm)や、ミイロムネビロオオキノコムシ(3.5-5mm)などが、体長としては近いかもしれません。

(左から、アヤコオビオオキノコムシ、ベニモンムネビロオオキノコムシ、ミイロムネビロオオキノコムシ)

左から、アヤコオビオオキノコムシ、ベニモンムネビロオオキノコムシ、ミイロムネビロオオキノコムシ

この種を調べてみられた畑山さんから、前胸腹板の形状は、ベニモンや、ミイロとは大分違うと言って、3種の写真が送ってきました。

(前胸腹板、左から、アヤコオビオオキノコムシ、ベニモンムネビロオオキノコムシ、ミイロムネビロオオキノコムシ)

前胸腹板、左から、アヤコオビオオキノコムシ、ベニモンムネビロオオキノコムシ、ミイロムネビロオオキノコムシ

矢印の部分を見てください。
確かに、ベニモン、ミイロなど、Microsternus属では、中央突起は角張った隆起線で三角形に囲まれていますが、アヤコオビでは、前半部は隆起線がありません。

試しに、カタボシエグリ(Magalodacne属)、ミヤマオビ(Episcapha属)の前胸腹板の写真を並べてみたのが次の写真です。

(前胸腹板、左から、アヤコオビオオキノコムシ、カタボシエグリオオキノコムシ、ミヤマオビオオキノコムシ)

前胸腹板、左から、アヤコオビオオキノコムシ、カタボシエグリオオキノコムシ、ミヤマオビオオキノコムシ

かえって、この2種の方が、前半部は隆起線が無く、Microsternus属よりはアヤコオビに似ている感じもします。
どちらかというと、私はカタボシエグリが一番、似ていると思います。

どちらにしても、日本では記録のない種で、属も不明の謎のオオキノコムシです。
この後、松田さんが詳細に検討されることになっています。
本当に、綾町にはまだまだ、興味深い種が人知れず生息しているような気がします。

以上4回に渡って、久留米昆蟲研究會のメンバー8名による7月21日から27日までの綾町での採集調査について紹介しました。
今回の綾の調査で見つかった種は全部で408種にのぼり、このうち、132種については、綾町の記録を見つけられていません。

また、新種候補になる、学名が決定できていない種も、畑山さんの主目的であったコメツキダマシでは、先に紹介したチャイロコメツキダマシ属4種に加えて、その後の調査で、ヒメチャイロコメツキダマシの近似種、コガタフチトリコメツキダマシの近似種と、Entomophthalmus属の一種の3種が見つかり、計7種の未記載種が見つかっています。

さらに、上記のアヤコオビオオキノコムシを筆頭に、タラメツブテントウ、アヤキボシツツハムシ、アカムネアシブトゾウムシ、ヒメクモゾウムシの一種②、そして、未確定ですが、シロモンクモゾウムシを加えると、合計13種の新種候補が採れました。

暑い中、ゲリラ夕立と湿気で、なかなか思うようには採集できなかった、綾町での7月下旬の探索調査でしたが、多くのメンバーが、思い思いにそれぞれ別のやり方で採集をした結果が、こういった成果を生み出したものと思われます。採集にも多様性が必要ですね。

さて、綾町での探索行は、以上の通りですが、実は途中でお知らせしたように、宮崎市清武町の丸目岳においても、木野田さんの案内で、畑山、國分、今坂の3名は採集をしています。
そちらの方も、結構、面白いものが採れていますので、このシリーズの最後に、付録として、次回紹介したいと思います。

つづく