FITことはじめ 3 −2011九酔渓 その2−

2011年に九酔渓で行ったFIT調査報告の2回目です。

採集記録を続ける前に、「FITことはじめ2」を見た科博の野村さんから、「FITの設置位置についての記録も取っておくべき」とのご教示がありましたので、改めて、そのことを説明しておきます。

私が使用した吊り下げ式FITは、渡辺氏→畑山氏→私と教わった形式で、野村さんのご教示では「いわゆる渡辺式FIT」だそうです。渡辺さんが解説された「吊下げ式簡易型屋根付きFITとその作り方」は甲虫ニュース No. 166 (2009):7-9.に掲載されています。

これは、100円ショップなどで売っているA3ファイル(クリアホルダー)の短径部分を切り開いて倍の広さに拡げたものを2つ接続して作成します。
本来は上に屋根が取り付けてあり、当初雨よけかと思っていたのですが、設置してみると、多量の落葉が降り注いで回収部分の穴を塞ぐことから、落葉除けであることが解りました。

写真で示した私のFITはこの部分が手抜きで省略してありますが、落葉が多いと穴を塞いで虫が採れなくなるので、長期間設置される方は、ぜひ屋根も付けられることをお奨めします。

ということで、自身のFITを計測してみたところ、幅42cm、高さが上部の枠から、回収用のプラスティックコップの底まで94cmでした。
九酔渓では、コップの底が地表にギリギリ触れない位置(地表から5cm程度)に吊り下げており、コップの底から受け皿部分の張り出しまでの高さが29cmあったので、結局、飛翔中の虫を捕獲する衝突板部分は、地上、99cm〜34cm、幅42cmのスペースということになります。

FITのかたちと設置位置
FITのかたちと設置位置

(補足:
ホームページ掲載後、上記のFITの先生格・渡辺さんより以下のようなコメントを頂いています。

吊り下げFITの屋根は、落ち葉よけや雨よけ(小さい屋根でもかなりの効果です)に相当な効果がありますが、構造強化の面が一番大きいと思っています。屋根と本体で3重となりますので、それに竹串を通すだけで補強資材が全く必要ない強度となります。

また、飛翔力の強い虫(ぶつかると上に上がっていく)に対しても、かなりの効果(上に上がっても屋根にぶつかって落ちる)があります。

それから、高さですが地表40cmくらいで空気の流れが大きく変わると聞いたことがあります。界層流とかと言って、空気と地表の摩擦抵抗がこのくらいの高さまでは空気の粘性で及んできて、その下の空気の動きが遅くなり境が出来るようです。

微少甲虫や飛翔力の弱い日陰虫はこの下の空間を利用している可能性が高いのではないかと思っています。この高さになると、吊り下げ式はちょっと無理で、M式などの出番だと思います。

ということですから、今後FITをやってみたいと思われる方は参考にして頂ければと思います。コメント頂いた渡辺さんに心よりお礼申し上げます。)

ということで、報告を続けていきましょう。

3回目の回収は6月23日ですが、直前に風の強い悪天候の日があり、渓流のFITは飛ばされ、倒木横のも片方はコップが空になっていました。
辛うじて残ったコップ1つに、それでも、18種46個体の甲虫が入っていました。

キクイムシ3(15個体)とキクイムシ2(8個体)、オオメホソチビドロムシ(7個体)とウスイロヒメタマキノコムシ(2個体)の4種は複数個体ですが、その他のハネカクシ7種、マルヒメキノコムシ、キクイムシ2種、ベニモンムクゲキスイなど14種は全て1個体のみです。

追加したアバタツヤムネハネカクシとキクイムシ7を紹介します。

(上:アバタツヤムネハネカクシ、下:キクイムシ7)

本来なら、この時期もっともっと多くの個体が得られたはずで、4回目の回収、6月29日には53種174個体が含まれていました。
次の写真がそのタトウです。

(6月29日の回収品、一部はマウント済み)

アカアシクワガタ、クロツヤハダコメツキ、ルリツヤハダコメツキ、オオクロホソナガクチキなど、夏季に見られる中〜大形種も出始めました。
種数は6月10日に次いで2番目、個体数は九酔渓でのFIT回収品の中で、最も多い回になっています。

特に、個体数が多い原因となっているオオメホソチビドロムシは69個体も含まれていますが、渓流間近の苔むした倒木によく見られる種で、このFITの場所はまさに生息地そのものに設置したことが解ります。

複数個体得られている種の内、アカガシノキクイムシ、ヒゲブトハネカクシの一種27、Liotesba punctiventris (Sharp)(ナガハネカクシの一種)、キボシテントウダマシ、ホソケシデオキノコムシの一種2、ツヤマルケシキスイ、クサビナガエハネカクシなどが追加種です。
このうち、以下の2種は大分県の記録がないようです。

(上:アカガシノキクイムシ、下:Liotesba punctiventris)

(訂正:当初、クロナガエハネカクシとしていた種は、伊藤さんの同定によると、クサビナガエハネカクシ Ochthephilum cuneatum (Sharp)ということで、この種に訂正しました。本種は大分県を始め、九州から記録のない種のようです。)

さらに、1個体だけでの追加種は、タマキノコムシの一種3、チャイロチビヒラタエンマムシ、ササゴケシデオキノコムシ?、コヒメコケムシの一種2、ヒゲブトハネカクシ4種、ヒメオオキバハネカクシ、キバネクビボソハネカクシ、チャイロホソムネハネカクシ、ケブカクロコメツキ、ニシジョウカイボン、カドムネチビキカワムシ、ケチビヒョウタンヒゲナガゾウムシなど28種も含まれていて枚挙に暇がありません。

このうち、チャイロホソムネハネカクシは大分県は元より九州から記録が無く、カドムネチビキカワムシも大分県の記録がありません。

(上:チャイロホソムネハネカクシ、下:カドムネチビキカワムシ)

(訂正と補足:
ホームページ掲載後に、堤内さんと亀澤さんから、ドウチビキカワムシとしたものについて、疑問?との連絡をいただきました。それで、さっそく見直したところ、明らかにドウチビキカワムシとは違うことが判明しました。

亀澤さんからは、Lewis, 1895の原記載やNikitsky, 1992の解説部分を送って頂いて、それを元に見直したところ、現時点では、カドムネチビキカワムシ Lissodema validicorne Lewisと判断すべきだろうと思いましたので、上記のように訂正します。

本種はOyayama(熊本県)を原産地とする種で、九州では福岡県の記録もあります。ご指摘・ご教示頂いた亀澤さんと堤内さんに厚くお礼申し上げます。)

相変わらず未同定種もヒゲブトハネカクシを始めとして16種32個体含まれていますが、種数で1/3、個体数は2割弱と、当初からするとだいぶ少なくなっています。

(上:ヒゲブトハネカクシの一種27、下:ササゴケシデオキノコムシ?)

ハネカクシは20種27個体で、こちらの比率もだいぶ下がってきて種が4割弱、個体数は1割5分程度です。

さて、次は5回目、7月4日です。
この時も、雨続きで悪天候に左右されたようです。

27種85個体が得られ、追加種としては、キクイゾウムシの一種2、ツツキノコムシの一種1、ヒトツメタマキノコムシ、ナガチャコガネ、ムネビロカクホソカタムシ、チャマダラヒゲナガゾウムシ、ツノフトツツハネカクシ、オニコメツキダマシ、オオメコバネジョウカイ、チャバネムクゲテントウダマシ、クロケナガクビボソムシが得られています。

このうち、ヒトツメタマキノコムシは大分県の記録が無く、クロケナガクビボソムシは大分県の固有種です。

ヒトツメタマキノコムシ
                           ヒトツメタマキノコムシ

オオメホソチビドロムシは53個体と相変わらず多いですが、ハネカクシは6種(2割程度)10個体とずいぶん少なくなりました。

未同定種は6種で、追加種のキクイゾウムシの一種2とツツキノコムシの一種1を紹介します。

(上:キクイゾウムシ2、下:ツツキノコムシ1)

6回目、7月17日は51種101個体でした。

(7月17日の回収品、一部はマウント済み)

ミヤマクワガタ、アカアシクワガタ、ツヤケシビロウドコガネ、モンハナノミ、ムネアカクシヒゲムシ、キュウシュウキマワリなど夏物の朽ち木性甲虫の姿が見られます。

コウセンマルケシガムシ、ナラツブエンマムシ、ヤマトホソスジハネカクシ、セミゾキノカワハネカクシ、ネアカクサアリハネカクシ、アリヅカムシの一種5、マメダルマアリヅカムシの一種6、ガロアムネスジダンダラコメツキ、ヒメキマダラコメツキ、クシコメツキ、

ヤスマツナカミゾコメツキダマシ、オカモトヒメハナノミ、トゲナシヒメハナノミ、チャオビヒメハナノミ、キイロカミキリモドキ、ウスイロゴミムシダマシ、ムネアカサルハムシ、ヒゲナガウスバハムシ、ヤツボシヒゲナガゾウムシ、キクイゾウムシの一種3など、26種が追加種で、初夏の種から夏の種へと置き換わったことが解ります。

このうち、ヤマトホソスジハネカクシ、ネアカクサアリハネカクシ、オカモトヒメハナノミは大分県の記録が無く、ナラツブエンマムシは1例だけのようです。

(上:ヤマトホソスジハネカクシ、中:ナラツブエンマムシ、下:同上♂交尾器背面)

ナラツブエンマムシの仲間は数種あって同定が難しいのですが、この個体はたまたま♂交尾器が露出していて同定できました。

ガロアムネスジダンダラコメツキとヒメキマダラコメツキもやや少ない種ですが、九酔渓では期待したほど、コメツキは採れませんでした。

ガロアムネスジダンダラコメツキ
                          ガロアムネスジダンダラコメツキ

オオメホソチビドロムシ(16個体)、フタモンマルケシキスイ(12個体)、キクイムシの一種4(8個体)、クリイロタマキノコムシの一種1(6個体)はやや個体数が多いですが、アカアシクワガタなど7種は2〜3個体、そして、大部分(37種)は1個体のみ含まれています。

ハネカクシはアリヅカムシ3種を加えても9種、未同定種はタマキノコ2種、ホソコガシラハネカクシの一種11、アリヅカムシ3種、キクイゾウムシの一種3、キクイムシの一種4などの8種です。

(補足:ホソコガシラハネカクシ11としたものの中には、伊藤さんによると3種程度が含まれているようです。)

(上:マメダルマアリヅカムシの一種6、下:キクイゾウムシの一種3)

この項 つづく