FITことはじめ 4 −2011九酔渓 3−

2011年に九酔渓で行ったFIT調査報告の3回目です。

7回目の回収にあたる7月29日には27種42個体が入っていました。

ノコギリクワガタ、ナガチャコガネ、ヒメアシナガコガネ、スジコガネ、スジヒゲコメツキダマシ、ホソツヤケシコメツキ、クリイロアシブトコメツキ、ミツボシチビオオキノコなど、かなり夏物に様変わりで、追加種14種が含まれています。

カクツヤケシアバタハネカクシは大分県の記録がないようです。

フトツヤハダコメツキは、堤内(2006)の記録ではあまり多くないように書かれていますが、この後も含めて、結構個体数が採れました。

(上:カクツヤケシアバタハネカクシ、下:フトツヤハダコメツキ)

ハネカクシでは、追加種のヒラタセスジハネカクシ、ヒゲブトハネカクシの一種29、モンクロアリノスハネカクシ?などを含めて8種が採れています。

(訂正:ヒメクロセスジハネカクシとしたものの中には、伊藤さんによると3種程度が含まれているようですが、大部分はヒラタセスジハネカクシのようなので、この種に訂正しておきました。)

ヒゲブトハネカクシの一種29
                          ヒゲブトハネカクシの一種29

次の8回目、8月10日は42種79個体が入っていました。

(8月10日の回収品、一部はマウント済み)

個体数が多いのはフトツヤハダコメツキ(8)、フタモンマルケシキスイ(7)、チャイロコメツキ(7)、ヒラタセスジハネカクシ(5)、ケシデオキノコムシの一種4(4)、ツブデオキノコムシ(3)、クチボソコメツキ(3)くらい。
キクイムシの一種4やアリヅカムシ3種くらいが2個体で、後の28種はすべて1個体です。

追加種は九州固有のヒゲナガクロコガネ、ケジロヒョウホンムシ、ヒメツヤエンマムシ、トビイロクチボソコメツキなど14種です。

ハネカクシはヒメクロハネカクシなどと、アリヅカムシ4種、デオキノコムシ3種を加えて14種、
未同定種も、アリヅカムシの一種8やコケムシの一種3、ヒメコメツキダマシの一種、ケシデオキノコムシの一種4など、8種も含まれています。

(上:属も不明なアリヅカムシの一種8、下:ケシデオキノコムシの一種4)

ヒメコメツキダマシの一種(Hylis sp. 1)は、畑山さんによると、多分ヒメコメツキダマシ Hylis japonicus (Fleutiaux)であろうということですが、♀のため確定できないそうです。

9回目、8月24日は19種32個体で、ずいぶん少なくなりました。

(8月24日の回収品、一部はマウント済み)

クロカナブンやオオナガコメツキと、少し長くなって腐臭がしたのか、ヨツボシモンシデムシが多いのが目立っています。

フジチビヒラタエンマムシ、ズモンタマキノコムシの一種3、ニセクロマルケシキスイなど5種が辛うじて追加されています。

10回目、9月6日は6種14個体。

(9月6日の回収品、一部はマウント済み)

オニクワガタが目新しいくらいで追加種もほとんど無く、もう止めようかと思いましたが、秋のキノコものが今から出てくるかと思い、まだ続けることにしました。

フタモンマルケシキスイ、ヒラタセスジハネカクシ、アバタツヤムネハネカクシは引き続き出現しています。

11回目、9月22日は16種22個体で少し増えたと思いましたが、半月の成果で、それからすると増えてもいません。

エグリデオキノコムシを追加したほか、ウスオビキノコケシキスイ、ムネヨコカクホソカタムシ、ミヤタケヒメタマキノコムシ、クロニセトガリハネカクシ、マエキミジンムシなど、6月前半に出現した種が秋になって再び現れています。

12回目、10月6日は12種22個体で、新顔のキイロセマルケシキスイ(8個体)を始めとして、ヒラタキイロチビゴミムシ、オオヒメキノコハネカクシ、ヒゲブトハネカクシの新顔3種など、6種を追加し、又もや継続しようかどうしようか迷ったのですが、いよいよ通うのにも力尽きた感じで、この回で終了しました。

九酔渓では、ほとんど倒木脇にかけた1個のFITの成果ですが、それでも、今まで述べてきたように、以下の15種について、大分県初記録になるようです。

1.ムナビロムクゲキノコムシ Acrotrichis lewisi (Matthews)
2.ニホンムクゲキノコムシ Baeocrara japonica (Matthews)
3.ヒトツメタマキノコムシ Liodopria maculicollis Nakne
4.ヤマトホソスジハネカクシ Thoracophorus certatus Sharp
5.クロモンハバビロハネカクシ Megarthrus scriptus Sharp
6.Edaphus japonicus Sharp
7.クサビナガエハネカクシ Ochthephilum cuneatum (Sharp)
8.チャイロホソムネハネカクシ Stenistoderus nothus (Erichson)
9.カクツヤケシアバタハネカクシ Tympanophorus sauteri Bernhauer
10.ネアカクサアリハネカクシ Pella japonica (Sharp)
11.マルタマキノコムシモドキ Clambus formosanus japonicus Endrody-Younga
12.タテスジヒメヒゲナガハナノミ Drupeus vittipennis Lewis
13.ムツモンヒメコキノコムシ Litargus sexsignatus Miyatake
14.カドムネチビキカワムシ Lissodema validicorne Lewis
15.アカガシノキクイムシ Xyleborus concisus Blandford

通常の採集では得難い種、あるいは微小で普通の採集では目に留まらない種、同定が困難な種などが含まれているようです。

<九酔渓のFITで得られた科別種数>

結局、5月25日から10月6日までののべ131日に推定FIT 1.2個分で採集できた甲虫は、44科211種870個体です。
この数字が多いか少ないかは、一応置いておきます。

科ごとに種数の多い方から並べてみると、最も多いのはハネカクシ科の85種で全体の40.3%にもなり、いかに吊り下げ式FITがハネカクシ科の採集に有効な採集方法であるかということが解ります。

科別種数円グラフ
                              科別種数円グラフ

次いで、コメツキムシ科が19種(9.0%)で、この科でも通常の採集よりは、相当多くの種が採れるようです。

というより、最初にお知らせしたように、この吊り下げ式FITは、コメツキ屋の渡辺氏がコメツキ採集のために改良したということですから、当然といえば当然の結果です。

さらに、比較的多く得られているものはタマキノコムシ科10種(4.7%)、キクイムシ科8種(3.8%)、コガネムシ科7種(3.3%)、ケシキスイ科7種(3.3%)、エンマムシ科5種(2.4%)と続きます。

科別種数1
                              科別種数1

その他に、4種(1.9%)のものが4科、クワガタムシ科、コメツキダマシ科、ハナノミ科、ゾウムシ科、

3種(1.4%)のものが6科、ガムシ科、コケムシ科、ムクゲキスイムシ科、テントウムシダマシ科、ゴミムシダマシ科、ヒゲナガゾウムシ科です。

科別種数2
                             科別種数2

2種(0.9%)のものが9科、オサムシ科、ムクゲキノコムシ科、ナガハナノミ科、ジョウカイボン科、オオキノコムシ科、カクホソカタムシ科、ナガクチキムシ科、アリモドキ科、ハムシ科です。

科別種数3
                              科別種数3

そして、最後に、1種(0.5%)のものが19科、シデムシ科、タマキノコムシモドキ科、センチコガネ科、チビドロムシ科、タマムシ科、ホソクシヒゲムシ科、シバンムシ科、ヒョウホンムシ科、ネスイムシ科、ヒメハナムシ科、ヒメキノコムシ科、ミジンムシ科、コキノコムシ科、ツツキノコムシ科、キノコムシダマシ科、カミキリモドキ科、チビキカワムシ科、ホソクチゾウムシ科です。

<九酔渓のFITで得られた科別個体数>

合わせて、科別の個体数のグラフを見てみましょう。

科別個体数円グラフ
                             科別個体数円グラフ

最も多いのは、種同様、ハネカクシ科で238個体(27.4%)です。次が、チビドロムシ科150個体(17.2%)で、コケむした倒木がオオメホソチビドロムシの発生木そのものであったことは、先にお知らせしました。

次いで、キクイムシ科111個体(12.8%)、ケシキスイ科62個体(7.1%)、コメツキムシ科54個体(6.2%)、タマキノコムシ科40個体(4.6%)と続きます。
種が多くなくとも、ある1種の個体数が多ければ、全体として多くなるわけで、種数のグラフとはかなり異なることが解ります。

その他、シデムシ科22個体(2.5%)、タマキノコムシモドキ科16個体(1.8%)、ガムシ科15個体(1.7%)、エンマムシ科15個体(1.7%)、カクホソカタムシ科14個体(1.6%)、クワガタムシ科11個体(1.3%)、コガネムシ科11個体(1.3%)、ミジンムシ科11個体(1.3%)、テントウムシダマシ科10個体(1.1%)、ヒメキノコムシ科9個体(1.0%)などが比較的多いものです。

これら上位にある各科のうち、全部、もしくはある種のみが、FITに入りやすい種ということになると思います。

<マレーズトラップで得られた科別種数と科別個体数>

FITの科別構成を際だたせるために、比較として、マレーズトラップで得られた科別種数と科別個体数を見てみましょう。

このデータは2008年ほぼ1年間に、沖縄やんばるにおいて、6基のマレーズトラップを用いて行なわれた調査結果ですが、まだ公表されていないので、種構成の材料としてのみ扱います。

得られた科別種数の構成は以下の通りです。

マレーズトラップで得られた科別種数
                       マレーズトラップで得られた科別種数

この調査では全部で485種の甲虫が得られていますが、最も多いのは、FITと同様にハネカクシ科です。しかし、その比率は10.9%とそれほど高くありません。

次いで、ハナノミ科(9.7%)、ゾウムシ科(7.0%)、ハムシ科(6.2%)、カミキリムシ科(5.8%)、ヒゲナガゾウムシ科(5.2%)と続き、このあたりは、FITとまったく異なっています。

さらに、コメツキダマシ科(5.2%)、コメツキムシ科(4.5%)、テントウムシ科(4.1%)、ゴミムシダマシ科(3.7%)、オサムシ科(2.7%)、ニセクビボソムシ科(2.7%)と続き、どちらにしても、FITとは相当違うことが理解できると思います。

個体数の方も見てみましょう。

マレーズトラップで得られた科別個体数
                          マレーズトラップで得られた科別個体数

個体数は全体で6,575個体得られていますが、種数とも異なり、個体数ではハナノミ科が格段に多く38.6%(2,538個体)も得られています。
あるいは、やんばるだけの特殊事情もあるかも知れませんが、これだけ多いのは驚異です。

次いで、コメツキムシ科(13.5%)がかなり多く、ハムシ科(6.0%)、カミキリムシ科(4.9%)、テントウムシ科(4.7%)、ハネカクシ科(3.8%)、ゾウムシ科(2.9%)、ヒゲブトコメツキ科(2.7%)、コケムシ科(2.1%)、コメツキダマシ科(2.0%)、ニセクビボソムシ科(1.7%)、アリモドキ科(1.7%)などとなっています。

FITの結果と比較すると、ハネカクシ科、コメツキムシ科、コメツキダマシ科、ハナノミ科、ゾウムシ科など、共通して多く得られている科があります。これらの科では林内などを多くの個体が飛翔していると言うことでしょう。

しかし、FITでは上位にあるタマキノコムシ科、キクイムシ科、コガネムシ科、ケシキスイ科、エンマムシ科などはマレーズでは上位になく、一方、マレーズでの上位であるハムシ科、カミキリムシ科、テントウムシ科、ゴミムシダマシ科、オサムシ科などは、FITでは比較的少ないようです。

林内を飛んでいる甲虫の科の構成は、多分、それほど差がないと考えられるので、むしろ、こうした違いは、多分、障害物に当たったときのそれぞれの種の反応の違いにあるのではないかと思います。

衝突板やネットに当たった瞬間、肢や羽を縮めて、擬死をして落ちるグループがFITに多く、
ネットにしがみつき、あるいはそのまま上方へ飛び去るグループがマレーズに多いのではないかと思います。

そう思って上記の4つの円グラフを眺めると、なんとなく納得できるような気します。

<未同定種>

FIT調査で実際的に問題なのは、全体の32.7%に当たる69種が未同定であるということです。

もちろん、私の同定能力の問題でもありますが、以下の分類群を見ていただいても解るように、分類がまだ途上のもの、日本産既知種の検索表など、種を区別する資料が十分には整備されていないものなどが大部分です。

未同定種の内訳は、ハネカクシ科45種(採集したハネカクシ科全体の52.9%、以下の科でも同様)、コメツキムシ科1種(5.3%)、タマキノコムシ科6種(60.0%)、キクイムシ科7種(87.5%)、ゾウムシ科3種(75.0%)、ガムシ科2種(66.7%)、コケムシ科3種(100.0%)、コメツキダマシ科1種(25.0%)、ツツキノコムシ科1種(100.0%)となっています。

未同定ハネカクシ科のうち、その半数以上に当たる26種はヒゲブトハネカクシ亜科に含まれます。

また、未同定種の個体数総数は、275個体と全体の31.6%を占め、この結果、種数・個体数の両方から、全体の約1/3は未同定という結果になっています。

未同定種は、個体数の多い方から、キクイムシの一種3(42個体)、キクイムシの一種4(31個体)、ヒゲブトハネカクシの一種4(23個体)、キクイムシの一種2(17個体)と続いていきます。

このことでも解るように、種数ではヒゲブトハネカクシ亜科が、個体数ではキクイムシ科が、未同定の最大の部分を占めることが明らかなので、今後、早急にこれらのグループの同定方法の開発が望まれるところです。

引用文献
堤内雄二(2006)大分県のコメツキムシの記録(1). 二豊のむし, (44): 1-22.