幹掃き採集 その3 (ブナ帯 倒木・立ち枯れ編)

その2で、
6.今のところ、常緑樹林が良い(夏季にはブナ帯でも可能かもしれない)
と書きました。
実際どうなのだろうと思って、2007年5月9日に、九重の黒岳に出かけてみました。

行きがけに通り抜けた九重町の九酔渓は新葉が展開して、すっかり春の気配でしたが、飯田高原まで上がるとカシワの林はまだ芽吹いたばかり、下界の4月初めくらいの感じで、一ヶ月ほど季節が後戻りしたような感じがしました。

まだ早いかなと思いながら、黒岳の男池付近まで下がるとあたりは緑に包まれていて、駐車場脇のイロハモミジはちょうど満開、その2の多良山系の時より、ちょっと時期が戻ったかなと思える程度でした。

男池は標高700m程度、名水百選に選ばれた清水がこんこんと湧き出る山中の泉で、周囲はミズナラ、ブナ、カエデ、ケヤキ、シデなどの原生林に被われ、九州で最も手軽にブナ帯の原生林を味わえる場所です。

林内は一昨年の台風で相当荒れていて、あちこちに大木の風倒木が見られました。
樹幹に着生が見られたのは大部分がコケでかなり分厚く被われているものもありました。その他には、ツタ植物が這い上がっており、ゴトウヅル、ツタ、フジなどが多く見られました。
日当たりの良い梢に近い樹幹には、ヒメノキシノブが着生していましたが、数も少なく、手の届く位置にはほとんど見かけませんでした。かなり探してみましたが、この標高では、マメヅタは生えていないようです(標高が下がった帰りの九酔渓では多く見られました)。

ブナなどについたコケの中からは、幹掃き採集でカタモンムクゲキスイ、ハスモンムクゲキスイ、アカバヒゲボソコキノコムシ(写真)が多くアカバコキノコムシダマシやムラカミヒメクモゾウムシの近似種(写真)も落ちてきました。

写真の倒木はケヤキで、この倒木の樹幹はビッシリと苔むしていて、その上から、特に枝先の方はゴトウヅルが密に着生していました。木自体も丁度良い枯れ頃で、樹皮は剥げかけて隙間だらけだし、湿気や隠れ場所も多く、虫には良い生活場所になっていたようです。

この木には、ちょうど時期でキクイムシ類が多く集まっていて、ツツエンマムシ(写真)、モンキヒラタケシキスイ(写真)、ケマダラムクゲキスイ、カタモンムクゲキスイ、ハスモンムクゲキスイ、ベニモンムクゲキスイ、

マダラヒメコキノコムシ(写真)、コモンヒメコキノコムシ、ヒレルコキノコムシ、チャイロヒゲボソコキノコムシ(写真)、アカバヒゲボソコキノコムシ、フタオビコキノコムシが見つかり、エゾベニヒラタムシも樹皮下からはい出して(写真)、飛んでいってしまいました。
ムクゲキスイ類とコキノコムシ類がこれだけ同時に見られたのは初めてです。

また、川沿いにあったブナの立ち枯れ(写真)の樹皮下からは、ホソセスジムシとカタボシホナシゴミムシ(写真)、ツヤヒサゴゴミムシダマシが見つかりました。

廣川さんに教わったように、ブナの倒木の下面を掃くと、セダカコブヤハズカミキリのペアが落ちてきました。♂に倒木の上に直って貰って、写真を撮りましたが、通常、幹の側面や下面でこのように触角を拡げたスタイルでなわばりを確保しているようです(写真)。

苔むしたブナの倒木からはネアカツツナガクチキもいくつか見つかりました(写真)。

結局、成果が大きかったのは、ゴトウヅルなどのツタ植物とコケの組み合わせで、それも、生きた樹幹より、立ち枯れや倒木に着生しているものが良く、ケヤキなど樹皮がはげる樹種は、さらに多様性が増し、キノコがついているものも良さそうです。

常緑樹林帯のその1、その2とは、大分、内容の異なる幹掃き採集になりましたが、筆者にとっては、面白い虫が採れればそれで良いわけで、結果オーライと言ったところ。
ブナ帯ではメツブテントウ類はダメでしたが(分布していないのだろうと思います)、ツツエンマムシ、モンキヒラタケシキスイ、マダラヒメコキノコムシ、アカバヒゲボソコキノコムシ、ムラカミヒメクモゾウムシの近似種は、初めての採集で、ホクホクしながら帰途に就きました。

帰り道の車道横で、ミズナラの樹幹に着く手の届きそうなヒメノキシノブを発見し(写真)、付近を探したところ、なんとかトホシニセマルトビハムシを1個体見つけました。ヒメノキシノブと共に容器に入れて持ち帰り、自宅で開けてみたところ、ヒメノキシノブをかじっていました(写真)。九州でもマメヅタ、ヒメノキシノブの両方をホストにしているようです。

最後に、飯田高原(写真)に寄り、カシワの新芽を見ていたら赤い虫が飛んで来て、捕まえてみるとムナグロオニアカハネムシ(写真)で、これも初めての採集でした。