色の話 その2

ハンミョウの鞘翅の紹介を続けます。

コハンミョウ Myriochile specularis (Chaudoir)、分布は北海道、本州、四国、九州、種子島、トカラ悪石島、奄美大島、喜界島、加計呂麻島、徳之島、久米島、伊良部島、与那国島です。

本属は、国内では本種のみ。北海道から琉球まで国内全域に分布し、分布域の広い種類です。
Cylindera属のエリザハンミョウに似て、上翅に凸凹は少なく、かなり扁平な感じがします。顆粒も見あたりません。

(上:♂, 下:上翅)

♀は金属光沢が少なく、散発的に赤や青の光が見えます。本種の♀は上翅基部に一対の鏡紋があることが知られています。
この部分の表面はほぼ平滑で、盃刻の痕跡の網目模様だけがうっすら見られ、上翅のベースの色と思われる黒褐色をしています。角度を傾けると、弱く青い金属光沢が見えます。

(上:♂, 下:上翅)

次に、Callytron属です。
この属には、国内から2種1亜種が知られます。
まず、シロヘリハンミョウ Callytron yuasai yuasai (Nakane)は、本州、四国、九州、伊豆諸島、対馬、屋久島に分布。
♀が手元にないので♂のみ紹介します。

(上:♂, 下:上翅)

上翅はやや凸凹しています。顆粒と言うほどではありませんが、穴の上部が垂直に盛り上がっているところなどが、マガタマハンミョウに似ています。

次に、シロヘリハンミョウ沖縄亜種 Callytron yuasai okinawaense (Hori et Cassola)、トカラ宝島から与那国島、南大東島、尖閣諸島など、琉球列島に広く分布します。上翅の状態は、原亜種とあまり差がありませんが、多少、凹凸が少ないように思えます。

(上:♂, 下:上翅)

ついで♀です。この種にも、♀には明らかな鏡紋があります。
鏡紋内は平滑で、盃刻を欠き、一見黒褐色をしています。しかし、角度をずらして斜めから光を当てると油膜のように、赤紫〜青に光ります。

(上:♀, 下:上翅)

鏡紋の縁や、少し内側に、盃刻が島のように存在することから、この部分は、本来はあった盃刻が、何らかの理由で無くなったと考えるべきでしょう。
よく見ると鏡紋同様の平滑部が、♀の上翅肩部にも見られます。こちらの方は、すり減ったようにかなり盃刻の痕跡を残し、また、赤紫色の金属光沢が見えます。
当然、2対の鏡紋は、♂が♀を認識するために、目印にされていると考えられます。

この属の最後は、ヨドシロヘリハンミョウ Callytron inspecularis (W.Horn)です。本州、四国、九州の瀬戸内海沿岸と、九州西岸、そして、種子島に分布します。
上翅表面はシロヘリハンミョウに良く似ていますが、やや凹凸が少ないようです。

(上:♂, 下:上翅)

本種にも♀には不鮮明な鏡紋があると言われています(左の全体図参照)。
右の上翅の拡大写真でも解るように、その部分は平滑ではなく、表面の盃刻は全面にりっぱに存在します。
点刻由来の凹みが小さくなり、凹み上部の盛り上がりも無くなり、単に全体が平になっているだけです。

盃刻の色がほぼ一様に赤銅色になることと、顆粒もどきが無くなり凹みが小さくなって、その周辺が扁平になっていて、そう言う意味で周囲から区別され、不鮮明な鏡紋のように認識されます。

前種同様、上翅肩部も、周囲と異なり、不鮮明な鏡紋状態を呈します。

(上:♀, 下:上翅)

この2種の鏡紋の状態から考えると、盃刻を残している本種の方が祖先的で、それが消失したシロヘリハンミョウの方が、より、子孫的と言えるのではないかと思います。

さて、次にイカリモンハンミョウ Abroscelis anchoralis punctatissima (Schaum)です。
この属も国内では本種のみ、本州、九州、種子島に分布します。
全体の体形や斑紋も特異ですが、上翅の表面構造も他の種と異なります。凸部は顆粒と言うより、膨らみが波状に連なった感じ。凹部も小点刻のようで、これも隣り合った凹部と連なっています。

(上:♂, 下:上翅)

写真はシャープさに欠けて、ちょっと良く解りませんが、盃刻は全体に浅く、特に、凸部の多くでは、盃刻はちょうどすり切れたかのように痕跡だけになっているものがかなりあります。鞘翅基部中央から、縦に、白紋の内側あたりが、特に盃刻の消失が顕著のようです。
凸部はそのため、かなりツヤが有るように見え、弱い銅色の光沢があります。
凹部では、盃刻も深く、緑〜青を呈しています。上翅全体としては、ツヤのある灰緑色に見えます。
日本産の他の種には、似た感じのものはまったく見られません。

次いで、カワラハンミョウ Chaetodera laetescripta circumpictula (W. Horn)です。本属も国内で本種のみ、北海道から九州まで本土部に分布します。

(上:♂, 中:♀, 下:♂上翅)

左が白紋の発達した♂、右は発達が少ない♀です。
上翅の表面はビッシリ盃刻に被われていますが、凹凸は少なく、むしろ、前回紹介したエリザハンミョウなどに良く似ています。
本種の場合、盃刻による金属光沢より、さらに効率よく全ての波長の色を反射できる白色に、上翅の面積の多くを変化させることによって、熱を逃がす効果を高めているようです。
本種が住んでいるのは多くの場合、白砂の海岸なので、体色を背景に似せるという利点もあったのでしょう。

それから、西表島で見つかったというタイワンヤツボシハンミョウ Cosmodela batesi (Fleutiaux)です。ここでは、手元にある台湾産を紹介します。

(上:♂, 下:上翅)

一見して解るように、凹凸が少なく、顆粒の頭が周囲と違う緑に光っているだけで、平坦部は色彩の有るところから、そうでないところにかけて、グラディーションになっています。平坦部の多くはほとんど黒に見え、光の加減で青紫に見えるので、紫外線を放っているのでしょう。
ということになると、ほとんど、ハンミョウ Cicindela japonica Thunbergと同じです。

前回、その1 を掲載した後で、堀京都大学教授からいただいたご教示では、ハンミョウはむしろ、タイワンヤツボシハンミョウに近縁ということでした。
確かに、この写真を眺めた感じでは、上翅の構造においても、今まで紹介したどの日本産より、ハンミョウに良く似ているようです。

今回の最後に、シロスジメダカハンミョウ屋久島亜種 Therates alboobliquatus yakushimanus Nakaneを紹介しておきます。

(上:♂, 下:上翅)

本種は樹上性で、今まで紹介してきた地上性のハンミョウ類すべてと、違っています。
通常の甲虫のように、上翅には、粗く大きな点刻を備え、表面は平滑で、盃刻や印刻は無く、金属光沢もまったくありません。
時に灯火に飛来しますが、昼間に、樹葉のスウィーピングなどでも採集できます。

あれこれ考えると、本種のような森林性のハンミョウから、Cicindelaなどの、いわゆるオープンランドに生息するハンミョウらしいハンミョウと、森林により適応したヤエヤマクビナガハンミョウのような樹上性のハンミョウが、それぞれ、進化してきたように思えるのですが・・・。

次回は、残りのCicindela属と、日本では見られないような夜行性を含むアメリカ産ハンミョウなどを紹介します。