和名考 5

<ナミとヤマト>

九大総目録(1989)を見ると、古くからよく知られているタマムシやテントウムシは出てこない。

それでも、よくよく探してみると、それぞれ、ヤマトタマムシ、ナミテントウと改名されて掲載されているのに気が付く。

何時の間に変わったのかは良く解らないが、北隆館の大図鑑(1963)では、タマムシ(ヤマトタマムシ)、テントウムシとあり、変化の予感がする。
次いで、保育社の原色日本甲虫図鑑III(1985)ではタマムシ、ナミテントウであるので、まだ、過渡期と考えられる。
これが、前記のように1989年の九大総目録までの間に現在の形に変わったのである。
改名の理由としては、科名と種名が同じでは不都合だと言われているが、それはこじつけのように聞こえる。

その証拠に、同じく科名やグループの名前であるハンミョウ、ゲンゴロウ、カブトムシ、ハナムグリ、オオキノコムシなどはそのままで、改名されていない。

愚考するに、これらはコンピューターの発達と連動して、改名されたように思われる。
九大総目録では鞘翅目がコウチュウ目、膜翅目がハチ目、鱗翅目がチョウ目などと改名され、これらは全てコンピューター使用の利便性から改名されたと考えられるので、種の和名についても同様であろうと考えられるわけである。

パソコンで種名を検索する際には、科やグループと同じ名前の種を検索すると、多くの種のベースにその単語が含まれており、なかなかその種まで辿り着けない。
試みに種和名である「ゴミムシ」を検索して見られたら良い。検索のキーを百回以上叩いても、ゴミムシという種には辿り着けないのである。
私自身は最近智慧が付いて、実際の検索では、すぐ隣の種である「ヒメゴミムシ」で検索する。そうすると、即座に隣りに到達し、次いで、ゴミムシに移動するというわけである。
ナミとかヤマトなどの接頭語は、その種を他の種から区別して、検索し易い様に付けられたのではないかと思う。

それに引き替え、名前が変わっていない種は、科やグループの規模が小さいものである。このような種は、グループ内の全ての種を探しても、比較的容易にたどり着けるので、改名の必要を感じなかったものであろう。
ただし、会話の中では、一次ブームになって話題に上ることが多かったせいもあり、ゲンゴロウは「タダゲン」と呼ばれる。さすがに、標準和名をタダゲンゴロウにしようという提案は聞かれないが・・・。

その他、名前の由来は違うと思うが、アゲハチョウはナミアゲハになっている。
普通種の「並み」と言う意味で付いたと思われるが、語感では波(模様の)揚羽のような感じがする。
種の特徴を正しく表現できないばかりか、日本の昔からの優れたデザインの代表として、家紋や着物の図柄などにも取り入れられた、元々の揚羽の蝶という爽やかな和名が、妙に貶められているような感じがして、あまり気持ちが良くない。

ということで、個人的には、無理矢理ナミを接頭語として付けるのは、止めた方が良いのではないかと思う。
九大総目録の索引を見ると、ナミギングチ、ナミクロハナアブ、ナミツチスガリなど、こうした理由で付けられていると思われる種が、20種程度掲載されている。
これらの和名の言い換えは、元に戻した方が良いのではないかと思うのは、私だけだろうか?
同様に、特別意味が無く付けられたヤマトや、ニッポンもどうかと思う。

ハンミョウやゲンゴロウやカブトムシは良くて、タマムシやテントウムシは良くないというのは、理屈に合わない。
文脈や学名で、種の話か、科の話か、間違うこともないと思う。
前回の、ルリクワガタをオオルリクワガタに改名する件も、同様の理由で、その必要は無いように思う。

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