雨の種子島3日目
4月24日
マングローブ林
昨日は一日土砂降りのような予報が、そう、たいしたことなく、小雨が降ったり止んだりくらいで済みました。
今日は朝の内は雨が残るものの、昼から、徐々に回復する予報ですが、あまり当てにせず、動けるときは動くだけです。
朝から、本格的に出かける前に、ちょっと、宿のすぐ側の大浦川のマングローブ林を見に、木野田さんと出かけてみました。
(宿からマングロープパーク・グーグルより改変引用)
マングローブ林というのは、汽水域の泥干潟に生えるヒルギ類の林のことで、西表島や奄美大島のマングローブ林が有名です。
しかし、種子島にこれほど広大なマングローブ林があることは知りませんでした。
(大浦川マングローブパーク)
直ぐ近くのマングローブパークに行ってみると、確かに公園化してあります。ここはメヒルギの林ですが、高さは2-3mでそれほど高くありません。
遊歩道を歩きながら、叩いてみましたが、小雨で濡れていることもあって、アリとクモしか落ちてきません。
(マングローブパークを歩く木野田さん)
こんな環境で虫採りをしたことが無いので、何か変なものが入れば良いがと、ライトFITを2箇所下げてみました。
(マングローブパークに下げたライトFIT)
その後、道沿いを歩いていると、アカメガシワが咲いています。本土ではシイとアカメガシワでは、花季は1ヶ月くらいずれますが・・・とにかく本土の感覚からすると、種子島の花季はムチャクチャです。
掬ってみましたが、アオバアリガタハネカクシとムナキヒメジョウカイモドキしかいません。
木野田さんも、叩いて、デメヒラタケシキスイとキボシツツハムシを採っていただけでした。
夏場なら、ライトには汽水域の変な虫が来るかも・・・と思いながら、宿に引き返します。
改めて、今日は中種子町で弁当を調達次第、昨日のまあまあ虫がいた立山に向かいます。
(24日採集道程 1)
謎のナガクチキムシ
立山入り口のシイの花を再度掬うと、◎クロモリヒラタゴミムシ*、ヒメアシナガコガネ、オオダンダラチビタマムシ、◎アカアシクロコメツキ、アカアシオオクシコメツキ、クシコメツキの一種①*、◎オバボタル、☆ミヤタケヒゲナガジョウカイ、〇アオオビナガクチキ、ナガクチキムシの一種、〇フタイロカミキリモドキ、〇カトウカミキリモドキ、☆ヤクシマウスイロクチキムシ*、アマミオビアカサルゾウムシが入っていました。
なお、今回も以下の表記は継続します。
和名の前の〇は屋久島と種子島を南限とする種、◎は屋久島の記録が無く、種子島を南限とする種、☆は種子島を北限とする種です。また、和名の後の*は、種子島初記録種です。
(立山入り口、右手上がシイの花)
このうち、2回目(23日)の前之浜でも出ていましたが、ナガクチキムシの一種と書いたのは次の写真の種で、体長は5-6mmです。
(ナガクチキムシの一種)
老眼で良く見えていないこともあり、ネットの中では、初めて見るジョウカイボン!!と狂喜しました。
しかし、宿に帰って良く見るとジョウカイボンではなく、どうも、アオオビナガクチキに近縁のナガクチキムシであることが解りました。
さらに、帰宅して、インターネットで、アオオビナガクチキの属であるOsphya属で引いてみると、北米産のOsphya varianaの画像が出てきて、これとソックリです。
でも、この種だとすると、どうやって種子島に侵入したのでしょう。
(左から、ナガクチキムシの一種、Osphya variana、Osphya vandalitiae)
中村君に画像を送って、意見を求めると、「インターネットでは、ヨーロッパ産のOsphya vandalitiaeと言う良く似たのも出てきました」との返事で、さらに、「うろ覚えですが、千葉産で、こんな首の赤いのを見たことがあるような気もします」との返事。
これはまた、どうしたものかと考えたのですが、ここでも、その後いくつか採集した場所でも、ほとんど、アオオビナガクチキとセットで採れています。
さらに、腹部を確認すると、このOsphyaは全て♀、アオオビナガクチキは全て♂です。
この前胸の赤いOsphyaは、アオオビナガクチキ♀の色変わりの可能性も出てきたので、手元にあった長崎県島原市産と比較してみます。
(上段左から、ナガクチキムシの一種♀の背面、腹面、小顎髭、下唇髭、下段左から、島原産アオオビナガクチキ♀背面、腹面、小顎髭、下唇髭)
(上段左から、種子島産アオオビナガクチキ♂の背面、腹面、小顎髭、下唇髭、下段左から、島原産アオオビナガクチキ♂背面、腹面、小顎髭、下唇髭)
腹面の感じや、小顎髭、下唇髭などもまあ、余り変わらず、♀の前胸の色が違う以外、特に別種のようにも見えません。
中村君によると、「確か、水野さんのナガクチキ漫談に、屋久島には首の赤いのがいて、別種かもしれない、とありましたよ」とのこと。
「また、凄い文献まで記憶しているな」と感心しながら、その報文を確認してみました。
確かに、水野(1992)には、アオオビナガクチキの項に、「私が5月初旬屋久島に行った時にはシイの花から多数採集できた。中略。屋久島では前胸の赤い個体も得られており、これは別種かもしれない。」と書かれています。
水野弘造, 1992. ナガクチキムシ漫談 (5)ー九州産ナガクチキムシの記録と解説(3)ー. 北九州の昆蟲, 39(2): 83-92.
「そう言えば・・・」と思い出して、屋久島で1988年6月に採集した四角紙を引っ張り出して、確認してみると、アオオビナガクチキも少数ながら♂♀入っていました。
しかし、この中にあった♀は前胸は黒く、九州本土のものと差がありません。
(屋久島産アオオビナガクチキ、♂♀)
水野さんの書き方からして、多数採集したものの中に、一部、胸の赤い個体があった、と読み取れるのではないかと思います。
つまり、屋久島では従来型の胸の黒いタイプと、胸の赤いタイプの2通りがいるということのようです。
と言う事は、種子島産は♂♀の色彩が極端に違い、次のようなペアになるのでしょうか?
(種子島産アオオビナガクチキ?の♂♀)
念のために♂交尾器を確認してみました。それぞれ左から、山口県産、屋久島産、種子島産です。
(♂交尾器背面、主として先端部分、右の3つは、パラメラ部分全体を示したもの)
(♂交尾器側面、主として先端部分)
これを見ると、山口県産と屋久島産は矢印で示した部分など微妙に違っていて、種子島産は前2者と、先端の曲がり具合や、背面の膜質部の長さなど明らかに違っています。
ある程度数を集めて、詳細に比較する必要がありますが、以上の感触からは、屋久島産はアオオビナガクチキの亜種、種子島産は別種で♀は前胸が赤い、と考えることが出来そうです。
屋久島では、2種が混生するのかもしれません。
暫定的に、(仮称)メスアカアオオビナガクチキとしておいて、今後、詳細に比較検討していただくことを期待します。
立山のその他の甲虫
さて、シイの花掬い以外に、林縁を叩いて、〇シロウズヒラタチビタマムシ、セアカケブカサルハムシ、◎ツヤキバネサルハムシ*、ウスグロチビカミナリハムシ*、ダイコンナガスネトビハムシ*も採集しました。
シロウズヒラタチビタマムシはホウロクイチゴをホストとする種で、ヒラタチビタマムシに良く似ていますが、前胸背板前角付近の凹みが、丸い孔状にならず、横長の溝になることで区別できます。
また、木野田さんは☆クシコメツキ、クロスジツマキジョウカイ、ニンフジョウカイの一種B*、オオフタホシテントウ、〇オナガクロハナノミ、キボシツツハムシ、ワタミヒゲナガゾウムシ、☆コウスアオクチブトゾウムシ*、◎ケブカクチブトゾウムシを採られていました。
ニンフジョウカイは、Aの方は最初の1♂のみで、その後は、Bの方ばかりが見つかっています。
(オナガクロハナノミ)
本種はブナ帯に多い種ですが、低山地でも見られ、種子島と屋久島が南限です。
小楯板が銀色だったので、図鑑の記述から、畑山さんに、「これって、ホソクロハナノミ?」と、写真を付けてメールを書いたところ、「体長が5mmくらいなら、オナガクロハナノミ。尾節版も尾節の3倍ほどあって、細長いはず」との返事が来ました。
まあ、両種共に、大坪さんの報告(畑山さんの同定)で既に種子島から記録されているのですが。
いつもご教示いただく畑山さんに感謝します。
立山
次いで、立山に移動します。雨もほぼ上がったようで、木野田さんも國分さんも採集準備を始めます。
(立山で採集準備)
良く見ると、前回掬った以外でも、あちこちシイの花が咲いています。
(シイの花)
木野田さんはアカアシオオクシコメツキ、◎オバボタル、☆ミヤタケヒゲナガジョウカイ、〇セボシジョウカイ、(仮称)メスアカアオオビナガクチキ♂*、〇カトウカミキリモドキ、☆ヤクアオハムシダマシ?*、キボシツツハムシ、カサハラハムシの一種③*、〇クロオビカサハラハムシ、☆コウスアオクチブトゾウムシ*を採られていました。
木野田さんが、「アオハムシダマシ属が採れましたよ」と、持ってきた時、さすがにビックリしました。
屋久島のヤクアオハムシダマシはヤクスギランドの淀川小屋や安房林道、小杉谷など、標高600m以上の高地で採集されていて、300m足らずの種子島には到底分布していないだろうと予想していたからです。
それが、いたという声で、失礼ながら、一瞬、何か別のものの勘違いだろうと思いました。
しかし、毒瓶から取り出して掌にのせて見た個体は、確かにアオハムシダマシ属です。
(種子島産アオハムシダマシ属)
屋久島のヤクアオハムシダマシと並べてみても、特に違和感はありません。
分布からするとヤクアオハムシダマシと同定するのが自然ですが、生息環境が余りに違いすぎる(立山は標高140m程度)ので、即断はできません。
(左から、種子島産♂、屋久島産ホロタイプ♂、パラタイプ♀、パラタイプ赤銅型♂)
私の手が震えて、壊してはいけないので、例によって、築島さんに、♂交尾器の取り出しを依頼しました。ちゃんと、マウント標本になった時点で、再度、確実なところを紹介する予定です。
(追記 1. VI. 2024
無理を言ってお願いしていた築島さんが、種子島産アオハムシダマシの♂交尾器を摘出して、届けてくれました。
さっそく写真を撮りましたので紹介します。パラメラはやや短いタイプです。
(種子島産♂交尾器、左から、背面、側面)
ハムシダマシ属の他の種群の♂交尾器を確認したい方は、以下のページを参照下さい。
(左から、種子島産♂交尾器背面、同側面、屋久島産ホロタイプの♂交尾器背面、同側面)
種子島産の方が、パラメラはやや長いようですが、まったく、ヤクアオハムシダマシの変異の範囲です。
種子島産もヤクアオハムシダマシと同定して良いと思います。
忙しい中、対応いただき、標本を届けていただいた築島さんに感謝します。)
さて、次に、こちらも先延ばししていたカサハラハムシの一種③です。
前回、雨と波乱の春 2では、カサハラハムシの一種④と表示していましたが、③に訂正します。
カサハラハムシについては、私のホームページに絵解き検索と解説を掲載しています。アドレスは以下の通りです。
そこで解説したように、現在までの所、カサハラハムシ属では、国内で13種が知られ、さらに2種の未記載種(タノオアラゲサルハムシ Demotina sp. 1と、ハギアラゲサルハムシ Demotina sp. 2 : この種はその後見つけた種で、解説には出てきません。草原のハギにいて、飛ばない種です)が知られています。
とりあえず、未知の種として、Demotina sp. 3として、話を進めます。
(カサハラハムシの一種③ Demotina sp. 3)
種子島以南の琉球で知られているのは、コアラゲサルハムシ、フタモンカサハラハムシ、チビカサハラハムシ、ヤクカサハラハムシ、マダラアラゲサルハムシ、オオアラゲサルハムシ、ササカワアラゲサルハムシ、クシバアラゲサルハムシ、タノオアラゲサルハムシの9種です。
しかし、上記写真を見ただけで、♀の上翅側縁に縦陵を持つオオアラゲサルハムシとササカワアラゲサルハムシ、脛節に暗色環部分を持つマダラアラゲサルハムシ、上翅合わせ目後部に一対の黒紋を持つヤクカサハラハムシ、腹部がほぼ黒色になるフタモンカサハラハムシ、またこの種群で最も小型で、上翅中央に白紋を持ち、それを挟むように上下に黒紋を持つチビカサハラハムシの6種は、省くことが出来ます。
可能性として残るのは、コアラゲサルハムシ、 クシバアラゲサルハムシ、タノオアラゲサルハムシの3種で、これらに該当しなければ、未知の種と言う事になります。
3種のうち、クシバアラゲサルハムシとタノオアラゲサルハムシは腹節末端3節の側縁に、のこぎり歯状の構造を持つ種です。
また、コアラゲサルハムシは情報が少ない種ですが、体長は小さく、チビカサハラハムシ同様の2-2.5mmとされています。
カサハラハムシの一種③は2.6-3.3mm程度の体長なので、コアラゲサルハムシではないと思います。
腹節側縁の「のこぎり歯状の構造」は見られるので、クシバアラゲサルハムシかタノオアラゲサルハムシの可能性は残ります。
(カサハラハムシ類の、のこぎり歯状の構造、上から、クシバアラゲサルハムシ、種子島産③、タノオアラゲサルハムシ)
3種を並べてみると、中央の種子島産③は、クシバほどはノコギリが立っておらず、タノオほど弱くもなく、ちょうど中間的です。
次に、この2種の決定的な違いである頭楯の形です。
(カサハラハムシ類の、頭楯の形、上から、クシバアラゲサルハムシ、種子島産③、タノオアラゲサルハムシ)
種子島産③の頭楯は、クシバほど幅広(b/a=2.32)ではなく、幅が狭いタノオ(b”/a”=2.07)より、さらに幅が狭く(b’/a’=1.51)、これらから判断すると、上記2種とも違う未記載種と考えられます。
タノオアラゲと2つ並べてみても、全体の感じも明らかに違います。
(左から、種子島産③、タノオアラゲサルハムシ)
また、当初、木野田さんに見せて貰った立山入り口産は、以下の右側の図のように、上翅末端部分にハート型の黒紋が見えました。それでてっきりニューだろうと思ったわけです。
(種子島産の翅端)
しかし、乾燥した現在では、そう言えばうっすら見えるといった程度です。
以上の点から判断して、種子島産はタノオアラゲサルハムシに近似の未記載種と考えて良さそうです。
初め、木野田さんが見つけたので、(仮称)キノダアラゲサルハムシ* Demotina sp. 3と呼ぶことにします。
なお、タノオアラゲサルハムシは既に大坪(2013)により種子島から記録されています。
しかしこれは、キノダアラゲサルハムシの認識がない時点での今坂による同定なので、再確認する必要があると思います。
立山産の紹介を続けると、國分さんは他に、◎コルリアトキリゴミムシ*、セダカマルハナノミ*、ホソカミキリモドキ*、☆ヤクシマウスイロクチキムシ*、◎カシワクチブトゾウムシ、ヒサゴクチカクシゾウムシを採られていまし、今坂もダイミョウツブゴミムシ、アマミコブハムシ、◎ルリイクビチョッキリ*、ニセホソヒメカタゾウムシ*を採集していました。
またまた、外来種のコルリアトキリゴミムシが採れ、島中にあちこち広がっているようです。
時間がもったいないので、次へ進みます。雨も上がったのですが、なかなかスッキリとは晴れません。
大野林道
大野林道の入り口付近に下げたライトFITをちょっとチェックしてみましたが、余り虫は入っていないようです。
雨続きでしたから、もう一日継続して様子を見ます。
(大野林道のライトFIT)
そのまま進み、明るい場所の林縁を叩いてみます。
(林縁を叩く國分さん)
多くは、前日と同じ虫ですが、チラホラ、新顔も混じります。
葉っぱを叩いて、◎キンモリヒラタゴミムシ*、オオシマハラボソメダカハネカクシ*、ルリナカボソタマムシ、〇クロミナミボタル、☆ミヤタケヒゲナガジョウカイ、モンクチビルテントウ*、☆ヤクシマウスイロクチキムシ*、アマミコブハムシ、〇マダラアラゲサルハムシ、◎キイロツブノミハムシ*、☆ハバビロハネナシトビハムシ*、◎キアシノミハムシ*、◎カシワクチブトゾウムシ、☆ヤクオビモンヒョウタンゾウムシ、◎アカネニセクチブトキクイゾウムシが採れました。
(左から、アマミコブハムシ、キイロツブノミハムシ、ハバビロハネナシトビハムシ)
ハバビロハネナシトビハムシはトカラ列島と奄美大島のみで知られている種で、北限記録になります。アマミコブハムシと本種は、ホウロクイチゴがホストです。
キノコの着いた枯れ木を叩いて、◎タイワンオオテントウダマシ*、ヒサゴホソカタムシ、ダルマチビホソカタムシ*、タイワンツツキノコムシ*、◎アカネニセクチブトキクイゾウムシが採れました。
(タイワンオオテントウダマシ)
外来種のタイワンオオテントウダマシは、種子島にまで侵入していたのですね。多分、シイタケのホダ木について広がっていると推定しています。
また、他に、木野田さんは〇ヒメアシナガコガネ、アカアシオオクシコメツキ、ナミアカヒメハナノミ、タカオヒメハナノミ*、〇フタイロカミキリモドキ、キボシツツハムシ、アマミオビアカサルゾウムシ*、◎ケナガサルゾウムシ*を、
國分さんはクロハナボタル、〇セボシジョウカイ、ミヤケヒメナガクチキ、◎オビモンニセクビボソムシ*、☆オキナワツヤハムシを採られていました。
昼も過ぎたので、ここで昼食にして、今日は、種子島の北端近くまで行くつもりです。
(24日採集道程 2)
明日のことも考えて、あっぽーらんどまで走り、ここと、その下の天女ヶ倉入り口のライトFITも回収することにしました。
(あっぽーらんど)
回収したライトFITには、早々と、ライトに常連の〇クロシデムシと◎アオグロヒラタゴミムシ、◎クロモリヒラタゴミムシ*、○イクビモリヒラタゴミムシ、ムナビロアトボシアオゴミムシ、◎キアシチビコガシラハネカクシ*、そして、☆ヤクシマウスイロクチキムシ*が沢山入っています。
他に、ビロウドコガネの一種①*、◎ヤクヒゲナガハナノミ*、☆クシコメツキ、◎ミスジヒシベニボタル*、ヒメオビオオキノコ、ヒサゴクチカクシゾウムシ、キクイゾウムシの一種①*など。
ミスジヒシベニボタルは写真で松田さんに確認してもらいました。同定、ありがとうございました。
(ミスジヒシベニボタル)
また、ビロウドコガネの一種①は、カミヤビロウドコガネに♂交尾器も含めて良く似ています。
(ビロウドコガネの一種①、左から、♂背面、♂交尾器背面)
しかし、本土産のカミヤは後肢の腿節板が長く尖る特徴が顕著ですが、種子島産は、腿節板は短く、尖ってもいないので、別物と考えています。
今回、数個体は採れていますが、もう少し数をそろえて再検討する必要がありそうです。
(後肢の腿節板、上段: 種子島産、下段: 綾町産カミヤ、矢印の部分が腿節板)
ライトFITを回収してから、周辺を探索してみましたが、発達したシイ林、スギ植林、二次林、公園施設などが入り交じっていて、ポイントが良くまだ掴めません。あっぽーらんど周辺には、ダムサイトを含めて、いろいろな環境があるようなので、今後、詳しく調査する必要がありそうです。
天女ヶ倉入り口
天女ヶ倉入り口へ引き返し、こちらのライトFITも回収します。
あっぽーらんどのライトFITと、ビロウドコガネの一種①など4種は共通でしたが、こちらは川沿いなので、大半は別のものが採れています。
オオヒラタゴミムシ、サタツヤゴモクムシ*、アオヘリアトキリゴミムシ、〇ヨツボシモンシデムシ、◎ヒメマルヒラタドロムシ*、〇クロミナミボタル、〇クロチビアリモドキ*、〇キバネマルノミハムシ、◎ルリイクビチョッキリ*などが入っていました。
(左から、サタツヤゴモクムシ、ヒメマルヒラタドロムシ)
トラップ回収後、満開のネズミモチがあったので、掬ってみました。
ダイミョウツブゴミムシ、〇ヒラタハナムグリ、☆クシコメツキ、(仮称)メスアカアオオビナガクチキ*、〇フタイロカミキリモドキ、◎キバラヒメハムシくらいで、盛大に咲いている割に期待外れです。
それで、川沿いの明るい林縁の方が虫が多そうで、叩いていきます。
◎ゲンジボタルが落ちてきて、ビックリしました。もう、いるんですね。
他に、〇ウグイスナガタマムシ、〇クロミナミボタル、◎アミダテントウ、◎アカホソアリモドキ*、☆ヤクシマウスイロクチキムシ*、アマミコブハムシ、セアカケブカサルハムシ、サキシマクビボソトビハムシの近似種*、◎キアシノミハムシ*、ヨツモンカメノコハムシ、◎カシワクチブトゾウムシ、コフキゾウムシ、ヒラセノミゾウムシ*、シラケツチイロゾウムシ*、アカナガクチカクシゾウムシ*、ヒメクチカクシゾウムシなど。
また、ここでは、2頭目の☆コウスアオクチブトゾウムシ*♂や、外来種の◎マルトゲムシの一種もいました。
(左から、マルトゲムシの一種、ゲンジボタル)
このうち、サキシマクビボソトビハムシの近似種 Lipromorpha sp. 1は、2mmほどの微小なトビハムシです。
(サキシマクビボソトビハムシの近似種、左から背面、特徴的な前胸背)
このLipromorpha属は、本土で普通に見られるクビボソトビハムシ属 Pseudoliprusに近縁です。Lipromorpha属は、前胸背の基部で顕著に括れ、基部に横溝を持つものの、殆ど括れないPseudoliprus属と区別されています。
(Lipromorpha属とPseudoliprus属の違い、左: Lipromorpha属・種子島産、右: Pseudoliprus属・コミヤクビボソトビハムシ、いずれも頭胸部)
日本産としては、
リュウキュウクビボソトビハムシ Lipromorpha loochooana Chujo 奄,徳,沖縄
サキシマクビボソトビハムシ Lipromorpha sakishimana Komiya 宮,石,竹富
オキノエラブクビボソトビハムシ Lipromorpha inexpectata Komiya 沖永
の3種が知られています。
Komiya, Y., 2006a. Studies on the genus Lipromorpha (Alticinae, Chrysomelidae, Col.) in Japan, with description of a new species. Elytra, Tokyo, 34(1): 199-205.
Komiya, Y., 2006b. Description of a new species of the genus Lipromorpha (Col., Chrysomelidae, Alticinae) Okinoerabu-jima Island, Southwest Japan. Elytra, Tokyo, 34(2): 375-378.
この小宮さんの2論文の写真を引用改変して以下に掲載します。原文は全て白黒写真です。
(各種左が♂、右が♀、左から、リュウキュウクビボソトビハムシ、オキノエラブクビボソトビハムシ)
(左から、 サキシマクビボソトビハムシ♂、♀、種子島産、同・頭胸部)
Komiya(2006a, b)によると、体色は、リュウキュウは黒色、オキノエラブは黒褐色、そして、サキシマは明るい黄褐色となっていますので、色彩的には、この種子島産はサキシマに似ているようです。
しかしながら、サキシマの前胸背はより細長く、小楯板後方で上翅基部は瘤状に盛り上がり、上翅の条溝はそれほど深くないことにより、上翅基部はフラットで、各条溝が深い種子島産とは異なっているようです。
種子島産は未記載種と考えられ、今後、(仮称)タネガシマクビボソトビハムシと呼びたいと思います。
天女ヶ倉入り口で、他に、木野田さんはホシハネビロアトキリゴミムシ、キアシシリグロハネカクシ*、ケシマルハナノミ*、〇コイチャコガネ、◎クシヒゲマルヒラタドロムシ*、バイゼヒメテントウ*、〇カトウカミキリモドキを、
國分さんは〇オオハナコメツキ、ムナキヒメジョウカイモドキ、☆キベリヒラタノミハムシ、ワタミヒゲナガゾウムシを採られていました。
(左から、クシヒゲマルヒラタドロムシ、ケシマルハナノミ)
天気が回復してきたこともあり、今日は、北端近くの、湊川やヘゴ自生地まで行くつもりなので、先を急ぎます。
(24日採集道程 3)
湊川手前海岸
海岸沿いの県道581号線を、湊川のすぐ近くまで北上してきたとき、道の山側に巨大な白いセリ科の花が林立しています。ハマウドの花で、これにはかなり虫が来るはずです。
とりあえず車を駐めて、花を掬います。小さくて黒っぽいジョウカイモドキが沢山います。
〇セボシジョウカイ、ヒメマルカツオブシムシ*、ムナキヒメジョウカイモドキ、オオフタホシテントウ、ダンダラテントウ、〇フタイロカミキリモドキで終わり、他に何かいないか、手当たり次第ハマウドを掬ってみましたが、追加できませんでした。
海岸沿いの県道では、周辺の植生も限られ、しようがないでしょう。
叢を叩くと〇アカクビナガハムシとヨツモンカメノコハムシも落ちてきました。
帰宅してから確認すると、黒っぽいジョウカイモドキは◎カイモンヒメジョウカイモドキで、それも、時期的に遅いのか、♀ばかりで♂は見られませんでした。
近似のホソヒメジョウカイモドキは、前之浜で僅かに採れているだけです。
この2種は腹節末端がV字状に抉れる(ホソヒメ)か、抉れない(カイモン)かで区別出来ますが、今回、カイモン(写真左)を多数採集して良く見ると、こちらは背面は黒色で全く金属光沢はありません。
一方、ホソヒメ(写真右)は明らかに瑠璃色光沢が見えますので、慣れれば、背面の色だけでも区別できます。
(どちらも♀、左から、カイモンヒメジョウカイモドキ、ホソヒメジョウカイモドキ)
カイモンの分布は、種子島から、基産地の開聞岳周辺、甑島、島原半島、五島宇久島まで、
ホソヒメは屋久島、種子島から、甑島、島原半島、玄界灘沿いの福岡県、四国、本州の日本海側、島根県まで。
湊集落から左折して、湊川沿いに遡っていきます。2kmほど先で左折するとヘゴ自生地です。
谷間の川沿いの道の両側に、巨大なヘゴが林立する光景はちょっと異様です。
(ヘゴ林)
ヘゴに着く甲虫と言って何も知られていませんが、他に無い環境なので叩いてみることにします。
(採集準備中)
しかし、道沿いを2-30分叩いてみましたが、甲虫は皆無でした。
こんなことも逆に珍しいです。木野田さんもフトキノカワゴミムシを採っただけのようです。
ヘゴ林はスギ植林地の中にあり、湿気て日当たりが余り良くないことも影響しているのでしょう。
夏場にライトを付けると何か変なものが来るかもしれません。
湊川河口
湊川河口まで引き返します。ここにもマングローブがあり、榎戸さんによるとヨドシロヘリハンミョウがいるそうです。
(湊川河口)
川沿いにゲートボール場が有り、駐車スペースに車を駐めます。
ここのマングローブは小さくて、数も少しですが、歩いていって直接触れる位置に有ります。
ちょっと叩いてみましたが、トビイロヒョウタンゾウムシが落ちてきたくらいでした。メヒルギに着く甲虫も今のところ知られていません。
さて、このトビイロヒョウタンゾウムシですが、当初、黄褐色地に褐色の斑が有り、何だろうと思っていました(写真左2個体)。
原之里の砂浜で採れた本種はかなり白っぽい個体が多いです(写真右2個体)。
生息場所の地表の色に合わせて、個体群ごとに色彩は変化するのでしょう。
(トビイロヒョウタンゾウムシ、2個体:湊川産、右2個体:原之里産)
その手前の草地は、塩性植物とそして、畑地の周りにどこでもあるような菜の花、ギシギシ、イヌホオズキなどが生えています。
そう言えば、種子島ではまだ、集落や畑の周辺の虫は何も採ってないので、草地をひとしきりスウィーピングしてみます。
予想通り、ナナホシテントウ、ニジュウヤホシテントウ、◎スイバトビハムシ*、◎アサトビハムシ*、ルリナガスネトビハムシ*、コフキゾウムシ、◎チビコフキゾウムシ*、タデノクチブトサルゾウムシ*、ダイコンサルゾウムシ*などが入っていました。
本土の畑周りならどこにでもいるような種ばかりです。
しかし、多くが種子島初記録で、その半数は屋久島でも記録されていません。
離島に遠征して、畑周りを採集する虫屋は少ないのでしょう。
(左から、スイバトビハムシ、アサトビハムシ、ルリナガスネトビハムシ)
さらに、ゲートボール場の周辺を叩くと、☆クシコメツキ、クロスジヒメテントウ*、チャイロテントウ、☆ヤクシマウスイロクチキムシ、☆コウスアオクチブトゾウムシ*、☆ヤクオビモンヒョウタンゾウムシ*も落ちてきました。
木野田さんも周辺を叩いて、◎チャイロチビマルハナノミ*、ムナキヒメジョウカイモドキ、キムネツヤミジンムシ?*、ダンダラテントウ、キボシツツハムシ、クロウリハムシ、◎キバラヒメハムシ、マツノシラホシゾウムシ*を採られていました。
このうち、キムネツヤミジンムシ?とした種は、全く同定できていません。体長1.2mm程度の極微小種。背面に殆ど毛が無い黒褐色の種で、前胸は赤褐色です。
(キムネツヤミジンムシ?)
図鑑に載っているベニモンツヤミジンムシを寸詰まりにして上翅のベニモンを取ったような感じです。ミジンムシ類はリストに色々名前が載っているにも拘わらず、同定資料がまったく見つかりません。この類をやる人が現れるのを心待ちにしています。なお、上記和名は、リストにあるそれらしい名前を上げただけで、根拠があるわけではありません。
天気はスッカリ回復して、明日も良い天気との予報ですので、それを期待して帰り支度です。スムースに走れるように、カーネットを外します。
カーネットの中身はあまりたいしたことは有りませんでしたが、それでも、◎オバボタル、チビコエンマコガネ*、〇ツヤエンマコガネ、〇ホソサビキコリ、〇クビアカトビハムシ、エノキノミゾウムシ*が入っていました。
このうち、チビコエンマコガネは意外でした。あの小ささで、車高より高いところ(2m余り)を飛翔したりするのですね。
犬糞などにもいる種で関西以西から四国、九州に分布しますが、種子島にいるとは思いませんでした。
(チビコエンマコガネ)
近年、沖縄本島の公園で採れていますが、これは人為的な移入でしょう。
種子島産が移入ではないとも、断言できませんが。
宿に着くと、あたりはスッカリ暗くなりかけています。今日はだいぶ遅くまで走り回りました。
そして、種子島に来てから初めて、何のトラブルも忘れ物もなく、宿までたどり着きました。
木野田さんは食後、ベランダに出てライトを見ます。
実は今朝から、宿の人に断って、ここに灯火採集用のブラックライトを下げていたのです。
前日雨の中、宿の灯に蛾がチラホラ飛来していたので、点けてみようということになったわけです。
しかし、残念ながら、来たのはクシコメツキが3個体だけでした。
つづく