2023英彦山の春 2

5月8日は、小石原でスゲヒメゾウムシ以外にもキンイロネクイハムシなど面白いものが追加できたので、俄然、熱が入り、あちこち探索も続けたもので、英彦山にたどり着いた時はもう、午後3時近くになっていました。

駆け足で、6つのFITを回収していきます。その間、國分さんは周囲のビーティングです。

まず、倒木に吊したFIT。

(倒木に吊したFITにLEDライトを付けた)

倒木に吊したFITにLEDライトを付けた

フジの枯れヅルに吊したFITには、沢山の虫が入っています。結構、虫が多いので、多少時期は早いながら、LEDライトを足して、それぞれ、ライトFITにします。

(フジの枯れヅルに吊したライトFIT)

フジの枯れヅルに吊したライトFIT

このトラップのすぐ右下は深く落ち込んでいて、渓流が音を立てて流れています。

(トラップ横の渓流)

トラップ横の渓流

やはり、川沿いの方が湿気も多く、立ち枯れなどコケやキノコ類が豊富なようで、虫も多いようです。

急いでトラップを回収し終わったのが4時半、この分だと帰りは6時半くらいになりそうです。

國分さんに「何か採れましたか?」と聞きましたが、「ぼつぼつ、虫が落ちてくるぐらい」との返事で、それでも、セミスジニセリンゴカミキリが入っていました。

(セミスジニセリンゴカミキリ)

セミスジニセリンゴカミキリ

結局、自宅に帰り着いたのは午後6時半過ぎ、カミさんから「遅かったね」と言われて、慌ててお風呂へ。我が家は7時の夕食に間に合うことが、暗黙の了解事項です。

夕食後、FITのソーティングを始めます。

今回はまだ、ただのFITで、木の葉や、枝などのゴミも結構多いものの大したことはありませんが、これが、ライトを付けると、蛾がかなり入って、鱗粉でかなり虫が汚れます。気温もそれほど高くないので、幸い、まだコガネ類も少なく、シデムシ類が入っていないので多少とも楽です。

ざっと大きいゴミを取り除き、水を2-3回、注いでは流しして、汚れを取ります。

それから、ソーティング。
大きい虫から拾い上げて、水を張ったタッパーの中に順次投げ入れていきます。
5mm程度の虫まで済んだところで、顕微鏡の下に移し、検鏡しながら微小甲虫を拾って水の中へ。

ほぼ終わったところで、茶こしで水を切り、これをキッチンペーパーを敷いたバットに移し、扇風機の風を弱にして、一晩風を当てて乾かします。

今回のはまだ量が少なくて、1時間余りでソーティングも終わりましたが、夏季になり、量も増え、余分な物も沢山入ると、延々とソーティングも終わらず、寝られなくなって大変です。

さて、FITの回収品には次のようなものが入っていました。

(FITの回収品)

FITの回収品

パッと目に付くのは、オオキイロコガネを始め、ミヤケチャイロコガネ、ハラゲビロウドコガネ、ヒメコブスジコガネ、ヒラタハナムグリなどコガネ類。

(ヒメコブスジコガネ)

ヒメコブスジコガネ

なぜか、飛ばないマドボタルの幼虫(オオマドボタルかヒメマドボタルかは判断できず)や、ヒミコヒメハナカミキリ原亜種が入っていました。

(左から、マドボタルの幼虫、ヒミコヒメハナカミキリ原亜種)

左から、マドボタルの幼虫、ヒミコヒメハナカミキリ原亜種

ナカジロサビカミキリ、モンキナガクチキムシ、ナガチャクシコメツキ、シリブトヒラタコメツキ、タカオヒメハナノミ、ウンゼンマルズハネカクシ、ツノヒゲツヤムネハネカクシなども入っていました。

このうち、ウンゼンマルズハネカクシは、従来、伊藤さんから、「九州産のオオマルズハネカクシは、本州産とは、♂交尾器が異なる」と聞いていたのですが、それを、雲仙産を基にIto (2021)として、新種記載されたわけです。

(ウンゼンマルズハネカクシ)

ウンゼンマルズハネカクシ

Ito, T., 2021. Notes on the species of Staphylinidae from Japan, XXVII Description of three new species allied to Domene (Macromene) daimio Sharp (Coleoptera, Staphylinidae, Paederinae). Elytra, N. S. 11 (Supplement): 107-112.

また、ツノヒゲツヤムネハネカクシは、触角に黒くて長い刺毛を備える顕著な種ですが、九州では大分県で記録されているだけで、福岡県では初めてのようです。
私は初めて採集しました。

(ツノヒゲツヤムネハネカクシ)

ツノヒゲツヤムネハネカクシ

FITを吊した立ち枯れには、キノコが付いていたらしく、キノコに来る種が色々入ってました。

特に、オオキノコムシは、カクモンホソオオキノコ Dacne kidoi Nakane(九州,対)を始め、キリシマチビオオキノコ、ミツボシチビオオキノコ、キアシチビオオキノコ、セモンホソオオキノコなどが入っていて、今後も楽しみです。

(左から、カクモンホソオオキノコ、キリシマチビオオキノコ)

左から、カクモンホソオオキノコ、キリシマチビオオキノコ

ヒラタコメツキモドキやチャイロヒゲボソコキノコムシ、ムネスジキスイなども入っていました。

(左から、ヒラタコメツキモドキ、チャイロヒゲボソコキノコムシ)

左から、ヒラタコメツキモドキ、チャイロヒゲボソコキノコムシ

この後、様々な所用があり、なかなか出かけられませんでした。
台風まがいの大雨も降って、FITが飛んでいないか、FITにライトを付けたことで蛾類が多く入り、中の虫が腐っていないか、様々に心配がありましたが、仕方がありません。

次に出かけられたのは、13日後の5月21日です。

5月21日は、相棒の國分さん以外に、小石原のスゲヒメゾウムシを見てみたいという虫屋さん3名+αを案内したこともあり、英彦山にたどり着いたのはもう午後3時を相当回っていました。

前回よりもさらに遅い展開に、怒られる前に、「今日は(帰りが)7時くらいになるかもしれない」とカミさんに連絡しておきました。

急いでライトFITを回収します。ライトを付けた分だけ、虫も増えているようです。

國分さんは、その間、林内でビーティングをされていたようです。

(ビーティングから戻って来る國分さん)

ビーティングから戻って来る國分さん

今回のライトFITの中身は、相当、増えています。結果をお知らせしましょう。

(ライトFITの成果)

ライトFITの成果

さすがに、ライトのせいで、コガネも相当増えています。特に、ゴホンダイコクコガネが目を引きます。

(ゴホンダイコクコガネ)

ゴホンダイコクコガネ

元々、福岡県ではかなり少なかった種ですが、シカの増加と共に、増えているようで、英彦山山系では、結構、目にする機会が増えています。

また、コメツキ類も増えましたね。アカコメツキが綺麗です。

(アカコメツキ)

アカコメツキ

ほとんど偶然にしか目にしない、クチキクシヒゲムシも入っていました。

(クチキクシヒゲムシ)

クチキクシヒゲムシ

夏が近づき、コメツキダマシ類も増えてきました。
左から、ホソナガコメツキダマシ♂、同♀、ママエフヒメフトコメツキダマシ Bioxylus personatus Mamaev、そして、フチトリコメツキダマシの一種です。ホソナガコメツキダマシは雌雄で、素人目には全く別の種に見えますね。

(コメツキダマシ類)

コメツキダマシ類

ママエフヒメフトコメツキダマシは奥八女の釈迦岳から報告したほか、ホームページでは、既に、英彦山の貝吹峠産を紹介しています。

右端のフチトリコメツキダマシの仲間(未同定)は多くて、10個体近く入っていました。多くの種類があり、同定が難しいので、私には同定できません。

クロホシチビヒラタムシはソーティング時には、確かに、胴体も含めて全部そろっていたはずです。
しかし、四角紙に並べる段階で、どう探しても、前胸と頭しか見つかりません。何処に紛れたのでしょうか? 残念です。

本種に間違いないのですが、本来の形を見ていただくために、左側に、熊本県白鳥山産を並べています。

(クロホシチビヒラタムシ、左は白鳥山産、右が英彦山産)

クロホシチビヒラタムシ、左は白鳥山産、右が英彦山産

本種は、通常、ブナ帯以上でブナの樹皮下などで見つかる種で、九州では大分県黒岳、熊本県白鳥山、宮崎県白岩山・国見岳などで記録されていて、福岡県では初めてです。また、これほど標高の低い、常緑樹林内で見つかったのも例がないかもしれません。

ルリツツカッコウムシは瑠璃色の綺麗な筒状のカッコウムシですが、余り記録は多くなく、英彦山と大分県黒岳の記録くらいしか見つけられませんでした。

フタホシヒメハナムシは、多数のベニモンアシナガヒメハナムシに混じって1個体だけ見つかりましたが、大分県、長崎県と英彦山(鷹巣山)の記録があるようです。

(左から、ルリツツカッコウムシ、フタホシヒメハナムシ)

左から、ルリツツカッコウムシ、フタホシヒメハナムシ

また、ツノブトホソエンマムシと、今回も、ヒゲブトチビヒラタムシが複数入っていました。

(左から、ツノブトホソエンマムシ、ヒゲブトチビヒラタムシ)

左から、ツノブトホソエンマムシ、ヒゲブトチビヒラタムシ

ツノブトホソエンマムシは釈迦岳から報告したほか、県内各地で報告されていますが、それほど多いものではありません。

ヒゲブトチビヒラタムシは、前回、初採集で喜んだのですが、どうも、発生木近くにライトFITを設置したようで、いくつか追加できました。

そして、今回の、私としての最大の成果はヒゴホソカタムシです。

(左から、ヒゴホソカタムシ、ヒュウガホソカタムシ)

左から、ヒゴホソカタムシ、ヒュウガホソカタムシ

元々は名前の通り熊本県の原産で、本州(三重・奈良)、九州(熊本・宮崎)と対馬、屋久島、奄美大島、西表島の記録があります。その後、佐賀と長崎でも見つかっていますが、福岡県内、それも、英彦山に分布するとは予想していませんでした。

近縁種で、こちらは最近、宮崎県産を基に新種記載されたヒュウガホソカタムシも、実は、2年前の2021年の、久留米昆の採集会(2021. 7. 24)の折、深倉峡の灯火採集で1個体採集しています。
こちらの分布は九州(宮崎)、対馬、屋久島、奄美大島、西表島となり、対馬を除くと、英彦山は北限になります。
両種共に福岡県初記録になりますが、まだ、正式には記録していません。

以上のように、ライトFITだけで興味深い成果が続々出ています。
当分は調査を続けるつもりです。
これらのことから、英彦山は本来は相当、多様性の高い、すぐれた甲虫ファウナを持っていたように感じられます。