アオハムシダマシ属をめぐって(その4)

タカハシアオハムシダマシ

この頃、親戚を頼って、山口県徳山市(現在は周南市)まで毎月商売に出かける話がまとまった。旅先での無聊を慰めるために周南昆虫同好会に入会し、中原氏(その後故人)、高橋氏、池田氏などと知己を得た。

彼等から、県境を越えた広島県側にある中津谷渓谷という好採集地を紹介され、中津谷産ハムシダマシ類を託された。その中に、高橋氏採集の上翅の肩に隆起線を持つ種(写真)が見つかったが、この種は腿節端が黒く緑光沢があり、雲仙産の黄褐色のタイプとは明らかに異なっていた。

これは別種と直感して、♂交尾器も異なることを確認した。肩に隆起線を持つ種も、九州産の一種のみではなく、複数種存在することを確認したわけである。(写真の全形図と♂交尾器はタカハシアオハムシダマシ・ホロタイプのもの)

ヤクアオハムシダマシ

1985年に母が亡くなって以来、遠隔地への採集旅行は控えていたが、1988年になって久々に屋久島に出かけた。学生時代には盛夏に出かけたので、今回は初夏を選んだ。
屋久島ではレンタカーを借り、発電機と灯火採集道具を積み込んで10日近く島内を走り回った。標高800m付近にある淀川小屋周辺では白い花にアオハムシダマシの一種が群らがっており、安房林道や白谷林道などの低山地でも同様のものがシイの花で見られた。ほとんどの個体は背面が金緑色だったが、数十個体採集した中に、赤銅色の個体が2頭混じっていた(写真下)。

屋久島産(写真左の緑タイプ全形図と♂交尾器はホロタイプのもの)は一見して、アマミアオハムシダマシ同様細長く、大部分の個体では肢全体が黄褐色で、九州産とは一見して異なっていた。しかし、♂交尾器はパラメラが基部から先端に直線的に細まる点で、アマミアオハムシダマシよりはアカハムシダマシに近く、パラメラがやや太くて短い点で区別できた。A博士の論文では、アカハムシダマシなどと一緒に屋久島産も(新)アオハムシダマシに含めてあり、♂交尾器も図示してあったが、その図はパラメラが太短い屋久島産の特徴が現れており、屋久島産が独立種であることを改めて確信した。

帰宅後しばらくして、思いがけず母の旧友から突然の呼び出しがあり、見合いの後、あれよあれよと言う間に結婚することが決まってしまった。

台湾産アオハムシダマシ類の分類

国内産アオハムシダマシ類の中に複数の未記載種を発見し、日本産アオハムシダマシ類をどうにかまとめてみたいと考え始めていた頃、北陸の甲虫愛好家E氏から連絡があり、台湾産のアオハムシダマシ類の分類を手がけたいので標本を貸して欲しいとの依頼があった。台湾産についてはそれほど興味を持っていなかったので、即座に申し出を快諾した。

E氏は遠路はるばる島原まで出向かれて、結婚後間もない新居に一泊され、分類について語り合った後に、標本を持ち帰られた。しばらくして、E氏の論文が発表され、台湾産既知種3種に3新種を加えて6種とし、このうち、1種は私に献名された。貸与標本のうち、大部分をパラタイプラベルや同定ラベルを付けて返却していただいたので、現在も手元に台湾産6種を確認することができる。

E氏とは、その後日本産について共同で研究を進める約束であったが、E氏の個人的な事情で果たせなかった。