石鎚山周辺のハナムグリハネカクシ類採集記 Part. 1

愛媛県西条市在住の越智恒夫さんから、四国のハナムグリハネカクシ類についての採集記を投稿頂いたので、何回かに分けて掲載します。

九州のものと比べながら見ていくと、非常に興味深いかと思います。

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石鎚山周辺のハナムグリハネカクシ類採集記 Part. 1

越智恒夫

<はじまり>

2016年4月21日の朝、いつものようにインターネットで虫関係のブログを見ていた時のことです。
今坂正一氏のホームページ(E-アシストの昆虫掲示板)の「春の訪れとハナムグリハネカクシの探索」の記事に目が止まりました。

その中で、久留米昆蟲研究會會誌「KORASANA」84号に掲載された報文(九州産ハナムグリハネカクシ類:予報)が紹介されていました。

さっそく、ホームページ左上にある「おたより」をクリックして、今坂氏にpdfをリクエストしたところ、有り難いことに、すぐに送って下さいました。

今坂正一, 2016. 九州産ハナムグリハネカクシ類(予報)-2015年のハナムグリハネカクシ類探訪-. KORASANA(久留米昆蟲研究會會誌), (84): 35-48.

拝見したところ、九州から以下のように、種名未確定のEusphalerum sp.を含む10種のハナムグリハネカクシ類が記録されています。

九州産ハナムグリハネカクシ類図版
九州産ハナムグリハネカクシ類図版

A. pollens グループ
ルイスハナムグリハネカクシ Eusphalerum lewisi (Cameron) (図13, 24)
(仮称)ウスキハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 2 (図14, 25)
(仮称)アラハダキイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 1 (図15, 26)
ハラグロハナムグリハネカクシ Eusphalerum solitare (Sharp) (図16, 27)
クロハナムグリハネカクシ Eusphalerum pollens (Sharp) (図17, 28)
サイゴクハナムグリハネカクシEusphalerum saigokuense Watanabe (図18, 29, 19: 褐色型)
(仮称)ヒゴハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 3 (図20, 30)

B. japonicumグループ
キュウシュウハナムグリハネカクシ Eusphalerum kyushuense Watanabe (図21, 31)
ツクシハナムグリハネカクシ Eusphalerum tsukushiense Watanabe (図22, 32)
キイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum parallelum (Sharp) (図23, 33)

そこで私の住む愛媛県(四国)では現在何種類が記録されているのか気になり、九大のハネカクシ科総目録でチェックしてみたところ、ハナムグリヨツメハネカクシ属として、四国から以下の5種が記録されていることがわかりました。

キイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum parallelum (Sharp)
クロハナムグリハネカクシ Eusphalerum pollens (Sharp)
サイゴクハナムグリヨツメハネカクシ Eusphalerum saigokuense Watanabe
シコクハナムグリハネカク Eusphalerum shikokuense Watanabe
ハラグロハナムグリハネカクシ Eusphalerum solitare (Sharp)

がぜん愛媛のものを採集して見てみたいという気になったのですが、同定が非常に難しそうです。致し方なく、今坂さんにお願いしたところ、快く見ていただけるとのご返事をいただきました。

それで、早速採集に出かけることにしました。

今坂さんから、「4月20日過ぎの今の時期、ハナムグリハネカクシ類の採集には、標高的に1000mぐらいは登った方が良いでしょう」とのアドバイスをいただきました。
また、ハナムグリハネカクシ類が好む花等(ウメ、ヤマザクラ、ソメイヨシノ、ツツジ)もご教示いただいたので、しばらく考えてから、取り敢えず石鎚山周辺を調査してみようと思い立ちました。
このうち、まず、通い慣れた愛媛県西条市寒風山林道へ出かけることにしました。

採集記を紹介する前に、この記事を書くことをおすすめいただき、採集品の同定をはじめ、種々懇切丁寧なご教示をいただいた今坂正一さんに心から厚くお礼申し上げます。

<4月22日 初めてのハナムグリハネカクシ採集―寒風山林道>

朝起きてみると天気も良く、8時30分ごろに車で家を出ました。
国道11号を東へ走り、西条市中野の加茂川橋手前にあるコンビニ(以前、灯火でヒゲコガネが得られたことがあります)でお茶と弁当を買ってから、信号を右折して国道194号に入りました。

寒風山周辺
                                                                                       寒風山周辺

20分ばかり走ると寒風山トンネルの手前にある林道の入り口に着きます。
ここからは道幅が狭くカーブの多い林道を走りながら花を探しますが、杉やヒノキの植林地で全く見つけられません。

採集地概念図

                                                                                    採集地概念図

標高740mぐらいの所で車から降り、少しビーティングをしてみました。
ここは植林地の中に少し二次林があり、5、6月ごろにトラップを埋めると最近記載されたホウオウオサムシが得られます。

(ホウオウオサムシ♀)

また、昨年、道沿いの雑草がまばらに生えたところではヒメツチハンミョウが多く得られました。

(ヒメツチハンミョウ、左:♂、右:♀)

しかし花もなく、他の虫も落ちません。
結局、旧寒風山隧道の手前でやっとサクラ類の花を見つけネットで掬ってみました。

旧寒風山隧道の手前のサクラ類の花

                                                                      旧寒風山隧道の手前のサクラ類の花

「サァー、どうかな??」と思いながらネットを覗き込みました。ハナムグリハネカクシがどういう虫かというのは、いただいた報文の図版を目に焼け付けていましたので、すぐにそれと分かる虫が3、4頭這っているのが見えました。。

いきなりひと掬いめで採集できたので少し拍子抜けしましたが、すぐにポケットからカプセルを出し収納しました。

余談になりますが、最近、私は小さな虫が好きになり集めています。
採れた虫はすぐに毒瓶には入れず、粉薬などを入れて飲むカプセル(ドラッグストアなどで手に入る)をポケットに入れておき、それに1頭ずつ収納しています。

微小甲虫を入れるカプセル

                                                                              微小甲虫を入れるカプセル

これを、採集した場所ごとにまとめて、チャック付きのビニール袋に入れて、タッパーに保管しておきます。こうすることで、より正確な分布調査が可能になりました。

ただ、このカプセルは水に濡れると柔らかくなりベトつきますので、水に濡らさないように注意する必要があります。

その後は、ネットの届く範囲の花と、ツツジの類のビーティングで併せて15頭ほど採集することが出来ました。
しかし、他の甲虫類は少なく、ズグロキハムシなどハムシ類とゾウムシ類など併せて10頭程度が得られただけでした。

ツツジ類の花

                                                                                   ツツジ類の花

後日、今坂さんに同定して頂いた結果、ここでは3種が含まれていたようです。
以下は今坂さんの所見です。

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愛媛県西条市寒風山林道産(4/22)ですが、

まず、背面と上翅に立った毛の無いA. pollens グループに含まれる、黒くて中型の(仮称)エヒメハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 5 9♂5♀です。

(エヒメハナムグリハネカクシ、左:♂、右:♀)

(エヒメハナムグリハネカクシ♂交尾器、左:背面、右:側面)

この種は腿節を含む足全体が褐色で、 広島以西の本州と四国から記録のあるサイゴクハナムグリハネカクシEusphalerum saigokuense Watanabeに良く似ています。

しかし、九州産のサイゴクとしたもの(今坂, 2016)と比較すると、寒風山林道産は、サイゴクにある顕著な前胸側縁にある丸い窪みが無く、♂交尾器の側片先端の窪み部分の形が違っています。

サイゴクは四国の記録がありますが、どうなのでしょう。
本種を誤認したのか、あるいは、本種と棲み分けて分布しているのか、今後の調査が必要です。

次に、背面に立った毛を密生するjaponicumグループですが、前種よりよほど大型のサイズ(3.5mm)で、背面はほぼ黒一色、足は腿節も含めて赤褐色になる特徴的な種です。

残念ながら1♀だけで、種は決定できませんでしたが、私のハナムグリハネカクシの教科書であるWatanabe(1990)の解説中、japonicumグループの中に、黒くて3mmを越える種は掲載されていませんので、未記載種だろうと思います。

(仮称)クロムクゲハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 6 1♀と言うことにしておきます。

(クロムクゲハナムグリハネカクシ♀、左:背面、右:腹面)

最後に、キュウシュウハナムグリハネカクシに良く似た小型のB. japonicumグループの1種が含まれていました。全体に色が薄い1♀で、未熟個体なのかどうか判断できません。種は未確定です。

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サクラ類は他にもあったのですが、傾斜のきつい斜面にあったり、高くてネットが届かないものが多く、採集できるのはこの1本だけだったので、隧道を抜けて、高知県側に行ってみることにしました。

隧道を出たところに駐車場があり、そばにサクラ類があったのでネットで掬ってみました。
ここでも、少ないながら4、5頭採ることが出来ました。このサクラ類の花では他にキスイモドキが2頭得られただけでした。

高知県側のサクラ類

                                                                              高知県側のサクラ類

標高は愛媛県側・高知県側とも1140mぐらいで同じですが、ハナムグリハネカクシ類の集まり方には差があるようです。
最初の愛媛県側のサクラ類は日陰にありましたが、後の高知県側の方は日当たりが良い場所にあったせいではないかと思いました。

花の咲き具合(咲き始めか満開かなど)による差など、今後調べてみたいものです。
ただハナカミキリなどでは午前中の時間帯がよいように言われていますが、ハナムグリハネカクシ類に関しては時間帯による差はあまりないように感じました。

初めての採集にしては、20頭ばかり採れたので、まぁまぁかなと思いながら家路に着きました。
家に帰ってから採集品を見てみました。色彩や体長などから3種類ぐらいはいるかなと思いましたが、すべて今坂さんにお送りして見ていただくことにしました。
結果は思ったより多く、高知県側でも4種含まれていたようです。

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(今坂所見)

高知県いの町桑瀬産(4/22)ですが、数少ない中に4種が含まれていました。

まず、上翅に立った毛が無いpollens グループとして、
ハラグロハナムグリハネカクシ Eusphalerum solitare (Sharp)に良く似た、前胸と上翅が赤褐色で腹部が黒い1♀、これは♀のため、ハラグロかどうかの確認ができませんので、?マークを付けておきます。ハラグロは一応四国の記録があります。

(ハラグロハナムグリハネカクシ?♀)

次いで、前種よりやや小さめで、やや黒っぽい1♀、この種は多分、寒風山林道(愛媛側)でかなり多く見られた(仮称)エヒメハナムグリハネカクシの♀だろうと思います。

3番目は、上翅に立った毛が有る japonicumグループとして、頭と前胸、上翅まで赤褐色で腹部が黒い1♂。
多分、福岡県八女市矢部村竹原峠産(今坂, 2016)で私が報告した、キイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum parallelum (Sharp)では無いかと思います。♂交尾器は上記のものと良く似ています。この種も四国からすでに知られています。

(キイロハナムグリハネカクシ♂)

(キイロハナムグリハネカクシ♂交尾器、左:背面、右:側面)

4番目はかなり小型で、全体に褐色の1♀、この種はキュウシュウハナムグリハネカクシ Eusphalerum kyushuense Watanabeに似ていますが、四国では今のところキュウシュウの記録はありません。

♂交尾器が確認できていないので、種は不明です。西条市寒風山林道産の最後の1♀と同じかどうか確認できませんが、一応、同じものと言うことにしておきます。

(キュウシュウハナムグリハネカクシ?♀)

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以上、石鎚山山系の第一回目の探索で、寒風山林道の愛媛県側・高知県側両方から、
ハナムグリハネカクシ類、pollens グループとして
(仮称)エヒメハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 5
ハラグロハナムグリハネカクシ?の2種、

また、japonicumグループとして、
(仮称)クロムクゲハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 6
キイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum parallelum (Sharp)
キュウシュウハナムグリハネカクシ?の3種の、計5種が見つかりました。

このうち、少なくとも、仮称と付けた2種は、あるいは未記載種(新種)?のようです。
ちょっと調べてみようか・・・くらいで出かけたのでしたが、1度に5種も見つかり、これで、俄然、面白くなりました。