石鎚山周辺のハナムグリハネカクシ類採集記 Part. 2

越智さんの採集記2回目です。
1回目はこちら。

http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=176

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石鎚山周辺のハナムグリハネカクシ類採集記 Part. 2

越智恒夫

<4月29日 土小屋は冬に逆戻り?―石鎚スカイラインのハナムグリハネカクシ類>

前回(4月22日)、寒風山林道での初めてのハナムグリハネカクシ類の採集では、少ないながらも20頭ばかりが得られました。
これらを今坂さんに見ていただいたところ未記載種と思われる2種を含めて、5種が認められるとのご教示をいただきました。

ただ、この中には♀しか採ることができなくて、種名の確定が出来なかったものが3種もありました。
これらは是非♂を採集して交尾器を見ていただき、種名を確定する必要があります。

また、九大の目録によれば、四国からは5種の記録がありますので、あと2種は採れる可能性があります。
そこで今度は前回より標高の高いところを調査してみようと思い立ち、石鎚スカイラインへ出かけてみることにしました。

朝起きてみると非常に寒くて気温は8℃、これでは上(石鎚)は寒くてダメかなと思いましたが、明日は予定があるので、昼間の気温上昇に期待して出発しました。

いつものコース(東温市側から黒森峠を越えて久万高原町面河へ至る)で石鎚スカイラインの入り口である面河関門に着いたのが10時前でした。

ちなみに、石鎚スカイラインは面河関門から終点の土小屋まで18Kmあり、標高差900mを登る片側一車線の山岳道路です。
所要時間は約30分で、4月1日から11月30日までの間が通行可能で、冬場は通行止めになります。

石鎚スカイライン概念図
石鎚スカイライン概念図

入り口のゲートをくぐり、まずは高いところからと思い、スカイライン終点の土小屋まで走りました。
いつもなら、連休のこの時期からはアケボノツツジなどを目当てにした登山客で駐車場は一杯なのですが、今日は停まっている車もまばらです。

車の外に出てみると非常に寒く、朝の悪い予感が当たり、なんと10時30分の気温は3℃、まるで真冬に逆戻りしたようでした。
おまけに風も強く、サクラ類の花はありましたがネットが風であおられ採集になりません。

しかし、せっかく来たのにこのままnull (註:ドイツ語のゼロの意、ラテン語の「無」を意味するNullusから来ているらしい)で帰るのも悔しいので、ゆっくりと花を探しながらスカイラインを下り、やっと1160mぐらいの所で広場の隅にあったツツジ類の花を見つけ、ネットで掬って15頭ばかり採集することが出来ました。

ツツジ類の花
                                                                                   ツツジ類の花

気温は7℃でしたが、ネットの中のハナムグリハネカクシ類は平気で動き回っていました。
通常の昆虫は10℃以下では動きがかなり緩慢になりますが、ハナムグリハネカクシ類は寒さには滅法強いグループのようです。

採れたハナムグリハネカクシ類
                                                                        採れたハナムグリハネカクシ類

最初の心づもりでは、今日は標高1000mぐらいから1500mまでの間を、100m間隔に刻んで調べてみるつもりでしたが、叶いませんでした。

面河関門のスカイライン入り口に戻ってきたのが12時30分頃でしたので、このまま家に帰るのも早いかなと思い、面河渓に寄ってみることにしました。

面河渓の入り口には「面河山岳博物館」があります。
立ち寄ってみようと思いましたが、子供たちが集まりイベントの最中で、学芸員の矢野さんも忙しそうだったので、そのまま面河渓に向かいました。

遊歩道を30分ほどビーティングしながら歩きましたが、ほとんど甲虫類は落ちなくて僅かにツノブトホタルモドキが2頭得られたぐらいでした。

ツノブトホタルモドキ
                                                                                ツノブトホタルモドキ

家に戻ってから早速今坂さんにメールで連絡を取り、今回の採集品もお送りして見ていただくことにしました。

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(今坂所見)

石鎚スカイライン 29. IV. 2016採集分ですが、

まず、立毛の無いpollens グループから、

黒くて、足が腿節も含めて赤褐色の大型の種は、一見、前回の、(仮称)エヒメハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 5 (サイゴクハナムグリハネカクシEusphalerum saigokuenseに良く似た未記載種?)の大型個体かと思いました。

しかし、全ての個体がエヒメよりは一回り程度大きく体長3mm前後で、♂交尾器は細長く、特に側片は長くて中央片よりかなり長く、先端部分は大きく広がって、中央で角張っており、明らかに異なっています。
調べてみると、四国から唯5種知られているうちの、シコクハナムグリハネカクシ Eusphalerum shikokuense Watanabe (基産地は徳島県高越山)に良く似ていましたが、シコクはさらに大きく3.4-3.6mm、♂交尾器の側片の先端は角張らず丸く広がり、側片と中央片はほぼ同じ長さです。

ということで、この種も未記載種と思われ、(仮称)イシヅチハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 7 (near Eusphalerum shikokuense) 7♂6♀としておきます。

(イシヅチハナムグリハネカクシ、左:♂、右:♀)

(イシヅチハナムグリハネカクシ、左:♂腹面、中:♂交尾器背面、右:♂交尾器側面)

さらに、黄色くて小さい2個体は、体長1.7-1.9mmで、見かけ上はほぼ、ルイスハナムグリハネカクシ Eusphalerum lewisi (Cameron)と思われました。♂の腹部は黒っぽく、♀は黄色っぽいのも同様です。ルイスの分布は九州のみで知られています。

しかし、ルイス(体長2-2.5mm)よりさらに小型で、♂交尾器が全く違っていました。
ルイスの側片先端は船の櫂(オール)状に大きく長く広がっているのですが、この種はほとんど広がっていません。また、中央片の基部もかなり細く、先端までより細いようです。最初の印象と異なり、ルイスとは細部で異なっており、未記載種と思われます。

(ルイスハナムグリハネカクシ、左:♂、右:♀)

(ルイスハナムグリハネカクシ♂交尾器、左:背面、右:側面)

(仮称)シコクルイスハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 4 (near Eusphalerum lewisi) 1♂1♀としておきます。

(シコクルイスハナムグリハネカクシ、左:♂、右:♀)

(シコクルイスハナムグリハネカクシ♂交尾器、左:背面、右:側面)

ちょっと、場所と標高が変わっただけで、まったく別のそれも続々と未記載種と思われるものが2種も出てきました。面白いですね。

4/22と4/29の合計で、四国から

ハナムグリハネカクシ類、pollens グループとして
(仮称)シコクルイスハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 4
(仮称)エヒメハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 5
(仮称)イシヅチハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 7
ハラグロハナムグリハネカクシ?の4種、

また、japonicumグループとして、
(仮称)クロムクゲハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 6
キイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum parallelum (Sharp)
キュウシュウハナムグリハネカクシ?の3種の、計7種が見つかりました。

このうち、仮称と付けた4種は、あるいは未記載種(新種)?のようです。

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以上のように、4/22寒風山林道の採集分の5種から、4/29石鎚スカイラインでは2種増えて、四国から7種のハナムグリハネカクシ類が認められたとのご教示をいただきました。この分では、まだまだ、未知の種がいるようで楽しみです。