長崎・佐賀両県にまたがる多良山系は、私のベースグラウンドの1つですが、昨年末までの集計で、長崎県側で1732種の甲虫が記録されています。
今年、長崎での仕事の帰りや、島原まで用事で行ったついでに、3回ほど多良山系に出かけてみましたので、出会えてちょっと嬉しかった甲虫について紹介します。
1. 6月24日
諫早市長田から、多良山系の主峰の1つ、五家原岳(標高1057m)への林道を上ると、標高500m付近に諫早少年自然の家があります。
この少し上、標高600m付近で、等高線沿いに走る多良岳広域林道と交差し、この林道は多良岳をグルッと取り巻いて、大村市〜諫早市〜鹿島市と佐賀県側まで伸びています。
この十字路から20分程度佐賀方向に走ると修多良(すだら)の森という森林公園があります。
この付近には落葉広葉樹やモミの大木もあり、多良山系としては、山地性昆虫が採りやすい採集地と言えます。
修多良の森のすぐ近くに、新しく作られたばかりの林道が下へ伸びており、運び残しの伐採木が多少放置されていました。
これらの伐採木をハンマーで叩いて採集した甲虫が次の写真です。
枯れ葉や樹皮下に潜んでいたミヤマヒサゴゴミムシ、ヒコサンモリヒラタゴミムシ等、葉上や花で採集したオオサビコメツキ、ニシアオハムシダマシ、ウンモンテントウ、枯れ材に付いていたヒメヒラタムシ、コブスジツノゴミムシダマシなどが見えます。
太い枯れ枝をハンマーリングして、ノミヒゲナガゾウムシがいくつも落ちてきました。
小さいのから大きいのまでサイズもいろいろあるので、何種か含まれているものと思い、甲虫図鑑IVとMorimoto(1978)を首っ引きで調べてみました。
左下の斑紋のある2個体はケチビヒョウタンヒゲナガゾウムシです。
Morimoto, T., 1978. The family Anthribidae of Japan (Col.) Part 1. ESAKIA, Fukuoka, (12): 17-47.
その結果、この何種か混じっているものと思っていたノミヒゲナガゾウは、残念ながらただ1種で、シバンガタノミヒゲナガゾウムシ Choragus anobioides 北海道,本州,九州,対であろうと思われます。前胸後角が鋭角で短く、そこから側隆線が前胸の2/5くらいまで伸びている(赤矢印)のが特徴です。県本土からの記録は知られていません。
(左:シバンガタノミヒゲナガゾウムシ、右:前胸後角)
よく見て見ると、ノミヒゲナガゾウムシの中に、前に黒岳産として紹介した(仮称)クロダケカギバラヒゲナガゾウムシに良く似たものも含まれています。しかし、♂の尾節版は黒岳産よりはかなり短く、上翅の斑紋の方も、小楯板後方の長方形の白紋が特徴的です。
黒岳産とは違うと思われるので、(仮称)タラダケカギバラヒゲナガゾウムシ Xanthoderopygus sp. 3と呼ぶことにします。
(タラダケカギバラヒゲナガゾウムシ、左:♂、右:♂尾節板)
カギバラヒゲナガゾウムシの仲間には、各地で、分布範囲の狭い固有種が存在するような気がしてきました。
九重や五家荘では普通の、キアシチビヒゲナガゾウムシやニセナガアシヒゲナガゾウムシの多良山系の記録もありません。
(左:キアシチビヒゲナガゾウムシ、右:ニセナガアシヒゲナガゾウムシ)
また、先日、背振山系の九千部山からも紹介したヨツモンムクゲキスイも多良山系にいました。
ハスモンムクゲキスイなどに紛れて、良く見ていなかったので、発見できていなかったのかもしれません。
さらに、九州脊梁の山地では普通に見られるチビモリヒラタゴミムシ亜種 Colpodes aurelius chibiも多良山系の記録は無く、ひいては長崎県でも初めてです。
多良山系初ではありませんが、長崎県では採集例の少ない、ナミゲムクゲキスイ、ミツボシホソナガクチキ、カタベニチビオオキノコなども採集できました。
(左:ナミゲムクゲキスイ、右:ミツボシホソナガクチキ)
(訂正
当初、オオサワチビオオキノコとして紹介しましたが、生川さんのご教示によると、上翅基部の赤紋が中央より後まで伸びることから、カタベニチビオオキノコになるようです。カタベニチビは多良山系の長崎県側では初記録です。
なお、多良山系のオオサワは、今坂,1982で当初ネアカチビオオキノコとして報告した後に、今坂・緒方,1983でオオサワに訂正して現在に至っています。ご教示いただいた生川さんにお礼申し上げます。
今坂正一, 1982e. 1981年に採集した多良岳の甲虫. こがねむし, (39): 1-13.
今坂正一・緒方健, 1983. 1983年に採集した多良岳の甲虫. こがねむし, (42): 23-34.)
長崎・佐賀の山では普通のルリテントウダマシ九州亜種 Endomychus gorhami kyushuensis 九州,対は、本州産の原亜種ほど、ハッキリしたルリ色光沢はありませんが、個体により漆黒〜ややルリ色光沢があるものまで見られます。図示したのは少しルリ色光沢がある個体です。
興味深いのは、福岡-久留米線の東側には本種は見られず、代わりに、キスジテントウダマシ Endomychus plagiatusが見られます。ルリテントウダマシ九州亜種では、稀に、肩に一対の小さな赤紋が見られることが有り、キスジテントウダマシでも赤い縦スジ紋が縮小して小さな四つ紋の型が現れることも有り、この2種は、亜種関係では無いかと考えています。
本州産であるルリテントウダマシ原亜種と、キスジテントウダマシの関係や分布範囲も、どうなっているのか知りたいものです。
最後に、メダカハネカクシの一種です。
この類は難しくて良く解りませんが、体型から見る限り、後翅の退化した種のようです。
西彼杵半島から記載されたイマサカメダカハネカクシ Stenus imasakaiや、長崎市原産のダイミョウメダカハネカクシ Stenus daimioに近い仲間かと考えましたが、資料を持って無くて解りません。
2. 7月16日
この日は、諫早少年自然の家とその下の、白木峰高原の園地との中間、道沿いのクリ・クヌギなどを中心にした雑木林でハンマーリングをしました。
左上から、セミスジコブヒゲカミキリ、オオナガコメツキ、アオカナブン、二段目、クロモリヒラタゴミムシ、三段目、ハイイロチョッキリ、ツバキシギゾウムシ、ルリスジキマワリモドキ(ヒメニシキキマワリモドキ)などです。
多良山系・長崎県の初記録種として、ユリコヒメクチカクシゾウムシ Anaechmura yurikoae 本州,九州と、ケナガツツキノコムシ Nipponocis longisetosus 北海道,本州(神奈川),四国,九州,屋が採れました。
3. 10月9日
タラダケカギバラヒゲナガゾウムシをもう少し追加したいと思って、最初に述べた、修多良の森近くの伐採木を叩きに行ってみました。
しばらく、お天気続きで、枯れ木もカラカラに乾燥してます。
それでも叩いていたら、タラダケカギバラヒゲナガゾウムシ♂が1個体だけですが、落ちてきました。
(タラダケカギバラヒゲナガゾウムシ♂側面)
腹部末端節がL字状に曲がって突出しているのが、カギバラヒゲナガゾウムシ属 Xanthoderopygusの特徴です。
伐採されたこの枯れ木から落ちてきました。
切り株等から判断すると、どうもタブノキのようです。
それで思いついたのですが、黒岳のクロダケカギバラヒゲナガゾウムシが落ちてきた枯れ木を、前に、ミツバウツギと書きましたが、そうではなく、正しくは、タブの仲間のアブラチャンのようです。
カギバラヒゲナガゾウムシ類は、クスノキ科の枯れ木を好むのかもしれません。
また、クッキリした黒紋のあるマダラキノコムシダマシ Tetratoma japonicaも落ちてきて、この種は意外でした。もちろん長崎県初記録で、多良山系の記録もありません。
細長くて黒くほとんど毛が生えていないツツキノコムシは、ツヤクロホソツツキノコムシ Orthocis nigrosplendidus 北海道,本州,四国,九州(福岡)でした。こちらは、九州では福岡県の記録しか有りません。
既に多良山系から記録のあるイトヒゲニセマキムシ、アカネメナガヒゲナガゾウムシ、フタイロセマルトビハムシも落ちてきましたが、これらの種もめったに出会えません。
(左:イトヒゲニセマキムシ、右:アカネメナガヒゲナガゾウムシ)
フタイロセマルトビハムシは当然、樹葉上からですが、ホストとして知られるシラキではなかったように思います。
この日採れた甲虫は次の通り。
数は少なかったですが、紹介したようにぼつぼつ面白い種が混じっていました。
それぞれ1〜2時間の採集でしたが、場所や時間、採集方法を変えることにより、思いがけない種が得られます。3回で10種以上の多良山系初記録が得られたことから、まだまだ、やり方次第でいろんな種が見つかりそうです。
機会があったら、今後も積極的に寄って調べてみたいものです。