やんばるに行ってきました

「最近、ヤンバルクイナの交通事故が多いらしい。野生生物保護センターにも轢かれたものが多く持ち込まれていると聞く。クイナの保護目的で、国道70号線の道路法面をコンクリーで固める工事が行われたのだが、かえって災いしているのかもしれない。道路脇で採餌中のクイナが車に驚いて飛び出し、轢かれる例が増えたみたいだ。」
「やんばる学びの森」への道すがら、案内役の杉野さんが話してくれました。

やんばる

ヤンバルクイナを守るために、沖縄県と環境省が、ここ数年来、北部三村でマングース捕獲作戦を展開し、2007年3月までに8000頭余りの数を捕まえているそうです。
現状で推定、名護周辺に2万頭が生息しており、なんとかSTライン(塩屋−平良ライン:国道331号線)から北にマングースが侵入しないよう、水際作戦を展開しているようです。

ヤンバルクイナは「道の駅」ゆいゆい国頭(写真上)や、東村立・山と水の生活博物館(写真下:ジオラマ)にも剥製標本が展示してあり、相当数の交通事故死が出ているようです。

「安田(あだ)の部落では、ヤンバルクイナがエサを物色して、ヒナと共に連れ立って歩く姿を見たことがあるので、結構、人家周辺まで出没しているみたい。森が暮らしにくくなって、里へ出てくると、いよいよ、交通事故や野犬・野ネコなどに遭遇する機会が増えそうだなあ・・・」

県道2号線から安波(あは)への分岐の手前で、ヤンバルテナガコガネ密猟防止協会の垂れ幕を発見。
「こちらも密猟者が相当数入っているとの話がある。うろに、おが屑や堆肥を多量に持ち込み、飼育しているとの話もある。」とのこと。
採ってはいけないものを採り、してはいけないことをやる人は、後を絶たないようです。
(左:垂れ幕; 右:山と水の生活博物館に展示されていたヤンバルテナガコガネ♂)

この他、やんばるには、ノグチゲラ、ナミエガエル、フタオチョウなど、ここでしか見られない貴重な動物が生息しています。

これらの貴重なやんばるの自然環境を守りながら、豊かな自然の恩恵の仕組みを学び、持続可能な地域とくらしのための知恵と技術と行動力を育む環境学習拠点として、国頭村により「やんばる学びの森」が昨年(2007年)4月に開設されました。
現在、NPO法人 国頭ツーリズム協会により運営されています。
(上:フィールドセンター; 下:展示)

以下のホームページに詳しく紹介されていますので、覗いてみて下さい。

「やんばる学びの森」ホームページアドレス:http://atabii.jp/

「やんばる学びの森」では、森林内を散策しながら野生の動植物に触れるネイチャートレイル、安波ダム上流への亜熱帯ジャングルカヌーなどをガイト付きで楽しめるほか、野外アスレチック場、オートキャンプ場などを利用することが出来ます。

30数年ぶりにやんばるに出かけてきたのは、昨年(2007年)暮れの杉野さんからの電話がきっかけです。
1973年に彼と共に沖縄カミキリ採集に出かけて以来、あちこち駆け回ったのは遠い昔のことですが、この10数年、彼の消息を聞くこともありませんでした。
その彼から突然の電話があって、「やんばるで昆虫のモニタリングをやる計画があるのだけれど、手伝ってもらえないか?」との話です。
「これは、やんばるに行ける。」とばかり、二つ返事でOKしたのですが、こうしてすぐに出かけて来ることになるとは、思いもよりませんでした。

「やんばる学びの森」では、森林内でのガイドウォークを実施していますが、参加人員の増加と共に、人の立ち入りによって森や生物にどのような影響を与えるのか、今の内からモニタリングしておこう、という事になったようです。たまたま運営メンバーのひとり杉野さんが昆虫に詳しいことから、昆虫を使ってのモニタリングが計画されたわけです。今後、マレーズトラップとピットホールトラップを用いて、年間通じてのモニタリングを実施する予定です。
同時に、小・中学生を対象とした昆虫教室を定期的に開催することも計画されています。子供達に実際に昆虫採集を体験し、虫に触れて貰い、標本作りや名前調べなどを通じて、やんばるにどのような昆虫類が住んでいるのか肌で感じて欲しいと考えているわけです。昆虫採集を通じて自然を見る目を養ってもらう事と平行して、彼等が作成した標本などを元に、やんばるの昆虫標本を集積・展示し、基礎資料にしていきたいというのがスタッフの希望のようです。

これら全体の計画立案、トラップの設置場所の決定などを助言するために、呼んで頂いたというわけです。

フィールドセンターを訪ねると、ちょうどお茶の時間で、昨夜、トイレの床の上で死んでいたというコウモリが披露されていました。
どうも、トイレに侵入し、出口が見つからずに飛び回ったあげく、死んでしまったようで、図鑑類で確かめるとオキナワコキクガシラコウモリのようです。
(上:お茶の時間; 下:オキナワコキクガシラコウモリ)


スタッフメンバーに挨拶した後、さっそくトレイルのコースに入ってみることにしました。
(トレイル案内板)

コースはダム湖畔のゆるい斜面に設けられており、まだ若い二次林で、谷沿いではかなり太い木も残存していました。

何度か鳴き声を耳にし、樹幹に見た大きな影はノグチゲラだそうです。キツツキとしては唯一、雄は地上で採餌するそうで、これは親がヒナを教育して始めて可能なこと、との観察結果があるそうです。体がハトくらいもあって、キツツキとしては巨大なので、繁殖には広いなわばりを必要とするそうで、人が林に入りすぎると、警戒してトレイルでは見れなくなる恐れがあるそうで、そのことも心配していました。

林床のあちこちには、比較的大きな赤い小鳥も見られ、これがアカヒゲ、あまり人を恐れず、林床で採餌するそうです。
木の陰にはキノボリトカゲがいて、ちょっと失礼して葉上に移し、モデルになってもらいました。

 

途中、林内の斜面に大きな櫓(やぐら)状の物が立てられていて、キャノビーテラスと名付けられています。「何だろう?」と尋ねると、林のてっぺん、いわゆる林冠部を観察するための施設だそうで、登ってみると、確かに、17メートルくらいあり、付近の林の梢とほぼ同じ高さで、林冠を眺めることが出来ます。

 

虫屋としてはすぐ「こんなところでナイターをしてみたい、ネットも振って、花を掬ってみたい。」と思ってしまいます。
熱帯ジャングルでは林冠の木々の間にネットや吊り橋を張り渡して、林冠の生物相・昆虫相を調査することが行われて、かなりの成果が得られており、この櫓の設置を計画した人は、そのことをご存じだったのでしょう。

林内はやや暗くうっぺいされていて湿気がありました。トレイルを歩きながら見られる昆虫類はルリタテハ、スミナガシ、ウスイロコノマチョウなど数種の蝶類、蛾類などで、あまり多くなさそうです。

 

林内でのモニタリングはなかなか難しそうで、多少とも風通しの良い場所を探すことにしました。

やんばるの山林というと、すぐに思い当たるのが毒蛇・ハブの存在で、尋ねてみるとトレイルでは、過去にヒメハブは何度か見ているものの、ハブには遭遇していないそうです。沖縄の毒蛇は冬も冬眠はしないそうで、暖かい日は普通に活動をしているということだったので、やぶに手を突っ込むのは多少躊躇われたのですが、まあ、林内は大丈夫と言うことで、ヤブコギも心配しないで済みました。
ハブに襲われた例は、畑や人家の回り、草地や海岸など、むしろオープンな場所が多いようです。
(上:ヒメハブ; 下:ハブ、山と水の生活博物館に展示中の生体)

トレイルの先端には、アダビーポンドと名付けられた小さな池がありました(写真)。

ここにはオキナワアオガエルを始めとして、ナミエガエル、ハロウェルアマガエル等が多く、アダビー(カエル)ポンド(池)と呼ばれているようです。その他にも、シリケンイモリやイボイモリ、トビイロゲンゴロウ、リュウキュウハグロトンボ、リュウキュウベニイトトンボなど多様な水生生物が観察されるようで、この日は17度と、沖縄の1月としては寒い日でしたが、実際にオオミズスマシが群れて泳いでいました。周囲に挺水植物などを植栽して水環境を整備することにより、さらに多くの水生生物が見られるようになると思います。

ひととおり、トレイル内を見てから、対照区となる場所を周囲で探すことにしました。センターから旧道をたどって安波の集落におりる道は、途中の道が崩壊していて車が通らず、子供達を伴ってのルートセンサスには最適のようです。尾根沿いのコースで比較的明るく、蝶やヤンマもよく飛んでいるそうです。この日もアオバセセリが元気よく飛翔していました。

安波の小学校は運動場も大きくりっぱでした。ただ、もともと小・中学校として建てられていたのが、中学校は辺土名に統合され、現在は小学生8名のみ。この春からはさらに2人ほど減るそうです。このあたりの子供達が、昆虫教室の生徒の第一候補でしょうか?
昆虫を通じて、やんばるの自然のすばらしさを実感してくれれば良いと思います。

やんばるを去る前に、杉野さんに辺戸岬(写真上)や、慶佐次湾マングローブ林(写真下)、

東村立・山と水の生活博物館(上:展示中のジュゴン骨格)などを案内して頂き、やんばる野生生物保護センター(下:建物正面)にも、昆虫モニタリングのことをご報告かたがた、ご挨拶に伺いました。

やんばる滞在中、食事一切お世話頂いた杉野さんに、お礼申し上げます。