早春の大野原

4月中旬というのに、東京ではその朝、雪が降ったとテレビで放送していました。

この数日冬の寒さがぶり返していました。
今日ぐらいから暖かくなり、良い天気になるとの予報を聞いて、4月17日、朝から大野原に出かけました。

出がけはまだ7度、嬉野についても10度、なかなか暖かくなってきません。

それでも、岩屋川内の小学校の入り口はシバザクラの絨毯で被われています。

シバザクラ
シバザクラ

嬉野の代名詞である茶畑は新緑に輝き、ダム湖畔の八重桜も満開で、季節は春爛漫のはずなのに・・・

(上:茶畑は新緑、下:ダム湖畔の八重桜)

大野原はまだまだ早春。気温も9度。

4月17日大野原
                             4月17日大野原

野焼きの後に、まだ草地は芽吹いたばかり。

芽吹いたばかりの草地
                           芽吹いたばかりの草地

紫のスミレと、黄色い花のキンポウゲの仲間が見られるだけで、他に花らしい物は見られません。

スミレ
                               スミレ

ところどころ、スミレが集団でいっぱいに咲いています。
野焼きによる早春の裸地が確保できることにより、スミレが繁茂し、そのことがオオウラギンヒョウモンの発生を約束しているようです。

最近教わった、スミレを食べるクロチビタマムシを探してみましたがダメで、いるとしても、そう簡単には見つからないようです。

今日の目的は、野焼き後の裸ん坊になった草地に点在する石下に潜む歩行虫の探索でした。

実は、3週間ほど前の3月27日、祝・築島両君の案内かたがた、おなじく石起しを目的で、大野原にやってきたのでした。

しかし、この時も今日同様寒さがぶり返して、10度以下で寒く、おまけにここでの歩行虫探索も始めてとあって、私自身はほとんど何も見つけることができずに帰宅したのでした。

あの時は、主に尾根筋の、一抱え以上あるような石を起こして歩いて、帰宅後、腰と腕に筋肉痛が残りました。

それで、今回は方針を変えて谷部を探すことにし、それでも水対策から、やや盛り上がって周りより高い位置にある場所の石下を探すことにしました。
おあつらえ向きに、掘り返した土を盛ったガレ地があります。

ガレ地
                              ガレ地

ススキの茎は黒く焦げていますから、こんなところまで火が走ったことが解ります。

小さい石を幾つか崩すと、さっそく、ゴミムシが走り出てきました。
お尻にハート型の紋を持つヒトツメアオゴミムシ Chlaenius deliciolus Batesです。
あわてて押さえると、潰れそうになりました。

毒瓶に確保してから、次の石にかかります。
2-3個ひっくり返すと、また出てきました。今度は少し落ち着いたので、むやみに押さえつけずに、そーっと近づき写真を撮ります。

探す後から後から本種が現れ、いくつか採集してもう止めにしました。
約20年間の島原半島と多良山系の採集では、島原半島南端の加津佐町の海岸で、ただ一度採集したがあるだけの本種が、この大野原の石下では、最も個体数の多い優占種のようです。

多少乾いた低茎の草地を好む種ということでしょうか。

幾つか石を起こしていると、こんどは青い光が見えました。
よしよし、
肝心のオオアオホソゴミムシ Desera geniculata (Klug)も確保できました。

どうも、大きい石でなくて良さそうです。
次々にいくつか現れます。

そう思いながら、念のため傍らの大きめの石を起こしてみると、石下ではなくて、側方のススキの根が絡まった中に穴があって、青い光りが見えます。むしろこちらが本来の隠れ場所のようです。

根が絡まった中の穴に隠れる
                          根が絡まった中の穴に隠れる

それまで、草原の歩行虫は、野焼きの火を避けて、石下で越冬するものと考えていました。
だったら、少し時期が早い3月でも同じだからと思って、前回探してみたのですが、まったく空振りでした。

今回、比較的小さい浮き石の下から簡単にゴミムシ類が見つかり、むしろ、大きな石下からは、ヤスデやアリ、ムカデみたいなものばかりが見つかったことから、少なくても、歩行虫は石下で越冬するのではないようです。

多分、土中かススキなどの根の下の隙間に潜り込んで越冬するのでしょう。

石下でこの時期に見つかるのは、野焼きが終わり、暖かくなって越冬から目覚めて這いだしてきた虫たちが、まだ草が茂らないので隠れ場所が無くて、一時の隠れ場所として数少ない石の下に殺到するのではないかと考えた次第。

ぞくぞく虫が這いだしてくる(一部はこの時期羽化する)今から、草丈が大きくなって、石が見つけにくくなる5月前半くらいまでが、草原での石起し適期ではないかと想像しています。

平坦地のあちこちの石を起こしながら歩いていくと、ガレた裸地の石下からコガタヒメサビキコリ Agrypnus hypnicola (Kishii)が見つかりました。

本種はむしろ河川敷などから見つかることが多い種ですが、県内では大きな河川が無く採集したことはありませんでした。
長崎県のコメツキをまとめた松尾さんの報文(2004)を見ると、吉井町と福島町初崎海岸から記録されているようです。

松尾照男(2004)長崎県のコメツキムシ科甲虫類. こがねむし(長崎昆虫研究会会誌), (69): 4-48.

1個体しか見つからないので、もう少し数を稼ごうと、比較的乾いた場所で小石を起こしていると、こんどはチラッとお尻がルリ色に光る、見慣れないゴミムシが出てきました。

あわてて1頭を押さえ、もう一頭いるのを確認して、そちらは写真を撮ることにしました。

ダイミョウアトキリゴミムシ Cymindis daimio Batesです。

この種も長い長崎県での採集歴中、島原市千本木で1個体採集したことがあるだけで、これが県内唯一の記録。
佐賀県でも西田さんが多良経ヶ岳山頂で記録している1例しかありません。
本種が草原の生息者だったとは、気が付きませんでした。

そう言えば、採集した千本木のすぐ上には、垂木台地のススキ原が広がっていたのでした。
その後雲仙火砕流でスッカリ変わってしまいましたが・・・。

たいてい石起しも飽きてきたので、昼食にしました。

先日、「こがねむし」に、昨年、3回に渡ってここに紹介した大野原の虫たちの様子を掲載したのですが、ついでに、従来の文献記録や、ゲンゴロウ研究で知られる森さんの個人的な採集結果も加えさせていただきました。

今坂正一, 2009. 大野原で確認した昆虫類−長崎県RDB調査の見直し調査の一環として−. こがねむし(長崎昆虫研究会会報), (75): 1-25.

それにしても、森さんは、2008年4月26-27日の2日間の大野原の石起こしによって(一部は見つけ取り)、41種の甲虫を採集されています。
そのうち、エゾカタビロオサムシ、セアカオサムシ、オオキンナガゴミムシ、アカガネアオゴミムシ、ヒトツメアオゴミムシ、オオアオホソゴミムシ、ヒラタアオコガネ、ウスチャコガネ、ヒメツチハンミョウ、マルクビツチハンミョウなどは草原性と考えられます。

2日間で41種とは、さぞかし、ガンバッて、石起こしをやられたものでしょう。私は午前だけの数種のゴミムシ採集で、もう音を上げてしまいました。

晴天で風もなく良い日和ですが気温はまだ15度程度、なかなか上がってきません。

午後からは、気分を変えて、草掃き採集や樹上の虫を探してみようと、まずは、草を掃いてみます。
ネットの中を眺めるとほとんど虫は動いていません。
草地の上をブンブン飛び回っているのは、ヒラタアオコガネ Anomala octiescostata (Burmeister)と、コハナバチの仲間くらい。
時折、ヒメアカタテハと、モンシロチョウが飛んできて、ベニシジミも見られます。

だけど、それだけでおしまい。

溜め池と湿地を眺めに行って、湿地でスウィーピングをしてみると、双翅類とマルハナノミ類だけで、ハムシは入りません。

草原のハムシの時期はまだまだ先のようです。
マルハナノミは湿地性の物が多いのですが同定が難しく、2-3種は入っているようでしたが、良く解りません。

一番多かったのは、翅端にハッキリした黄褐色紋のある種で、この種は雲仙の原生沼で採集しているので解りました。
クロチビマルハナノミ Cyphon mizoro Nakaneです。
多良山系ではまだ記録されていません。

(上:クロチビマルハナノミ、下:ババジョウカイ)

さらにスウィーピングしていると、こんどはジョウカイが入りました。
先日、大分県の湿地で採集したばかりなので、もしかしたら、と思って良く見ると、思った通りババジョウカイ Lycocerus babai babai (Ishida)でした。
本種は、九州では大分県でしか記録されていません。

こんな小さな湿地でも、安定した湿地が有れば、結構どこにでもいるもののようです。
発生期が早いことも、記録が少ない理由の1つでしょう。

水草に黒い虫がしがみついているのを見つけてサッと掬うと、センブリでした。
図鑑では2-3種しか載っていなくて、同定は難しそうですが、全体黒いので、クロセンブリだろうと思います。

クロセンブリ
                             クロセンブリ

本種は湿地性ということで、よけいにそう思うわけです。

狭いながらも、湿地特有の種も何種か見つかり、大野原の調査も楽しみが増えました。