1.九酔渓
黒岳の帰りに、九酔渓にマメヅタがあることは確認していました。
それで、2007年5月20日に出かけてみました。
九酔渓は大分県九重町の飯田高原への入り口にあたり、標高約600m。谷沿いに落葉樹林が繁茂し、ルリクワガタなど標高から考えられる以上に山地性甲虫を産することが、大分の「昆虫巡査」こと佐々木さんの報告によって知られています。
この九酔渓の谷も、一昨年の台風で、相当土石流の被害に遭ったようで、橋は架け変わり、道は改修され、川底も浚えてありました。
山へ向かって右手の谷に入ってみると、大きな倒木(写真:多分ケヤキ)があり、所々にキノコが生えていました。
コケむした倒木の表面を掃いて、黒岳同様にハスモンムクゲキスイ、アカバヒゲボソコキノコムシ、ムラカミヒメクモゾウムシの近似種が得られ、余り見かけないズグロツヤテントウ(写真)が落ちてきました。
付いてるキノコからは、アカバマルタマキノコムシ、カタボシエグリオオキノコムシ、モンキナガクチキムシ、ケモンケシキスイ、ズマルハネカクシ、オオズオオキバハネカクシなどが得られ、樹皮下からはアカヒラタコガシラハネカクシ(写真:初採集)やカタボシホナシゴミムシ見つかりました。
大木はほとんどがケヤキ・ミズキ・カエデなどの落葉樹とイヌマキなどの針葉樹で、樹幹にはコケのみが見られ、モリヒラタゴミムシ類(写真)が比較的多い以外、甲虫はほとんど見つからず、すっかりあてが外れてしまいました。
気を取り直して、川を渡り対岸の河川敷の林を探したところ、樹幹にマメヅタを見つけ、10本ほどの樹幹を探して廻って、ようやく、トホシニセマルトビハムシを1個体見つけました。
やはり、常緑樹林でないと、メツブテントウ類はダメみたいです。
2. 三度(みたび)、轟の滝
松原さんから、先日のタラメツブテントウが♀だったとの連絡があって、5月23日、三度、轟の滝へ♂を求めて出かけました。
幸先良く、シイの樹幹からさっそくメツブテントウが落ちてきて、これはと思ったのですが、まさしく、メツブテントウでタラメツブではありませんでした。今回は、シイ樹幹から3個体、ツバキ樹幹から1個体落ちてきて、大変嬉しかったのですが、タラメツブはとうとう見つかりませんでした。
いつも良いものが採れるタブの樹幹からは、今度は、フタスジヒメテントウが落ちてきました(写真)。この種は、長崎を原産地とする種で、自身では過去に1個体だけ大村市狸尾のイチイガシ林で採集したことがあるだけの珍品で、マメヅタの付いたサクラの樹幹からも落ちてきて、この日、2個体も採集してしまいました。幹掃き採集の威力に、再び感動してしまいました。
谷間中のマメヅタとコケの付いている樹幹を軒並み掃いていって、トホシニセマルトビハムシを初めとして、ウスオビコキノコムシ(長崎県初)、ハコネマルトゲムシ(多良山系初:コケに付く)、キノコに付くチャバネムクゲテントウダマシ、キボシテントウダマシ、ヨツボシオオキノコムシ、カツオガタナガクチキムシ、ツキワマルケシキスイ、枯れ木に来るトサヒメハナカミキリ、アカハムシダマシ、クロホシメナガヒゲナガゾウムシ、ネブトヒゲナガゾウムシ、ススキなどの枯れ草に多いヒメマキムシもなぜか多く見られました。また、ベニシダなど普通のシダにつくセマルトビハムシも複数マメヅタから落ちてきたので、マメヅタも食べるのではないかと思います。
あんなに多かったコケチビドロムシはもう時期が終わりのようで、ただ1個体だけが見つかりました。代わりに水物として、ニホンナガハナノミダマシが1個体、ケシマルハナノミが複数、コケの中から見つかりました。
コケからは、最初から、小型のアナアキゾウムシとクチカクシゾウムシが何種か見つかりますが(写真)、未だに同定できません。ご存じの方はご教示下さい。
樹幹には前回同様、捕食性のカワツブアトキリゴミムシやイクビホソアトキリゴミムシ、ダイミョウツブゴミムシが見られましたが、今回は、クシコメツキ、ナガチャクシコメツキ、ヒゲナガコメツキ、コナガクロコメツキ(写真:長崎県初)など、コメツキ類も見つかりました。樹幹にさまざまなエサとなる虫がいる以上、捕食者もそれを狙って集まるものと思います。
不思議だったのは、オオカンショコガネやビロウドコガネも樹幹に見られたことで、コガネは何をしているのでしょうね。
3. 修多羅の森
翌5月24日、同じ多良山系の中腹、標高700m付近の修多羅(しゅうたら)の森に出かけました。この場所は旧・高来町(現諫早市高来町)が、森林公園として森林浴等を目的に整備したところで、清冽な谷川が流れていて、周囲はモミ・イヌマキ・ミズキ・ケヤキなどを主とする森林に覆われています。
さっそく、谷川沿いのモミ樹幹を見ると、コケでビッシリと被われていて、掃くとコケチビドロムシと見まごう小型卵形の甲虫多数が落ちてきました。良くよく目をこらしてみるとコケチビドロムシではなく、ケシマルハナノミ(交尾写真)で、樹幹のコケばかりではなく、水辺のコケむした岩からも、倒木からも見つかり、樹幹に巻いたツル植物(写真)からも無数に落ちてきました。谷川から十数メートル離れるとピタッといなくなり、その内側の範囲のコケに多く見られました(写真)。
この種の幼虫は渓流の水中で育つようで、樹幹のコケの中が交尾のための繁殖場所なのかもしれません。このことから考えると、先のコケチビドロムシも、幼虫は渓流性で、樹幹のコケの中を交尾のための繁殖場所として利用していると推定されます。
モミの樹幹にはこのケシマルハナノミと共に、多くのヒラタゴミムシ類などのゴミムシ(写真)が見られ、これらの捕食者にとって、まさに、良い摂食場所になっていると思われます。その他には、ジュウジコブサルゾウムシ(多良山系初)が得られたくらいで、あまり虫は見られませんでした。
帰りに、多良をグルッと取り巻いている、はちまき林道沿いのミズキの花を掬って、多くのアカハムシダマシ、ニシアオハムシダマシに混じって、ミヤマアオハムシダマシが1♂(写真)だけ見つかりました。