2008年のヤニタケ その2

−初冬のキノコと虫たち−

11月の末になり、ぐっと寒くなりました。
「もうそろそろ、ヤニタケも成熟したに違いない。」

そう考えて、11月26日、黒岳に出かけてみました。

この20日余りの間に、木々は葉を落とし、黒岳はすっかり冬の装いになっていました。

さっそく、ヤニタケに向かいます。

見ると、まだ、ヤニも出ているし、それほど、成熟もしていません。

気温は7℃、それなりに寒く、昨年からするとずいぶん成熟が遅いようです。
キノコの表面や裏面、周囲にも、活動している虫たちは、見られません。

多少ともこげ茶色に堅くなったヤニタケを眺め回し、周囲を引っかき回して、やっと、ムネモンコナガクチキ Mycetoma affineを1頭、モンヒメマキムシモドキ Derodontus japonicusを1頭見つけました。
(写真上:ムネモンコナガクチキ;写真下:モンヒメマキムシモドキ)

これだけでは寂しいので、キノコの付いている面の樹皮やらコケやら、多少はぎ取っていると、クロコキノコムシダマシ Pisenus rufitarsisと、クロモンシデムシモドキ Trigonodemus lebioidesが出てきました。
これらの種も成虫越冬するものと思われます。
前者は、黒岳ではなぜか、私が採った2例の記録しかありません。
(写真上:クロコキノコムシダマシ;写真下:クロモンシデムシモドキ)

さすがに、この気温です。
虫たちはいるとしても、大部分は、すでに、どこか暖かいところに潜り込んでいるのでしょう。
現地で見つけ採りをするのは、ほぼ、不可能と判断して、昨年、楽しませて貰ったように、ヤニタケを少し、持ち帰ることにしました。

キノコを倒木から剥がしていると、付け根に坑道があり、ムネモンコナガクチキとモンヒメマキムシモドキがそれぞれ4〜5頭ずつ、潜んでいました。

こんな状態で、一緒に越冬するのでしょう。

生かしたままヤニタケと共に持ち帰り、容器に入れて置いたところ、温度の高い日は、表面を歩き回っているようです。

ヤニタケから、見つけたのはこれだけですが、もう少し、ヤニタケが成熟し、キノコバエに食害されて、さらに柔らかくなれば、潜り込む種類や個体が増えるのでしょう。

12月に入ってから訪れると、もう少し、別の顔ぶれも見られるかもしれない、と思いましたが、その頃は、黒岳もしっかり冬本番で、雪が降り出したり、氷点下になって道が凍結したりで、私の車ではここまで来ることも、不可能になります。

ヤニタケはそのくらいでお終いにして、別のキノコを探してみました。

近くの倒木にヒラタケがしおれて丸まっているのがあり、ほぐしてみると、中にアカバマルタマキノコムシ Sphaeroliodes rufescensが数頭入っていて、ムネスジキスイ Henotiderus centromaculatusと、ウスオビコキノコムシ Pseudotriphyllus lewisianus、それに、ヘリトゲヨツメハネカクシ Acruliopsis denticollisも入っていました。


(写真上:ムネスジキスイ;写真中:ウスオビコキノコムシ;写真下:ヘリトゲヨツメハネカクシ)

サルノコシカケ類など堅いキノコはいくつかありましたが、これらには何も付いて無く、虫の糞も出てなく、虫の生活の痕跡は見られませんでした。

ナラタケ風の枯れたキノコの塊が、立ち枯れに付いているのを見つけて、キノコごとビーティングネットの上に落としてほぐすと、ヤマトネスイ Rhizophagus japonicusが4頭這いだしました。
それに、ヒレルチビシデムシ Catops hilleriが走り回り、チャイロヒゲボソコキノコムシ Parabaptistes irregularisも出てきました。


(写真上:ヤマトネスイ;写真中:ヒレルチビシデムシ;写真下:チャイロヒゲボソコキノコムシ)

初冬のキノコにも、それなりに色んな虫たちが見られます。
ただ、見つかるところにいるものは、ごく僅かで、よほど居場所にピンポイントで当たらない限り、何も見つけることが出来ません。

帰りに、駐車場まで来ると、また、キュウシュウツチハンミョウ Meloe auriculatusがそれも2♂も歩いていました。前回も見ましたから、この寒い中、結構長く活動しているんですね。なぜか、雄ばかりで、雌は見ませんでしたが。


(歩いているキュウシュウツチハンミョウ♂)

なお、前回の「2008年のヤニタケ」でお見せした11/5採集の標本写真の上から3列目、左から5番目に、一見、ツマキバネナガハネカクシ Lobrathium undumと見まごう個体が写っています。
私は、この種は長崎などの低地で採集したことがあったので、注意していませんでした。
しかし、ホームページを見られたハネカクシ屋の伊藤さんによると、ツマキバネナガハネカクシは九州・屋久島の低地にいて、黒岳のような高地にいる種ではないとのことでした。
そう言われてみると、上翅のつま黄の部分の斑紋パターンが少し違います。
あんな小さい写真でも、やっている人には解るモノなのですね。

さっそく、標本をお送りして確認していただいたところ、やはり別の種で、高地に分布する未記載種だそうです。
この仲間は、西日本に何種かいるそうで、現在、ご研究中ということです。