種子島採集紀行 雨と波乱の春 1

なぜ種子島?

種子島は九州南端の佐多岬から南東方向に40数キロの海上にあります。大隅半島の最も近い陸地は36km程度です。
また、種子島の南端から西方20kmほどに屋久島があります。

(種子島の位置)

種子島の位置

2019年から2022年までのコロナ禍の最中、6回に渡って甑島に通ってきました。
このうち、2020年9月までの4回分については既に報告しました(KORASANA,92, 93, 96, 98)。
しかし2021年4月と2022年5月の分については、まだ、報告しておらず、準備中です。

そんな中、既に次を考えておりまして、2023年夏頃から、次は種子島と周囲に宣言しておりました。

しかしながら、調べてみると、すぐ隣の馬毛島に基地建設が進行中で、3000人とも、6000人とも言われる建設作業員で島は溢れており、ざっと、建設バブルで、物価も宿代も上がり、おまけに港近くの西之表市内の宿泊施設は、全て押さえられていると聞きます。

また、南部ではロケット発射があるたびにツアー客を始めとしてロケット見学の客で、こちらも満杯になるとの話です。

一応、木野田さん、國分さんとの3人で、連休前の4月末に行く予定を立てたものの、実際、宿が取れるとは思えない状況が続いていました。

そんな中、木野田さんから「宿が取れそうだ」との連絡が来たものの半信半疑で、フェリーの予約も彼に頼んだまま、様子見をしておりました。

木野田さんから、「宿の予約が確定し、フェリーの予約も取れた」と伺っても、「本当に行けるのかな?」という感覚で、本気になれませんでした。

それが、木野田さんの奮闘で、2024年3月末の渡航1ヶ月前になって、ようやく予約が確定し、そこから本気で採集遠征の準備を始めました。

島のファウナに興味のある虫屋にとって、種子島というのは、あまり魅力的な島とは言えません。
直ぐ横に世界遺産にもなっている屋久島があり、どうせ日数を費やして行くなら、数々の固有種が知られる屋久島へ行こうと思うのが普通です。

洋上アルプス・屋久島の最高標高1936mに対して、片や、ぺったんこの蒲鉾板のような種子島は回峯(まわりのみね)の282.4mが最高峰です。
面積は、屋久島504.9平方キロに対して、種子島は444.3平方キロで、人口のみ種子島は屋久島の約2.5倍あり、種子島が29282人、屋久島11858人です。

前に調べた個人的集計では、屋久島の固有種の比率は、固有亜種も併せて112種もあり、全生息種数1104種の10.14%に当たります。

片や、種子島はというと、こちらも個人的な文献記録の集計で、既知記録680種中、固有種はタネガシマホソケシマグソコガネ、ルリツヤヒゲナガコバネカミキリ(コバルトヒゲナガコバネカミキ種子島亜種)、クロモンゴマフカミキリ種子島亜種、ニシアラハダトビハムシの4種にすぎません。

周辺の屋久島、トカラ列島、九州南端などとの共通固有(亜)種27種を加えてもやっと31種、4.56%の固有種率です。

日本本土近海の離島の中で、トップの固有種率を誇る屋久島とは比べようもありません。
それでも、世界遺産やら、特別保護地区やら、規制の多い屋久島に比べると、種子島にはほとんど規制らしい規制はなく、島内で自由にネットを振り回しても、注意される恐れはありません。

おまけに、甲虫では、ハンミョウ、水生甲虫、カミキリを除いて、ほとんど未調査です。

ということで、前置きが長くなりましたが2024年4月22日から26日まで、今後の調査の下見もかねて、久留米昆事務局の國分さん、宮崎昆会長の木野田さんと3人で、種子島に出かけてきました。

種子島での調査状況を以下に紹介しますが、種子島の採集地情報について、鹿児島昆虫同好会の福田さん、尾形さん、大坪さん、榎戸さんには、有益な情報を多々お知らせいただき、大変お世話になりました。
まずもって心よりお礼申し上げます。

当初、久留米からの二人と、都城からの木野田さんと、2台の車で出かけ、鹿児島南港で落ち合って、フェリーに乗るつもりでした。
しかし、初回のことでもあり、地理不案内な者同士で、一緒に行動するなら車1台に同乗しようということになりました。
木野田さんは、電車か、奥さんの車で港まで向かい、港で落ち合うことを考えていました。

しかし、フェリーの出航時刻が8時40分で、7時半までには手続きを済ます必要があります。
それに間に合うには、久留米からなら夜中の3時・4時に出発する必要があります。
そんなことは年寄りには到底無理と言うことで、木野田さんの自宅に一泊させていただくことにしました。

4月21日木野田宅に一泊

午後3時、久留米の國分さん宅を出発。九州自動車道をひた走りましたが、出だしから雨降り。
途中、強くなったり弱くなったりの雨の高速で、人吉までの峠では雲にべったり被われて、見づらいこと、走りづらいこと、この上ない感じです。
國分さん同行で、何度となく虫採り旅行に出かけていますが、こうした、土砂降りの往路は初めてです。

えびののサービスエリアで夕食をとって、都城ICで降り、予定通り6時過ぎの明るい内に、待ち合わせ場所のショッピングセンターに到着。
電話連絡の直後に、木野田さんがすぐに迎えに現れ、自宅から100m程しか離れていない由。

彼の自宅は畑の中の1軒屋、ゆったりした平屋で、まだ、建てて10年ほどしかならないとのことです。
広いリビングに薪ストーブなどがあり、洒落た造り。
奥さんにお茶をいれていただいて、それからさっそく、木野田さんの研究室を見せて貰います。

彼は昨年からシバンムシを始めたので、文献やら、標本やら見せて貰いました。
いくつもあるタッパーには、近場で採ってきたというキノコが入っており、先日にはこの中から、多数のキノコシバンムシが羽化してきたとのことです。

翌日は早いので、話もそこそこに切り上げて、近くの温泉センターに案内して貰いました。
安くて良い温泉で、近くにあるなら、再々通っても良い感じです。

帰宅後、さっそく、明日に備えて就寝。

4月22日

フェリーに遅れる!!

鹿児島南港まで、自宅から1時間半くらいと聞いていたので、「6時に出れば良いかと」、高をくくっていたのが、最初の失敗。
さらに、高速を加治木ICで降りてしまったのが第2の失敗です。
一般国道10号線に出てしまって、朝のラッシュもあり、これでは絶対間に合わないと焦ることしきり。

木野田さんの機転で、スマートICから高速に乗り直し、鹿児島北ICに着いた時点で既に7時半、手続きを終了しておかなくてはいけない時間です。

木野田さんが、フェリー会社に電話して、遅れることを連絡します。
港まで15分で着くかと思いきや、通勤ラッシュで車は動かず、やきもきしながら、結局、船着き場に着いたのは8時10分くらい。

まあ、すんなり手続きが出来たから良かったものの、乗れることが確定するまでは気が気ではありませんでした。
それでも、私たちの後で手続きするドライバーもいて、フェリー関係者にとって、遅れるドライバーは日常のことかもしれません。

フェリーに乗り込んで、場所を確保し、朝から、飲まず食わずだったことに気がつきました。
途中でコンビニに寄って、朝食と昼用の弁当を買うつもりでしたが、時間に追われてそれどころではありませんでした。

おまけに、フェリー内に売店はなく、辛うじて自動販売機があったので、ジュースを買って喉を潤します。
お二人はアイスクリームを囓っていたようです。

種子島の西之表港着は12時10分の予定で、3時間半の航海ですが、その半分以上は錦江湾内のクルーズです。
開聞岳が見えたのが10時29分で、九州南端の佐多岬付近で10時47分です。

(フェリーの位置、赤矢印の先に船影)

フェリーの位置、赤矢印の先に船影

一方、外海を航海するのは1時間40分程度、種子島は九州本土から、それほど離れてはいません。

(フェリーから見た、左:開聞岳、右:佐多岬)

フェリーから見た、左:開聞岳、右:佐多岬

と言うより、種子島から見ると、大隅半島はすぐ間近に見えます。
黒潮に乗って種子島から流されると、あっという間に大隅半島に着いてしまうような感じです。
陸続きの時代もあったかもしれませんが、むしろ、このことから種子島と大隅半島の共通種が多いのも肯けます。

西之表港に着く直前、右手に小さくて平べったい島が見えました。ここが問題の馬毛島の様です。目をこらすと巨大なクレーンが乱立しているのが見えます。何が出来ているのでしょうね。

(基地建設中の馬毛島)

基地建設中の馬毛島

榎戸さんの採集地案内

定時12時10分に西之表港に着きました。
フェリーから降りると、榎戸さんが待っていてくださいました。

(種子島採集地地図)

種子島採集地地図

彼は17日から、ハンミョウ類の生態観察のため種子島に滞在されていて、今日一日、採集地を案内してくださることになっています。

自身の観察の時間を削っての案内で、大変恐縮ですが、私たちにとっては、初めての土地を効率的に案内していただけるのは、大変に有り難い事です。
心配していた雨も小康状態で、薄日もチラチラ射して、何とか動き回れそうです。

まず、お願いして、ガソリンスタントとスーパーに案内して貰いました。レギュラーが1L、197円と、予想してはいましたが、島はさすがに高いです。
その後、スタンドの向かいがスーパーで、みんな昼食用の弁当を買います。
榎戸さんもまだだったようで、同じく買われていました。

そのスーパーの駐車場で出撃準備。
服と靴を虫用に替えて、後部が見えず邪魔にもなるので、カーネットを天井に取り付けます。
榎戸さんは始めて見られたようで、目を瞠られていました。

準備完了後、榎戸さんに道案内をお願いして、いざ、出発。

事前に、グーグルのサイトのストリートビューで、種子島内の木が繁ってそうな道を散々走り回ってはいましたが、実際はまた違います。
経験者のアドバイスもあり、まずは、西之表港から、東に、県道75号線を安納方向へ案内して貰います。

後で解ったのですが、この地名が安納芋の元になる安納だそうです。

思ったより短時間で、最初の目的地、天女ヶ倉(あまめがくら)入り口に到着し、ここを左折。
畑地を抜けて、川沿いに谷間の林へ入ると、ちょっと良い感じです。
榎戸さんにヘッドランプで合図して止まってもらって、ここにライトFITを3基設置します。

(天女ヶ倉入り口、榎戸さんのレンタカー、右奥に、榎戸さんと國分さん)

天女ヶ倉入り口、榎戸さんのレンタカー、右奥に、榎戸さんと國分さん

(天女ヶ倉入り口、今坂の車とカーネット)

天女ヶ倉入り口、今坂の車とカーネット

それから、あっぽ-らんど方面へ向かいますが、ちょっと良い林はすぐ、植林に変わってしまいました。

(地図1: 赤矢印が順路)

地図1: 赤矢印が順路

あっぽ-らんどは、西之表市近郊の森林公園と言った体で、あちこちにグラウンドや競技場などの施設が、樹林の間に点在しているようです。
植林地や若い雑木林の中に、比較的発達したシイ林も点在しているようで、榎戸さんが案内して下さった尾根沿いのシイ林にも、ライトFITを2基設置します。
ここは標高175mあり、種子島ではまあまあの高地です。

(あっぽ-らんどのシイ林)

あっぽうらんどのシイ林

(あっぽ-らんどに掛けたライトFIT)

あっぽうらんどに掛けたライトFIT

時間をとっても気が引けるので、先に進めて、榎戸さんに、次は立山(たちやま)周辺の案内をお願いしました。

(地図2: 赤矢印が順路)

地図2: 赤矢印が順路

東岸沿いに、県道75号線を20km余り南下し、立山の集落に着きます。
ここまでの広くて新しい道は、ここから先は新道が建設中で、旧道は1車線の山道になります。ただ、海岸近くながら、道の両側はかなり発達した樹林で、なかなか良さそうです。
翌日からはこの周辺も主採集地の1つとなりますが、今日は下見気分で、先を急ぎます。

次に、西海岸の砂浜を榎戸さんにリクエストします。広い砂浜に河川が流れ込んでいて、背後に草地と樹林が続く浜を所望。
しばらく考えられた後に、長浜の北部、中種子町野間原之里を案内して頂くことになりました。

(地図3: 赤矢印が順路)

地図3: 赤矢印が順路

東海岸から山越え(丘越え)して、途中、雨が強くなってきたので、カーネットをしまって走り続け、30分もせずに原之里に到着しました。

原之里は、車横付けできる砂浜で、リクエスト通り、小河川が流れ込み、背後に草地とクロマツの植林地、畑地などが広がっていました。
ここではオオヒョウタンゴミムシも記録されており、様々な砂浜性の昆虫が見られそうです。

(原之里)

原之里

さっそく、イエローパントラップ3基を設置し、砂地の草地、ハマボウの砂地、河川の岸辺と中州などに、ベイトトラップを設置します。

小雨交じりで風が強く、気温も低かったので、「ハラビロハンミョウは砂の上に腹ばいに静止していますよ」との榎戸さんの言。
「近寄ると慌てて、すぐ先まで飛んで逃げます」、確かに、何頭か飛んで逃げるハラビロハンミョウを目撃しました。

(砂浜での木野田さんと榎戸さん)

砂浜での木野田さんと榎戸さん

この時期、種子島の海岸で成虫が見られるのはこのハラビロハンミョウくらいで、ヨドシロヘリハンミョウ、シロヘリハンミョウ、イカリモンハンミョウなどが見られるのは初夏以降になるそうです。
と言うことは、榎戸さんは、このハラビロハンミョウの生態を観察するために、10日ほどの種子島滞在を予定されているわけで、何とも、頭の下がる思いです。

その貴重な時間を割いて案内いただいたわけで、心から感謝申し上げます。
榎戸さんと、代わる代わる記念撮影をした後で、案内を謝し、ここでお別れしました。

(榎戸さんと記念写真、左が今坂)

榎戸さんと記念写真、左が今坂

榎戸さんからは、その後、連日、出かけた場所や調査の状況などが、ショートメールで届きましたが、結局、再会はしませんでした。

木野田さんは、昨年からシバンムシ類を始められたこともあり、マツに着くコガタマツシバンムシ類を狙って、植林ながらクロマツを中心にビーティングされていました。

しかし、残念ながらシバンムシは採れなかったものの、☆アマミヒメヒラタタマムシ*、クロクシコメツキ、オオハナコメツキ、○セボシジョウカイ、ナナホシテントウ原亜種、クリサキテントウ、◎アカアシコハナコメツキを採られていました。

このうち、アマミヒメヒラタタマムシは、現地で見せて貰ったときは普通のヒメヒラタタマムシと思っていたのですが、図鑑の説明で前者の腹部は緑銅の金属光沢で、後者は黒色とあり、アマミであることが判明しました。本種は屋久島、トカラ中之島、奄美大島の分布が知られていて、種子島の記録はありません。

(アマミヒメヒラタタマムシ、左から、背面、腹面)

アマミヒメヒラタタマムシ、左から、背面、腹面

因みに、木野田さんは、後日、前之浜でもマツを叩いて、今度は、ヒメヒラタタマムシを採られています。
興味深いことに、屋久島と種子島に限って、この2種が同時に(棲み分けているかは不明)分布するようです。

(ヒメヒラタタマムシ、左から、背面、腹面)

ヒメヒラタタマムシ、左から、背面、腹面

なお、この後も含めて、種子島初記録種には和名の後に*を付けることにします。
また、種子島は本土系の虫の南限となることが多いのですが、屋久島は種子島より南に位置しています。
それで、屋久島と種子島の両方が南限と思われる場合は、正しい南限は屋久島、両方が北限と思われる場合は、種子島が北限になります。

両島一緒に南限の場合は○を、正しく種子島を南限とするする種には◎を和名の前に付けることにします。
同じく、種子島を北限とする種には和名の前に☆を付けることにします。

さて、クロクシコメツキはちょっと感じが違っていて、同定に自信がありません。

(クロクシコメツキ、左から、種子島産、福岡産)

クロクシコメツキ、左から、種子島産、福岡産

さらに、ここのセボシジョウカイは上翅側縁に黒スジがあるタイプで、種子島産はすべてこのタイプです。
九州本土産は大部分が黄色い無紋タイプですが、この黒スジタイプも場所により稀に出ます。
黒スジタイプは亜種とまでは言えませんが、何かの特徴的な傾向があることは確かです。


(セボシジョウカイ、左から、種子島産、福岡産)

セボシジョウカイ、左から、種子島産、福岡産

また、ナナホシテントウは琉球に多い黒紋が小さいタイプで、黒紋が大きい日本本土産とは別亜種とされたこともありますが、現在は、区別されていません。
一見して違う感じは受けますが・・・。

(ナナホシテントウ、左から、種子島産、福岡産)

ナナホシテントウ、左から、種子島産、福岡産

木野田さんが、マツから落として「クリサキテントウでしょう」と言って見せてくれた本個体ですが、「マツにはナミテントウもいることがあるので、何とも・・・」と答えました。
この2種は、成虫は確信を持ってどちらか同定することは難しいのですが、マツ以外で採った種子島産ナミテントウと比較してみると、どうも違うようで、ここのはクリサキだろうと思います。

(左から、クリサキテントウ、ナミテントウ)

左から、クリサキテントウ、ナミテントウ

また、國分さんは、主として道の山側の林縁をビーティングされていましたが、○フタイロカミキリモドキ、☆ヤクシマウスイロクチキムシ*、キボシツツハムシ、アカガネサルハムシ、セアカケブカサルハムシ、ドウガネサルハムシ*、☆コウスアオクチブトゾウムシ*を採られていました。

木野田さんと1種も被っていないのが興味深いです。

このうち、ヤクシマウスイロクチキムシも従来はウスイロクチキムシとして報告されていた種です。Akita & Masumoto(2015)で屋久島から新種記載され、秋田・益本(2016)のゴミムシダマシ大図鑑で解説されたので、それに従いました。

(ヤクシマウスイロクチキムシ、♂交尾器背面)

ヤクシマウスイロクチキムシ、♂交尾器背面

種子島滞在中、最も多くの個体を見たのが本種で、シイの花、樹葉上、枯れ木、どこでも多く見られました。そんなわけで、ウスイロクチキムシとしての記録はありますが、本種としては初めてになります。

Akita, K. & K. Masumoto, 2015. New or little-known tenebrionid species (Coleoptera) from Japan. (16) Descriptions of eight new species of genera Allecula and Borboresthes (Alleculinae, Alleculini), and redescription of the known species with proposal for two new synonym. Elytra, Tokyo, New Series, 5(2): 357-377.
秋田勝己・益本仁雄, 2016. 月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ9 日本産ゴミムシダマシ大図鑑. 302pp. (有)むし社.

また、キボシツツハムシは前胸背は黄褐色の本土タイプで、甑島等九州西岸で見られるような黒化型(トカラ型)はこの後もまったく見られませんでした。

種子島産の本種に関しては、暖流(対馬海流)が種子島からは遠く離れた西側を通っていることが影響しているのか、トカラ列島の個体群の影響は全く感じられません。

(キボシツツハムシ、左から、種子島産、甑島産黒化型♂、同♀)

キボシツツハムシ、左から、種子島産、甑島産黒化型♂、同♀

さらに、コウスアオクチブトゾウムシは、特に♀はコカシワクチブトゾウムシ、トカラコウスアオクチブトゾウムシと外観が良く似ています。

同様にシイの葉上で多く見つかりますが、コウスアオは前胸の後縁が直線状ではなく二湾状であること、下唇前基節の剛毛が4本かそれ以上であることで、後縁が直線状で剛毛が2本のコカシワと区別されます。また、トカラコウスアオとは、♂交尾器で明瞭に区別できます。

森本 桂・小島弘昭・宮川澄昭(2006)日本の昆虫3ゾウムシ上科概説・ゾウムシ科(1). 406pp. 櫂歌書房

大坪(2013)において、コカシワクチブトゾウムシとトカラコウスアオクチブトゾウムシが種子島から記録されていますが、これらは今坂の同定であり、今回、大量にコウスアオを採った感じからすると、この2種の記録は同定誤りと思います。お詫びして訂正します。

大坪修一, 2013. 種子島で採集観察した昆虫②甲虫 (2002年7月~2007年8月). Satsuma, (149): 1-50.

なお、この國分さん採集の個体は♂で、♂交尾器も確認できました。
しかし、その後に各地のシイの花や梢で得た個体は全て♀でした。♂と♀は全く色彩が異なるので、別種のように見えます。本種は奄美大島、徳之島、沖縄本島から知られています。

(コウスアオクチブトゾウムシ、左から、♂背面、♂交尾器、♀背面)

コウスアオクチブトゾウムシ、左から、♂背面、♂交尾器、♀背面

それにしても、奄美大島にいるコウスアオが種子島に分布し、中間のトカラ列島にはトカラコウスアオが分布するという構図は、キボシツツハムシのところで述べた、トカラ近海を流れる対馬海流が、種子島からは、かなり離れて北上することを示す、第2の傍証と言うことになると思います。

この日、私は車の運転と、各種トラップ設置をしただけで、ビーティング等任意の採集をしておらず、唯一、カーネットの虫を回収しました。
甲虫はその中にセボシジョウカイが1頭入っていただけで、他に何も採っていません。
遠出の採集旅行で1日に1頭しか甲虫を採らなかったのは初めてのことです。

また、この日は、案内して下さる榎戸さんの後を付いていって、多少スピードを上げたためか、カーネットに入っていた虫のうち、特に小型のハエ類はハネや頭が取れて丸坊主状態で、ほとんど標本に出来ない状態でした。回収袋の中で風で揉まれ続けたためですが、カーネットはなるべく40km未満で走る必要があります。

原之里の後もまだまだ陽はあったのですが、小雨の降り方が強くなったことでやる気を失い、中種子町のAコープで晩飯の弁当を買って、今回の定宿・南種子町平川の島宿HOPEに向かいました。

宿にて

宿に着くと、洒落たリゾートホテル風で、普通なら虫屋は泊まらない宿です。

(島宿HOPE)

島宿HOPE

とにかく、無いと思っていた宿を木野田さんが見つけて予約してくれたわけで、どんなところでも予算の範囲で泊まれるなら否やはありません。
素泊まりでも良かったのですが、そういうものは無く、ともかく朝食付でなんとかお願いしたわけです。

ここまで、3人の大荷物で車の中は満杯状態、2人ならもう少し余裕もあったのですが。
途中虫採り道具を取り出すのも一苦労で、やっと、着替えや食料品、四角紙類や展翅版、はては、顕微鏡や充電用品など、採集用具以外を降ろしてしまうと、明日からの採集が随分楽になります。

部屋は2階の4人部屋で、3人の荷物をせっせと運び上げます。と言っても、私は車から受け付け当たりまで運ぶのが関の山で、大部分は、國分さんと木野田さんが運び上げて下さいました。

(落ち着いた部屋で)

落ち着いた部屋で

部屋に落ち着いてから、買ってきた弁当を広げて食べ、一段落してから、ふと、スマホが見当たらないことから自身の青い肩掛け鞄が無いことに気がつきました。

確か、受付までは持ってきたような・・・。

荷物の大半を運んでくれた二人もそんな青い鞄に見覚えは無いと言います。

一瞬、ゾーッとしました。
あの中に、お金も保険証も、スマホも、そして今一番大事な免許証が入っています。
帰りのフェリー代は来るときに既に払っているので良いとして、帰りの高速を久留米まで走るのに無いわけにはいきません。

試しに、私のスマホに電話して貰うと、「電波の届かない位置に・・・」とのアナウンス。
これは一体どうしたものかと、血の気の引く思い。

暗くて雨の中、傘をさして、車の中を探しに行きます。
あちこちひっくり返して見てみますが、見つかりません。

部屋に戻って、「どうしよう」と悩んでいると、木野田さんが「もう一度、車の中を探してみましょう」と降りていきました。

・・・しばらくして、「ありましたよ」とあっけない返事。
私が運転中に置いていたサイドテーブルから後ろ座席の見えないところに落ち込んでいたとのこと。

ホーッ!! と胸をなで下ろしました。

朝からの、フェリー乗り遅れそうになる事件に、バッグ失踪事件と、今回は、何度ハラハラすればよいことか・・・。
木野田さん、まったく、貴男のおかげです。ありがとうございました。

それにしても、私の鞄の中のスマホには、電波は届かないものらしい。ゴム性の内張の勢かしら?

つづく