前回、「春の小石原 1」の追記でお知らせしたように、5月8日、また、國分さんと小石原に出かけました。
まずは、最初の湿地に行き、FITトラップの回収からです。
(立ち枯れに吊したFIT)
花物を狙っての花の側と、立ち枯れに掛けていたところ、花物は駄目で、立ち枯れにキノコが付いていたらしく、キノコものが少し入っていました。
ビロウドホソナガクチキ、アヤモンヒメナガクチキ、ウスオビカクケシキスイ、ニセクロマルケシキスイ、アミモンヒラタケシキスイ、アカバヒゲボソコキノコムシなどです。
比較的少ないヨツモンヒラタケシキスイもいました。黄色い4つの紋が可愛い種です。
(ヨツモンヒラタケシキスイ)
立ち枯れにいるダルマチビホソカタムシ、クロホシタマクモゾウムシ、ヒラタハナムグリなども見えます。
他に春先に飛び回っているヒラタクシコメツキ、コガタクシコメツキ、クビボソジョウカイ、セスジチビハネカクシなども入っていました。
(FITに入った虫)
ナツグミシギゾウムシが入っていたのは、近くに、ナツグミがあったのでしょう。
(ナツグミシギゾウムシ)
ついでに、水辺の草地にイエローパントラップも置くことにしました。
(水辺に置いたイエローパントラップ)
湿地周辺の樹の葉を叩いていると赤っぽい虫が落ちてきました。
(湿地周辺)
老眼のため良く見えてないためか、サイズから、春に良くいるヒメスギカミキリくらいに考えて、そのまま毒瓶に入れ、持ち帰りました。
自宅で整理を始めてからビックリ! なんと、キンイロネクイハムシではないですか。
この種は湿地の指標種で、福岡県RDB2014によると、県内では2010年に那珂川町の溜池で見つかって以来、記録が無く、絶滅が心配されていた種でした。
(キンイロネクイハムシ)
湿地の道路を隔てた奥の方にクヌギ林が見え、國分さんが、「英彦山でムツボシトビハムシがいたコケが付いていましたよ」と言われたので、見に行きました。
(クヌギ林)
確かに、コケは付いていたので、細い木をハンマーリングしてみましたが、落ちてきません。
しかし、立ち枯れからアカハムシダマシが、ツツジの花から、ニシアオハムシダマシが落ちてきました。樹葉上にはヨツキボシカミキリもいました。
(左から、ニシアオハムシダマシ、アカハムシダマシ、ヨツキボシカミキリ)
道横にはモミノキが立っています。この付近は標高480mあり、きりきり、モミが生育できるのでしょう。
(モミノキ)
葉を叩いてみると、小型のジョウカイボンがいます。
大部分はササキニンフジョウカイでした。
(ササキニンフジョウカイ)
この種は、九州と本州(中国地方)の固有種で、最初、大分の佐々木さんが九重で見つけました。
私がササキニンフジョウカイと仮称して記録していたのですが、高橋さんが新種として記載するときに(Takahashi, 2012)、和名・学名共に佐々木さんに献名して発表したものです。
通常、高原など明るい場所で見つかる個体は、例外なく、黄白色の個体です。
しかし、ここ小石原産はすべて、上翅の側縁が黒づんでおり、特に♀が顕著でした。
一般に、ニンフジョウカイ類では、同じ種の中でも、明るく乾燥した場所では白っぽい個体が多く、暗い樹林や湿った場所では黒っぽくなる傾向があります。
ただ、本種で、これほど黒っぽくなる個体群は、今のところ知りません。ここだけの特徴です。
ただ、♂交尾器にはとりわけ違いは見当たりません。
また、黒い小型のニンフジョウカイもいて、ハヤトニンフジョウカイ1種かと思って検鏡してみたところ、クロニンフジョウカイ西日本亜種が1♀混じっていました。
湿地周辺なので、湿度が高く、後者もいたものと思われます。
(左から、ハヤトニンフジョウカイ♂、クロニンフジョウカイ西日本亜種♀)
(第1湿地で採集した甲虫)
次に2番目の湿地に移動します。
まず、スゲヒメゾウムシの報告用に、スゲヒメゾウムシのホストのカサスゲと、生育環境の写真を撮ります。
(カサスゲ)
(放棄水田の生息地)
スゲヒメゾウムシの報告について、大塚君は共著にして投稿することを提案してくれました。
写真を撮ってから、ここにもライトFITを下げ、イエローパントラップも置くことにします。
(ヤナギに下げたライトFIT)
その後で、カサスゲをスイープすると、スゲヒメゾウムシを始めとして、赤い前胸の中央に黒紋があるミヤマクビアカジョウカイも入りました。この種も湿地もので、県内では数カ所の産地しか知られていません。
(ミヤマクビアカジョウカイ)
また、青いクビボソハムシが入ったので、湿地に多いスゲクビボソハムシかと思っていたのですが、帰宅して検鏡すると、ムギクビボソハムシでした。この種も県内では英彦山など2-3箇所の記録しかありません。湿地というより、むしろ草原で採れています。
(ムギクビボソハムシ)
また、黄褐色のトビハムシも見られ、こちらは、カクムネトビハムシでした。
(カクムネトビハムシ)
第2湿地で採れた甲虫は以下の通りです。
(第2湿地で採れた甲虫)
スゲヒメゾウムシを生かしてカサスゲと共に持ち帰ったことは、1の報告でも書きました。
時々、容器共に冷蔵庫に入れたり出したりしながら観察を続けていたところ、2週間以上経った5月24日時点でも、まだ大半は生きていて、カサスゲの茎や花を囓っていました。
糞が元で、カサスゲが黴びたり、黄色く枯れてきたりしてきたので、飼育をあきらめましたが、カサスゲを土ごと採ってきて、植栽した上で観察すれば、まだまだ、飼育が続けられたのに、と後で後悔しました。
(カサスゲの花につくスゲヒメゾウムシ)
(カサスゲの葉の付け根の溝に潜むスゲヒメゾウムシ)
(カサスゲの葉の付け根の茎の溝についた食痕と糞、黒っぽいのが食痕、左の黄色の粒が糞)
さて、3番目の湿地に移動します。
湿地は上流側は谷沿いに伐採地の彼方まで続いています。
峠まで歩いて確認された國分さんによると、峠直下までずっと谷間は同様の状態だそうです。
(伐採地の谷の湿地)
伐採跡の湿地はカンカン照りで、カサスゲも少しは生えていますが、大部分、藺草ばかりです。
しばらくスゥイープしてみましたが、マルハナノミ類が少し入っただけで、ほとんど虫はいません。
日当たりが良すぎると乾燥しすぎるようで、オープンランドの草地といえども、多少とも陰が有る所を虫は好むようです。
前回見ていた、スギが植林されていた湿地へ戻ります。
(スギ林内の第3湿地)
林内に細流が流れ、所々に水が溜まって湿地状になっています。日当たりも斑で、細流沿いを中心にカサスゲが生えていますが、第2湿地ほど多くはありません。
カサスゲを中心にスウィーピングをしていくと、ヒメゾウムシが入りました。
こちらは少し大型で、ツヤツヤしているように見えます。スゲヒメゾウムシとは違う感じです。
その後もスウィーピングを繰り返し、木の葉もビーティングして、見つかった虫は以下の通りです。
(第3湿地の甲虫)
アカハラクロコメツキ、ドウガネヒラタコメツキ、ニンフホソハナカミキリ、ミヤマクビアカジョウカイ、ヒメジョウカイ、ササキニンフジョウカイ、マルハナノミ類など、第2湿地と余りかわりません。
林内には湿気で根腐れしたと思われるスギなどの立ち枯れや倒木が多く、剥がれかけの樹皮を捲るとシュレーゲルアオガエルが出てきました。
(ニホンアマガエル)
(訂正)当初、シュレーゲルアオガエルと表示していましたが、宇都宮さんのご指摘により確認したところ、ニホンアマガエルと判明しましたので訂正しました。2種の区別は、目の周辺に横に黒褐色紋があるのはニホンアマガエルで、シュレーゲルアオガエルには何も無く、一様に緑だそうです。ご教示いただいた宇都宮さんにお礼申し上げます。
樹葉上からニシジョウカイボンが落ちてきたときは、「スワ!カタキンイロジョウカイ!!」と思いましたが、残念ながら違っていました。
スウィーピングで入ったヒメゾウムシは4個体と少なく、しかし帰宅して検鏡すると、思った通り、ババスゲヒメゾウムシが2個体入っていました。
(ババスゲヒメゾウムシ)
前回、書いたように、こちらも福岡県初記録です。
スゲヒメゾウムシも2個体入っていて、両方同時に見られましたが、この第3湿地では個体数がかなり少ないようです。
(左から、ババスゲヒメゾウムシ2個体、スゲヒメゾウムシ2個体)
なお、同行の國分さんは、以上に紹介した以外に、ムネアカクロハナカミキリとキイロナガツツハムシを採られていました。
(國分さんの採集品)