草掃き採集 その2 -新作・草掃き採集ネット-

昨年、幹掃き採集の応用として、草掃き採集というのを紹介しました。

草掃き採集 その1

この時は、ビーティングネットを使用して、それに箒で掃き込んでおりました。
しかし、ノミハムシなど掃き込む尻から跳ねて飛んで逃げる始末で、専用のネットの制作が急務になっておりました。

色々考えて試作したのが次のセットです。

草掃き採集セット
草掃き採集セット

まず、ネットは地面に密着させて立てることから、前縁が直線状のたも網を使うことにして、ちょうど、小魚掬い用に使っていたものを流用しました。
もし購入するならつり道具屋さんで2000円前後と思います。

たも網の目は粗くて、ハムシなど抜けてしまうので、一旦は、ネットを付け替えようと考えましたが、「待てよ」、と思い直しました。
粗い目のネットはこのままにして、これに、細かい目のネットを被せることを思いついたのです。

ということで、もう一度、上の写真を見て下さい。新・草掃き採集用道具一式というわけです。

上から、たも網、箒、
白いのは、セーターや下着などをその中に入れて洗濯するときに使う洗濯ネットです。
目が細かいので、1mmサイズのトビハムシでも抜けることはありません。

そして、右の赤いのは冷蔵庫に野菜や食べ残しなどをパックして貯蔵する口がジッパーになったビニールパックです。

次の写真は、洗濯ネットをたも網に取り付けたところ。
取り外しが便利なように、書類を夾むクリップで止めています。

洗濯ネットを取り付けたたも網
                          洗濯ネットを取り付けたたも網

下の写真は、実際に草掃き採集をやっているところ。
こうやってどんどん掃き込んでいって、時々、網を立てて揺すります。

草掃き採集
                              草掃き採集

すると、細かい、たも網の目をくぐり抜けた虫とゴミは、下の洗濯ネットに溜まり、大型の虫と大きなゴミはたも網の中に溜まります。
大型の必要な虫は採集しながら、時々、たも網をひっくり返して、ゴミをはたき落としながら草掃き採集を続けます。

後で、ホストや採れた環境を確認するためには、チョコチョコ洗濯ネットの中身を開けておく方が良さそうです。

時間が経つと虫たちは洗濯ネットの全体に広がってしまいますので、時々はたいて、ネットの片隅に寄せ、その部分をつまんでひねり、虫が出ないようにしながらひっくり返して、ビニールパックの中に開けます。

(上:ゴミと虫を片隅に寄せる、下:ビニールパックに移したところ)

当初は、虫がかってにゴミの中から這いだして、上部へ移動していくので、そのままにして、帰宅してから処理することにしました。
すると、ゴミと虫がクモの糸に絡まってダンゴになり、ソーティングで必要な虫を取り出すのに苦労しました。
想像以上に草上には、クモが多いようです。

それを防ぐには、ビニールバックに開けた直後に、酢酸エチルなどをしみこませたティッシュなどをすみやかに入れて置いた方が良さそうです。

ビニールバックの中身は、帰宅してから、タッパーなどに開けて、目のいい人はじっと見つめて、ソーティングすれば良いでしょう。
かなり老眼が進んできた私は、ソーティング用に使っている顕微鏡の下で虫とゴミを選り分けます。

ということで、地元の高良山で試運転をして効果を確認してから、まだ虫の本格的な活動には時期早尚と思いつつ、4月6日に大分県の九酔渓まで出かけてみました。

すぐ手前の玖珠町までたどり着くと、うららかな春の陽気に誘われて、ちょっと寄り道をして気持ちよさそうな万年山(はねやま)に上ってみます。
霞みに煙る田園風景も気持ちよさそうです。

万年山からの眺め
                            万年山からの眺め

途中、渓谷の付近で車から降りて見渡すと、まだ、木々は芽吹いたばかり、掃けるような草地は見あたりません。
なにやら虫が陽光に誘われてふわふわ飛んでいると思い、掬ってみたらオオズカタホソハネカクシ Philydrodes hikosanenis Nakane et Sawadaの♀でした。

(上:芽吹いたばかりの林、下:飛んでいたオオズカタホソハネカクシ♀)

下には渓流が流れていましたから、その付近から飛んできたのでしょう。

下の渓流
                               下の渓流

バケツ採集で、水中の落ち葉からしか採集したことのない本種が、ふわふわ飛んでいる姿はあまり想像できませんでした。

あちこち見て回りましたが、草掃き採集ができそうな草地がないので、前に、堤内さんに教えていただいていた玖珠町内匠の湿地を探しに出かけます。
先日書いて頂いていた地図を頼りに、しばらくかかって、なんとか探し出しましたが、着いてみると、比較的狭い放棄水田のようでした。

玖珠町内匠の湿地
                            玖珠町内匠の湿地

さすがに、まだ、草も芽吹いたばかりで、虫らしい物は見あたりません。
せっかく着たので、湿地の中と付近の畦道を草掃き採集してまわります。
すぐに、湿地特有のジョウカイであるババジョウカイ Lycocerus babai babai (Ishida)が複数入りましたが、こんな早くから出ているんですね。

(ババジョウカイ♂)

一通り草掃き採集をして回って、ビニールバックにネットの中身を移しましたが、あまり虫は入っていないようです。
裸眼で確認できたのは、トゲアシクビボソハムシ、ナトビハムシ、ダイコンナガスネトビハムシ、アオバアリガタハネカクシ、ギシギシクチブトサルゾウムシ Rhinoncus jakovlevi Faust、ダイコンサルゾウムシくらいでしょうか。

帰宅して顕微鏡の下で確認したら、この他にめぼしい物として、チュウジョウキスジノミハムシ Phyllotreta chujoe Madarとアカアシクチブトサルゾウムシ Rhinoncus cribricollis Hustacheが1頭ずつ採れていました。

(上:チュウジョウキスジノミハムシ、下:アカアシクチブトサルゾウムシ)

チュウジョウキスジは九州では福岡・大分両県から記録がありますが、ホストは知られていません。昨年、壱岐でクレソンからキスジノミハムシと共に採集していますので、多分、アブラナ科でしょう。
また、アカアシクチブトサルゾウはギシギシクチブトサルゾウと共に、ギシギシにいたのだろうと思われますが、図鑑では普通と書いてあるにもかかわらず、長崎や佐賀では採集したことがありません。地域性があるのでしょうか?

この湿地は、写真でも解るように狭い範囲しかなかったのですが、暖かくなるともう少し別の物も採れるかも知れません。機会が有れば、また、来てみようと思っています。

さて、本命の九酔渓に向かいます。
いつもの場所に着いて見渡すと、日当たりの良い斜面には、比較的多くの緑が見られました。桜同様、今年は少し早いようです。

木々の芽吹き
                             木々の芽吹き

ちょうどお昼になったので、弁当を拡げて、しばし日向ぼっこをしながら昼食をとります。

道路横の斜面には、コンロンソウを始めとして、イラクサ、アザミの類などが見られます。
食事をしながら見ていると、スジグロシロチョウやキチョウもチラチラ飛んでおり、そそくさと弁当を片づけて、さっそく、草掃き採集にかかります。

日当たりのよい斜面のコンロンソウ
                         日当たりのよい斜面のコンロンソウ

コンロンソウには大量のダイコンハムシが付いていましたが、ここのは、全てルリ色型です。
平地のダイコン畑や、海沿いのハマダイコンなどでは多少は銅色タイプも混じるのですが、不思議な感じがします。

九州脊梁の五家荘葉木では全部銅色型でしたが、平地のものは、上記2つの個体群がブレンドされたものなのでしょうか?

ともかく、コンロンソウを主体に、なるべく日当たりの良い斜面を草掃き採集をして回ります。

帰宅後のソーティングで解ったことは、ここのサンプルで最も個体数が多かったのはこのダイコンハムシ、次いで、小形の双翅類、小形の膜翅類、それから半翅類で、ダイコンハムシを除く甲虫類は、膜翅類よりは少ないようでした。

時期があるかも知れませんが、予想以上に、数ミリ以下のコバチの仲間(写真上)やヒメヨコバイ類(写真下)採集には、この草掃き採集は向いているようです。

今回使用しているたも網の網目は、径が5mmほどしかないようで、それ以下のサイズのゴミと虫だけが、洗濯ネットの中に溜まります。
大型の虫は逆に草やゴミ、落ち葉などに紛れて、たも網の方に残っていますので、ちゃんと探してまめに拾わないと、逆にゴミと一緒に捨ててしまうことになります。

網の目を大きな物に換えると、たいていの虫は中に溜まってくれますが、ゴミもまた飛躍的に増えてしまい、ソーティングが大変になります。中の虫も逃げやすくなるでしょう。
どのくらいの大きさの目が最適かということは、やりながら試行錯誤を繰り返すしかないようです。

昨年までは、ここでは、コンロンソウの開花の時期(5月中旬前後)に採集していましたので、今回はそれより1ヶ月以上時期が早いことになります。
花もないので、虫たちがいるかどうか心配でしたが、ソーティングしてみるとチョウジョウナガスネトビその後、その後、ヒロアシナガスネトビハムシ P. sasakiiが新種記載されて訂正された)は結構多く、

チョウジョウナガスネトビハムシ
                               ヒロアシナガスネトビハムシ

昨年紹介した、未記載のコバルトサルゾウムシ Ceutorhynchus sp.、ハナムグリハネカクシ、ツブノミハムシ、ヒメゾウムシの一種など、ほぼ同様の顔ぶれが見られました。

さらに、1個体ずつですが、シラハタキスジノミハムシ Phyllotreta shirahatai Madar、トゲアシトビハムシ Apthonoides beccarii Jacoby、ハッカアシナガトビハムシ Longitarsus nipponensis Csikiなども見られ、コンロンソウの葉上では、思ったより早くから、虫たちも活動しているようです。

(上:シラハタキスジノミハムシ♀、下:トゲアシトビハムシ)

チュウジョウナガスネとシラハタキスジは、コンロンソウがホストのようで、前者は♂の前肢第1フ節が大きく広がるのが特徴です。
後者は今年大分昆の会誌にやはりここで採集した1♀の記録を九州初として載せていますが、今回のも♀のようです。触角第5節が太く、4節の倍ほど長いのが特徴です。

トゲアシは九州の低山地ではどこでもはいませんが、いる場所ではコアカソ葉上にかなり群れています。

ハッカアシナガはヤマハッカがホストですが、ヤマハッカが付近にあったかどうか気が付きませんでした。こちらも、九州の記録は福岡・大分両県のみ、大分では2例目です。

(上:ハッカアシナガトビハムシ♀、下:ムクゲチビテントウ)

小さな茶色い点と思った物はムクゲチビテントウ Scotoscymnus japonicus (Reitter)に化け、こちらも大分県の記録はありません。
通常、樹皮下等で見られる本種が、どんなわけで、草上にいたのか解りません。

近くの河原に降りて、生えているクレソンやイネ科を草掃き採集してみると、黒っぽいメダカハネカクシ4種(未同定)と一緒に、腹端の黒色部を除いて全体黄褐色のズグロメダカハネカクシ Stenus flavidulus flavidulus Sharpが見つかりました。

(上:メダカハネカクシ4種、下:ズグロメダカハネカクシ)

本種はつい最近、塚田(2009)によって、鹿児島県志布志市から九州初記録として記録されたばかりで、当然大分県からは初めてのようです。
ズグロと言いつつ、この個体の頭はあまり黒くありません。琉球からは上翅に黒紋の出る亜種が知られていて、あちこちで多少とも変化する種のようです。

めぼしい虫は以上ですが、まだまだ芽吹いたばかりのこの時期ですから、新兵器投入の成果としては、上々と考えて良いと思います。
というより、今回でも、草掃き採集ネットでも使用しない限り、なかなか微小で個体数も少ないシラハタキスジやハッカアシナガなど、見のがしてしまっていたのではないかと思います。

皆さんも草掃き採集ネットを試作なさいませんか?
たも網以外は全て100円ショップで買える商品です。