11月14日、例年どおり、大分県九重町湯坪温泉の「民宿 日向」で、第31回九州虫屋連絡会が開催されました。
昨年は開催が遅れて12月中旬になり、ちょうど大雪とも重なったので出席しませんでした。
今年は、仕事の関係で、14日までに戻ってこれるかどうか危うい日程だったので、同日に開催された鞘翅学会の出席も取りやめたわけです。
なんとか13日深夜に帰宅できたこともあり、急遽、追加申し込みをして、九重は初めてという平原さんを誘って出かけました。
前日までの6日間、歩きずめの調査の疲れが残っていたので、何とか6時の開催に間に合えば良いかと、午後からぼちぼち出かけ、宿に着いたのが5時過ぎ、既に駐車場は満杯で、私の車が最後の到着のようでした。
少しの空き時間を見つけて、さっそく、温泉の露天風呂へ。
少し熱いお湯に体をウーンと伸ばして、温泉を満喫します。
虫屋の集まりでは、話し始めたら時間は関係なく、朝まで喋りずくめということがザラで、この機会に入っておかないとまず入浴の機会を逃してしまいます。
めったに来れない温泉に、わざわざ来ていると言うのに、それではもったいない限りです。
と言っても、めったに会わない虫屋さんたちとの話す時間が潰れるのも、それもまたもったいなくて、お湯から出て一通り体を洗って、それからまた十分暖まるためにお湯に浸かると、そそくさとみんなの居る大広間へ出て行きました。
集まって、あちこちで話し込んでいらっしゃるのは、いつもの九州の虫屋の面々。
配られた出席者の名簿を見ると、遠くは、さいたま市の三蔭さん、高松市の宇都宮さんを始め、九州・山口の各地から、37名が出席されているようです。
6時になると、さっそく、事務局で司会役の小野さんが、本日の講話をして下さる、堤内さんを紹介されました。
堤内さんは、九州では珍品のタマムシを中心に、ホストや採集方法について次々に説明をしていかれました。
キュウシュウキンヘリタマムシがハルニレに集まることや、キュウシュウクロホシタマムシのホストはスギ類だがアカメガシワの葉に集まること、ミヤマナカボソタマムシが山地のタンナサワフタギだけでなく低地のハイノキの葉にも来ること、クロチビタマムシは秋と早春のスミレに集まることなど、さまざまな種の採り方を紹介されました。
それまでほとんど記録の無かったキュウシュウナガタマムシは、ヤマウルシの葉でかなり普通に採れるという話をされ、私も、「ハゼノキで採った」との合いの手を入れ、クロエグリタマムシがシダで採れるとの話があるが・・・というところでは、実際にベニシダで採った話を披露しました。
種ごとの話はとても興味深く、是非メモなども欲しいところですが、その用意もしてなくて、レジメも配られていないので大方は聞き流してしまって、大変惜しいことをしました。
いくつかの、採ったこともないナガタマムシやチビタマムシの標本が、回覧されて来たのですが、顕微鏡もない会場では暗くて、老眼が進行しているものには、せっかくの珍品もとんと姿が見えませんでした。
「せっかくの話には、きれいな写真くらいは見せて、レジメも付けてくれないと・・・」と、苦情を言ったところ、実は、彼は本来の講師ではなくて、ピンチヒッターで、数日前に、話が寄せられたばかりだったようです。
本来は、昨年から、たびたびマスコミでも話題になっている北九州高校の魚部の顧問である井上先生が、その魚部の活躍ぶりと、福岡県の水生昆虫の概要を講演される予定だったのですが、のっぴきならない用事で欠席されてしまったようです。
かわりに、自身もアメンボの部分を執筆されている宇都宮さんが、その魚部の関係者を中心に発行されたばかりの「福岡県の水生昆虫図鑑」を紹介され、さっそく、特価で現地販売されていました。
この本のことは、他でも紹介されていて、是非手に入れたいと思っていたので、さっそく一部購入しました。
(中表紙、魚部の活躍ぶりの写真)
福岡県産のゲンゴロウ44種、ミズスマシ7種、コガシラミズムシ6種、ダルマガムシ3種、ホソガムシ2種、ガムシ20種、ドロムシ1種、ヒメドロムシ11種、カタビロアメンボ8種、アメンボ8種、イトアメンボ3種、コバンムシ1種、ナベブタムシ2種、マツモムシ3種、マルミズムシ2種、タイコウチ3種、コオイムシ、タガメ、ミズムシ16種などのきれいな生態写真か、標本写真が掲載されていて、県内の分布の概要や生息環境、近似種との区別点なども解説してあります。
(本文 上:キボシチビコツブゲンゴロウ、下:エサキアメンボ)
また、当然、魚部の活躍ぶりの紹介、水生昆虫の採集方法、生息地の保全についての提言など、興味深い記事が満載です。
この本は北九州高校魚部の発行で2500円+税で販売されています。
購入を希望される方は昆虫文献 六本脚、あるいは、同高魚部ホームページ http//www.gyobu.jpまで、お問い合わせ下さい。
その後、全員で食堂に移動し、宴たけなわとなってから一人一話に移り、大分昆事務局である三宅さんから、またまた、出版・頒布の紹介がありました。
先日、三宅さんから、この集まりへの出欠を聞かれ、先に書いたように、「仕事の都合で出席できるかどうか不透明です。」、との返事をしたところ、「それでは確実なところで先に送っておきましょう。」とのお言葉を頂きました。
さっそく送られてきた「大分県のカミキリムシ」は、なんと、同好会の会誌ではなく、昆虫文献 六本脚からの出版でした。
表紙、裏表紙は珍品のすばらしく綺麗な生態写真、
そして、中には150種あまりのカラー図版と、これはもう、大分県版、カミキリ図鑑と言って良い体裁で、定価は3000円+税で、11月1日に発行されたばかりです。
当然、大分昆会員全員の採集記録と過去の大分県内の文献記録が網羅され、種ごとの生態を含めた解説や、九重・祖母山のカミキリ相の対比など、様々な興味深い記事が盛りだくさんです。
ちなみに、大分県産カミキリムシの種数は305種だそうです。
地方リストも出版社から出る時代なんだ、とツクヅク感心した次第です。
井上先生は出席されていませんが、こんな気楽な虫屋の集まりであっても、虫の本を出版する著者が、何人もこうして出席されるなど、良い時代になったものです。
持ってこられた何冊かの冊子は、たちまち売り切れたようです。
この他にも、先日発行された、糞虫採りの楽しさを書いた「ふんコロ採集記」や、出たばかりの「ホソカタムシの誘惑」など、甲虫屋には楽しい本が矢継ぎ早に出ていて、みんなに紹介されていました。
後者については、改めて、後日紹介したいと思います。
さて、会場を元の大広間に移して、いよいよ、恒例のオークションの時間です。
参加メンバーの大半は、この時間を楽しみにしているようです。
例年、軽妙にオークショニストを努めていらっしゃる野田さんは所用でお休みと言うことで、今回は最初から西田さんの登場です。
(上:オークションを見つめる、下:西田さん)
「さあ、まずは100円から」、と軽快に始まったのですが、なぜか、後続の声は湿りがち、景気よく、ポンポンとは、跳ね上がっていかないようです。
「不景気で、今年は安いなあ」との声も聞かれましたが、それも、出だしのしばらくの間だけ。
そのうち、3000円、5000円などという高値のものも出て、後半はいつものように盛り上がり、夜半前にはめでたく終了。
売上金の一部はこの会合の運営費に廻されています。
私は、前日までの疲れもあり、翌日、初めてという平原さんを、黒岳に案内することにしていたので、日が改まって少し経った頃、早めに寝間へ引き上げました。
多分、参加メンバーの中では、ほとんど最初の離脱ではなかったかと思います。
その後、何時くらいまで話が弾んだのでしょう。
翌15日、午前7時過ぎ、物音で目が覚め、寒さの中で布団に潜り込んでおりましたが、ざわざわと食事に出かける物音でようやく起き出して洗顔し、駐車場の出口を私の車で塞いでいたことを思い出して食堂へ出向いてみると、ほぼ半数の人が朝食を始めていました。
早々に食事を済まし、車をどけると、気の早い人は次々と出立していきました。
私たちも、しばらく名残惜しい人たちと話をしてから、宿を後にして、長者原〜飯田高原を経て、黒岳の駐車場に着いたのが、10時前。
平原さんの、黒岳初採集の記念写真を撮ってから、男池へ向かいます。
男池周辺には、日曜日のことで、観光客や登山客が溢れていて、ビーティングネットは拡げないまま、ヤニタケを見に行きます。
林内は、紅葉もほぼ終わって、冬のたたずまいです。
今年も、ご神木に、ヤニタケは健在でした。
完全に成熟しているようです。
最初に見つけた、一昨年(2007.11.10)は、まだちょっと成熟が足りず、暖かくて、ムネモンコナガクチキはヤニタケの下面と隙間に多数這い回っていました。
昨年は、2回訪れましたが、1回目(2008.11.5)は早すぎてヤニタケは幼菌で、まだ、虫たちは何も見られませんでした。
2回目(2008.11.26)でも、まだ、一昨年の状態よりまだ若く、2008年は遅くまで暖かかったためか、ヤニタケの成熟も遅かったようです。
昨年は、ヤニタケの一部を持ち帰り、自宅で飼育したところ、ムネモンコナガクチキと思われる幼虫が多数見つかりました。
年末くらいにかなり大型になった3齢幼虫がキノコから脱出して、蛹化場所を求める感じであちこちうろつき廻りましたが、ほとんどはそのまま死亡し、2個体のみ、容器に入れて置いたティッシュペーパーの中で蛹化しました。
注意深く見守りましたが、2個体共に羽化することはなく、ひからびて死んでしまいました。
多分、条件の良い落葉か、土壌か、コケの中にでも潜って羽化するのだろうと思いますが、良く解りません。
ともあれ、今年は、昨年や一昨年よりヤニタケの成熟は早いようで、一部を剥がしてみると、重なった笠の間に潜っていたムネモンコナガクチキとモンヒメマキムシモドキが見られました。
未だに、このご神木以外の場所で、ヤニタケを見つけることは出来ないのですが、ヤニタケもそれに依存する虫たちも、毎年確実に姿を見せてくれていることは、実に喜ばしいことです。
今年も羽化にチャレンジしてみようと、ひとかけらのヤニタケを持ち帰ることにしました。
それから、付近の土壌を篩って持ち帰ることにし、2-3、朽ち木を崩してみたり、樹皮をめくったりしてみましたが、余り虫も出現せず、かなり寒いこともあって、一旦、車に戻ることにしました。
車中で昼食を済ませてから、気を取り直して、流れのハネカクシを探してみることにしました。
改めて、バケツ採集の道具と、胴長を持って、川沿いに向かいます。
川のあちこちに落葉が溜まっています。
理想的な、流れの中の石に引っかかっている落葉をバケツの中で水に沈めると、ポツポツとLestevaが浮いてきます。
気温も水温も10度よりは冷たく、虫もあまり活発ではありません。
次々に落葉を水に沈めても、浮かんでくるのはほとんど1種、Lesteva以外の虫もほとんど見られません。
また、岸辺にたまった落葉からは、何も出てきません。
今年のシーズンは、これで、ほぼ終わりを告げたようです。
帰宅してから、簡易ベルレーゼ(Zライト+ザル+水を入れたバケツ)に、落葉を篩って得た残渣をかけて、虫を抽出してみました。
抽出された虫たちは、まず、左上からホソアカバコキノコムシダマシ、アカバコキノコムシダマシ、
これらはヤニタケに来て、直下の落葉に潜り込んでいたのでしょう。
下の段のゾウムシになると、同定に自信が無くなり、左から、コブマルクチカクシゾウムシ?、ウエノマルクチカクシゾウムシ?、イコマケシツチゾウムシでしょうか・・・、
それから、コバネハネカクシの一種、コガシラハネカクシGabriusの一種、ヒメキノコハネカクシSepedophilusの一種、
下段は、アリヅカムシにコケムシ、タマキノコムシ、このあたりは、皆目、種名は解りません。
落葉の虫はなかなか興味深いのですが、簡単に同定できないのが難点です。
幼虫も次々落葉から見つかりました。
前列左の大型の黒い奴と小型の白いのは全てジョウカイボン科の幼虫でしょう。
小型のものは目が無くニンフジョウカイではないかと想像していますが、ジョウカイボン科全体について、幼虫の形態は何も解っていないので、どなたか、研究なさいませんか?
右端の黒くてツヤツヤしたのは、ムネクリイロボタルです。
後列の黄色っぽいものはハネカクシの幼虫と思われますが、これまた、まったく種まで届きません。
こうしてみると、ブナ帯の冬の落葉には、常緑樹林の落ち葉ほど虫たちは賑やかではないようです。