<ウンゼンルリクワガタとチョウセンヒラタクワガタ、亜種の和名はどっちだ?>
ウンゼンルリクワガタとチョウセンヒラタクワガタ、どちらが種名でどちらが亜種の和名か、解るだろうか?
当然、クワガタムシを囓ったことがある人は解ると思う。正解はチョウセンヒラタクワガタが種名で、ウンゼンルリクワガタは亜種を示す和名(亜種名)である。
さらに、ウンゼンルリクワガタに加えて、ルリクワガタ、キンキコルリクワガタ、ミナミコルリクワガタ、トウカイコルリクワガタ、ホソツヤルリクワガタ、キュウシュウルリクワガタ、キイルリクワガタ、ニセコルリクワガタ、シコクルリクワガタなどと並べてしまうと、どれが亜種で、どれとどれが、重複しているのかさえ、まるで判別できず、シッチャカメッチャカになってしまう。
このように、和名を見ただけで、それが種名か亜種名かが判断できないのは、大変不便である。
これも、一つはパソコンの検索機能の効率化から、亜種名もルリクワガタ雲仙亜種ではなく、頭に亜種地名を付けて、ウンゼンルリクワガタのように表示されたと推察される。
また、島ごとに多くの亜種を持つ琉球のカミキリムシでは、時に種と亜種の組み合わせが変更され、同時に和名も変わると訳が分からなくなる。
原色日本甲虫図鑑IV(1984)にはイシガキゴマフカミキリ Mesosa cervinopictaという種が載っているが、九大総目録では、和名がムネコブゴマフカミキリに変わっている。
これだけなら単に和名を変えたと理解すれば事足りるが、石垣島にはさらに、そっくりさんであるイシガキヨナグニゴマフカミキリ Mesosa yonaguni subkonoiが分布するからこんがらがる。
実は、その後の模式標本の調査から、イシガキゴマフカミキリと呼んでいたものには2種混じっていて、普通に見られる方がMesosa subkonoiで、引き続きイシガキゴマフカミキリと呼ばれることになった。もう一種の珍しい方がMesosa cervinopictaで、こちらはムネコブゴマフカミキリと呼んで区別することになった。
つまり、甲虫図鑑のイシガキゴマフカミキリの実体は、学名とは関係なく、Mesosa subkonoiのことだったわけである。
さらに再検討が進み、Mesosa subkonoiはヨナグニゴマフカミキリ Mesosa yonaguniの亜種と判断されたので、イシガキヨナグニゴマフカミキリ Mesosa yonaguni subkonoiと呼ばれるようになったわけである。
この例など、亜種の和名を採用したことで、よけいに混乱を深めたと考えられる。
甲虫では、オサムシ、チビゴミムシ、クワガタムシ、カミキリムシで、多数の亜種の和名が採用されている。
クワガタを除くと、どの群も膨大な数の種を含んでいるので、種と亜種が混在する現状では、まったく収拾がつかなくなってしまっている。種と亜種の数を数える際など、1つ1つ、亜種学名を確かめながらではないとカウントできない。
クワガタなどでは、売買の商品価値を高めるために、亜種レベルとは思えない地域変異の個体群にまで亜種名を付けた、としか思えないような亜種が幾つか存在する。
種名と亜種名を余り区別できないように表現することも、その延長線上にあるのかもしれない。
一方、分類の専門家の間には、「亜種は認める必要がない」、と言明する人もいるやに聞いている。
しかし、個体変異と地方変異が多く、なおかつ、変異がデリケートな種群では、どうしても亜種というタクサを導入しないと、実情が表現できないものがあることも事実である。
それらを一律に種と考えたり、あるいは、クライン(形質変異の地域傾斜)と考えて無視したりすることは、分類学者の怠慢であり、実際の状態を正確に把握して、表現する責任があると思う。
可能な限り、亜種と種は峻別し、和名の上からも、この2者が混乱しないようにすべきである。
その意味で、亜種の和名は、確実に亜種と解る名前を付けるのが望ましい。
従来は、この要求を満たすために、ルリクワガタ雲仙亜種、ヨナグニゴマフカミキリ石垣亜種のように、後ろに亜種を表示する方法が採用されてきた。私は通常、そのように表現している。
しかし、生物名は原則としてカタカナ書きが一般的であり、漢字との併用を嫌がる人がいる。
そのための一工夫として、亜種名と語幹になる種名の間に中点を入れて、ウンゼン・ルリクワガタという表示方法を提案したい。あるいは、(ウンゼン)ルリクワガタでも良いかもしれない。
先ほどの例では、ウンゼン・ルリクワガタ、チョウセンヒラタクワガタ、イシガキ・ヨナグニゴマフカミキリと続けたら、亜種と種の区別は明瞭であろう。それにしても、イシガキ・ヨナグニのように地名を2つ以上重複する最後の和名は、いただけないが・・・。
ついでに、コモンチビオオキノコムシ、ヒメオオアオゾウムシのように背反するチビ(ヒメ)とオオが連続するような和名、ハラアカクロテントウ、モンシロクロノメイガみたいな色が重複する和名なども、今後は付けない方が良いだろう。
命名者は、このように、さらに日本語のセンスを磨き、適正かつスマートな和名を付けるべきである。
時には、マサカカツオブシムシみたいな、多少ウィットに富んだ和名も楽しい。
トンボ学会や鞘翅学会では、和名検討委員会なるものが設置されていると聞く。個々の和名の適切・不適切を議論されるのも結構だが、そのように命名しないものは総て排除するということではなく、なるべくみんなに解りやすい和名の命名方法を確立するために、標準和名のルール作りについても、議論を深めていただきたいと思う。
また、おおもとになる昆虫学会では、九大総目録以降の追加と訂正を含めて、新しい日本産昆虫目録を作成する計画が進行中と聞く。是非、総ての種に和名を付し、亜種と種の区別ができるようなルール作りをされるよう、切に希望したい。
まとめると、7回に渡って以下のような意見を述べた。
○全ての日本産昆虫に和名を付けよう
○和名は短く単純で解りやすいものにしよう
○元からあった和名は変えないようにしよう
○亜種の和名は、亜種と言うことがハッキリと解るように付けよう
○和名についてルール作りをしよう
以上、7回に渡って、ご拝読いただきありがとうございました。
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