「ふんコロ昆虫記」の紹介

かつての同僚、下野さんから、「ふんコロ昆虫記」が送られてきた。

(表紙)

パラパラと、めくってみる。

著者は日本産フン虫研究の第一人者、塚本さんを始めとして、先年、発行された「日本産コガネムシ上科図説第1巻 食糞群」の著者、河原さん、その図版の写真担当、稲垣さん、そして、かつて、好評を博した「日本のゲンゴロウ」の森さんである。

(奥付き)

トンボ出版
大阪市中央区森ノ宮中央2-3-11
電話06-6768-2461
FAX 06-9798-2462
Email: office@tombow-shuppan.co.jp

トンボ出版から、2009年7月10日に発行されていて・・・、まてよ、ということは、まだ、発行されていないのかな?

ということは、これを見てすぐ注文されると、間違いなく、最も早く入手出来ることになる。それも、ほぼ全ページ、カラー、175ページで、2,100円は安い。

(定価)

本を送って頂いた下野さんは、森さんと同じ会社で、この本の制作の協力スタッフとして、本作りに参加されたようだ。
准著者ということで、送って下さったようだ。

目次は次の通り。

1.フン虫・その魅力
2.フン虫・どこにいる?
3.フン虫を楽しむ
4.フン虫・人の関わり
5.付録

このそれぞれに細かい見出しがある。

まず、基本的なフン虫の形の説明や、生活の仕方が、楽しいイラストと文章で紹介してある。

そして、フン虫の魅力の中心になる、ツノやコブなどの立体的な形や、豊富な色彩の魅力が述べられる。
好きな人が、その好きなところを、十分に説明しているのだから、初めての人も、ぐいぐい引き込まれてしまう。

さらに、集める楽しさの源である地域ごとの変異の例として、オオセンチコガネの地域的な色彩変異が、地図にプロットしてあり、見事である。
いわゆるミドリセンチと言われる色彩のものが、関西の中心部と北海道中央の南部に限って出現するのが、一目で理解できる。

(オオセンチの色彩変異)

また、ムネアカセンチの色彩と斑紋、体形の変異も図示してある。

(ムネアカセンチの変異)

こんなものを見せられると、日本中走り回って、これら全てを集めたくなるではないか。

そんな気持ちになったところで、次に、フン虫がどんなところに住んでいるのか、生息環境が述べられる。

(フン虫・どこにいるか)

牧場・草原、海岸・河川、山地・樹林、南の島々、冬のフン虫といったぐあいで、さまざまな場所で暮らすフン虫たちの生活場所が、そこに生息する種と共に紹介されている。

(北海道の山岳のフン虫)

(西表島のフン虫)

そして、ここで核心に到る。
それらのフン虫と出会うには、どのようにして採集すべきか、採集方法が懇切丁寧に述べられる。

採集道具の説明から、朽ち木採集、篩い採集、

(篩い採集)

ネットによる掬い採集、見つけ採り、糞トラップとしても、直置きのもの、

(糞トラップ)

モグラ穴・ネズミ穴へのトラップ、

(モグラ穴の糞トラップ)

ベイトトラップ、羽毛トラップ、衝突板トラップ(FIT)、

(FIT)

ライトトラップなど、最近開発されたものも含めて、ありとあらゆるフン虫の採集法が紹介されている。

ということで、本書1冊を熟読して実行することにより、まったくの初心者が、即座に一人前のフン虫屋に生まれ変わる。

副題の-食糞性コガネムシを探そう-がまさに実践されている。
こんなに微に入り細にいる教則本は見たことがない。

まったく、作った人々の趣味と実績から言うと、なるほどと思う作りになっている。

そして、ここが肝心なところであるが、採集したフン虫は、ただ並べて楽しむだけではなく、標本を作り、写真を写し、ちゃんと名前を調べて、記録をする方法が説明してある。

近似種の多いマグソコガネなど多くの種を並べた図版もあり、旧来の図鑑よりよほど特徴が解りやすい。

(みひらき図鑑)

こういった調査により、従来、ほとんど知られていなかった種の興味深い分布や変異が明らかになっている。

(マルマグソコガネの分布)

本文中には、フン虫とどうしたら出会うことができるかが満載してあることから、多くの人がこれらをそのまま実行したなら、たちまち、乱獲で、貴重な種も含めて、フン虫たちがいなくなってしまうであろう。

この本でも述べられているが、かつて大きな牧場ではその姿を見ることが出来た、日本産で最も大きく、立派な角を持ったダイコクコガネが、牛馬の放牧方法の変化(一年通して放牧されない)や、飼料の変化、抗生物質の使用など、複合的な影響で、急速に全国的に姿を消しつつある。

(ダイコクコガネとその巣穴の寄生種)

数少なくなってきているこの種の生息地で、乱獲を繰り返すと、絶滅させることも可能になってしまう。
おまけに、この種には、育児の為に坑道奥に作ったフン塊の育児球に依存する(労働寄生する)ツヤマグソコガネとツヤケシマグソコガネという、2種の居候がいる。

ダイコクコガネの個体数の減少に先駆けて、この2種も運命を共にしているようだ。
くれぐれも、この本のノウハウを100%採集のみに生かして、単に膨大なコレクション作りをすることは、止めて頂きたい。
できれば、むしろ、新たな発見の基礎、下敷き、ヒントとして、活用して欲しい。

著者も、そのために、膨大な資料調査の結果を、日本産チェックリスト、日本産の県別分布表、県別分布図、動物別の糞の嗜好性などの表にまとめて示している。

(チェックリスト)

(県別分布表)

(228県別分布図)

(229糞の嗜好性)

是非、むしろ、これらの空白を埋める作業を楽しんでやって欲しい。

この本に書いてないことを、あなたは、いくつ付け加えることが出来るか?
それが、この本の著者に対する、楽しませて頂いたお礼というものであろう。

ともあれ、この本はフン虫屋が、フン虫屋のために、いかに楽しんで作ったかが伝わってくる本である。