今年(2016年)は、春先からハナムグリハネカクシ類採集に勢を出そうと思っていました。また、イエローパントラップも面白いのではないかと設置してみました。
3月と4月に1度ずつ、それらの報告をしましたが、体調を崩したのと家庭の事情で、すっかり予定が変わってしまいました。
熊本の大地震で気持ちを削がれたこともあるかもしれません。
幸い、愛媛の越智さんが、石鎚山でのハナムグリハネカクシ類の採集記を書いてくださったので、何となく、繋いできましたが、体調も戻り、少し一段落したことも有り、ホームページを再会することにしました。
昨年もこの時期に出かけて、黒岳ではいろんな初めての虫と出会っています。
今年も九州の梅雨は豪雨続きで、なかなか出かけるタイミングが掴めなかったのですが、7月14日、なんとか梅雨の合間の、つかの間の晴れ間を狙って九重黒岳に出かけてみました。
地震で3カ所ほど大きな土砂崩れが起こっている九酔渓ですが、その後は復旧して通れるようになっていました。
しかし、この日、豊後中村からの登山道路には「全面通行止め」の看板。
豪雨でまた土砂崩れでも起こったのでしょうか。
仕方が無くて、九重町役場から町田バーネット牧場・地蔵原経由で黒岳へ向かいます。
黒岳に近づくにつれ、イエローパンFITの設置場所を物色していきます。
林縁で1日のうち大半は日陰になるような場所で、草丈が低くて、風通しの良さそうな場所、ということで、とりあえず、写真にある道路脇に設置することにします。
すぐ横に生えていたトラノオかと思われる花にはハナアブやハエの類も飛来しています。
イエローパンFITは次回まで置いたままにしておくつもりで、その後、黒岳駐車場脇にも設置しました。
時間が前後しますが、数時間後の帰りがけに回収した、最初の場所のイエローパンFITの成果は次の通りです。
多数のクロバエ等ハエの仲間とハチ類が主力ですが、数時間でもこれほどの虫が入るので、イエローパンFITはこれらの飛ぶ虫には大変効果的のようです。
その点、甲虫はごくわずかしか入らないのですが、架ける場所によっては何か思いがけない種が入らないかと実験中です。黒岳での5時間ほど成果では、以下のような種が入っていました。
写真右から、大きくて確認できるものは、ホソベニボタル、ムネアカサルハムシ、キバラヒメハムシ、オオメホソチビドロムシ、丸いのはクロヘリヒメテントウ、ヒゲブトハネカクシ3個体は未同定。
さらに、右から2番目の黒丸はアリノスコブエンマムシ Eucurtiopsis ohtanii 本州(埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・三重・兵庫),四国(徳島),九州(福岡英彦山・大分),伊八。
黒岳では既にFITで2個体採集していますが、こんな何の変哲もないところを盛んに飛び回っているのでしょうか?
さて、もう一つのトラップ、FITの回収に向かいます。
昨日までの豪雨で、樹洞の前のカラ沢も、水深30cm程度のりっぱな川になっています。
前回回収から1ヶ月ほど放置してしまったので、FITの中身もグシャグシャ、樹洞の外のFITは以下の通り。
左上から、チョウセンベッコウヒラタシデムシ、ムネアカセンチコガネ、その下、ヒゲナガクロコガネ・・・首の赤いコメツキは、クロサワツヤケシコメツキの♀。
こんな林内でもムネアカセンチコガネが採れていたのは意外でした。林内も飛び回るのですね。
こちらは、左から、ムラサキツヤハナムグリ、クロサワツヤケシコメツキ♀、下の列左から、オオオバボタルの幼虫、ウエノキクイサビゾウムシの近似種、ナガチャコガネ。
ムラサキツヤハナムグリは樹洞内に溜まった腐葉土に産卵するものと思われます。
クロサワツヤケシコメツキ、オオオバボタルの幼虫、ウエノキクイサビゾウムシの近似種の3種は昨年もこの樹洞で見つかっています。
さて、トラップはそのくらいで、山に入りましょう。
駐車場の対面の林へ入ると廃屋が建っています。
その庭先にも水溜まりができていました。
5月に来た時、ここの水溜まりが干上がった跡と思われる干潟状の裸地にスプレーをしてみたところ、地中から、ゴミムシ類と一緒にヒコサンセスジゲンゴロウが這い出してきました。
まったく水生甲虫とは思えない、歩行虫っぽい振る舞いでした。
このことは、和歌山の田中さんからレクチャーを受けていて、是非、九州でも探してみるように言われていたのですが、ようやく自分でも初採集してみて、確かに水中ではなく土の中にいる、と初めて納得しました。
そのことがあったので、今回も、なるべく干上がりかけた水溜まりを探った結果、3個体が採集できました。
大きな水溜まりの中や岸辺にはまったく見られないようです。
本種は大分県では各地で採れているようですが、黒岳では初めてのようです。
さらに、ホソクロマメゲンゴロウ?と思われる♀もいました。
(ホソクロマメゲンゴロウ?)
今日の最大の目的は、梅雨の最中の十分に湿気てキノコ等も付きまくっていると思われる立ち枯れの探索です。昨年はこれでずいぶん楽しい思いをしました。
それで、いそいそと例の立ち枯れ湿地へと向かいます。
たどり着いて、自分の目を疑ってしまいました。
立ち枯れ湿地は一面の沼と化しています。
入ってみると、とても長靴では間に合いそうになく、膝上までの深さがあるようです。ぬかるみに足を取られたら危ないことになってしまうので、今回は泣く泣く立ち枯れ湿地はパスします。
こうした沼状態が長く続いたために、この地の立ち枯れがドッと増えたものと思われます。
男池付近まで戻って、後はひたすら、細枝のハンマーリングに努めます。
ちょうど叩き頃なのはアブラチャンで、1株に細い枝が数本〜十本以上立ち上がっていて、中に、1〜2本の立ち枯れが含まれていることが多いのです。
さっそく、トビイロカミキリが樹幹に這っていました。
アブラチャンを中心に立ち枯れや落ち枝を叩いて廻った成果が次の写真、これは大型の物。
このうち、カミキリでは、セダカコブヤハズカミキリ北九州亜種、トビイロカミキリ、マルバネコブヒゲカミキリ、ナカジロサビカミキリなどが落ちてきました。
ちょっと嬉しかったのは、思いがけず、ヒゲナガヒメルリカミキリが複数落ちてきたことです。アブラチャンの生木から落ちてきたのですが、上の方に枯れ木が付いていたのかもしれません。久しぶりの出会いで、黒岳では初めて見ました。トビイロカミキリと共にクスノキ科をホストにしています。
次の2種も同様ですが、アブラチャンがホストではないようです。
ヒコサンクロボシハムシは大分県では黒岳のみで見つかっています。他に福岡県の英彦山(基産地)と、宮崎県南部でも採集したことがありますが、今のところ、ホストは解っていません。ちょっと謎のハムシです。
城戸さんはシオジから採集したと言われましたが、アブラチャンも食べるのでしょうか?
次に小型の採集品。
第一の狙い目は昨年見つけたクロダケカギバラヒゲナガゾウムシと仮称した種、こちらはまだ出始めなのか、かろうじて1♂のみ採集。
さらに、こちらも今のところ正体不明の昨年チビキカワムシの一種として報告した頭と前胸の赤い小型種です。写真右側の2個体が同種と思われます。
左のクリイロチビキカワムシも本州では普通とのことですが、九州では余り見ません。
(左:クリイロチビキカワムシ、右:チビキカワムシの一種)
これら小型種はよく見えなくて、現地では殆ど種の区別が付きません。
ゴミも含めてひたすら虫らしく見えるものを持ち帰るしか有りません。
採る時に、なるべくホストごとに容器を分けるか、こまめに記録を取ってそれを容器に入れておくしか、採れたときの手がかりを得るすべがありません。
現地での感動は薄まりますが、その点、自宅で検鏡した時の楽しさ・意外さは強まります。
まあ、老眼が進むほど、よけいに微小な甲虫に興味が移っているので、いたしかたありません。
さて、ハンマーリングでは、他にもさまざまな種が得られていますが、昨年と殆ど代わり映えがしません。
それで、多少は葉っぱの虫の方も叩いてみました。
これは甲虫では無く、ツノカメムシの仲間。ちょっと甲虫的な美麗種です。
カメムシ図鑑で見るとフトハサミツノカメムシと思いましたが、非常に少ないと書いてあるので???
(フトハサミツノカメムシ♀?)
それから樹葉上で見られたフタイロチビジョウカイとオオメコバネジョウカイ。
(左:フタイロチビジョウカイ、右:オオメコバネジョウカイ)
なぜかシダの葉に群がっていたクロミスジヒシベニボタル。
そして、こちらも樹葉上から落ちてきたホソクチゾウムシ2種。
左のものは、細長い体型や、口吻が触角の前で一度括れてその先がやや広がる特徴から、ナガホソクチゾウムシ Melanapion naga (Nakane) 本州(青森〜神奈川); 北朝鮮,中国,ロシアと思いますがどうでしょう。そうであれば、九州初で、ヤナギ類に付くようです。
右側は普通のケブカホソクチゾウムシと思いましたが、口吻上部の毛があまりに白くビッシリ密生していて別物のようにも見えます。
ホソクチゾウムシの仲間は一度詳しい人に見て頂こうと考えています。
最後に、キノコ付きの枯れ枝を叩いて落ちてきたオオキノコムシ類5種。
左上からカタベニチビオオキノコ、ヒゴノムネビロオオキノコ、トモンチビオオキノコ、この種はかなり少なく、黒岳以外では見たことがありません。
下段左から、コモンチビオオキノコ、クロチビオオキノコです。
梅雨のさなかで、湿気も有り、温度も有り、虫達には好適な季節と思われ、動けばそれなりに多くの種が得られますが、残念ながら、初めてと思われる種はナガホソクチゾウムシだけでした。
やる場所や採り方を変えないと、新しいものが採れないようです。
黒岳の駐車場も、珍しく1台の車も駐まっていなくて、ガラーンとしていました。
夏休みになる来週あたりは、子供連れで混み合っていることでしょう。