虫屋の新年会も今回で5回目、昨年の会の終了後、会の名前もあったほうがという話が出ました。
たまたま松尾さんの提案もあり、毎年、吉野ヶ里温泉で行っていることから、「吉野ヶ里虫の会」ということになりました。
今年は1月15日(土)に行いましたが、当日は一週間前から大雪の予報。
九州北部は正月前から数度の積雪があり、何年ぶりかという寒さが続いています。
参加者もそれぞれ雪対策を考えて、早めに行く人、列車を使う人など様々です。
私の方は加古川から駆けつけていただいた矢代さんを迎え、自宅で四方山話をしてゆっくりしていました。
そこに高速を乗り越してしまった祝さんと同行の大城戸・細谷のお二人が立ち寄り、みんなでひとしきり虫の話。
ワイワイ言いながら時間を潰していたところ、佐々木氏より、「早く来い」との催促の電話がかかりました。
三宅さんとの年寄りコンビで、昼くらいから出かけて、脊振の山麓で虫取りをして、もう温泉にも浸かってホテルの部屋で手持ちぶさたとのこと。
おっとり刀で、一同、会場に駆けつけます。
吉野ヶ里温泉の駐車場に着くなり大吹雪で、みるみる車が雪に埋もれてしまいました。
そのことも見越して早めに大分を出た年寄りの読みはみごとに正解だったわけです。
三々五々集まってくる参加者の話を聞くと、直前に、あちこちの高速がストップしているとのこと。
鹿児島などから参加するつもりの二〜三の人は、この雪のために断念されたようです。
すごい寒さに、まずはホテルのチェックインをして、ともかくも温泉で暖まることにしました。
顔に雪を受けながら露天風呂に浸かり、虫の話をしながら長湯をして、さらにいくつかの風呂をはしごしてサウナにも入ると、さすがに芯まで暖まりました。
それから、階上の宴会場に移ります。
参加者の大半は同じ敷地内のビジネスホテルに宿泊するので、心おきなく呑んで談笑することが出来るというわけです。
今回の出席者は、九大博物館の丸山さん、比文の細谷さん、
アセス関係では、遠来組として、加古川からの矢代さん(関西ハチ研事務局)、香川からやってきた宇都宮さん、鹿児島からタッチの差で高速を通れたという塚田さん(鹿児島昆)、早々に到着していた三宅さん(大分昆事務局)、田畑さん(北九州)、
後は、祝さん(本会幹事)、今坂、古川さん(佐賀昆事務局)、築島さん(久留米昆)。
アセス会社に勤務されている大城戸さん、西田さん、廣永さん、久村さん、それから初参加の、村尾さんと鶴さん。
そして警察をめでたく定年退職し毎日が日曜日の佐々木さんと、教諭の松尾さんの、総勢19名でした。
持ってきた虫を調べるために祝さんと三宅さんからリクエストがあり、照明付の顕微鏡を持参してきてセットします。
さっそく、誰彼と虫を覗いています。あちこちで、専門の虫の話題に花が咲き始めました。
写真の手前、祝さんが眺めているのはキノカワハゴロモ類の図で、解説しているのは田畑さん。
このところ鹿児島昆のメーリングリストで、アリの巣から見つかった幼虫が何の仲間か、ということで話題沸騰し、その候補の1つとして上げられているのがこの仲間です。
この2〜3年、田畑さんがヨコバイなどの半翅目を熱心に調べていて、キノカワハゴロモ類もいろいろ面白いようです。
野外で見つけた時はなるべく採集して、彼に調べて貰っています。
三宅さんも田畑さんに何か虫を見て貰っていました。
一寸遅れて、丸山さんが丸めた大きな荷物を抱えて到着しました。
欲しい人にはあげるということなので、喜んで一番にいただきました。
それは堀場のテントウムシ・カレンダーで、1年365日と、前年12月の13日分、計378カットのテントウムシの写真が載っています。
日本産と外国産、その色彩変異まで載っており、和名・学名・産地も付いていると言うことで、カレンダーに使用した後は、図鑑に出来るという優れものです。
堀場製作所の制作意図は伺ってはいませんが、インターネットで検索してみたところ、九大博物館にある佐々治コレクションを中心として撮影制作されたものだそうです。多分、管理者である丸山さんの全面的な協力でできたものなのでしょう。
堀場製作所のことはまったく知りませんでしたが、計測機のメーカーで、自動車の排ガス測定を始めとして、大気汚染監視、水質計測、ガス計測、医療の測定装置、半導体、太陽電池など、かなり環境に関係のある機器メーカーのようです。
会社ではこのカレンダーの通信販売もしているようですから、欲しい方は以下のサイトにどうぞ。
www.horiba.com/jp/ja/calendar/
丸山さんからの、耳よりの話としては、近いうちにヒゲブトハネカクシ亜科の既知種の検索表を作りたい、ということなので、大変楽しみにしています。
正直、アセスで同定依頼されるハネカクシのうち、ヒゲブトハネカクシ類は調べるすべがなくカットしてしまっているので、その一部でも同定できるようになれば非常に助かります。
この類はまだ膨大な未記載種が手つかずで残されていると言われていますが、普通にいる既知種だけは、なんとか解るようになりたいと思っています。願わくば、解っているものだけでも、ホストや生息環境など、生態的な情報も加えて欲しいものです。
大方のメンバーが集まったので、宴会を始めます。
まず幹事の祝さんの挨拶から。
彼のお世話で、年々、楽しい会が開け、参加者も増えています。
乾杯の後、今年はカニ鍋をつつきながら、一人ずつ自己紹介をして、虫の話題などを披露します。
田畑さんは昨年、佐賀昆の会誌にハネナガウンカのすばらしい多数の図を含む論文を掲載されたばかりですが、北九州市立いのちのたび博物館の手伝いもやられていて、チョウ類のデータベース作りに尽力されています。
その膨大なチョウの標本を撮影し、採集データを記録していたら、白水先生が書かれた北隆館の原色昆虫大図鑑I(蝶蛾編)のプレート写真に使われた標本多数が、その中に含まれていたことが判明したそうです。図版に実際の標本データを書き込まれたものを持参して回覧されました。
それらを見ると高良山産など久留米周辺のものも結構含まれています。
これらの標本は、多分、久留米昆初代会長・梅野さんがやられていた梅野昆虫研究所から入手されたのではないかと思います。
白水先生は若い頃、かなり長い間、久留米にあったという九大の演習農場にも通われていた、と聞いたことがあります。
松尾さんは、五島宇久島の甲虫標本などを沢山抱えてきて回覧され、ハムシなどいくつかを同定して欲しいと預けていかれました。
そう言えば、最近来た長崎県生物学会誌67号に、桃下さん達と共同で「大浜砂丘(長崎県)の昆虫の保全」という記事を書かれています。
この宇久島の大浜砂丘は、長崎県の海浜砂丘としては随一の多様性を持つ砂浜で、カワラハンミョウ、ハラビロハンミョウ、オオヒョウタンゴミムシを始めとして、最近では、きわめて少なくなった種が多く見られるところです。
ごく最近まで、ハンミョウの生態の研究者である桃下さんは、長崎県のレッドデータブック作成の会議では、乱獲者対策もあって、再三、宇久島の情報は場所が特定できない形で流すよう主張されていました。
それなのに、今回ハッキリと場所を明示して保全の提言を出されたのは、これらの種が生息していたもう一つの砂浜であるスゲ浜で、観光施設の建設などの影響か、それらが見られなくなったことに起因するようです。
今となっては、乱獲者云々という次元ではなく、砂浜という環境自体が消滅しかねないので、自治体や国などの管理者も含めて、広くその重要性を認識して貰い、地域住民ぐるみで保護していかないとこれらの種は絶滅してしまう、との危機感を持たれたのだと思います。
ゆめゆめ、この記事を見て、宇久島に採集に行こう、などと考えないで下さい。
先年この島には、今はやりの発電のための風車を大量に建てる話が持ち上がりましたが、渡り鳥のメインルートに当たることと、地域住民の強力な反対で計画はストップしています。
上の報文でも、この浜での採集を禁止してはどうかと提案されていますので、大浜での採集には、地域住民も注視しているものと思われます。
三宅さんは、最近のご自身の別刷り多数を持参され、自由に持っていって下さいということでした。
古川さんは、事務局で保管されているこの10年分くらいの会誌「佐賀の昆虫」を拡げられて、格安で販売されていました。
初参加の村尾さんは、九大の昆虫学教室でハナバチの分類をやられたDr.で、アセス会社勤務です。
同じく、鶴さんは水生昆虫全般を得意とされているそうです。
廣永さんはフンバエやハナアブが専門ですが、最近は植物を熱心にやられているそうで、会社でも、かなりの頻度で植物の調査をされているそうです。
私もハムシに凝りだしてから付け焼き刃で植物に興味を持っていますが、特に草の類は難しいです。
昨年正月から始めたメーリングリストを使用したハムシの情報交換会(クリ・クラ)の会員は、年末までには70名を越え、11月の甲虫学会ではハムシ分科会を開催しました。
今回の参加者の中にも10名の会員が含まれていますから、半数以上がクリ・クラ会員と言うことになり、クリ・クラの支部会をやっているとも言えます。クリ・クラは、さまざまなハムシの話題で盛り上がっていますので、今年も楽しく続けたいと思います。
話が一巡して、鍋の中身も底が見えだしたところで、一応、集合写真を撮ることにしました。
その後、年寄り3人は並べと言われ、後ろには中堅・若手が集まって記念撮影。
虫の会に若い人が参加してくれるだけでも有難い限りです。
まだちょいと時間があるということで、改めて顕微鏡の下に佐々木さんがハムシを並べます。
1つはチビカミナリハムシで、もう一つは彼が見つけた(仮称)キュウシュウグミトビハムシ。
「その2つとも違うけれどもこれは何だ」、と言われても、彼が出したのは難しいトビハムシで、「同定ラベル付きの近似種を並べた中でこれを比較しないと解らない」と答えたところ、「家でそれをやって解らなかったヤツだ」とのこと。
「このような飲み会席上の同定で、解るはずがあるものか・・・」と、心の中でつぶやきました。
もう1つ。これは私の懸案で、イネゾウモドキの一種?と思いながら属も種も不明なゾウムシです。
黒岳のヤナギから採集したゾウムシで、田畑さんからもらった標本の中にも1頭入っていました。
(イネゾウモドキ?)
従来、九州ではイネゾウモドキ属はモンイネゾウモドキとアカイネゾウモドキの2種しか採れていません。
さては3種目の、と思って三宅さんに話すと、すでに3種目は採れていて、こんど報告されるそうです。
それも持ってきていただいたので、比較してみると、全然違っていました。
私の方は前胸が縦長だし、触角の付着点は吻の中央寄りで、イネゾウモドキ属はもっと前の方に付いています。
イネゾウモドキ属とは違うと言うことは解りましたが、属も含めて、皆目見当が付かなくなりました。
もし、ご存じの方がありましたら、ご教示下さい。
(補足:
さっそく、平野さんからご教示がありました。
本種はトネリコアシブトゾウムシ Ochyromera suturalis Kojima et Morimoto, 1996だそうです。
Kojima・Morimoto(1996)により記載された種で、ホストはコバノトネリコ、北海道から本州、九州、佐渡、対馬、台湾、極東ロシアまで分布し、九州では私のかつてのベースグラウンド多良山系の五家原岳の記録がありました。
アシブトゾウムシの仲間かもしれないということは、チラッと頭をよぎったのですが、他の種が大部分顕著な点刻列を持つことと、本種は毛を密生することから、本気でこの仲間として調べていませんでした。さすが平野さんは、違いますね。お礼を申し上げます。)
この種を採集した場所は、湿地が干上がったような感じの草地で、ヤナギだけが周辺に生えています。
そのヤナギをスウィーピングして、上のゾウムシは採れたのですが、さらにもう1種。
昨年、「二豊のむし」に九酔渓産♂を(仮称)オオイタチビツツハムシとして記録した種の、今回は♀1頭が採れ、これでやっと雌雄がそろいました。
複眼は小さく、背面・腹面共に黒色で、触角基半、足、頭部下半、口器などは黄褐色。上翅の点刻は列状。前胸の深くてやや大きめの点刻が特徴で、国内から記録されている種には該当するものがありません。
(オオイタチビツツハムシ♀)
今、ちょうど、大分県の記録の少ない甲虫の記録をまとめて、報文を作っているところなので、これら初記録になる標本を持参しておりました。
春までには会誌が発行されると思いますので、詳細はそちらでご確認下さい。
午後10時前に宴会をお開きにして、外へ出ると、夕方の豪雪がウソのように消えていました。
それでも厳しい寒さで、一部の人は車や列車等で帰宅され、残りは近くの居酒屋へ。
昨年も同じ所で二次会をしました。
なぜかむやみに混む店で、この日も若い大勢の女性の黄色い声に圧倒されながら、それでもめげずに2時間ほど虫の話を楽しみました。
帰りは再び雪模様で、それでも、ダウンのジャンバーに長靴姿の私は、あまりに完全防備過ぎて、浮いていたかも知れません。
翌日は遅めに起きて、朝食をとっていたら、もう、三宅・佐々木組の姿は見えず、電話してみると、もう日田に着いたとのことでした。
来たとき同様に、朝7時前には出発されていたそうです。
帰り道では、久留米の市街地でも裏道は雪が積もっていましたが、そろそろ走って何とか滑らずに家に到着しました。
しかし、水道管が凍って水がストップし、家人が騒いでいました。
日田はさらにすごい雪景色だったようで、佐々木さんから画像が送られてきました。