平尾台の昆虫調査 2
3月5日の洞窟調査の下見の後、二手に分かれて、今坂・國分・和田組は、昨年秋に見つけておいた林縁に移動しました。
ここは、千仏洞との分岐から茶ヶ床園地方向へ100mほど走ってすぐ左に入ったところで、一般には立ち入り禁止です。
(平尾台の航空写真、Googleより改変引用)
秋の内に、野焼きから森林や集落を守るために、林縁に添って、草を刈り防火帯が作ってありました。地元の人と会ったとき尋ねると、草が生い茂る5月中旬頃までは、格好の散歩道になるようで、チョウを始めとして、かなり良い採集場所と思えたので、採集ポイントの1つと考えていた場所です(矢印の地点)。
この林縁沿いの草地に、イエローパントラップを3基設置し、さらに、ピットフォールトラップを埋めました。
(林内への小道)
秋には気がつかなかったのですが、林内に向かって小道が続いており、入ってみると、空間もあり、虫も飛びそうです。
(FITとイエローパントラップの設置)
さっそく、道沿いに、FITとイエローパントラップを設置することにしました。
(樹林内)
樹林の片側は植林でしたが、もう片方は、結構大きなクヌギもあり、ちょっと良さそうです。
(立ち枯れにFIT)
倒れかけの立ち枯れがあり、見るとキノコも付いていたので、FITを下げました。
(下りがけの道)
林は草地の縁を800mほど続いているようですが、厚みは薄く、すぐ道は下っていって集落に続いているようです。
この日は國分さんが、朽ち木崩しでアラハダチャイロコメツキ*を採集し、林縁の葉を叩いてツブノミハムシを採集されていましたが、私は他にハイイロタマゾウムシを採集しただけ。
(アラハダチャイロコメツキ)
(ハイイロタマゾウムシ)
さすがに、まだ早春のことで葉の表面には何もおらず、しようが無くて落ち葉を篩って持って帰りました。
簡易ベルレーゼに掛けたところ、それでもミナミナガヒメタマキノコムシ*、ヘリトゲヨツメハネカクシ、ヒメクロセスジハネカクシ、コバネナガハネカクシの一種*、ツヤケシコケホソハネカクシ、ムネクリイロボタル(幼虫)、マルキマダラケシキスイ、チビノミナガクチキ、ツブノミハムシ、ニセチビヒョウタンゾウムシ、ホソゲチビツチゾウムシ、ヒラオダイツチゾウムシ、ナガサキオチバゾウムシ*などが見つかりました。
*を付けた物は平尾台初記録です。
(ミナミナガヒメタマキノコムシ)
このうち、コバネナガハネカクシの一種は体長9.5mmほどもあって通常より大きく、また細長く、特に前胸が細いのが特徴です。
(コバネナガハネカクシの一種)
英彦山で見つけたタカクワコバネナガハネカクシ Lathrobium takakuwaiやホシナコバネナガハネカクシ Lathrobium hoshinai、
脊振山系で採集したジョウヤマコバネナガハネカクシ Lathrobium duplebarbatumやホウマンヒメコバネナガハネカクシ Lathrobium horridumより大きく細長いので、これらの種とは別種かもしれません。
(ヒラオダイツチゾウムシ)
平尾台のツチゾウムシ属 Trachyphilusはヒラオダイとセンブツの2種が記載されていて、2021年の報告ではとりあえずヒラオダイツチゾウムシとしていました。
今回複数採れたので、解剖してみました。
(ヒラオダイツチゾウムシ♂交尾器、左から、側面、腹面、背面)
♂交尾器のキチン質部分はそう短くないこと、先端は比較的細長く尖ることなどから、どちらかというと、ヒラオダイツチゾウムシになると思います。
(ナガサキオチバゾウムシ♂、右は前跗節)
ツヤツヤのオチバゾウムシは♂の前符節は大きく丸く広がっており、ナガサキオチバゾウムシだろうと思います。
本種は従来、離島を含む長崎県と佐賀県、福岡県の立花山、城山など玄界灘沿いと離島で見つかり、英彦山、久留米等内陸では♂の前符節が広がらない未記載種と思われる種が見つかっていました。対馬海流沿いに分布していると思われ、今のところ、平尾台は東限になるものと思われます。
3月16日、自宅の庭の早咲きの桜が咲き始めました。良い陽気にウズウズしてきて、國分さんと平尾台に出かけることにしました。
(自宅の庭の早咲きの桜)
塩坪の穴や林縁の草地のピットフォールトラップとイエローパントラップ、林内のFIT等の回収をして、林縁を叩いてみましたが、まだ虫は動いていません。
風も強く冷たく、平尾台の標高では、まだ早いようです。
(林縁)
それでも何故か、イエローパントラップにはハナバチ類、ハエ類など沢山入っています。
(林縁の草地のイエローパントラップの成果)
綺麗なガも入っていたので、帰宅してから佐々木さんに写真を送って尋ねるとフチグロトゲエダシャクということです。
所謂フユシャクの一種で、♀は翅を欠くそうです。
比較的少ない種ということです。
(フチグロトゲエダシャク)
ピットフォールトラップも含めて、甲虫はニセマルガタゴミムシ、フトツツハネカクシ、チビヒメクビボソハネカクシ*、オドリコソウチビケシキスイ、ミツモンセマルヒラタムシ、ベニヘリテントウ、ウスチャケシマキムシ、ヒメツチハンミョウ*、アカイロマルノミハムシ、コクロアシナガトビハムシ、オオバコトビハムシ、ハコベタコゾウムシ*が入っていました。オドリコソウチビケシキスイは特に多かったです。
(ヒメツチハンミョウ♂)
ヒメツチハンミョウは早くから草地を歩き回っていますが、なぜ、わざわざピットフォールトラップに入るのでしょうね。
林縁からカルスト台地方向を眺めると焼けて黒い地表が広がっています。
(林縁からカルスト台地方向)
草地のトラップ回収の後、林内に入ってFITも回収します。
こちらにもミナミナガヒメタマキノコムシ*、ハバビロハネカクシ、キュウシュウハナムグリハネカクシ*、ヒメクロセスジハネカクシ、ミゾムネマグソコガネ*、カワリキスイ*、アカグロムクゲキスイ*、ホソチビオオキノコ*、(仮称)ヨツモンミジンムシ*(未記載種)、ヒメマキムシ、アカバコキノコムシダマシ*が入っていました。
寒くても結構、虫は動き回っているようです。
(ミゾムネマグソコガネ)
(ヨツモンミジンムシ)
(アカバコキノコムシダマシ)
叩いても虫は落ちてこないので、また、落ち葉を篩うことにしました。
自宅でベルレーゼにかけて、セマルマグソガムシ*、モンケシガムシ、セマルハバビロハネカクシ*、クロモンキスイ、ダエンミジンムシ*、ウスグロチビカミナリハムシなどを追加しました。
(セマルマグソガムシ)
セマルマグソガムシの福岡県の記録は見つからず、初記録かもしれません。2mm程度と小さく、前胸腹板突起の形が特徴です。
(ダエンミジンムシ)
トラップや落ち葉など、林内の虫は結構動いているようですが、草地の虫はハチ、ハエ以外まだほとんど見当たりません。
(茶ヶ床園地)
草が芽吹く前の平尾台は、ひつじが群れているようです。
この後、遠賀川の調査の下見をするつもりで、調査協力者をお願いした緒方さんと待ち合わせをしていたのですが、緒方さんは早めに来て、平尾台の方も調査されていました。
草地でシロヘリツチカメムシを採集したと、見せていただきました。
本種は青光りする黒字に縁が真っ白で、かなり綺麗なカメムシです。
各地で個体数が減少しているらしく、福岡県では入っていませんが、各県でRDB種に選定されているようです。
(シロヘリツチカメムシ)