「石のひつじだより」に掲載されたチョウと甲虫
平尾台自然観察センターから毎月発行されている連絡誌として「石のひつじだより」があります。
この連絡誌は2000年8月1日付けが第1号で、その後、262号(2022年5月号)まで発行されています(2022. 5. 30現在)。
(1号部分)
本誌は、平尾台自然観察センターの開設と同時に発行がスタートされ、現在に至っているようです。
タイトルの「石のひつじ」は、草原に遊ぶひつじの群の様に見えるカルスト高原特有の景色(羊群原)に由来する物でしょう。
内容は、平尾台自然観察センターの行事の予定、報告等が主ですが、四季それぞれの平尾台についての様々な紹介記事が載っています。
当初は、カルスト高原や鍾乳洞の紹介や説明が多かったですが、次第に、平尾台に生育する植物と、そこで生活する鳥、小動物、昆虫類などの記事が増えていきます。
昆虫類については、チョウ、甲虫、蛾、バッタ、トンボ、カメムシなどが和名で掲載されています。
石のひつじだよりは、平尾台自然観察センターのホームページの、こちらのアドレスから閲覧・ダウンロードすることが出来ます。
これらはセンターの職員の方が、平尾台で直接観察したり、写真を撮影したりされたものです。採集データは付けられているものと、そうでないものがありますが、ほぼ発行された月の前月に観察されたことが解ります。
ところで、久留米昆虫研究会では、昨年(2021年)末、福岡県RDB調査の一環として、平尾台の昆虫目録を作成しました。
今坂正一・國分謙一・和田 潤・築島基樹, 2021. 平尾台で2021年までに確認された甲虫類について-福岡県RDB調査の一環として確認された昆虫類を含む-. KORASANA, (97): 135-198.
以下にKORASANA97号の紹介をしています。
これには、入手できた文献記録も含めましたが、「石のひつじだより」の存在は知りませんでした。
この資料の存在をご教示いただいた佐々木さんにお礼申し上げます。
さて、「石のひつじだより」262号までを精査したところ、掲載された昆虫の内、チョウ40種と甲虫151種が確認できました。
チョウについては國分さんが、甲虫は今坂がチェックし、写真のあるものは写真同定をしました。
チョウでは40種が掲載されていますが、福岡県RDB種としては、
ヒメキマダラセセリ(準絶滅危惧 No.183 2015年10月号)
エゾスジグロシロチョウ(準絶滅危惧 No.105 2009年4月号)
ミズイロオナガシジミ(準絶滅危惧 No.157 2013年8月号)
ウラギンスジヒョウモン(絶滅危惧1B類 No.228 2019年7月号)
ヒオドシチョウ(準絶滅危惧 No.70 2006年5月号)
ジャノメチョウ(準絶滅危惧 No.49 2004年9月号)
の6種が掲載されています。
前述の平尾台の昆虫目録に掲載していない種として、上記、ヒメキマダラセセリと、
ルリウラナミシジミ(No.112 2009年9月号)
ゴイシシジミ(No.157 2013年8月号)
トラフシジミ(No.178号 2015年9月号)
があります。
この結果、平尾台産のチョウは4種増えて65種、平尾台産の県RDB種のチョウは1種増えて17種になります。
また、甲虫151種のうち、県RDB種は
マイマイカブリ(準絶滅危惧 No.61 2005年8月号・文章のみ)
No.58 2005年5月、No.190 2016年5月、No.204 2017年7月、No.228 2019年7月の4回に渡って掲載されています。
昨年から、本種を確認しようと、ベイトトラップ等設置していますが、なかなか確認できません。地道に何度でも地表を眺めながら歩き回るしか確認の方法がないのかもしれません。
クスベニカミキリ(準絶滅危惧 No.133 2011年8月号)
本種は最近、特に減少が著しい種です。
アサカミキリ(絶滅危惧II類 No.98 2008年9月号)
No.98 2008年9月、No.193 2016年8月、No.217 2018年8月の3回も掲載されていますが、本種も、昨年は確認できませんでした。
ミツギリゾウムシ(準絶滅危惧 No.169 2014年8月号
の5種で、ミツギリゾウムシが追加になります。
なお、これら以外に県RDB種として、ギョウトクテントウの写真がありますが、何となく違和感があり、すでに平尾台から記録されていることもあって、石のひつじだよりの記録としては、保留したいと思います。
前述の平尾台の昆虫目録にミツギリゾウムシに加えて、以下の48種が追加されます。
ハギキノコゴミムシ、ベッコウヒラタシデムシ、スジクワガタ、ヒラタアオコガネ、オオスジコガネ、
ジュウシチホシハナムグリ(No.72 2006年7月号)
クロハナムグリ、シロテンハナムグリ、カナブン、アオカナブン、タマムシ、
アオマダラタマムシ(No.84 2007年7月号)
シロオビナカボソタマムシ、フタモンウバタマコメツキ、
キンイロジョウカイ(No.146 2012年9月号)
本種は大型で綺麗なジョウカイボンで、北部九州産が基亜種、本州・四国と南九州にそれぞれ別の亜種が知られています。福岡県の記録はかなり少ないです。
ゲンジボタル、ヒメオビオオキノコ、ムツボシテントウ、
ハラグロオオテントウ(No.133 2011年8月号)
マメハンミョウ、ヒメツチハンミョウ、マルクビツチハンミョウ、キイロクチキムシ、
コブスジツノゴミムシダマシ(No.133 2011年8月号)
ナガニジゴミムシダマシ、ユミアシゴミムシダマシ、ツマグロハナカミキリ、トビイロカミキリ、ヨツスジトラカミキリ、
キイロトラカミキリ(No.98 2008年9月号)
トゲヒゲトラカミキリ、
ウスイロトラカミキリ(No.157 2013年8月号:ウスヘリトラカミキリと誤記)
クビアカトラカミキリ、クビジロカミキリ、ホシベニカミキリ、ハラアカコブカミキリ、ヤツメカミキリ、ハッカハムシ、イタドリハムシ、イチモンジハムシ、タケトゲハムシ、オトシブミ、ウスモンオトシブミ、ゴマダラオトシブミ、アシナガオトシブミ、オオゾウムシ、トホシオサゾウムシ
ホオアカオサゾウムシ(No.145 2012年8月号)
その他、既に記録はありますが興味深い種として次の種も掲載されています。
シラホシナガタマムシ(No.182 2015年9月号)
トラフホソバネカミキリ(No.98 2008年9月号)
ヤノトラカミキリ(No.182 2015年9月号)
また、写真の判定では多分誤りと思われるものに以下の種がありますが、正しい種名では既に記録されている種ばかりです。
キムネヒメコメツキモドキとして(No.203)→アカアシヒメコメツキモドキ
ホソナガニジゴミムシダマシとして(No.221)→ナガニジゴミムシダマシ
ヒゲナガヒメカミキリとして(No.204)→ヒメヒゲナガカミキリ
リンゴカミキリとして(No.169)→ニセリンゴカミキリ
ホソクビナガハムシとして(No.95)→アカクビナガハムシ
テントウノミハムシとして(No.194)、ヘリグロテントウノミハムシとして(No.202)→ヒメテントウノミハムシ
ジンガサハムシとして(No.157 2013年8月号)→スキバジンガサハムシ
以上の結果、平尾台産の甲虫は49種増えて844種、県RDB種の甲虫は1種増えて23種になります。
「石のひつじだより」に掲載されている種は、チョウ・甲虫以外の昆虫類も含めて、今後報告する平尾台の昆虫目録に追加・記録したいと思います。
ただ、「石のひつじだより」には、No.244 2020年11月号以来、昆虫の記事が掲載されていません。
コロナ禍もなかなか収束する気配が見られませんが、広大で貴重な自然を今後も保全し、楽しむためにも、昆虫の紹介も再開していただきたいと思います。