KORASANA 99号が2022年9月30日に発行されました

KORASANA 99号が2022年9月30日に発行されました久留米昆蟲研究會より会誌 KORASANA 99号が2022年9月30日に発行されました。

事務局では希望される方にそのKORASANA 99号を3000円で頒布しておりますので、その内容について紹介したいと思います。

KORASANA 99号をご希望の方は、このホームページ左上の「おたより」をクリックして申し込まれるか、あるいは直接、事務局 國分謙一 
kokubu1951@outlook.jp
までお申し込みください。

KORASANA № 99. 20220930 目次

報文
今坂 正一・祝 輝男・田畑 郁夫・古川 雅通・大城戸 博文・平原 健一
  [ 嘉瀬川ダムの甲虫類 -ダム完成直前4年間の甲虫相の変遷- ]・1
祝 輝男
  [ 嘉瀬川ダム試験湛水による昆虫相の応答の把握とその評価方法
   -多様度指数Bψと水国環境係数による甲虫相の解析- ]・・・・77
今坂 正一
  [ 佐賀県(主として脊振山系)で採集した興味深い甲虫類 ]・・・・87
西田 光康
  [ 佐賀県産甲虫の記録の補充(2021) ] ・・・・・・・・・・・・101
  [ 佐賀県産甲虫類文献目録:追録2 ]・・・・・・・・・・・・・125
西田 光康・市場 利哉
  [ 【再録】佐賀県産甲虫類文献目録 ] ・・・・・・・・・・・・136
  [ 【再録】佐賀県産甲虫類文献目録:追録1 ]・・・・・・・・・156
西田 光康
  [ 佐賀県産甲虫目録(2022) ] ・・・・・・・・・・・・・・・・159
  [ 佐賀県の甲虫相について ] ・・・・・・・・・・・・・・・・209
今坂 正一
  [ 佐賀県産甲虫相の何が面白い? ] ・・・・・・・・・・・・・219

編集後記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・243

投稿規定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・244

(表紙)

今回は、西田光康氏に依頼して表紙写真をご提供いただきました。佐賀平野を代表する種であるトラフカミキリとムネホシシロカミキリです。
詳細については、「佐賀県の甲虫相について(209 頁)」をご覧ください(表紙説明より)。

今回は、佐賀県産甲虫に関する情報の集大成号となっています。
本文中にも書かれていますが、目録の著者の西田さんは、2005年に第1回目の佐賀県産甲虫目録を作成されています。

その後、情報も増え、分類も進歩し、多々修正と追加が必要になったことで、今回、再度、目録作成となったわけです。そのための氏の作業は、本人のコメントの数十倍大変であったろう事は想像に難くありません。

編集者はフレー!フレー!と旗を振るしかできませんが、氏は十分に期待に応えて頂きました。

今後、この目録に負けじと、各県産目録が作られることを期待するばかりです(以上、編集後記より)。

まず、今坂ほかの、

「嘉瀬川ダムの甲虫類 -ダム完成直前4 年間の甲虫相の変遷-」です。

本文の内容は、今坂のホームページに2021年5月6日から7月8日まで、6回に渡って連載したものを改定・整理して報告書として作成し直した物です。ホームページの方も合わせて覗いていただければと思います。

嘉瀬川ダムの甲虫調査 1ー6

http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=242
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=243
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=244
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=245
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=246
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=247

嘉瀬川ダムは、脊振山と天山のほぼ中間、嘉瀬川上流部に位置し、下流に広がる佐賀平野の洪水被害の軽減、農業用水・飲み水など水道水の確保を目的として計画され、平成24年3月に完成しました。

(嘉瀬川ダムの位置)

この最終段階の、2009年5月から2012年11月までの4年間、筆者等6名のメンバーで、ほぼ春、夏、秋の3季、のべ11回(2010年夏は中止)、ダム湛水域内とその周辺11地点で昆虫類の調査を行いました。

ここでは、そのうち整理・同定・集計を今坂が担当した甲虫類について報告したものです。

当初、西田さんが作成中の、佐賀県産甲虫目録を充実させることに協力する意味で、佐賀県初記録種等を記録しようと思ったわけです。。

しかし、せっかく各地点での4年分のデータがそろっているので、それらの年度別の構成を調べることで、地点ごとの環境変化が読み取れるかもしれないと、途中から考えが変わりました。

出現各種はそれぞれ依存する環境が違うので、種ごとに広葉樹林、草地、河川、湿地など、生態的に依存する環境の値を振り分けて、その集計をすると、地点ごとの特徴が出ます。

これを4年分比較すると、例えば、湿地の比率が下がったとか、広葉樹林の比率が上がったとかいうことで、その地点の環境変化が読み取れるのではないかと考えたわけです。

結果の概要はホームページで見ることも出来ますし、詳細は実際の報告書で確認して下さい。

(湖1の依存環境限定種による環境比率)

結論としては、地点ごとの環境の変化は、定量調査や特殊な調査方法を用いなくとも、ただ普通に採集し確認された種に、まさしく反映されるというものでした。

湿地が減れば、湿地性のものは採れる種数が減るし、湿地や河川が無くなれば、周囲にある広葉樹林や草地の種ばかりが採れます。

この事は自明のことですが、それがそのまま数値としても反映されることが解ったことは、1つの成果と思います。

当然、こうした生態的な面だけではなく、当初の目的であった佐賀県初記録など、出現した種そのものについても報告しています。

結果として九州初記録種が3種、佐賀県初記録種が64種、また、嘉瀬川ダムが属する脊振山系地区の初記録種が135種報告できました。

(出現種の図版1・河川に依存する種)

(出現種の図版2・湿地に依存する種)

(出現種の図版3・樹林性・その他)

この嘉瀬川ダムは、完成後10年余りが経過し、調査した場所の半数近くの環境が変化してしまっています。その様子も一応確認して報告しました。

再調査を実施すれば、かなり様相が変わってきているものと想像されます。

次に、祝さんの、同じく嘉瀬川ダムで採集した甲虫のデータを使用した解析です。

「嘉瀬川ダム試験湛水による昆虫相の応答の把握とその評価方法-多様度指数Bψ と水国環境係数による甲虫相の解析-」

上記、今坂ほかでは、永年の観察と経験・文献から、各種の依存する環境の比率を出しておりますが、祝さんは、同様のことを、多様度指数Bψを使っての解析と、水国環境係数を使っての解析と、2つの方法を試みています。

(多様度指数)

多様度指数については、以下の文献に詳しいようです。

細見彬文, 2000. 生物分布目録より求める自然破壊度指数Qαと多様度指数Bψの開発と日本列島への適用(前編). 昆虫と自然, 35(9): 32-34.

祝 輝男, 2012. 石谷 正宇編, 環境Eco選書7 環境アセスメントと昆虫, 241pp.

また、水国環境係数と言うのは、祝さんの説明によると、以下の通りです。

「河川水辺の国勢調査の膨大なデータを処理すれば同様な解析を行えるのではないかと筆者は考えた。河川水辺の国勢調査では各調査地点の昆虫リストの他に各調査地点の環境情報も調査記録している。

全昆虫に関する環境と関連付けることのできる情報は、おそらく河川水辺の国勢調査しか無く、これを元にした環境データベースの作成は昆虫を使って環境を評価する際に必須になると思われる。そこで、これらのデータを元に河川水辺の国勢調査結果を使用した環境係数(水国環境係数)の作成を行った。」

これにより、種ごとの環境への適合性を数値化し、今坂ほか同様、各地点の年度ごとの甲虫相の変化を見るわけです。

(水国環境係数グラフ)

祝さんの結論によると、ほぼ、今坂ほかの結論と同様の結果が得られたそうで、この方法を用いることで環境の変化を捕捉できそうだと言うことです。

次に今坂の「佐賀県(主として脊振山系)で採集した興味深い甲虫類」です。

これは、今坂手持ちの佐賀県産甲虫のうち、未記録種と記録の少ない種を報告したものです。

佐賀県初記録種 (35 種: 脊振山系初記録にもなる)、脊振山系初記録種 (71 種)、記録の少ない26種などを報告しました。

(図版1)

(図版2)

さて、いよいよ真打ち登場です。

西田さんは、「佐賀県産甲虫の記録の補充(2021)」を、

前回、2005年に作られた佐賀県産甲虫目録後に、新たに採集された種と、分類等の変化による訂正等を追加する意味で書かれています。

この報告で513種を記録されていますが、佐賀県初記録種として追加されている種が212種あります。

試しに採集されている種の年度のデータを数えてみました。

佐賀県初記録種の採集年度は、
1990年代20件、2000年代24件、2010-15年の3件に対して、
2016年19件、2017年24件、2019年12件、2018年39件、2020年57件、2021年44件(以上、重複含む)と、
尻上がりに増えています。

特に、2020-2021年の2年間は、佐賀県内を縦横に駆け巡られ、様々な採集方法を駆使して、何とか佐賀県産を3000種の大台に乗せるべく、頑張られた節が数字の上からも明らかです。

(図版1)

中には、佐賀県ではとても分布するとは考えもしなかった南方系のヒュウガホソカタムシやクロサワツツヒラタムシなども含まれていて、ビックリされていました。

この結果を見ると、虫は採集のやり方次第で、いくらでも、思いがけない種が採れることに、つくづく思い知らされます。

(図版2)

さて、当然、新しい採集記録だけでは無く、文献記録も必要です。

「佐賀県産甲虫類文献目録:追録2」として、2005年の目録以降に発表された282編の文献を追加されています。文献番号として、665から946までが振り分けられています。

さらに、過去に「佐賀の昆虫」に、故・市場利哉氏(前・佐賀昆虫同好会会長)と共著で書かれた佐賀県産甲虫類文献目録とその追録1も再録しました。

元文献
西田光康・市場利哉 (2002) 佐賀県産甲虫類文献目録. 佐賀の昆虫, (37): 551-568.
西田光康・市場利哉 (2005) 佐賀県産甲虫類文献目録:追録1. 佐賀の昆虫, (41): 40-41.

これは、この後に掲載した本書の中心報文となる「佐賀県産甲虫目録(2022)」が、一覧表形式になっていることに関係します。
最初の文献目録では文献番号の1から607まで、追録1では608から664までです。

今回の種目録では、前回同様、佐賀県を8地区に地区割りをされていて、その1つ1つが一覧表の1列になっています。
そして、種ごとに、その地区から初めて記録された文献番号が、その列に記されているわけです。

その意味でも、過去に報告された文献目録の番号も再録しておかないと、リストを見るだけではどの文献で記録されたかが解らないことになってしまいます。

この1冊で佐賀県の甲虫の現状が把握できるようにとの配慮だったわけです。

(佐賀県の地区割り)

この一覧表形式には大きなメリットがあって、それは、どの地区にどの種が分布するか、どの地区では記録が無いかが一目で解ること、さらに、地区ごとの種数、ファウナ集計が容易なことです。

当然、通常の全ての記録を羅列する目録のようには、種ごとの全ての記録を一覧することは出来ませんし、1地区でどれくらいの数の記録があるのか、その詳細な採集場所等の所在も解りません。

しかし、その為に、文献だけはほぼ網羅されているので、調べたい方はご自身でどうぞ、ということでしょう。

目録の掲載種数は、不確定種と化石種等を覗いて3004種です。

次の「佐賀県の甲虫相について」で佐賀県産甲虫の科別種数と国産に対する比率(判明度)が解説されています。

(集計1)

(集計2)

(集計3)

また、地区別の種数と特徴的な種も示されています。

多良山系地域 2,119 種、脊振山系地域 1,729 種、作礼天山地域 586 種

(環境と特徴的な種)

佐賀平野地域 649 種、武雄黒髪地域 1,383 種、国見山等地域 664 種、唐津東松地域 613 種、離島地域 828 種

(環境と特徴的な種)

最後に、今坂の「佐賀県産甲虫相の何が面白い?」です。

この考察では、西田さんの目録の、一覧表形式の利点を十二分に活用させていただいています。

この文章を作る過程で、佐賀県の中央部を縦断するKT (唐津-多久)線という分化線が明らかになったことが最大の成果です。、

(KT線)

ヒミコヒメハナカミキリ、リョウコニンフジョウカイは明らかにこの分化線で亜種をわけていると判断されますし、ナガサキニンフジョウカイとウエダニンフジョウカイ、タラオオズナガゴミムシとセフリオオズナガゴミムシ(両種とも未記載)もKT 線の結果と考えています。

(移動経路)

今回は主として、このKT線を挟んで、佐賀県産甲虫類がどちらからどちらに分布を広げ、分断されて分化し、定着したかを考察したわけです。

(移動パターン)

さらに、分布型による解析も進め

(分化型のカテゴリー)

(分化型よる福岡・佐賀・長崎の比較)

分化型よる福岡・佐賀・長崎の比較
分化型よる福岡・佐賀・長崎の比較

「北方系種は福岡→佐賀→長崎と、南方系種は長崎→佐賀→福岡と移動して分布を広げながら定着していったと考えられるが、原生状態の林や高標高の山地が少ない佐賀県に於いては、福岡・長崎両県と比較し、より多くの種が定着できず失われていったと考えられ、代わりに、その後移動力の大きい広域分布種がより多く侵入してきたと言える。」という結論を得ました。

県内各地域の分布型による比較も試みてみましたが、部分的には納得できる結果も得られたものの、地域によっては予想から相当外れる結果が出ました。

その原因としては、地域ごとに、含んでいるその生態的な範囲(例えば標高など)がまちまちで、海岸からブナ帯までを含む地域(多良山系)が有る一方、脊振山系では海岸から平地を欠いているし、残りの唐津東松、佐賀平野、離島以外の地域は海岸を欠いているなど、比較する環境のバラツキが大きかったためと思われます。

今年はこの後、KORASANA 100号の記念誌発行も計画されていますので、楽しみにお待ち下さい。