2024年の池と川巡り 川巡り その1

次いで川巡りの方に移ります。

2024年に巡った地点は以下の地図の通りです。

(2024年の川巡り概念図)

2024年の川巡り概念図

まず、筑後川から始めます。

(筑後川)

筑後川

筑後川の甲虫相については、久留米昆蟲研究會会誌 KORASANA 102号 筑後川特集号に詳しく述べましたので(今坂ほか, 2024a)、そちらも併せてご覧ください。
102号は事務局で3000円で頒布していますので、ご希望の方は、事務局の國分さんまでご連絡ください。 kokubu1951@outlook.jp

今坂正一・有馬浩一・國分謙一・斎藤 猛, 2024a. 筑後川の甲虫相-その1 中流域-. KORASANA, (102): 31-106.

(筑後川特集号表紙)

筑後川特集号表紙

ただ、ここで扱っているのは、本流の中流域、うきは市から久留米市の筑後大堰までです。
下流域と支流については、今後、調べる必要があると思います。

とにかく、上記報告で、既知記録分と併せて、筑後川の河川内から660種を記録しました。
その考察の中で、河川内でしか見つからない種について、河川種という定義をしたわけです。

前回までの池巡りの中では、再三、河川種が池で見つかるとは?という話をしました。

同様に、川でも、池ものが見つかりますが、河川敷には小さな池や水溜まりがあちこちに存在します。
また、川の周りの水田や用水路からも飛来しますし、川で池ものが見つかっても、特に違和感は感じません。

そして、今回巡った筑後の河川では、池ものも出ましたが、殆ど、これは、と言った種は出現しませんでした。
川ですから、川ものが出現するのは当然の話です。
そのため、川巡りでは、先に示した川もの○、池もの☆の表示は、やめます。

上流から順に、まず、うきは市吉井町千年です。

  1. うきは市吉井町千年(ちとせ)

(千年の河川敷、左はグーグルの航空写真を改変引用、矢印が灯火採集場所)

千年の河川敷、左はグーグルの航空写真を改変引用、矢印が灯火採集場所

大きな湾曲部に、真っ直ぐに補助流路を作ったことで、広い中ノ島が出来て、現在はスポーツアイランドという運動公園と耕作地が存在します。

左岸側の補助流路は通常は流れてなくて、大部分は広い草地、砂礫のヨシ原で、細流、水溜まりもあり、川沿いは礫~砂~泥の広い河川敷が広がっています。

河川で見られる河川敷の環境としては、河畔林を除いて、筑後川中、最も広い規模で存在するので、河川に棲息する甲虫類の大部分が生息している可能性があります。

上記、筑後川特集号では、この地点で111種を記録し、そのうち、河川種は32種(28.8%)で、この報告で示した9地点の中で、最も、比率が高かった場所です。

3月10日、福岡県初記録となったウスイロツヤヒラタガムシを、2022年に、この場所のライトBOXで記録しているので、それを探しに行きました。

まだ水も冷たく、散々水辺の石をひっくり返してみたものの、ヒメシジミガムシとコモンシジミガムシ、キイロヒラタガムシを見つかっただけでした。

また、草地のスウィーピングもしてみましたが、チャバネクシコメツキとクワハムシだけで、春はまだ、という感じでした。

9月10日、國分さん、斉藤さん、有馬さんを誘って、運動公園の駐車場で灯火採集をしました。

白幕とBOXと併せて、前記2種のシジミガムシと、ナガヒョウタンゴミムシ、ホソチビゴミムシ、ヨツボシミズギワゴミムシ、ドウイロミズギワゴミムシ、ヒラタコミズギワゴミムシ、ヨツモンコミズギワゴミムシ、ハラアカモリヒラタゴミムシ、ヒメケゴモクムシ、ヒラタゴモクムシ、ウスアカクロゴモクムシ、ツヤマメゴモクムシ、コシマゲンゴロウ、ウスイロツヤヒラタガムシ、コガムシ、ヒメガムシ、キベリカワベハネカクシ、ニセヒメユミセミゾハネカクシ、ユミセミゾハネカクシ、ツマアカナガエハネカクシ、カワベナガエハネカクシ、チビクビボソハネカクシ、オオドウガネコガシラハネカクシ、キアシチビコガシラハネカクシ、

ムナビロフタモンヒメキノコハネカクシ、セダカマルハナノミ、トビイロマルハナノミ、セマルケシマグソコガネ、オオクロコガネ、アオドウガネ、ドウガネブイブイ、ヒメコガネ、ヒラタドロムシ、マスダチビヒラタドロムシ、イブシアシナガドロムシ、リュウキュウダエンチビドロムシ、タマガワナガドロムシ、アカマダラケシキスイ、トビイロデオネスイ、ケナガセマルキスイ、クロヘリヒメテントウ、クロホソアリモドキ、ヒラタホソアリモドキ、コクロホソアリモドキ、クロスジイッカク、アオスジカミキリ、アオガネヒメサルハムシの48種が採れました。

河川敷でやると飛来する種のだいたいの顔ぶれが来ていますが、9月とあって、だいぶ多様性が減少している感じはあります。

このうち、コガムシは久しぶりです。

(コガムシ)

コガムシ

多分、周辺の水田や用水路から飛来していると思われますが、かつては比較的多く見られたものの、最近はごく少ないです。

特筆するものとして、ウスイロツヤヒラタガムシの飛来は嬉しかったです。
先に示したように、1例目はやはりこの場所で、県下で2例目ですからね(今坂ほか, 2024a)。

(ウスイロツヤヒラタガムシ)

ウスイロツヤヒラタガムシ

それから、ヒラタゴモクムシを紹介しておきます。特に珍しい種と言うことではありませんが、細かい砂の河川敷か、砂浜でないと見られない、局所的な分布をする種です。

(ヒラタゴモクムシ)

ヒラタゴモクムシ

さて、次は、久留米市大城橋です。

  1. 久留米市北野町大城橋

有馬さんから、「ムネホシシロカミキリが出ていますよ」という話を聞いて、5月30日に、國分さんと、他地へ出かけた帰りに寄ってみました。

この場所には、現在、ヤナギやクワの伐採木が山積みに置かれています。最近筑後川では洪水が続いているため、護岸工事が急ピッチで進められていて、その一環として、河畔林が伐採されているようです。

國分さんは、周辺を叩いて、ナミテントウ、ヒメカメノコテントウ、クリイロクチキムシ、キボシカミキリ、アオバネサルハムシを採集されました。

(左から、大城橋の航空写真・グークルより改変引用、矢印が採集地点、ムネホシシロカミキリがいたクワ)

左から、大城橋の航空写真・グークルより改変引用、矢印が採集地点、ムネホシシロカミキリがいたクワ

ムネホシシロカミキリの成虫はクワの葉を後食します。
私は、有馬さんから、採れたという木を聞いていたので、その木を中心に梢の葉をスウィーピングしていきました。

その結果、オオクロクシコメツキ、アオカミキリモドキ、クロスジイッカク、ムネホシシロカミキリ、キカサハラハムシ、ヤナギルリハムシが採れました。

(採集品)

採集品

有馬さんの話の通りに、ムネホシシロカミキリが4頭採集できて、納得しました。

この種は、福岡県では、福岡市箱崎、八女市星野村仁田原・小竹・樋下、久留米市草野町の5箇所の記録しか無く、それも草野町での1978年の記録を最後に、採れていませんでした。福岡県ではほぼ絶滅か?と考えられていたわけです。

(ムネホシシロカミキリ)

ムネホシシロカミキリ

全国的なクワ栽培(養蚕)の衰退から、本種は極端に減少し、各地でRDB種にリストアップされています。

それを、有馬さんが44年ぶりに筑後川で再発見されたわけです(有馬, 2024)。

有馬浩一, 2024. 筑後川河川敷で44年ぶりに見つかったムネホシシロカミキリ. KORASANA, (102): 30.

有馬さんは、2022年に片の瀬温泉で実施する久留米昆蟲研究會の採集会を前に、下見として灯火採集を実施して、本種を採集されました。

このことを契機として、河川沿いに多数のクワが生育していることを再認識し、その調査も始めたわけです。

採集会では、齋藤正治さんによって、クワから福岡県初記録となるキバネアラゲカミキリも採集されました(今坂ほか, 2024b)。

今坂正一・有馬浩一・江頭修志・城戸克弥・國分謙一・齋藤正治・斎藤 猛・和田 潤, 2024. 筑後川採集会で確認された昆虫類. KORASANA, (102): 1-24.

(齋藤さんが採集されたキバネアラゲカミキリ)

齋藤さんが採集されたキバネアラゲカミキリ

筑後川の中流域には、ヤナギと共に、クワがかなり大木に生育し河畔林を形成しています。
近隣の久留米市草野町などでは、3-40年ほど前まで、大規模なクワ畑があったようで、多分、そこからの逸出と思います。
上記2種の存在からも、さらに、多くのクワをホストとする種の分布が推察されます。
その多くが、既に、絶滅を危惧される種ばかりなので、このクワ林の調査も急ぐ必要があります。

先に述べたように、筑後川ではここ数年、大雨による氾濫災害が毎年のように起こっています。
その防災の為に、各地点で堤防の改修が計画され、河畔林はかなり大幅に伐採されているわけです。
2022年に有馬さんが本種を採集した地点では、直近のクワ林は消滅してしまいました。

11月25日も、帰りにこの地に寄りました。

國分さんは、マイマイカブリ、トビイロマルハナノミ、モンクチビルテントウ、スジコガシラゴミムシダマシ、クロウリハムシを、

私は、ババヒメテントウとヨツモンカメノコハムシを採りました。

(マイマイカブリ)

マイマイカブリ

マイマイカブリは土手道を歩いていたようですが、かなり少なくなっています。

外来種のモンクチビルテントウとヨツモンカメノコハムシは、九州では完全に定着して普通種になり、どこにでもいます。

(左から、モンクチビルテントウ、ヨツモンカメノコハムシ)

左から、モンクチビルテントウ、ヨツモンカメノコハムシ

筑後川の最後は、久留米市安武町武島です。

  1. 久留米市安武町武島

この場所は、筑後大堰の約2.5km下流の地点で、前記、筑後川特集号では、下流域ということで扱っておりません。

(武島の航空写真・グーグルより改変引用)

武島の航空写真・グーグルより改変引用

航空写真で眺めてみると、河川の採集場所は決まって、大きく川が蛇行した内径側の岸辺ということに気がつきます。

川の流れは、特に氾濫するような奔流の場合、必ず、蛇行部の外径側に強く当たって岸辺を削り、逆に内径側に滞った砂礫や砂・ゴミが堆積します。
それで、広い河川敷はかならず内径側に形成されるわけです。
そして、そこが河川での採集地の中心になります。

武島の地点も全くそういった場所です。
河川敷は広い草地とヤナギの河畔林に覆われ、そして、水辺は、感潮域のため泥地が広がっています。

当然ながら、筑後大堰によって堰き止められているので、潮がここより上流へ上がっていくことはありません。
しかし、この大堰ができる前は、現在の中流域のほぼ中央になる、上記、田主丸町片の瀬温泉付近(20kmほど上流)まで、大潮の時は達していたようです。

ともかく、潮が上がってくる下流域は、中流域とは、少なくとも水中と水辺の種構成はずいぶん違うはずです。

(左から、武島での灯火採集の場所、灯火採集セット)

左から、武島での灯火採集の場所、灯火採集セット

9月4日の灯火採集では、白幕とBOXと併せて50種が飛来しました。
実は、この日が、例の秘密兵器の使い始めで、まだ、試しといったところだったので、白幕の脇に置いて、結果も一緒にしてしまいました。
かなり虫が入ることは確認したわけです。

一方、先に紹介した、9月10日の中流域・吉井町千年の48種と比較すると、共通種はコガネ類・ハネカクシ類など14種だけでした。

武島のみの飛来種は、コヒメヒョウタンゴミムシ、アオミズギワゴミムシ、ウスオビコミズギワゴミムシ、クリイロコミズギワゴミムシ、キンナガゴミムシ、セアカヒラタゴミムシ、ヨツモンエグリゴモクムシ、ケウスゴモクムシ、キイロチビゴモクムシ、キベリゴモクムシ、ミドリマメゴモクムシ、フタモンクビナガゴミムシ、ナガサキクビナガゴミムシ、アオヘリホソゴミムシ、

チビゲンゴロウ、ハイイロゲンゴロウ、ルイスヒラタガムシ、タマガムシ、コクワガタ、ヒゲコガネ、アカビロウドコガネ、セマダラコガネ、マダラチビコメツキ、サビキコリ、ウスイロデオネスイ、マルガタキスイ、ヒメカメノコテントウ、チャイロコキノコムシ、キアシクビボソムシ、ウスモンホソアリモドキ、タナカホソアリモドキ、ヤマトスナゴミムシダマシ、コゴメゴミムシダマシ、イチゴハムシ、モンキアシナガハムシ、カミナリハムシの36種でした。

これらの種が、前記、中流域の千年に生息しているかどうかは、偶然性が高い灯火採集の結果ですから、断言できません。と言うより、大半は分布するはずです。

しかし、一方で、千年のみで出現した34種のうち、少なくとも、ホソチビゴミムシ、ドウイロミズギワゴミムシ、ヒラタゴモクムシ、ウスイロツヤヒラタガムシ、ヒメシジミガムシ、コモンシジミガムシ、キベリカワベハネカクシ、セマルケシマグソコガネ、ヒラタドロムシ、マスダチビヒラタドロムシ、イブシアシナガドロムシ、タマガワナガドロムシ、クロホソアリモドキ、クロスジイッカクの14種はこの地点では生育できないと思われます。

下流域の武島には、砂礫の河床も河川敷も無く、これらを必要とする種は住めないからです。

海水の影響も受けるので、水中にいる種の生息はさらに難しくなります。

一方、そう言いながら、この地点には本種の生息に必要な広い砂礫の河川敷は無いにもかかわらず、ヒゲコガネが10頭も飛来しました。

(左から、灯火採集セット、飛来したヒゲコガネ)

左から、灯火採集セット、飛来したヒゲコガネ

前年の2023年も同じ地点で灯火採集をしていますが、この時もヒゲコガネと、オオサカスジコガネ、その他、ここではまず発生していないと思われる種が多く飛来しました。

オオサカスジコガネは、筑後川では10kmほど上流の宮の陣付近(川沿いにヨシ原がある)のみで見つかっています(今坂ほか, 2024c)。

今坂正一・城戸克弥・國分謙一・有馬浩一・伊藤玲央・緒方義範・和田 潤, 2024. 2023年までに採集した福岡県RDB種の甲虫. KORASANA, (102): 147-167.

結局、この地では発生していないと思われる種の多くが、上流から大雨等の奔流で流されて、土砂やゴミと共にこの左岸側に打ち上げられ、岸辺でしばらくの間、生活していたものと思われます。

大部分は世代交代できず死滅したと思われますが、その種の生態によっては生き延びていく種もあるかもしれません。

(左から、採集したヒゲコガネ、オオサカスジコガネ)

左から、採集したヒゲコガネ、オオサカスジコガネ

他に注目する種として、次の種があります。

(左から、ヨツモンエグリゴモクムシ、ナガサキクビナガゴミムシ)

左から、ヨツモンエグリゴモクムシ、ナガサキクビナガゴミムシ

ヨツモンエグリゴモクムシの県内の記録は2-3例しかありませんでしたが、筑後川では数カ所で見つかっています。
元々、琉球系の種のようですが、より北方の記録が増えて来て、山口県まで達しているようです。

ナガサキクビナガゴミムシもほぼ同様で、暖流に洗われる伊豆半島や紀伊半島まで分布します。ただ、筑後川では初めてです。

(ウスイロデオネスイ)

ウスイロデオネスイ

本種は体長1.8mm程度と極微小種で、平野図鑑(平野, 2009)で紹介された種と思いますが、頭部基部や目の形が図示されたものとは微妙に違います。
雌雄の差の可能性はありますが・・・。

この本では「外来種であろう」と書かれていますが、国内では本州(東京・神奈川など)の記録だけで、九州初記録になると思われます。

平野幸彦(2009)日本産ヒラタムシ上科図説 第1巻 ヒメキノコムシ科・ネスイムシ科・チビヒラタムシ科. 63pp. 昆虫文献 六本脚.

(タナカホソアリモドキ)

タナカホソアリモドキ

本種は耕作地近くの草地で得られますが、生態は良く解りません。
アリモドキとしては綺麗な種で記録も余り多くありません。
福岡県では田川市と能古島の記録があり、筑後川では初めてです。

(コゴメゴミムシダマシ)

コゴメゴミムシダマシ

本種は貯穀の害虫ということですが、ゴミムシダマシ大図鑑によると、本州・九州・汎世界に分布するとしながら、「採集例は少ない」と書かれています(秋田・益本, 2016)。

秋田勝己・益本仁雄, 2016. 日本産ゴミムシダマシ大図鑑. 月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ 9, 302pp.

しかし、今回は1個体でしたが、2023年には同地で10個体近く採集していますし、福岡市市内の記録や、佐賀県では複数の記録があり、九州北部では比較的多いように思われます。

たまたま、グーグルのストリートビューを見ていましたら、採集地点の土手の後方に、大規模な鯉の養魚場がありました。
と言うことは、上記の種のうち、ウスイロデオネスイとコゴメゴミムシダマシは、鯉の飼料から発生している可能性が考えられます。

つづく