久留米昆蟲研究會より会誌 KORASANA 104号が2025年2月28日に発行されました。
事務局では希望される方にそのKORASANA 104号を3000円で頒布しておりますので、その内容について紹介したいと思います。
KORASANA 104号をご希望の方は、このホームページ右上の「おたより」をクリックして申し込まれるか、あるいは直接、事務局 國分謙一 kokubu1951@outlook.jp
までお申し込みください。
また、スマートフォンやタブレットでご覧の方は、左下のメニューから、最下段のおたよりを選び、申し込んで下さい。
KORASANA № 104. 20250228 目次
追悼文
越智 恒夫 [ 西原博之さんを偲んで ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
和田 潤 [ 追悼 西原 博之さん ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
報文
西原 博之 [ 睦月島(愛媛県松山市)でシコクヤコンオサムシを採集
(コウチュウ目:オサムシ科, オサムシ亜科) ] ・・・・・・・・・・・・・・・4
中島 淳・小山 彰彦・長野 光
[ 福岡県におけるキバネキバナガミズギワゴミムシの追加記録 ]・・・・・・・・・7
中村 涼 [ 生月島で採集された歩行虫 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
今坂 正一 [ 久留米市高良内町の高良川でムカシトンボ幼虫を掬う ] ・・・・・・・・・・・12
今坂 正一 [ うきは市でナベブタムシを再発見 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
今坂 正一 [ 福岡県の溜め池巡り2023 年晩秋 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
勝間 信之 [ 鹿児島県さつま町紫尾川で採集したトビケラ目成虫の記録 ] ・・・・・・・・・18
勝間 信之 [ 福岡県北九州市小倉南区合馬川上流で採集したトビケラ目成虫の記録 ] ・・・・21
中島 淳 [ 福岡県におけるサキグロコミズムシの記録 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・24
國分 謙一・今坂 正一[ 八女郡広川町のヒョウモン2 種の記録 ] ・・・・・・・・・・・・・25
越智 恒夫 [ 愛媛県におけるルリツツカッコウムシの記録 ] ・・・・・・・・・・・・・・・26
緒方 靖哉 [ 昆虫逸話 トウガラシ苗をめぐる害虫達との闘争記 ]・・・・・・・・・・・・・27
緒方 靖哉 [ 昆虫逸話 体温と汗と蚊と ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
緒方 靖哉 [ 昆虫逸話 コバエの不思議な習性 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
長田 庸平 [ 沖縄県南城市奥武島のタイワンツチイナゴ ] ・・・・・・・・・・・・・・・・36
長田 庸平 [ 2024 年、沖縄島における分布拡大種の蝶類の記録 ]・・・・・・・・・・・・・37
長田 庸平 [ 沖縄県糸満市摩文仁でフタオチョウを目撃 ] ・・・・・・・・・・・・・・・・39
長田 庸平 [ 青色部が減退したルリウラナミシジミ雄を採集 ] ・・・・・・・・・・・・・・39
長田 庸平 [ 沖縄島における小型のツマベニチョウの記録 ] ・・・・・・・・・・・・・・・40
國分 謙一 [ 「冬虫夏草の古記録「筑後地誌畧」の紹介およびその関連について」への追加 ] 41
西田 光康 [ 嬉野市唐泉山の甲虫相について ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
野村 周平・西田 光康[ 2021 年佐賀県太良町においてFIT により採集されたアリヅカムシ ]・73
西田 光康・今坂 正一[ 佐賀県産ヨツモンサルハムシの記録とシイサルハムシの記録の削除 ] 87
今坂 正一 [ チビデオゾウムシの筑後川の記録の訂正と
福岡県に於ける(仮称)アカハモグリゾウムシの発見 ]・・・・・・・・・・・・88
鈴木 亙・笹岡 康則[ 宮崎県綾町におけるトゲツツクシヒゲコメツキダマシの追加記録 ] ・・89
鈴木 亙・野田 亮[ 鹿児島県におけるナルカワクシコメツキの記録 ] ・・・・・・・・・・・90
鈴木 亙・笹岡 康則[ 宮崎県高鍋町鴫野浜の流木集積所において
得られたコメツキムシとコメツキダマシ ]・・・・・・・・・・・・・91
鈴木 亙・野田 亮[ クロビロウドコメツキダマシの食樹と蛹の形態について ]・・・・・・・101
廣川 典範 [ 大隅半島で採れた正体不明のオオキノコ ]・・・・・・・・・・・・・・・・・104
今田 舜介 [ 福岡県の有人島におけるハムシ・ゾウムシ上科の分布記録 ]・・・・・・・・・106
城戸 克弥 [ 九州大学総合研究博物館の福岡県産甲虫類(1) ] ・・・・・・・・・・・・・・109
城戸 克弥 [ 福岡県篠栗町でウマノオバチを採集 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
城戸 克弥 [ 福岡県で採集した甲虫類(21) ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
城戸 克弥・和田 潤[ 福岡市近傍で採集した若干のゾウムシ類(2) ] ・・・・・・・・・・・121
江頭 修志 [ 八女市でオオシマヒサゴクチカクシゾウムシを採集 ]・・・・・・・・・・・・126
江頭 修志 [ 熊渡山の甲虫類(7) -FIT とFIT 以外で得られた熊渡山の甲虫類- ]・・・・・127
今坂 正一・木野田 毅・國分 謙一[ 種子島採集紀行2024 年4 月 ]・・・・・・・・・・・・133
國分 謙一 [ 種子島の蝶(2024 年4 月) ] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・203
編集後記 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・205
訂正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・206
投稿規定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・207
(表紙)

表紙解説 「九州に生息する熱帯のコメツキダマシ」
コメツキダマシは、コメツキムシに似た甲虫で、体形が筒状であることや上唇が隠れているといった特徴を持つ。
このグループの昆虫は通常の採集では目にする機会が少なく、研究者も限られているため、世界的にも研究の進展が遅れている。国内では88 種が記録されているが、九州からはそのうち64 種が知られている(鈴木茂,2024;鈴木亙, 2024)。幼虫は枯れ木や朽ち木などの材中に生息しており、中には海流によって分布を広げたと考えられるものも少なくない。
近年、島嶼を含む九州地域からは、東南アジアの熱帯地域に広く分布する珍しいコメツキダマシが相次いで発見されている(鈴木亙, 2012, 2020, 2021a, 2021b, 2024)。今回、表紙で紹介するのは、その中の1 種であるトゲツツクシヒゲコメツキダマシSemnodema harmandi Fleutiaux, 1896 である。
本種は国内では現在のところ宮崎県綾町からしか生息が確認されておらず、採集された個体数も極めて少ない。しかし、その生息域の広さを考えると、九州の他の地域にも生息している可能性が高いと推測される。そのため既知産地以外での採集の際にも十分注意を払うことが必要だ。
九州地域からは、今後も熱帯地域に生息するコメツキダマシが発見される可能性がある。そのような新たな発見に期待を寄せつつ、これらの昆虫の生態や分布に関するさらなる解明が進むことが望まれる。
表紙写真・解説 鈴木 亙
巻頭に挙げた西原さんは、2024年6月に入会されて、報告を投稿されましたが、本誌に掲載されるのを待たず急逝されました。改めてご冥福をお祈りします。
(モンゴル ザント峠にて(2024.7.7) 手前が西原さん: 越智さんの追悼文より)

なお、その後、紹介いただいた越智さんによると、2025年1月には、かつての同僚の方のお世話で、回顧展が開かれたそうです。そのインターネットの記事は、現在も閲覧可能です。
西予市で西原博之氏の「回顧展」 愛媛新聞東宇和支局長時代を偲ぶ

今号は、従来にも増して盛りだくさんで、22名の著者(共著含む)による40編、204ページの大冊となっております。
編集後記にも書きましたが、私個人としては、同好会誌のお手本として、北九州の松田さんが編集されていた「北九州の昆蟲」を頭に置いています。
この雑誌は、2004 年までほぼ半世紀に渡り、小学生からプロの昆虫研究者まで、新種記載も含めた(これは、現在は無理ですが)、日本中の昆虫の全ての分野の記事を掲載されていました。
今回は、この雑誌に一歩近づいたような気がします。
さて、大量の報告の紹介なので、少し駆け足で進めます。
追悼文については、本誌で確認ください。
その、西原さんの遺稿「睦月島(愛媛県松山市)でシコクヤコンオサムシを採集」ですが、愛媛県から瀬戸内海に向けて連なる松山市沖の忽那諸島で、ヤコンオサムシの分布空白島を丹念に調査され、やっと、睦月島で発見されたという記事でした。
(睦月島のシコクヤコンオサムシ)

瀬戸内海に点在する島には、島によって、種によって、四国側から、あるいは、本州側から、様々な種が分布を拡大しており、その分布拡大の時期や、地史などに思いを馳せ、虫屋のロマンをくすぐるようです。
次に、中島・小山・長野さんの、「福岡県におけるキバネキバナガミズギワゴミムシの追加記録」です。
本種は汽水域に棲息し、満潮時は水面下の底質中に潜み、干潮時には干潟上で活動する種です。
福岡県では、1953 年の“Fukuoka”での採集例 (Ueno, 1955)と、1995 年の福岡市西区能古島での採集例(藤本, 1997)の2 例しか知られていませんでした。これを、古賀市天神(大根川)と福岡市早良区南庄(室見川)で記録されています。
(キバネキバナガミズギワゴミムシ付図)

中村さんは、「生月島で採集された歩行虫」23種を記録されました。
このうち、ヒメオサムシ生月島亜種、チョウセンゴモクムシ、ミカゲゴモクムシ、コバヤシツヤゴモクムシ、イキツキオオズナガゴミムシなどは注目されます。
(1. チョウセンゴモクムシ、2. ミカゲゴモクムシ、3. コバヤシツヤゴモクムシ)

次の3編は、晩秋~早春の甲虫のオフシーズンに、水を引っかき回して得た甲虫以外の報告です。
「久留米市高良内町の高良川でムカシトンボ幼虫を掬う」
「うきは市でナベブタムシを再発見」
「福岡県の溜め池巡り2023 年晩秋」
ムカシトンボは成虫を見るのは結構難しいですが、幼虫は比較的見つけやすいようです。
(高良川のムカシトンボ幼虫)

ナベブタムシは、近年、県内でもほとんど記録が無いようですが、たまたま掬った用水路で見つかりビックリしました。同様の用水路は、山村に行くと、何処でも見られるので、専門に探せば、あちこちにいるのかもしれません。
(うきは市のナベブタムシ)

溜池巡りは、グーグルで探し、現地で探し、あちこち出かけてみましたが、地図上に見られる溜池のざっと1/100くらいの確率でしか、水生昆虫の棲息する池は見つかりません。
報告したのは次の9種です。
エサキアメンボ、コオイムシ、ミズカマキリ、オオミズムシ、ヒメゲンゴロウ、コガタノゲンゴロウ、キイロヒラタガムシ、ヒメガムシ、カミナリハムシ
(溜池巡り付図)

それでも、溜池の数は星の数ほどあり、丹念に探せば、虫のいる池もあって、思わぬ種が見つかることは、以下のシリーズでも報告しました。
2024年の池と川巡り 池巡り その1
https://coleoptera.jp/2025/01/08/2024%e5%b9%b4%e3%81%ae%e6%b1%a0%e3%81%a8%e5%b7%9d%e5%b7%a1%e3%82%8a-%e6%b1%a0%e5%b7%a1%e3%82%8a%e3%80%80%e3%81%9d%e3%81%ae1/
勝間さんは、トビケラの2編を報告されました。
「鹿児島県さつま町紫尾川で採集したトビケラ目成虫の記録」
「福岡県北九州市小倉南区合馬川上流で採集したトビケラ目成虫の記録」
さつま町紫尾川では26種を記録されました。
このうち、チンリンセンカイトビケラは九州初記録。
本州から九州、朝鮮半島、極東ロシアに分布する広域種であるヒメセトトビケラの雌交尾器は掲載されたことがないとして、図示されています。
(ヒメセトトビケラ雌交尾器)

北九州市小倉南区合馬川では、2023 年4 月から10 月までマレーズトラップによって確認したトビケラ成虫11種を報告されています。このうち、カタツムリトビケラは福岡県初記録になるそうです。
(マレーズトラップ設置位置)

中島さんの「福岡県におけるサキグロコミズムシの記録」は、九州では熊本県しか記録のない本種を、築上町宇留津から記録したものです。
採集地は砂浜海岸の後背地にある池で、本種は塩性湿地を好む水生昆虫の1種ということです。
(サキグロコミズムシ付図)

國分・今坂の「八女郡広川町のヒョウモン2 種の記録」は、広川ダム上流の谷間から、最近、久留米周辺では見られなくなったメスグロヒョウモンとミドリヒョウモンを記録したものです。
狭い範囲の、それでも明るい谷で、今後とも、通ってみたいと思っています。
越智さんの「愛媛県におけるルリツツカッコウムシの記録」は、四国では、徳島県からの1例しか知られていないとして、愛媛県西条市から、四国2例目として記録されたものです。瑠璃色の体色が綺麗ですね。
(西条市産ルリツツカッコウムシ)

次は、緒方さんによる珠玉のエッセイの昆虫逸話シリーズ3編です。
「トウガラシ苗をめぐる害虫達との闘争記」
「体温と汗と蚊と」
「コバエの不思議な習性」
緒方さんの博識に加えて、ユーモアもあり、読みながら納得し、楽しんでいます。
これは是非、直接、本文を読んでいただかないと、伝わらないですね。
長田さんは、沖縄での観察・撮影記録から、5編を投稿いただきました。
「沖縄県南城市奥武島のタイワンツチイナゴ」
奥武島では初めての記録ということです。
「2024 年、沖縄島における分布拡大種の蝶類の記録」
迷チョウと言われていたタイワンシロチョウは2022年頃から、シロウラナミシジミは2018年頃から、マルバネルリマダラは2022年頃から、それぞれ、沖縄島で記録され、2024年は沖縄島南部で多くの個体を確認できたそうです。
「沖縄県糸満市摩文仁でフタオチョウを目撃」
今まで知られている一番南の記録ということです。
「青色部が減退したルリウラナミシジミ雄を採集」
沖縄島で前翅表面の青色部が減退したルリウラナミシジミを採集したそうで、青色部が前翅の第二室までで,中室ではほとんど発達していないそうです。
(青色部が減退したルリウラナミシジミ)

「沖縄島における小型のツマベニチョウの記録」
(小型のツマベニチョウ)

次の國分さんの報告は、先にKORASANA (97) に「冬虫夏草の古記録「筑後地誌畧」の紹介およびその関連について」として報告されたものに、漏れていたものを追加紹介されたものです。
1) 纐纈洋二郎 (1932) 冬蟲夏草について. 自然と趣味, 3(2): 85-86.
2) 大村 宏 (1933) 夏虫冬草の正体. 自然界, 3(1): 4.
3) 山﨑又雄 (1934) 八女郡御前嶽地方植物採集記. 自然界, 4(2): 32-41.
4) 杉野辰雄 (1966) 筑後の冬虫夏草 北九州の自然, p.124-125: 六月社.
いずれも、八女市矢部村での冬蟲夏草の観察記録について、紹介されています。
西田さんの「嬉野市唐泉山の甲虫相について」は、序文によると、「約40年以上にわたり親しんだ当地の甲虫たちをそろそろ取り纏めることにした。」とあり、彼のホームグラウンドの1つでもある嬉野市唐泉山の甲虫相のまとめと言えます。
「唐泉山の標高は410m、大村半島の多良岳山系北端部に位置し、スダジイの極相林で、自然林は8合目以上の約10 ヘクタールほどしかない。八天神社の社地として守られてきたものだが、1619年に全山火災にあっているので、林の樹齢は400年程度と思われる。スダジイを中心に、タブノキ、カゴノキ、ツブラジイ、アラカシ、ヤブニッケイ等の高木でうっそうとしている。: 序文を要約」
この狭い範囲から、40年以上の調査とは言え、1,166 種を記録されているのは凄いと思います。
地道に探せば、九州の10ヘクタールほどの照葉樹林に、これほどの甲虫が棲息しているという例になると思います。
図版を引用しますので、具体的には、本誌を熟読ください。
(西田・唐泉山付図1)

(西田・唐泉山付図2)

(西田・唐泉山付図3)

(西田・唐泉山付図4)

野村さんと西田さんの「2021年佐賀県太良町においてFITにより採集されたアリヅカムシ」は、佐賀県各地に西田さんが設置されたFITの採集品のうち、太良町の2カ所で得られたアリヅカムシ類を、野村さんが詳細に検討されて報告されたものです。
この中にはこれまで全く発見されたことのない、佐賀県初記録種が含まれており、極めて興味深い内容が含まれているそうです。
設置地点は① 佐賀県太良町帆柱岳 標高約600mと② 同 田古里川付近 標高約100mの2カ所で、34種のアリヅカムシが確認され、5種の佐賀県初記録種を含み、その中の1種は九州初記録だったそうです。
「何の変哲もない多良岳山麓の2地点でこれだけの初記録種が出るということは、すでに調べつくしたと思っていた佐賀県内でも、まだまだアリヅカムシの調査を行う余地があるということに他ならない。」との感想があり、アリヅカムシに限らず、ファウナ調査というものは、際限が無いと、つくづく思います。
(野村・西田 アリヅカムシ付図1)

(野村・西田 アリヅカムシ付図2)

(野村・西田 アリヅカムシ付図3)

(野村・西田 アリヅカムシ付図4)

西田さんと今坂の「佐賀県産ヨツモンサルハムシの記録とシイサルハムシの記録の削除」は、37年前、共同で報告していた、多良岳シリーズの中で記録した種の訂正です。
多分、私が同定したと思いますが、当時、この2種とも実物は持ってなく、図鑑等で同定したと思います。
当時、ヨツモンサルハムシは奄美大島固有種、シイサルハムシは九州南部から屋久島に分布するという認識があり、シイサルハムシにしたのだと思います。
ヨツモンサルハムシは、その後、宮崎産を確認し、記録されていますが(笹岡, 2017)、奄美大島とこの記録だけで、まさか、佐賀県で見つかるとは夢にも思いませんでした。
笹岡康則, 2017. 2016年に確認した宮崎市の甲虫. タテハモドキ, (53): 48-55.
(佐賀県産ヨツモンサルハムシ)

今坂の「チビデオゾウムシの筑後川の記録の訂正と福岡県に於ける(仮称)アカハモグリゾウムシの発見」という長いタイトルの報告は、私が、チビデオゾウムシと思っていたものが、ことごとく、堤内さんによって否定され、ごめんなさいと言った報告です。
この中で言い訳を書いていますが、「チビデオゾウムシは、日本甲虫図鑑IVでは、北海道、本州 (中部以北) に分布するとされているが、その後、兵庫県や島根県などの記録が散見され、九州でも見つかっているとされる。それもあって、筑後川産については、拙速に同定して間違ったわけで、深くお詫び申し上げたい。ただ、堤内氏のご教示によると、九州産で、未だ、確実に本種と断定できる標本は見ていないと言う事である。結局、チビデオゾウムシは福岡県からは知られていないことになる。」ようです。
チビデオゾウムシと思っていた、筑後川産はムシクサコバンゾウムシ、八女市星野村鷹取山産は未記載種の(仮称)アカハモグリゾウムシ Ellescus sp.でした。
(アカハモグリゾウムシ)

ご教示いただいた堤内さんに、改めてお礼申し上げます。
鈴木さんは、笹岡さんと共著で、「宮崎県綾町におけるトゲツツクシヒゲコメツキダマシの追加記録」、「宮崎県高鍋町鴫野浜の流木集積所において得られたコメツキムシとコメツキダマシ」の2編を、
野田さんと共著で、「鹿児島県におけるナルカワクシコメツキの記録」、「クロビロウドコメツキダマシの食樹と蛹の形態について」の2編の、併せて、4編の報告をしていただきました。
最初のトゲツツクシヒゲコメツキダマシの方は、今回、表紙にも使用させていただいた訳ですが、直前に、畑山さんと木野田さんによっても、同じく、綾町から記録されています。
畑山武一郎・木野田毅, 2024. トゲツツクシヒゲコメツキダマシの綾町での追加記録. タテハモドキ, (62): 22-23.
この種は、昨年日本産初記録として鈴木さんが綾町から1♂を記録(鈴木, 2024)したばかり、
畑山さん・木野田さんの1♀の記録は2023年8月に、今回の鈴木さん・笹岡さんの1♂1♀の記録は2024年7月に、いずれも綾町のみで採集されています。
鈴木 亙, 2024. 宮崎県から発見された日本初記録のトゲツツクシヒゲコメツキダマシ.さやば
ねニューシリーズ, (55): 18-19.
次の、高鍋町鴫野浜の流木集積所の報告も興味深く、笹岡さんが海浜に集積された流木から、8種のコメツキムシと、7種のコメツキダマシを採集されています。
(宮崎県高鍋町鴫野浜(小丸川河口近く)の漂着木集積所)

このうち、ツヤチャイロヒラアシコメツキ、オオクシヒゲコメツキ、チャイロコメツキ、クリイロアシブトコメツキのコメツキムシ3種と、
未記載種と考えられるXylofornax sp.を始めとして、マメフチトリコメツキダマシ、ケモンヒメミゾコメツキダマシ、フトチャイロコメツキダマシ、ハチジョウチャイロコメツキダマシ、ヒメチャイロコメツキダマシ、クシヒゲチャイロコメツキダマシのコメツキダマシ7種は、これらの流木から発生した可能性が考えられ、これらの種の分布に流木が関与している可能性を指摘されています。、
(漂着木集積所で採集された種の図版・未記載種はNo.9)

野田さんとの2編では、南大隅で野田さんが採集された、鹿児島県初記録のナルカワクシコメツキと、アケビの材から摘出したクロビロウドコメツキダマシの蛹室での状況と、蛹の形態を報告されています。
(クロビロウドコメツキダマシの蛹室と蛹)

廣川さんの、「大隅半島で採れた正体不明のオオキノコ」もまた、興味深い報告で、今のところ、属も種も確定されていません。
廣川さんからの個人的な連絡では、その後、かなり多くの個体が採れているということで、遠くない将来、属・種共に確定されると思います。
(不明のオオキノコ)

今田さんの、「福岡県の有人島におけるハムシ・ゾウムシ上科の分布記録」は、福岡県にある9つの有人島のうちの、
地島からキスジヒゲナガゾウムシ
相島からアカクビナガハムシ、オオゾウムシ、オオダイコンサルゾウムシ、コブヒメゾウムシ
能古島からキイロミヤマカミキリ、ミカドキクイムシ
姫島からホタルカミキリ、ベニカミキリ、タケトゲハムシ
を、それぞれ島の初記録として記録されたものです。
(今田さんの図版)

いかにも生きて動いているような角度での写真です。
城戸さんは、「九州大学総合研究博物館の福岡県産甲虫類(1)」、「福岡県篠栗町でウマノオバチを採集」、「福岡県で採集した甲虫類(21)」を報告されました。
城戸さんは、退職後、10年以上、ボランティアとして九州大学総合研究博物館の標本を整理されています。
それもあって、今回から、少しずつでも、そのうちの福岡県産甲虫類についてトピックを報告していかれる計画のようです。
今回はコガネムシ類8種と、アカオビカツオブシムシ、エンマムシ科5種、矢野宗幹採集標本であるエンマムシ科7種、ヒョウホンムシ科3種、コガネムシ科7種を報告されています。
このうち、福岡県では絶滅してしまったかもしれないダイコクコガネ、ミツノエンマコガネ、チビコエンマコガネ、クロツヤマグソコガネ、ルリエンマムシ、トラハナムグリの記録は重要と思われます。
(九州大学総合研究博物館所蔵の福岡県産甲虫)

また、福岡県で採集した甲虫類(21)では、主に2022年から2024年にかけて福岡県内で採集した甲虫類134種を記録されています。
特にコメントをつけられている種はありませんが、次号、KORASANA105号でまとめられる予定のゾウムシ類の記録が多いようです。
そのこともあって、城戸さんと和田さんで、2回目となる「福岡市近傍で採集した若干のゾウムシ類(2)」でも、和田さん採集のゾウムシ類99種を記録されました。
江頭さんは「八女市でオオシマヒサゴクチカクシゾウムシを採集」と、ライフワークにされている「熊渡山の甲虫類(7)」を報告されました。
第7報となる今回は65種を追加して、1000種を超えて、合計1016種となり、科ごとの種数の一覧表を付けられています。
さて、KORASANAの1号あたりの最大ページ数は、ほぼ200ページです。
2024年11月末の、編集開始時期に、ほぼ120ページ分の原稿が到着していて、多少余裕がありました。それで急遽、2024年4月に出かけた種子島のホームページの記事を改訂して、報告を作成したわけです。
この後、その5まで掲載しています。
今坂・木野田・國分の3名による「種子島採集紀行2024年4月」です。
2024年4月22日から26日まで、種子島で採集しましたが、当初想像していたよりもよほど、森林も、河川も、砂浜も発達していて、多様な環境があり、甲虫の種も豊富に感じました。
(種子島図版1)

結局、323種を確認することができ、このうち、既に種子島から記録されていた種が155 種、種子島新記録種が168種でした。
琉球系の種で、種子島が北限記録になった種が15 種で、これは今回確認した323 種の4.6%に過ぎません。種子島では、それほどは琉球系の種の勢力は強くないようです。
(種子島図版2)

一方、本土系の種で屋久島の記録がなく、種子島が南限記録になった種が77種あり、また、屋久島と共に南限になった種が53種で、併せると、本土系の種で、種子島・屋久島を南限とする種が併せて130種で、採集した種の40.2%にもなるようです。
(種子島図版3)

旧北区系と東洋区系の種の分布境界 (渡瀬線) は、これよりやや南の、トカラ列島にありますが、甲虫類としては、トカラ列島は島嶼の面積が小さく、生息できるニッチェが少ないことから、実質的な意味で、種子島・屋久島の南側が、旧北区系甲虫にとっての分布境界線と言えると実感しました。
(種子島図版4)

未記載種が多いながら、固有種、あるいは、今までまったく知られていないような種も10種くらいは見つかりました。
今回の記録も含めて、種子島産甲虫は856種が記録されたことになります。
まだまだ、興味深い種がいる可能性が大きいので、今後も調査に出かけたいと考えています。
最後に、その種子島で見かけたチョウ17種を、國分さんがメモしています「種子島の蝶(2024 年4 月)」。