「綾町・照葉樹林探訪」2024 その3

これは、「綾町・照葉樹林探訪」2024 その2の続きです。

さて、愈々、綾町の照葉樹林の本丸と言うべき大森岳林道です。
ざっと、ゲート付近より手前を大森岳林道入り口、ゲートより奥を、大森岳林道として区別しておきます。

(訂正とお詫び
大森岳林道のゲートの位置について、綾町ユネスコエコパークセンターの木野田さんより、間違っているとの指摘があり、正確な位置をご教示いただきました。これに伴い、現地の地図、記述内容を大幅に変更しました。いつも当ホームページを見ていただいている方々にお詫び申し上げ、ご教示いただいた木野田さんに心より厚くお礼申し上げます。)

  1. 大森岳林道エリア

(大森岳林道エリア)

大森岳林道エリア

2a. 大森岳林道入り口

今年は、ゲートより奥まで探索したのは、木野田さんに案内していただいた今坂・國分組、大塚・斎藤組だけで、その他のメンバーは全て大森岳林道入り口(ゲートの手前)で採集されています。

(ゲート付近の拡大図)

ゲート付近の拡大図


その1の採集日程でお知らせしたように、まず、6月3日に、畑山・松田・的場組が訪れ、ライトFITを設置し、任意採集と、夜間に、灯火採集をやられています。

的場さんは、カシワクチブトゾウムシとシロアナアキゾウムシを、

松田さんはフタモンクビナガゴミムシ、フタホシアトキリゴミムシ、ヒゲナガクロコガネ、コガネムシ、クシコメツキ、オバボタル、ヨツボシケシキスイ、キマダラカミキリを、

畑山さんは、ベーツホソアトキリゴミムシ、ウスイロヒメタマキノコムシ、コヒメミゾコメツキダマシ、リュウキュウホソヒゲヒメハナムシ、フタホシヒメハナムシ*、オオキバチビヒラタムシ、カグヤヒメハナノミ、オトヒメハナノミ*、ナガトゲヒメハナノミ*、ホソカミキリモドキ、クロチビアリモドキ、クリノウスイロクチキムシ、アカバネツヤクチキムシ、ムモンチャイロホソバネカミキリを採られています。

なお、前回同様、綾町初記録の種には和名の後ろに*を付けます。

それと、度々記すのも煩雑なので、まとめて書いておきますが、ご自身の採集品の内、的場さんはゾウムシ類を、松田さんはベニボタルとカミキリムシ、畑山さんはコメツキダマシとハナノミを自身で同定され、後2氏の雑甲虫は今坂が同定しました。
また、各メンバーの大部分のベニボタルは松田さんが、コメツキダマシとハナノミは畑山さんが同定されています。
その他、今坂・國分・斎藤分は今坂が、大塚・木野田分は本人同定の上、一部を今坂が再確認しています。

畑山さん採集分のうち、フタホシヒメハナムシは、一見、リュウキュウホソヒゲヒメハナムシに似て、上翅中央に斜めの赤紋を持つ種ですが、体型はより丸く、中央の赤紋はよりハッキリ斜めに大きく出ます。宮崎県・綾町共に初記録です。

また、ヒメハナノミ類は同定が難しいせいか、本州、四国、九州などに広く分布していても、各地の記録は多くありません。
それで、オトヒメハナノミ、ナガトゲヒメハナノミ共に、宮崎県・綾町の初記録になります。

(左から、フタホシヒメハナムシ、ナガトゲヒメハナノミ)

左から、フタホシヒメハナムシ、ナガトゲヒメハナノミ

また、ムモンチャイロホソバネカミキリは、綾町では度々記録されていますが、本来は琉球系の種です。
琉球以外では、筑前沖の島、長崎市で記録されていますが、これらは戦前の記録でその後再発見されていません。
さらに、甑島、宮崎県(西米良村、鰐淵山、綾町)、鹿児島県(大隅半島)、屋久島、奄美大島の記録があり、沖縄本島と石垣島・西表島では、最近、それぞれ、別亜種として区別されています。

宮崎県産は、現在も生息が確認されている産地としては、甑島と共に、ほぼ北限の記録になります。

(ムモンチャイロホソバネカミキリ)

ムモンチャイロホソバネカミキリ

このシリーズの冒頭で述べた、「綾町はカラカラカで・・・」との畑山さんの言は、この6月3日の灯火採集の様子を述べられたものです。
確かに、上記、種の顔ぶれから見ても、灯火採集の白幕に来た種数としては、極端に少ないようです。

この日は、当然ながら、木野田さんが案内されていて、灯火採集も同行されています。
木野田さんは、ヤマトアオドウガネ*、クロホソナガクチキ、ミツギリゾウムシを白幕からつまんだくらいで、あまりの虫の少なさに、途中から、同時刻、綾南川で灯火採集をやられている安藤・笹岡組の白幕を見に行かれたそうです。
しかし、そちらも、貧弱だったというわけです。

それにしても、原生林に近い照葉樹林のまっただ中、それも標高250m地点で、ヤマトアオドウガネと言うのは、全く変です。
綾町の初記録ですが、そもそも、綾町に居ると思えそうにない種です。

(ヤマトアオドウガネ)

ヤマトアオドウガネ

本種は本来、海岸性の種で、砂浜には限りませんが、ほぼ海が見える地域で採集されます。

それなのに、木野田さんが報告を準備されていますが、宮崎県では、結構内陸や山地でも採集されています。
綾町など、海岸線から20km以上も内陸に位置しているので、海岸から飛来したとは考えられません。
あるいは、河川敷で発生しているのでしょうか?
他の地域で、河川敷で採れたという話も聞かないので、不思議です。

(大森岳林道岳入り口付近)

大森岳林道岳入り口付近

畑山・松田組は、その後、6月7日に綾町に戻り、畑山さんはライトFITを設置されたそうです。

翌日、6月8日に松田さんは、3日から設置していたライトFITを回収されました。
ミドリマメゴモクムシ、ムナビロアトボシアオゴミムシ、ニセヒメナガエンマムシ、ニセトガリハネカクシ*、コクワガタ、ゴホンダイコクコガネ、ナガチャコガネ、ヒゲナガクロコガネ、ビロウドコガネ、コヒゲナガハナノミ、キバネクチボソコメツキ、ヒラタクシコメツキ、クシコメツキ、オオハナコメツキ、オオチャイロコメツキダマシ、(仮称キイロヒメナカミゾコメツキダマシ、ネアカクロベニボタル、クロハナボタル、ヒゲブトコキノコムシ、クリイロヒゲハナノミ、カトウカミキリモドキ、アオカミキリモドキ、ホソアカクチキムシ、アカバネツヤクチキムシ、フナガタクチキムシ、モンキゴミムシダマシ、イボタサビカミキリ、ガロアケシカミキリ、シロマダラネブトヒゲナガゾウムシ、ウンモンナガクチカクシゾウムシ*、カシノナガキクイムシ*を採られています。

このうち、ニセトガリハネカクシは宮崎県・綾町初記録、ヒラムネメカクシゾウムシは綾町初記録です。

(訂正、当初、ウンモンナガクチカクシゾウムシとしていましたが、的場さんの指摘により、ヒラムネメカクシゾウムシに訂正しました。)

(左から、ニセトガリハネカクシ、ヒラムネメカクシゾウムシ)

左から、ニセトガリハネカクシ、ヒラムネメカクシゾウムシ

シロマダラネブトヒゲナガゾウムシは北海道から九州まで分布するものの珍しい種で、つい最近まで宮崎県から知られていませんでした。
しかし最近、笹岡(2020d)により、綾南川から記録されています。

笹岡康則, 2020d. 2020年綾照葉樹林を中心に採集された甲虫. タテハモドキ, (57): 93-101.

(シロマダラネブトヒゲナガゾウムシ)

シロマダラネブトヒゲナガゾウムシ

また、畑山さんもライトFITを回収され、松田さんと違う種として、オオアオミズギワゴミムシ、ベーツホソアトキリゴミムシ、コエンマムシ、ヒロエンマアリヅカムシ、ヒメコブスジコガネ、コクロコガネ、ヒゴシマビロウドコガネ、ハラゲビロウドコガネ、コヒメミゾコメツキダマシ、スミアカベニボタル、コクロハナボタル、キタジュウジベニボタル*、ホソベニボタル、ヒュウガハナボタル、ウドハナボタル、ヤククロハナボタル、クロミナミボタル、

フタイロチビジョウカイ*、ウスオビカクケシキスイ、ナミモンコケシキスイ、ウエノマルヒメキノコムシ*、アカカタハナノミ*、ゼンチハナノミ*、クリノウスイロクチキムシ、オオナガニジゴミムシダマシ*、テントウゴミムシダマシ、クロナガキマワリ、ヒゲジロホソコバネカミキリ*、オノヒゲナガゾウムシ、ウンモンヒゲナガゾウムシ、カシワクチブトゾウムシ、ムラカミヒメクモゾウムシ、コホシメカクシゾウムシ、アラムネクチカクシゾウムシ、アラハダクチカクシゾウムシ*、サクキクイムシを採られています。
ゾウムシ類は的場さんの同定です。

このうち、ベニボタル類は初記録では無いものの興味深い種が採れていて、松田さんに写真撮影をお願いしました。

(左から、ヒュウガハナボタル、ウドハナボタル、ヤククロハナボタル)

左から、ヒュウガハナボタル、ウドハナボタル、ヤククロハナボタル

特に、ヒュウガハナボタルは昨年も記録しましたが、中根(1995)により宮崎県野尻町 (現・小林市)から新種記載されて以降、今回が3例目です。

中根猛彦, 1995. 日本の雑甲虫覚え書13. 北九州の昆蟲, 42(1): 41-46.

ただ、互いに良く似ていて、中央のウドハナボタルは目が大きいことで区別できますが、その他は、確実には♂交尾器の確認が必要です。

キタジュウジベニボタルはその2で、アカカタハナノミとゼンチハナノミについては、その1で紹介しました。

フタイロチビジョウカイは綾町の、オオナガニジゴミムシダマシは宮崎県・綾町共に初記録です。

(左から、フタイロチビジョウカイ、オオナガニジゴミムシダマシ)

左から、フタイロチビジョウカイ、オオナガニジゴミムシダマシ

このオオナガニジゴミムシダマシですが、九州(福岡)に分布することになっているにもかかわらず、九州産を見たことがありません。
本州では山口県まで、ホソナガニジゴミムシダマシと共に、比較的普通に見られるのに不思議です。
後者についても、九州では少なく、いないものと思っていたものを、ごく最近になって、福岡県での生息を2例ほど確認しました。
九州で見られるのは、ほとんど、ナガニジゴミムシダマシとフトナガニジゴミムシダマシの2種だけです。
しかし、本種はこの2種と違って、前胸背にも強い虹色光沢があるので、区別は容易です。

さて、極めつけは、ヒゲジロホソコバネカミキリです。
自身のライトFITをソーティングした畑山さんから、すぐに、採れた場所の写真を添えて報告がありました。
当然、綾町では初記録です。

(左から、ヒゲジロホソコバネカミキリ♀、ゲートの先50mほどの大森岳林道)

左から、ヒゲジロホソコバネカミキリ♂、ゲートの先50mほどの大森岳林道

(訂正、

当初、♂と表示していましたが、藤田さんのご教示によると、♀の誤りだそうで、さっそく訂正しました。ご教示いただいた藤田さんに厚くお礼申し上げます。)

前述のムモンチャイロホソバネカミキリの採れた場所は、ゲートの手前50m位の地点で、5日前のことですから、この2種はあるいは、すぐ近くですれ違う距離で生息していたことになります。
そもそも、ヒゲジロホソコバネカミキリはブナ帯のカミキリとして知られています。
宮崎県では、高千穂町、えびの市、都城市から記録されています。
ごく最近、綾町から比較的近い産地として、廣川(2024)により、鹿児島県霧島山高千穂から記録されました。

廣川典範, 2024. 感動の九州産ヒゲジロホソコバネカミキリ. KORASANA, (102): 205-209.

廣川さんの報告は、カタウロコタケが生えているミズナラの倒木の枯れ材から羽化したものです。
ミズナラが生えるのは、九州では少なくとも標高800m以上です。
一方、今回採れた場所は標高250m、ミズナラはおろか、落葉樹は殆ど無い、照葉樹林のまっただ中です。

ちょっと、廣川さんの報告のヒゲジロホソコバネカミキリ♀の写真を借用して、綾町産と並べてみましょう。

(ヒゲジロホソコバネカミキリ♀、左:綾町産、右:霧島山高千穂産)

ヒゲジロホソコバネカミキリ♀、左:綾町産、右:霧島山高千穂産

一瞬、ブナ帯のヨコヤマヒゲナガカミキリと、大隅半島のオオスミヒゲナガカミキリの関係が頭に浮かんだのですが、両者に、特に変わったところも見られません。
ただ、カタウロコタケのホストであるミズナラが無いとしたら、どんな樹種につくどんなキノコから発生しているのか、興味が尽きません。

こんなところで、なぜ、ヒゲジロホソコバネカミキリが発生するのか解りませんが、他にも、綾の照葉樹林では、ブナ帯の種が何種も見つかっています。

ブナ帯に生息する種というのは、甲虫では、大部分が1年を通じて湿気た環境を好む種が多いようです。
日本国内で年間通じて湿気のある植生帯はブナ帯しかなく、そのため、九州では、熱帯起源のクロツヤムシでもブナ帯に限って分布しています。
低地の照葉樹林帯では、盛夏と冬季に、極端に乾燥するので、生きていけないのでしょう。
ただ、ブナ帯の甲虫も、周囲より湿気が保たれる渓谷沿いでは、かなり低い場所まで生息していることがありますが・・・。

照葉樹林でも、綾町ほどに発達した林になると、全体としては乾燥しても、局所的に湿気が保たれる場所があるのかもしれません。
そういう島のような湿気た場所を伝って、ブナ帯の虫が低地まで降りてきていると考えるしかなさそうです。

さらに、綾町の凄いところは、亜熱帯起源のムモンチャイロホソバネカミキリと、ブナ帯起源のヒゲジロホソコバネカミキリが混生していることです。
亜熱帯から北上した虫と、ブナ帯から降りてきた虫が共存する林、日本中探しても、そんな場所は、他に知られていないと思います。

(混生するムモンチャイロホソバネカミキリとヒゲジロホソコバネカミキリ)

混生するムモンチャイロホソバネカミキリとヒゲジロホソコバネカミキリ

林内のせいぜい100m四方の中に吊した、松田さんと畑山さんのライトFITの回収標本は、松田さん31種、畑山さん42種です。
二人合わせて67種が採れていますが、なぜか、二人の共通種は6種(20%)しかありません。
このことも、綾町の照葉樹林の多様性の高さを示していると思われます。

さて、
6月7日には、木野田さんの案内で、今坂・國分組、大塚・斎藤組は、大森岳林道に出かけました。
しばらく、ゲートから先の林道に入る人がいなかったと見えて、思ったより道が荒れています。

木野田さんは大きな落石を見つけるたびに、車に積んだスコップで、セッセと石や土砂を片付けていきます。
同乗の國分さんも、軍手をはめて、応援に行きます。
私の方は、工事の待ち時間を利用して、咲いていたクマノミズキの花を掬いながら、ユルユル車を進めます。

木野田、今坂、國分の3名は、砂礫や土砂、落ち枝を片付けながら、そのまま林道を進み、結局いつもの標高600m付近のポイントで進むのを止めました。
木野田さんは、林道管理のため、林道終点まで見に出かけます。この大森岳林道の採集品については、後で記します。

しばらくして、木野田さんが戻ってきたので、今日も、午後は雨模様になりそうとの予報が出てることもあり、早めに下山します。
ゲートまで戻ってきて、木野田さんが施錠し、その後、倒木やキノコの多い谷間で、少し叩いてみます。
この場所では多少虫が居ました。

木野田さんはチャイロチビマルハナノミ、オオサビコメツキ、ナガトヒゲヒメハナノミ*、カトウカミキリモドキ、オニツノゴミムシダマシ、キボシルリハムシ、セアカケブカサルハムシ、エゴツルクビオトシブミ*を採集しています。

今坂はキノコの着いた倒木から、オオアオモリヒラタゴミムシ、ハギキノコゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、ムクゲヒメキノコハネカクシ、ヘリアカデオキノコムシ、オオメホソチビドロムシ、ベニモンムネビロオオキノコ、ダルマチビホソカタムシ、コモンヒメコキノコムシ、クロコキノコムシダマシ、モリモトヒメナガクチキ、アカオビニセハナノミ、ヒメコメツキガタナガクチキ、クロホシテントウゴミムシダマシ、ニセビロウドカミキリを採集し、

國分さんは、それ以外に、キンモリヒラタゴミムシ、ルイスコメツキモドキ、ハスオビヒゲナガカミキリ*、ドウガネツヤハムシ、キバラヒメハムシ、セマルトビハムシ*、サカグチクチブトゾウムシを採られています。

(左から、ハスオビヒゲナガカミキリ、セマルトビハムシ)

左から、ハスオビヒゲナガカミキリ、セマルトビハムシ

2b. 大森岳林道

6月7日に、木野田さんの案内で、今坂・國分組と、大塚・斎藤組は、大森岳林道に出かけたことは、先に述べたとおりです。
ゲートの先のヘアピンカーブの先あたりで、私は咲いていたクマノミズキの花を掬ってみましたが、少数の虫がいただけでした。

(花を掬ったあたりの大森岳林道)

花を掬ったあたりの大森岳林道

今坂は花から、ベーツホソアトキリゴミムシ、ヒメアシナガコガネ、ヒラタハナムグリ、コヒゲナガハナノミ、クロツヤハダコメツキ、ムネアカクロジョウカイ、ドウイロムクゲケシキスイ、ヨツモンムクゲキスイ、(仮称)キイクロヒメハナノミ、カトウカミキリモドキ、キイロクチキムシを採集しました。

その後、例の標高600m付近のポイントまで上がり、そこから、下りながら道横をビーティングしました。

國分さんは、アカガネチビタマムシ、ムネクリイロボタル、カタモンミナミボタル、クロミナミボタル、オバボタル、ルイスコメツキモドキ、コクロヒメテントウ、キイロテントウ、オキナワカミキリモドキ、クリノウスイロクチキムシ、マダラアラゲサルハムシ、セアカケブカサルハムシ、ウスグロチビカミナリハムシ*、ナトビハムシ*、キスジヒゲナガゾウムシ、エゴツルクビオトシブミ*、アオヒゲナガゾウムシ*、カシワクチブトゾウムシ、グルーベルカタビロサルゾウムシ*を採られていました。

クロミナミボタルは綾町では多いようですが、福岡県では見た記憶がありません。山口県から屋久島・種子島までいるので、いるのかもしれませんが。

ウスグロチビカミナリハムシ、ナトビハムシ、エゴツルクビオトシブミ、アオヒゲナガゾウムシは、宮崎県で記録されています。たまたま綾町で採れていなかったのでしょう。

(訂正、当初、(仮称)シラホシトゲムネサルゾウムシとしていた種は、的場さんの指摘により、グルーベルカタビロサルゾウムシに変更しました。)

的場さんのご教示によれば、グルーベルカタビロサルゾウムシはカラスザンショウの花に集まるそうです。
本種は宮崎県・綾町共に初記録です。ご教示いただいた的場さんに深謝します。

(左から、クロミナミボタル、グルーベルカタビロサルゾウムシ)

左から、クロミナミボタル、グルーベルカタビロサルゾウムシ

私は、ヒゴシマビロウドコガネ、シロオビチビサビキコリ、クチボソコメツキ、フタイロチビジョウカイ、クロオビセマルヒラタムシ、アミダテントウ、ハレヤヒメテントウ、ツマアカヒメテントウ*、ヒメアカホシテントウ、ヨツボシテントウ、ベニヘリテントウ、チャイロヒメハナノミ、モモキアリモドキ、クロチビアリモドキ、アカバネツヤクチキムシ、トビイロカミキリ、キボシルリハムシ、ヤクカサハラハムシ、アカタデハムシ、オオミスジマルゾウムシ、ガロアノミゾウムシ、カミヤチビシギゾウムシ、クワヒメゾウムシ*、ツヤチビヒメゾウムシ、トサヒシガタクモゾウムシ、ヒメクモゾウムシの一種②、ヒラセクモゾウムシを採りましたが、特筆すべき種もありません。

(大森岳林道の採集ポイント)

大森岳林道の採集ポイント

大塚・斎藤組はゲートの先の、最初のヘアピンカーブから、次のヘアピンカーブまでの間で、虫の多いポイントを見つけたようです。
車を駐め、本腰を入れて、そこで粘ることにして、林道脇と林内で採集されたようです。ライトFITもここに設置します。

斎藤さんは、オオヒメキノコハネカクシ、ホソスジデオキノコムシ、シロオビチビサビキコリ、ヒメクロツヤハダコメツキ、キノコヒラタケシキスイ、ウスオビカクケシキスイ、クズリュウムクゲキスイ、タイワンオオテントウダマシ、オオクチキムシ、アカバネツヤクチキムシを、

大塚さんは、その他に、アオグロヒラタゴミムシ、フタホシアトキリゴミムシ、クロヘリアトキリゴミムシ、マダラクワガタ、オオカンショコガネ、クチボソコメツキ、ヒラタクシコメツキ、ホソベニボタル、クロハナボタル、ベニモンマルケシキスイ、ツキワマルケシキスイ、クロオビセマルヒラタムシ、カタモンチビオオキノコ、ホソチビオオキノコ、キスジテントウダマシ、コクロヒメテントウ、ヨツボシテントウ、クロミジンムシダマシ、ノコギリホソカタムシ、ヒサゴホソカタムシ、キタツツキノコムシ、アカオビニセハナノミ、オキナワカミキリモドキ*、モモキアリモドキ、クリノウスイロクチキムシ、カタモンヒメクチキムシ、オニツノゴミムシダマシ、クロナガキマワリ、

ヒメクロトラカミキリ、ガロアケシカミキリ、ミヤマケシカミキリ*、シマトゲバカミキリ、キボシツツハムシ、マダラアラゲサルハムシ、キカサハラハムシ、ブチヒゲケブカハムシ*、ムネアカオオホソトビハムシ、ヤツボシヒゲナガゾウムシ、シロヒゲナガゾウムシ*、キスジヒゲナガゾウムシ、クロホシメナガヒゲナガゾウムシ、シリジロメナガヒゲナガゾウムシ、メナガヒゲナガゾウムシの一種*、ヒメクロオトシブミ、カシルリオトシブミ、コゲチャホソクチゾウムシ*、カシワクチブトゾウムシ、オビモンヒョウタンゾウムシ、ツバキシギゾウムシ、ツヤチビヒメゾウムシ、トサヒシガタクモゾウムシ、ヒメクモゾウムシの一種②、オビタマクモゾウムシ*、ヒラセクモゾウムシ、アカナガクチカクシゾウムシ、ツツクチカクシゾウムシ、タイワンモンクチカクシゾウムシ、ヒサゴクチカクシゾウムシ、チャバネキクイゾウムシを採られています。

斎藤さんの採集品の内、クズリュウムクゲキスイは平野(2010)に掲載されている稀種で、当初、本州(岐阜・福井)の九頭竜川周辺で見つかったことから付けられた和名です。

平野幸彦(2010)日本産ヒラタムシ上科図説 第2巻 ホソヒラタムシ科・キスイモドキ科・ムクゲキスイムシ科. 61pp. 昆虫文献 六本脚

(クズリュウムクゲキスイ)

クズリュウムクゲキスイ

その後各地で見つかっていて、九州でも数例が見つかり、綾町でも、大森岳林道(笹岡・木野田, 2012)から記録されています。

笹岡康則・木野田毅, 2012. 宮崎県内の甲虫の記録. タテハモドキ, (48): 19-32.

また、タイワンオオテントウダマシは外来種と考えられ、当初、九州南部で見つかり話題になりました。
その後、かなり広範囲に広がっているようで、九州各地で記録されています。

大塚さんの採集品では、カタモンチビオオキノコが注目されます。
本種は従来は本州とトカラ中之島で見つかっていた種ですが、その後、大分県と綾町綾南川(生川, 2018)で見つかりました。

生川展行, 2018. 宮崎県綾町で採集した甲虫の記録. タテハモドキ, (55): 9-12.

(カタモンチビオオキノコ)

カタモンチビオオキノコ

さらに、オキナワカミキリモドキは綾町初です。
本種は、九州本土では宮崎県(日南市南郷町・鵜戸神社)と鹿児島県大隅半島で知られていて、甑島と共に、北限記録になるようです。
今のところ、琉球系の種の中に、同様の分布パターン(大隅半島、宮崎県南部、甑島を北限とする)を示す種が何種も含まれています。

また、メナガヒゲナガゾウムシの一種は今田さんに同定していただきました。
今田さんのご教示によると「伊豆八丈島、トカラ列島、屋久島、九州ほぼ全域、四国の足摺岬、紀伊半島の大塔山から記録されているPhaulimia属の未記載種」と言うことで、下甑島から記録しています(今坂ほか, 2020)。ご教示いただいた今田さんに深謝します。

今坂正一・國分謙一・伊藤玲央・有馬浩一, 2020. 甑島採集紀行2019年夏. KORASANA, (93): 43-108.

(左から、オキナワカミキリモドキ、メナガヒゲナガゾウムシの一種)

左から、オキナワカミキリモドキ、メナガヒゲナガゾウムシの一種

ここは、標高330m程度ですが、ブナ帯とその下部あたりに分布するミヤマケシカミキリも採れていました。

(ミヤマケシカミキリ)

ミヤマケシカミキリ

コゲチャホソクチゾウムシは宮崎県・綾町初記録、シロヒゲナガゾウムシとオビタマクモゾウムシは綾町初記録です。

(左から、シロヒゲナガゾウムシ、コゲチャホソクチゾウムシ、オビタマクモゾウムシ)

左から、シロヒゲナガゾウムシ、コゲチャホソクチゾウムシ、オビタマクモゾウムシ

大塚さんの話では、林道脇から入った谷間に倒木やキノコの着いた枯れ木が多く、特に、ゾウムシ類が多かったそうです。

大塚さんは、他の人との重複種も含めると、この周辺だけで65種を採集されています。
1人1地点で採集した種数としては、今回の調査で、この場所が最も多くの種を得た場所になります。

大塚さんは、よほどこの場所が気に入ったようで、翌6月8日もここで採集されています。

同行の斉藤さんは、ハイイロハネカクシ、キュウシュウオオトラフコガネ、アオハナムグリ、カクムネクロベニボタル、カタモンミナミボタル、ヒメマドボタル*、オオキバチビヒラタムシ、ヒメコブオトシブミ、エグリクチブトゾウムシを、

大塚さんはニセヒメナガエンマムシ、クロツツマグソコガネ、クロビロウドコメツキダマシ、ウドハナボタル、クロヒラタケシキスイ、クロホシチビヒラタムシ、ヒラタコメツキモドキ、クリイロチビキカワムシ*、アトジロサビカミキリ、アトモンマルケシカミキリ、ゴマダラモモブトカミキリ、ニセナガアシヒゲナガゾウムシ、アシナガオニゾウムシを追加し、落ち葉からオチバゾウムシの一種②を採集されています。

このうち、ヒメマドボタルはオオマドボタルの隠蔽種です。
今坂(2008f)において、長崎県多良岳に両種が混生するとして、オオマドボタルとの違いを指摘しました。
その後も、何回か記録しましたが、認知されないままで、未記載種のままです。
本種はオオマドボタルより、むしろ、近畿以東に分布するクロマドボタルに近縁です。
さらに、やっかいなことに地域により、多少とも地域変異がありそうです。

長崎産と鹿児島産が異なるとして、鹿児島産はカゴシママドボタルと仮称しました(今坂, 2008h)。
綾町産はやや中間的ながら、より長崎産(ヒメマドボタル)に近いようです。
宮崎県・綾町共に初記録です。

今坂正一, 2008f. ヒメマドボタル(仮称)の発見(予報). 陸生ホタル研(月報), (5): 2-4.

今坂正一, 2008h. 日本産マドボタル属の研究(予報1)-本土のマドボタル属は何種に分けられるのか-. 2007年度調査研究年報, : 13-28, 陸生ホタル生態研究会.

(綾町産ヒメマドボタル、左から、♂背面、前胸背、腹節腹面、♂交尾器背面・側面)

綾町産ヒメマドボタル、左から、♂背面、前胸背、腹節腹面、♂交尾器背面・側面

また、クリイロチビキカワムシは宮崎県・綾町共に初記録です。

(クリイロチビキカワムシ)

クリイロチビキカワムシ

それより、綾町の記録はあるものの、クロビロウドコメツキダマシとクロホシチビヒラタムシが注目されます。

前者は九州(福岡・宮崎・鹿児島)、屋久島、種子島に分布するコメツキダマシの美麗種、そして、後者は本州、四国、九州の通常、ブナ帯の立ち枯れ樹皮下などに生息する種です。

(左から、クロビロウドコメツキダマシ、クロホシチビヒラタムシ)

左から、クロビロウドコメツキダマシ、クロホシチビヒラタムシ

さらに、6月8日に回収したライトFITで、
斎藤さんはウグイスナガタマムシ、クロヒメヒラタホソカタムシ*、キバネカミキリモドキ、アカモンホソアリモドキ、トガリシロオビサビカミキリを

大塚さんはミヤマクワガタ、ゴホンダイコクコガネ、ツヤエンマコガネ、クシコメツキ、カタモンムクゲキスイ、クロナガキマワリ、ビロウドカミキリを採られています。

(クロヒメヒラタホソカタムシ)

クロヒメヒラタホソカタムシ

以上、大森岳林道エリアでは、233種が確認されました。

つづく