綾南川の採集状況を続けます。
次に、綾南川に向かったのは7月25日です。
「綾町のぬし」とも言える笹岡さんは、この土日は、子供達の昆虫教室が入って、案内できなかったそうです。
21日以降、木野田さんがずっと、勤務の傍ら案内して下さいました。
勤務もあり、そろそろバトンタッチということで、25日は朝から、笹岡さんが綾南川の川中地区を案内して下さることになりました。
午前9時に、綾の大吊り橋付近で待ち合わせすることにして、畑山・國分・今坂の3名と、前日から調査に加わった和田さんの4名で向かいます。
ちょっと早めにセンターを出たので、大吊り橋に着いたのは8時半前、少し早いので、笹岡さんに電話連絡をしようと思いましたが、圏外で駄目。
観光地の大吊り橋の売店付近なら通じるかと思って、駐車場へ行ってみました。
かけてみるとやはり圏外。売店の人に聞くと、吊り橋の入り口付近なら通じるとのこと。
確かにアンテナは立ち、掛けてみましたが、笹岡さんは運転中なのか出られません。
しようがないので、ここまで来た記念に、観光地での記念写真を撮ります。
(大吊り橋入り口付近での畑山さん)
その後、まだ少し時間がありそうなので、大吊り橋への分岐あたりに畑山さんを降ろします。
少し木を叩きながら、花を探して見るそうです。
國分さんと私は、県道を少しばかり戻って、道沿いの草や木の葉を叩くことにしました。
綾では、照葉樹林の奥深く入ることが主で、殆ど、明るい林縁や草地の採集が少ないと思ったからです。
(大吊橋の手前)
道横に広い駐車スペースのある場所に車を駐めると、たまたま、山手の斜面から、滝が流れ落ちています。
その周辺に草木が茂って、湿気も多そうで、虫がいるかもしれません。
(大吊り橋手前の林縁)
斜面の木を眺めると、緑の中にチラホラ深紅の葉が混じっていて、これが、前から教えて貰っていた「コバンモチ」だと解りました。
さっそく、國分さんの長竿を借りて掬ってみましたが、ムネアカチビナカボソタマムシ*が入っただけで、例のチビタマムシは入りませんでした。
この木には、最近見つかった珍品のゾウムシ他、色んな虫が付くそうですが、短時間で、すぐすぐ見つかるわけではなさそうです。
斜面のコアカソなどを叩き、周辺の林縁を叩くと、ヒメコブオトシブミ*や、コウゾチビタマムシ*、シイサルハムシ、キカサハラハムシ*、タイワンツブノミハムシ*、ヒゲナガホソクチゾウムシなどが落ちてきました。
(左から、ムネアカチビナカボソタマムシ、シイサルハムシ)
シイサルハムシなど、北部九州では決してみられない種ですが、宮崎県南部の、宮崎市内や綾町では珍しくはなさそうです。
逆に、上記のように、普通の林縁や草地で見られる種が、かえって、綾町での記録が見られないのは、綾町に来たら、やはり、深い照葉樹林に分け入ってしまうためでしょう。
時間があったら、もう少し道横の藪を叩いていたかったのですが、笹岡さんが到着したので、車で追いかけます。
笹岡さんは、さっそく、川中キャンプ場に案内してくださいました。
(川中キャンプ場での笹岡さんと愛車)
キャンプ場のすぐ横には綾南川が流れており、周辺は、湿気も多く、木々がうっそうと茂っています。
(川中キャンプ場横の樹林と対岸)
皆さんが車から降りたところで、一枚、記念写真。
(川中キャンプ場での記念写真、左から、畑山、國分、和田)
ここから、吊り橋を渡って、対岸へ行きます。
吊り橋からの眺めは、いかにも、深山幽谷といった風情、それでも、この場所で、標高は170m程度しか有りません。
河川敷は大部分が岩盤で、砂礫や砂地の河原があれば、川岸の甲虫もかなり面白いのですが・・・。
(吊り橋から眺めた綾南川)
綾の記録を見ると、川中と、川中神社が混じって書いてあります。
このうち、川中神社は対岸の自然歩道を細流沿いに少し上って、右手の斜面を上がったあたりにあるそうです。
採集者によって、川中の範囲がどこまでなのか、地名の定義はまちまちのようです。
それで今回は、上の県道26号線沿いを綾南川として、そこから、川中キャンプ場に降りてから先は、対岸の川中神社付近も含めて、川中ということにしておきます。
笹岡さんは吊り橋を渡ってから、上流側へ行くか、下流側へ行くか打診されたので、とりあえず、上流側へお願いしました。
自然歩道は、川から少し離れた上部の方を通っているとのことでしたが、川沿いの方が歩きやすいとのことで、川沿いを行きます。
立ち枯れや枯れ木は、そこら中にありますが、ハンマーで叩いても、なかなか虫は落ちてきません。
川沿いを、笹岡さんに従って歩いていきましたが、暑さと湿気で熱が籠もり、汗が止まらなくなりました。
このまま続けると、熱中症になりかねないと判断して、戻ることにしました。
吊り橋近くまで戻って来て、腰掛けてお茶を飲み一服します。
山側を見ると広い台地で、クヌギが生えており、かなり広い空間もあって、虫が飛びそうです。
ここは、昔の集落跡と言うことで、クヌギ林には、立ち枯れも散見されます。
それで、少しやる気が戻り、立ち枯れをハンマーリングし、キノコの付いた立ち枯れは白布を敷いて、スプレーを掛けました。
この周辺は、それまでより虫が落ちてきます。
林縁には、畑山さんが探していたリョウブが2本見つかりましたが、花は既に終わっていました。
2週間か10日前なら、色んな虫が来ていたかもしれず、残念がっていました。
笹岡さんが、「川中神社はこの先にある」と案内しながら、細流沿いに上っていかれました。
しかし、さすがにもう、みんな元気がなくなっていたので、笹岡さんに声を掛けて、車に引き返すことにしました。
その夜、和田さんから川中産として託された四角紙には、ヤマトデオキノコムシ、クロオビセマルヒラタムシ、アカグロムクゲキスイ、クロミジンムシダマシ、コブスジツノゴミムシダマシ、チビコブツノゴミムシダマシ*♂、クロホシテントウゴミムシダマシ、トガリシロオビサビカミキリ、ケシツチゾウムシ*、チビササラクチカクシゾウムシ*が入っていました。
このうち、チビコブツノゴミムシダマシは、本州(紀伊半島)、四国、九州(宮崎都城・鹿児島)、対馬、屋久島などで見つかっています。
♂は頭に立派なU字形のツノを持つ、かっこいい種です。私も1♀を採集しましたが、北部九州では見たことがありません。
(チビコブツノゴミムシダマシ♂♀)
また、チビササラクチカクシゾウムシは、本州(千葉県)、対馬と、九州から沖縄まで分布する種ですが、宮崎県の記録自体もなさそうです。
写真のように、背面全体に、長くて黒い鱗毛を散生する、小型の特徴的なアナアキゾウムシです。
(訂正
本種の分布について、対馬・九州以南のように表現していましたが、中村さんから、千葉県の記録もある事をご教示いただきましたので、訂正しました。ご教示いただいた中村さんにお礼申し上げます。
斉藤明子・尾崎煙雄・宮野伸也・鈴木 勝・斉藤 修・村川功雄・倉西良一, 2017. 東京大学千葉演習林(千葉県南部清澄山系)の昆虫相. 千葉県立中央博物館自然誌研究報告特別号, (10): 61-232.)
(チビササラクチカクシゾウムシ)
國分さんはベーツホソアトキリゴミムシとテントウゴミムシダマシを採集されていましたし、畑山さんもヒラタキイロチビゴミムシ*、アオグロヒラタゴミムシ、セマダラコガネ、コヒゲナガコメツキ、アミモンヒラタケシキスイ、ウスオビカクケシキスイ、コゲチャミジンムシダマシ、ダルマチビホソカタムシ、ニジゴミムシダマシを採られていました。
私の採集品は、次の写真の通りです。
(川中の採集品)
前記、3名の方の採集品以外に、シロウズモリヒラタゴミムシ、キンモリヒラタゴミムシ*、カワツブアトキリゴミムシ、コヨツボシアトキリゴミムシ、クロヘリアトキリゴミムシ、ウスイロヒメタマキノコムシ、クロゲヒメキノコハネカクシ、クロズマルクビハネカクシ、ヒメスジコガネ*、オバボタル、モンサビカッコウムシ、ベニモンマルケシキスイ、クロヒラタケシキスイ、マルガタカクケシキスイ、クリイロムクゲキスイ、コクロヒメテントウ、ベニヘリテントウ*、オオヒラタホソカタムシ、
ノコギリホソカタムシ、コマダラコキノコムシ、ミカゲツツキノコムシ、ミヤマツツキノコムシ*、アカオビニセハナノミ、クロツヤキノコゴミムシダマシ、ルリスジキマワリモドキ、ナガゴマフカミキリ、マエダヤツボシヒゲナガゾウムシ*、イコマケシツチゾウムシ*、ツヤチビヒメゾウムシ*、シロモンカレキゾウムシ*、シロアナアキゾウムシ*、ヒメクチカクシゾウムシが含まれていました。
大部分は、スプレーイングの成果です。
(左から、シロウズモリヒラタゴミムシ、モンサビカッコウムシ、シロモンカレキゾウムシ)
このうち、シロウズモリヒラタゴミムシは、一見、どこにでも多いハラアカモリヒラタゴミムシに似ています。
しかし、前胸後角は鈍角ながら角張っていて、広く丸まる後者とは区別できます。
九州の固有種で、福岡県では英彦山から記録されていますが、県内で採集したことはありません。
宮崎県では綾町の記録があるだけですが、他に採集された標本も見たことがあり、九州南部には少なくないような感じがします。
また、ここで得られたシロモンカレキゾウムシは全体がかなり黒く、通常の個体はもっと全体が明るい色です。
そのため、一見、クロカレキゾウムシを疑いましたが、白紋の位置や形などから本種と思います。
本州、四国、九州に広く分布する種ですが、宮崎県の記録はありません。
この中で、一等、特筆すべきは、オオヒラタホソカタムシです。
一見して、近似のヒラタホソカタムシ類とは異なり、小判型の丸くて平たい体全体に、白ゴマを振りかけたような白い鱗毛が特徴的です。
見たことが無い種であることはすぐ解りました。
私が名付けるなら、ゴマフリ・センベイ・ホソカタムシとでもするところです。
(オオヒラタホソカタムシ)
日本産ホソカタムシ類を全て原色写真で図示された、青木淳一先生の名著、日本産ホソカタムシ類図説を捲っても載っていません。
何だろうと、あちこち探して、やっと、2021年発行のエリトラに載っていた生川さんの論文で見つけたわけです。
当然ながら、笹岡さん採集の、綾南川産がホロタイプでした。
このシリーズ冒頭に示したように、こちらも、新種記載されたばかりの、綾町の特産種です。
前回、紹介したチャイロツツクビコメツキダマシと併せて、綾町産最珍種2種を、短期間の探索行で採集できたことになり、「やったぜ」という気分です。
なんと、ラッキー、なんと、良い照葉樹林であることか、この分では、綾町通いに中毒しそうです。
なお、別行動していたので、どこで採られたのか解りませんが、とにかく川中のどこかで、大塚さんが23日にアカマダラヒゲナガゾウムシ屋久島亜種を採られています。堤内さんから付いてる材を教えて貰って採られたそうです。
(アカマダラヒゲナガゾウムシ屋久島亜種)
この亜種は、上翅の灰黄色の紋が、中央部の合わせ目付近で、黒色部で広く上下に二分されるのが特徴で、従来は屋久島だけで知られていました。
笹岡さんが川中神社から報告されたことで、宮崎県からも知られるようになったばかりで、九州では他に佐多岬から知られるだけのようです。
(訂正
当初、アカマダラヒゲナガゾウムシ屋久島亜種は、九州本土では、初めて綾町から記録されたように書いておりましたが、滋賀県立琵琶湖博物館の今田さんのご教示によると、既に天野(1998)により、鹿児島県佐多岬から記録されていたと言うことで、上記のように訂正しました。ご指摘、ご教示いただいた今田さんに深謝します。
天野昌次, 1998. ムネアカマルカッコウムシ・アカマダラヒゲナガゾウムシの産地の報告について. 二豊のむし, (35): 11-12.)
汗だくになってようやく駐車場に戻って雑談していると、落ち葉の下から、オオゴキブリが這い出してきたので、追いかけて写真を撮りました。
(オオゴキブリ)
すっかり汗をかいたので、改めて車の中でエアコンをかけ、体を冷やしてから、昼食にしました。
笹岡さんは、案内の役目を終えたのと、所用があるとのことで、「もし、夜間採集をされるようなら、また、出てきます」と言いながら帰って行かれました。
その後、4人で記念写真を撮ったのですが、笹岡さんが帰る前に、撮れば良かったと、後悔しました。
(川中での記念写真、左から、今坂、國分、畑山、和田)
その後、県道に戻り、22日に設置したライトFITを回収します。
私は全て道沿いの立ち枯れや倒木が主体でしたが、畑山さんは斜面を降りた下まで設置されていました。
彼の回収は少し時間が掛かりそうなので、その間、和田さん、國分さん、私は道沿いの樹葉などを叩いてみます。
しかし、ほとんど何も落ちてきません。
道沿いに、一見シキミの花に似た、余り虫の来そうにない黄色い花が咲いていました。
もちろん、春に咲くシキミとは時期が違うので、シキミではありません。
虫の来る花が1つも見つからなかったこともあり、この花は届く限り掬ってみました。
しかし、網を覗くとハナノミ1匹入ってなくて、ただ底の方に、小さなゾウムシが1匹だけ入っていました。
2mm足らずと小さすぎて、裸眼では見えないので、帰宅するまでそのままになっていましたが、検鏡してビックリ、見たことのない種です。
(アシブトゾウムシの一種)
頭と前胸、足と翅端が赤褐色で、上翅の大部分が黒褐色のツートンになったこの種は、前肢腿節にトゲがあり、明らかにアシブトゾウムシの仲間です。
この仲間は、日本産だけでも8属24種が知られており、南方にはさらに多くの属と種が分布するようで、今のところ属も種もよく解りません。
しかし、少なくとも国内では知られていないのは確実と思われるので、アカムネアシブトゾウムシ*と仮称しておきます。
綾町に10年以上前から通われている堤内さんに、画像を送ってみたところ、彼も冬季に1個体だけ採集されているそうです。
辻さんにその画像を送って確認して貰って、「未記載種でしょう」と言う返事をもらったとか、この種の正体解明も今後の宿題の1つになりそうです。
その後、つい昨日、和田さんから綾町で採集された甲虫が送られてきました。和田さんは27日までベイトトラップを中心に綾町で採集されたようです。
その詳細は次回、紹介しますが、この中に、7月26日に大森岳林道の白い花から採集された本種2個体が入っていました。
(大森岳林道産のアカムネアシブトゾウムシ)
本種も綾の照葉樹林には広く分布する種のようです。
さらに、7月27日には川中キャンプ場で灯火採集をやられ、採集品はごく少なかったものの、次に示すツツハムシが入っていました。
(ツツハムシの一種)
この種については、堤内さんからも、帰宅直後に、「ムツキボシツツハムシだろうか?」として、写真が送られてきました。
しかし、ムツキボシツツハムシは前胸の地色が橙黄色だし、九州の記録はありません。
一番似ているのはリュウキュウツツハムシで、さらにキボシツツハムシは様々に地域変異と色変わりがあるので、こちらも可能性としては残ります。
リュウキュウは尾節板中央に縦の隆起線があり、分布も沖縄以南であるので、堤内さんに確認して貰うと、隆起線は無いと言うことでした。
堤内さんはいくつか採られていて、♂交尾器を出したら、キボシ、リュウキュウどちらとも違うと言うことなので、この種もどうも未記載種のようです。
(仮称)アヤキボシツツハムシ*とでもしましょうか。
綾町の固有種(暫定)がどんどん出てきますね。
さて、話を25日の午後に戻すと、ライトFITの回収も終わって、雲行きも怪しいので、一旦、センターへ戻ります。
涼みながら、夜間採集をどこでするか相談していたところ、雷と共に恒例のドシャブリの夕立が降ってきました。
午後4時までに止んだら・・・、午後5時までに止んだら・・・と話している間も、雨は降り続いています。
雨が止みそうに無いので、いよいよ、夜間採集はあきらめ、笹岡さんにも中止を連絡しました。
夜は虫談でだべるか、虫の整理をするしかありません。
滅多にない機会とばかり、笹岡さんも駆けつけて、木野田さんも帰宅せずに参加して、畑山、國分、和田、今坂の6名で、虫談義に花を咲かせます。
(センターでのだべり、左から、木野田さん、笹岡さん)
(左から、和田さん、木野田さん)
この数年、コロナでずいぶん長い間、学会も同好会も絶えて無く、虫屋同士の虫談義もままならない状態が続いています。
当然、このメンバーで話すことなど、初めてのことです。
かなり遅い時間になり、笹岡さんが「もう帰らないと」と腰を上げるまで、そして、いいかげん疲れて「寝よう」と言う声が出るまで、この日の虫談会は続きました。
(左から、笹岡さん、畑山さん)
なお、この日の綾南川のライトFIT回収は、私が7基、畑山さんも同じくらいだったはずですが、この後整理できる余裕はなく、簡単にパックして持ち帰りました。
後日、それぞれソーティングして、畑山さんは自身の専門分野のハナノミとコメツキダマシを抜き出した残りを、パックして送っていただきました。
畑山さんのFIT回収品に含まれていたのは38種で、上記に紹介した種を除くと、コキノコゴミムシ、ヒメキノコゴミムシ、アカケシガムシ、クロシデムシ、クロツツマグソコガネ、ムナビロサビキコリ、フトツヤハダコメツキ、クリイロアシブトコメツキ、オオナガコメツキ、ホソツヤケシコメツキ、ヒメホソキコメツキ、ヒラタクシコメツキ、オオハナコメツキ、クロハナボタル、ヒュウガハナボタル*、ウドハナボタル、ミヤマオビオオキノコ、トウキョウムネビロオオキノコ、ナガニジゴミムシダマシ*、コマルキマワリ、カシワクチブトゾウムシ、ナカスジカレキゾウムシ、マルミナガクチカクシゾウムシなどです。
(畑山さんの綾南川ライトFITの成果)
ベニボタル類は私の採集品も含めて、松田さんに同定していただきました。お礼申し上げます。
このうち、松田さんのご教示によると、ヒュウガハナボタルは、中根(1995)により宮崎県野尻町(現・小林市)から新種記載されて以降、採れていない種のようです。
中根猛彦, 1995. 日本の雑甲虫覚え書13. 北九州の昆蟲, 42(1): 41-46.
8月21日にいただいた松田さんのメールは以下の通り。
暫定的に、ヒュウガハナボタルとする、との判断のようです。ヒュウガハナボタルを同定していただき、標本写真を撮っていただいた松田さんに深謝します。
「本種はタイプ産地を基に同定をしましたが、1♂の標本しかありませんのでまだ、種の認定には十分な自信はありません。
ただ、本種がヒメクロハナボタルよりも触角第4節以降各節がやや細長いことと、中根先生が原記載に載せられていた♂交尾器の形状に比較的よく似ていること、前胸両側縁がほぼ平行であることなどでこの標本をヒュウガハナボタルと認定いたしました。
(ヒュウガハナボタル、左から♂背面、♂頭胸部、♂交尾器)
北大所蔵のホロタイプ標本では、前胸周縁は淡色で、畑山氏採集の個体とはやや異なります。
本種を確定するためには、さらなる追加個体が必要と考えております。」
一方、私のライトFITには69種が入っていました。
上記の種をのぞいて、オオアオミズギワゴミムシ、アトオビコミズギワゴミムシ、ハギキノコゴミムシ、コアオアトキリゴミムシ*、コツヤマグソコガネ、コスジマグソコガネ、クリイロコガネ、サクラコガネ、スジコガネ、シラホシダエンマルトゲムシ、フタモンウバタマコメツキ、カクムネクロベニボタル*、ヒラムネホソヒラタムシ、カタベニケブカテントウダマシ、ナガセスジホソカタムシ、ルイスホソカタムシ、ヒサゴホソカタムシ、アバタツヤナガヒラタホソカタムシ、クロチビアリモドキ、
オオクチキムシ、フトナガニジゴミムシダマシ*、モンキゴミムシダマシ、ベニモンキノコゴミムシダマシ、オニユミアシゴミムシダマシ、シワナガキマワリ、ベーツヒラタカミキリ、コゲチャヒラタカミキリ、コバネカミキリ、ゴマダラカミキリ、クロオビトゲムネカミキリ、チビカサハラハムシ、ハイマダラカギバラヒゲナガゾウムシ、ウンモンヒゲナガゾウムシ、アカナガクチカクシゾウムシ、ダルマクチカクシゾウムシ、マツノカバイロキクイムシ*、シイノキクイムシ*などが含まれています。
このうち、オニユミアシゴミムシダマシ、ベーツヒラタカミキリ、コゲチャヒラタカミキリなどは、綾では比較的簡単に見ることが出来るようです。
しかし、久留米周辺の福岡県では、絶対無理で、採集できない種です。
(左から、オニユミアシゴミムシダマシ、ベーツヒラタカミキリ、コゲチャヒラタカミキリ)
また、コツヤマグソコガネとシラホシダエンマルトゲムシ、南方系のウンモンヒゲナガゾウムシとダルマクチカクシゾウムシ、ナラ枯れで、大発生して話題になったルイスホソカタムシも、福岡県の記録はありません。
(左から、シラホシダエンマルトゲムシ、ルイスホソカタムシ)
やはり、同じ照葉樹林が主体と言っても、北部九州と綾町では、甲虫のファウナに相当、隔たりがあるようです。
それから、その1の大森岳林道で述べた、畑山さんによるチャイロコメツキダマシ類ですが、私と畑山さんのライトFIT分を併せると、綾南川では次の7種が採れていました。
- カミコシキオオチャイロコメツキダマシ(仮称)
- オオチャイロコメツキダマシ
- ハチジョウチャイロコメツキダマシ
- アヤオオチャイロコメツキダマシ(仮称)
- ヒメチャイロコメツキダマシ
- ニセコチャイロコメツキダマシ(仮称)
- アマミコチャイロコメツキダマシ(仮称)
大森岳林道とは、微妙に構成が異なりますが、発達した綾の照葉樹林には、全域に、今回綾町で確認された8種全てが生息していると思われます。
ところで、私が綾南川のライトFITで採集した甲虫は、22日に実施した白布を張っての灯火採集の67種より、2種多い69種が採れていました。
不思議なことに、灯火採集とライトFITの共通種は14種のみで、灯火採集のみが53種、ライトFITのみが55種。
ほぼ同数ながら、なぜ、灯火採集とライトFITで、これほどまでに種構成が異なるのか解りません。
考えられるのは、光源の違い(灯火採集は水銀灯、HIDなど、ライトFITはLED)、
設置場所の違い(灯火採集はオープンで見通せる場所、ライトFITは風当たりの弱い林内)、
設置個数の違い(灯火採集は1箇所、ライトFITは数箇所以上)
設置時間帯の違い(灯火採集は日没後2時間程度、ライトFITは終日×数日)などです。
種によって、グループによって、これらのどれかが作用していると思われますが、さて、どの要素が一番影響しているのでしょうか?
どなたか、検証して見られませんか?
つづく