久留米昆蟲研究會より会誌 KORASANA 100号が2023年1月23日に発行されました。
事務局では希望される方にそのKORASANA 100号を3000円で頒布しておりますので、その内容について紹介したいと思います。
KORASANA 100号をご希望の方は、このホームページ左上の「おたより」をクリックして申し込まれるか、あるいは直接、事務局 國分謙一 kokubu1951@outlook.jp
までお申し込みください。
KORASANA № 100. 20230123 目次
祝辞
衆議院議員 鳩山 二郎[ 祝辞 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
久留米市長 原口 新五[ 祝辞 ]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
九州大学農学研究院教授 広渡 俊哉[ 祝辞 ]・・・・・・・・・・・・・3
国立科学博物館動物研究部 野村 周平
[ KORASANA100号記念に寄せて ―昭和の九州北部昆虫界の思い出- ]・・4
会長 岩橋 正[ 会誌100号を記念して ] ・・・・・・・・・・・・・・・5
副会長 今坂 正一[ 会誌KORASANA の100 号から未来に向けて ] ・・・・5
副会長 城戸 克弥[ 会誌KORASANA100号発刊を祝って ] ・・・・・・・・6
事務局長 國分 謙一[ 会誌100号にあたって ] ・・・・・・・・・・・・7
第62 回昆虫慰霊祭の写真 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
報文
佐々木 公隆[ 英彦山山地で採集・撮影した蛾類 ] ・・・・・・・・・・9
編集後記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・166
表紙解説
今回は、佐々木公隆氏の英彦山山地調査で発見され、2022 年に那須義次氏により新種記載されたTetramoera sasakii Nasu, 2022 アカスジクロヒメハマキ の標本写真を表紙写真としてご提供いただきました。
新種発見というものは、どの分類群を研究されている方においても共通して嬉しいことだと思います。お祝い申し上げます。築島
(表紙)
今回は、100号記念誌ということで、常日頃ご支援いただいている衆議院議員 鳩山二郎氏、久留米市長 原口新五氏、九州大学教授 広渡俊哉氏、国立科学博物館 野村周平氏より祝辞を賜りました。
また、岩橋会長以下、副会長の今坂・城戸、事務局長の國分がご挨拶を書いております。
さて、今回は、佐々木公隆会員による「英彦山山地で採集・撮影した蛾類」一編で占められます。
佐々木さんの緒言によると、
「1990 年代から英彦山山地で蛾類の調査をはじめて30 年が経過した。その期間に英彦山周辺の環境も大きく様変わりしている。
以前はどこでも発達していた林床の植物が、近年はシカによる食害で広範囲に消失している。このことにより蛾類の個体数や大きな蛾類の減少が著しくなった。
この期に、これまで採集した蛾類を発表することで英彦山周辺の環境変化を知る材料になればと思い、今回英彦山山地の蛾類をまとめることとした。
今回の英彦山山地の蛾類目録作成では、筆者が採集または撮影した個体だけではなく、故柴原克己氏から生前頂いていた英彦山山地で採集した蛾類のデータと、博多昆虫同好会の会誌 博多虫に掲載されている英彦山の蛾類データも引用した。」
とのことで、30年余にわたって、佐々木さんが英彦山で採集・撮影した蛾、1364種が記録されています。
九州北部の代表的な、そして、九州大学の昆虫研究者の拠点となった山である英彦山の蛾相が知りたい方には、必見の書かと思われます。
佐々木さんによる英彦山周辺のおもな調査地と環境、および、そこで得られた種の説明は以下の通りです。
(英彦山周辺の採集地)
○ 九州大学農学部附属彦山生物学実験施設
英彦山中腹の標高680m の位置にある。照葉樹林と夏緑樹林の混生する絶妙な位置にあり、英彦山の全体域を見渡せる場所である。
多くの著名な昆虫学者が調査研究した場所である。そのため大蛾類だけでなく小蛾類も研究対象となり、多くの新種が発見された場所でもある。
ヒゲナガガ科ではツマモンヒゲナガ、
モグリチビガ科ではヒメキイロモグリチビガ
ハマキガ科ではアカスジクロヒメハマキ、ホソマダラハイイロハマキ、ギンヨスジハマキ、ニセギンボシモトキヒメハマキ、ニセネジロクロヒメハマキ、ナミスジキヒメハマキ、タマヒメハマキ、ドアイウンモンヒメハマキなど、キバガ科ではヒメツマジロマルハキバガ
ツトガ科ではクロエグリツトガ、アサギクルマメイガ(偶産)
大蛾類では、福岡県下で記録の少ないオニベニシタバ・ジョナスキシタバなどのカトカラ、ハイイロキノコヨトウ、アオキノコヨトウ、ヒメスジキノコヨトウなどキノコヨトウの仲間、ウスアオキリガ、エグリキリガなど
南方から分布拡大しているミナミクロモンアオシャク、シロスジクロホソヤガ、ルリモンホソバを採集できた
○ 鷹ノ巣山
鷹ノ巣山山腹830m の位置にある、鷹巣トンネルの両サイドで調査した。
ここは夏緑樹林が広がり、英彦山本体から遠くまで見渡せる場所である。
小蛾類ではハマキガの仲間が多数採集できた。ヨコヒダハマキ、トラフハマキ、ニセコクロヒメハマキ、コモンギンスジヒメハマキ、コゲチャカギバヒメハマキ、サザナミキヒメハマキ、 モトグロギンヅマヒメハマキ、モリウチヒメハマキ、ムモンハンノメムシガ、タマヒメハマキ、ガレモンヒメハマキ、アトフタモンヒメハマキ、コゲチャスソモンヒメハマキ、チャオビマダラヒメハマキなど
大蛾類ではシャチホコガの仲間のクワゴモドキシャチホコ、オオモクメシャチホコ、シロテンシャチホコ、トリゲキシャチホコ、タカムクシャチホコ、イシダシャチホコなど
キリガ科の仲間のシロクビキリガ、アメイロホソキリガ、ニレキリガ、イタヤキリガ、フタスジキリガなど夏緑樹林に生息する種が多く見られる。
○ 別所
英彦山山腹600m の位置にある。英彦山参道において一番賑やかな場所である。
以前はエグリイチモジエダシャク、オオシモフリスズメが見られたが近年は確認できていない。
○ 豊前坊
高住神社駐車場周辺から香春への分れ道(道路標識)の間で、標高800m の位置の国道500 号沿いで数カ所調査した。採集場所の一つである高住神社周辺にはカエデ類・サクラ類が多く、神社の上方にシオジ・ブナ・シデ林からなる素晴らしい夏緑樹林が広がる。
高住神社の湿気の多い石垣ではジャゴケが生育しサンダンキョウヒロコバネが生息する。
夏には、昼行性のナミシャクのシロオビクロナミシャク・シラフシロオビナミシャクがヤマブキショウマの花で吸蜜する。
冬期にはシロオビフユシャク、クロテンフユシャクなどフユシャクの仲間、プライヤオビキリガ、ムラサキミツボシキリガ、アオヤマキリガなどキリガの仲間が採集できた。
○ 銅鳥居(かねのとりい)
英彦山ケーブルカー入口の横にある参道の大鳥居である。鳥居の先に小さな広場があり、外灯やトイレの灯かりに多くの蛾が静止していた。また、車道下のクヌギ林周辺で採集を行った。
クヌギ林周辺では夏にキシタバが樹液に来ているのを観察でき、冬には鳥居横の外灯でクロテンフユシャク、ウスモンフユシャク、マエモンオオナミシャクなどシャクガの仲間、キマエキリガを採集できた。
○ 竜門峡
英彦山低山標高400m の位置にある。彦山川上流域の渓谷で、広いクヌギ林と天然の照葉樹林が見られる場所である。
早春3月、旧しゃくなげ荘の外灯にはオオシモフリスズメを観察できた。
同じ時期、旧渓流沿いの駐車場ではマエモンシロハマキ、ハイイロフユハマキなどハマキガの仲間、シロテンコバネナミシャク、ウスミドリコバネナミシャク、ウスベニスジナミシャクなどシャクガの仲間が見られた。
○ 深倉峡
英彦山山地の西部にある障子ヶ岳中腹、標高650m の位置にある。深い大きな渓谷環境で、照葉樹林と夏緑樹林が複雑に入り混んでいる。渓流が深く浸食して1212 ため岩場の環境も発達している。
小蛾類ではコギンボシハマキ、カゲマダラヒメハマキ、ヤクサザナミキヒメハマキ、ズグロツマキハイイロヒメハマキ、シロツメモンヒメハマキなどハマキガの仲間、クロヒメトガリノメイガ、シロフクロノメイガなどメイガの仲間、その他ズグロコブカザリバ、クロヘリキバガなど
大蛾類ではヒメサザナミスズメ、ノコバフサヤガ、ヒゴキンウワバ、アオキノコヨトウ、ショウブヨトウなどを採集している。
○ 野峠
福岡県側から大分県側に分かれる峠の、500m 西側の伐採地域で標高720m に位置する。伐採しているため見晴らしが良い。国道500 号線の道路下はスギ林が多いが、谷筋周囲には夏緑樹林が広がる。
春にはプライヤハマキ、ゴマダラシロナミシャク、
晩秋にはマエモンオオナミシャクが得られている。
○ 犬ヶ岳
英彦山山地の東部地域の経読林道沿いで、標高1,000m に位置する。林道周辺は夏緑樹林で林道上部にはブナの樹林が広がる。
小蛾類では、ヘリグロメンコガ、フタスジクリイロハマキ、アカオビホソハマキ、ミドリヒメハマキなど
大蛾類では、キブサヒメエダシャク、スカシサン、ハイイロネグロシャチホコ、ハネブサシャチホコ、ウススジギンガなどが採集できた。
1364種の採集・撮影記録と共に、所々に挟んできましたように、氏によって撮影された45ページ、ほぼ1000種余の蛾の写真が掲載されています。