昨年(2015年)、早春からハナムグリハネカクシ類を探索し、久留米昆の会誌 KORASANA84号にその成果を報告しました。
今坂正一(2016)九州産ハナムグリハネカクシ類(予報)-2015年のハナムグリハネカクシ類探訪-. KORASANA, (84): 35-48.
この報告に載せた図版は次の通りです。
A. pollens グループ
ルイスハナムグリハネカクシ Eusphalerum lewisi (Cameron) (図13, 24)
(仮称)ウスキハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 2 (図14, 25)
(仮称)アラハダキイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 1 (図15, 26)
ハラグロハナムグリハネカクシ Eusphalerum solitare (Sharp) (図16, 27)
クロハナムグリハネカクシ Eusphalerum pollens (Sharp) (図17, 28)
サイゴクハナムグリハネカクシEusphalerum saigokuense Watanabe (図18, 29, 19: 褐色型)
(仮称)ヒゴハナムグリハネカクシ Eusphalerum sp. 3 (図20, 30)
B. japonicumグループ
キュウシュウハナムグリハネカクシ Eusphalerum kyushuense Watanabe (図21, 31)
ツクシハナムグリハネカクシ Eusphalerum tsukushiense Watanabe (図22, 32)
キイロハナムグリハネカクシ Eusphalerum parallelum (Sharp) (図23, 33)
報告のpdfを作っておりますので、必要な方は左上にある「おたより」をクリックして請求してください。
1.83Mb程度ですから、メールに添付して送れると思います。
この報告では九州産ハナムグリハネカクシ類として上記10種を記録し、このうち、ウスキ、アラハダキイロ、サイゴク、ヒゴの4 種は九州から初記録です。さらに、ウスキ、アラハダキイロ、ヒゴの3種は未記載種と考えています。
ただし、この報告は、Watanabe(1990)によるレビジョンを下敷きにして、自身で同定し、考察したもので、未だハネカクシの研究者の同定を受けたものではありません。
Watanabe, Y., 1990. A taxonomic study on the subfamily Omaliinae from Japan (Coleoptera, Staphylinidae).Mem. Tokyo Univ. Agr. 31: 57-391.
そのため、さらに標本の収集に努め、正しく専門家の同定をお願いする必要があろうかと考えています。
ということで、ウメの花が咲きハナムグリハネカクシ類が出始める3月中旬から、今年も探索を開始しました。
今年最初に採集したのは、3月17日、久留米市内高良山の奥、耳納山(標高367.9m)で尾根筋のクロキの花から採集したハラグロハナムグリハネカクシです。
(訂正
当初、シキミの花としていましたが、植物に詳しい小原さんに、花の写真を見ていただいたところ、低地に多いハイノキ科のクロキであるそうです。ご教示いただいた小原さんにお礼を申し上げます。)
同時に、このクロキの花にはズグロキスイモドキ、ツバキヒラタケシキスイ、ウスチャケシマキムシ、カワリキスイ Cryptophagus sp.、クロモンキスイ Cryptophagus decoratus、クロノコムネキスイなども集まっていました。
(訂正
トピックを見た亀澤さんから、カワリキスイに使用されていた Cryptophagus variansという学名の種は C. decoratus(クロモン)のシノニムとなっていて、カワリキスイの学名は不明になっているそうです。ということで、カワリキスイ Cryptophagus sp.と表示した方が良いとのご教示を受けましたのでそのように変更しました。ご教示頂いた亀澤さんにお礼申し上げます。)
(左:カワリキスイ、右:クロモンキスイ)
キスイは同定が難しくて、先日、2mmクラブで亀澤さんが図示されたものを参考にさせていただいています。カワリキスイは九州の記録がなさそうです。
その後、北山麓の善導寺(平地)まで降りて、溜め池跡の菜の花上から、やはり多数のハラグロハナムグリハネカクシを採集しました。
同時にいたのはダイコンサルゾウムシとアカバツヤクビナガハネカクシ Liotesba punctiventrisです。後者は春はどこでも飛び回っているようです。
次いで、3月20日、昨年の報告の中で最も確信が薄い、ツクシハナムグリハネカクシを採集して確定したいものと、その原記載にある産地、福岡市曲淵の探索に出かけました。
久留米からは、吉野ヶ里町、神埼市脊振、佐賀市三瀬町、三瀬峠を経由して、1時間半ほどかけて福岡市曲淵に到着しました。
曲淵周辺の国道263号線沿いは、福岡市から佐賀市に抜けるメインルートとあって、連休中日の日曜日のこの日、行楽の車が引きも切らず、周辺の谷や脇道を探してみましたが、土産物屋、レストランなどが軒を連ね、まったく虫の採れそうな場所は見当たりませんでした。
原記載のデータは1963年4月3日ですから、この頃はまだ、一帯が鄙びた山村だったのでしょう。
時期からして、サクラの花で採れたのかもしれません。
原産地ではとても採れそうに無いので、引き返すことにしました。
三瀬まで戻って、山村(標高400m)の道横のウメの花を掬うと、やっと1個体だけ、キュウシュウハナムグリハネカクシがいました。
しかしそれだけで終わりのようで、先を急ぎます。
神埼市脊振に入り、神埼市へ降りていき、犬井谷のちょっと手前のあたりで、道沿いに大きなウメが満開になっていました。斜面の下にも、大きな別の木が2本咲いています。
さっそく掬ってみると、小型で上翅に毛を密生するハナムグリハネカクシが多数集まっています。ここでも、雌雄ともに腹が黒いことから、残念ながらツクシではなく、キュウシュウのようです。
同時に、カクアシヒラタケシキスイ、ムネアカチビケシキスイ、それから、ヒラタケシキスイの一種が集まっていました。
カクアシヒラタケシキスイは佐賀県の記録がなさそうですし、ヒラタケシキスイの一種は種名が解りませんでした。
ご存じの方、ご教示いただければ幸いです。
(左:カクアシヒラタケシキスイ、右:ムネアカチビケシキスイ)
時期が早いのか、まだ、ツクシは無理かもしれないと思いながら、吉野ヶ里町まで降り、サクラの名所の鎮西山(標高200m)の看板があったので、そちらに寄ることにしました。
山頂付近が公園になっていて、看板の脇にユキヤナギが丁度満開です。
本日初めて、この花にキュウシュウハナムグリハネカクシが無数にいました。
他にはクロウリハムシ、キベリチビケシキスイ、フタホシテントウ、チャイロチビマルハナノミくらいで、まだ、虫はごく少なかったのですが、こんなに低いところまでキュウシュウだけがいるのに何となく納得してしまいました。
高良山ではこの標高ではハラグロハナムグリハネカクシばかりですから。
4月2日、今年のサクラは今日が一番の見頃ということで、自宅から車で5分の市内本山町の小高い丘に出かけました。
家族とサクラの下で弁当開きをしながら花見を楽しんでいると、陽光に照らされてフワフワといくつもの虫が飛んでいるのが見えました。
それで、帰宅後、虫取り支度をして取って返すと、サクラとカエデの花を掬い、雑木林の林縁の葉を叩いてみました。
残念ながら市街地が近すぎたのかハナムグリハネカクシ類は見られませんでしたが、得られた虫は以下の通りです。
ヨツモンカメノコハムシとヘリグロテントウノミハムシは近年の侵入種です。
ゾウムシには興味深い種が含まれていて、ハイノキニセサルゾウムシ Hainokisaruzou japonicusとモンアシブトゾウムシ Ochyromera japonicaがいました。
(左:ハイノキニセサルゾウムシ、右:モンアシブトゾウムシ)
このうち、ハイノキニセサルゾウムシは2005年に記載された種で、九州では長崎県の記録だけで福岡県の記録はまだありません。自宅近くの雑木林であっても、まだ興味深い種が見つかるものです。
せっかくの好天に誘われて出てきたので、例の耳納山のクロキの花まで足を伸ばすことにしました。
クロキを掬ってからよく見ると、すぐそばに満開のサクラも咲いていました。
これら両方の花で得られた甲虫は次の通り。
ヒメクロコメツキやケシジョウカイモドキ、ヒゲブトチビケシキスイに加えて、ハナムグリハネカクシ3種が含まれていました。
比較的多かったのは、ハラグロハナムグリハネカクシとキュウシュウハナムグリハネカクシでした。
(ハラグロハナムグリハネカクシ、左:♂、右:♀)
(ハラグロハナムグリハネカクシ♂交尾器、左:背面、右:側面)
(キュウシュウハナムグリハネカクシ、左:♂、右:♀)
(キュウシュウハナムグリハネカクシ♂交尾器、左:背面、右:側面)
中に4♂だけ、小型で無毛、点刻がざらざらしたものが含まれていて、これは昨年、高良山では唯1頭だけ採集し、当初不明種として頭を悩ました種です。
最終的には上記報告で、(仮称)アラハダキイロハナムグリハネカクシとして、未記載種であろうと結論づけた種でした。
(アラハダキイロハナムグリハネカクシ♂)
(アラハダキイロハナムグリハネカクシ♂交尾器、左:背面、右:側面)
自身でもなんとなく、半信半疑でいたこのアラハダキイロが同時に複数個体採れて、やっとその種としての確信が生まれたところです。昨年の宿題が、1つ片付いた気がします。
この日は本山町での空を漂う羽虫の姿に釣られて出てきたので、高良山の尾根道ではカーネットを装着して車を走らせました。
採れた甲虫は次の通り。
大部分は同定不能なヒゲブトハネカクシ、トガリハネカクシ、コガシラハネカクシ、ムクゲキノコムシなどでしたが、同定できた中にズグロセダカガムシ Pacrillum manchuricumと、オオクビボソハネカクシ Stilicoderus signatusが含まれておりました。
前者は九州では鹿児島から記録があるだけで、福岡県では初めてです。後者は高良山では初めて見ました。
(ズグロセダカガムシ、左:背面、右:腹面)
午後はやや雲が多く少し風も出てきていましたので、これが、「穏やかに晴れた午前中なら、さらに多くの興味深い虫達がフワフワ飛んでいたことだろうな」と思いましたが、久しぶりに、家族での花見が楽しめた午後でしたので、まあ好しとすべきでしょう。