今年の九州は、6月上旬に梅雨に入ってから、土砂降りやら、台風やら、荒れた天気が続いています。
その間の、やっと出た太陽の下、7月18日(土)には八女市星野村石割岳(標高941.5m)で、久留米昆蟲研究會の採集例会を開催しました。
石割岳は、福岡県のほぼ南東端に位置し、お茶などで有名な八女市の東部山間地・星野村のほぼ南端、同じく矢部日向神ダムの北側に位置します。
久留米から考えると最も近い山地帯の一部と言えるでしょう。
かつては、この地域には熊渡山(くまどさん)や釈迦岳・御前岳など、ブナ帯を含む自然林があって、さまざまな山地性昆虫なども記録されていますが、戦後、大部分が伐採されて杉林に変わっています。
石割岳も、山頂の一部を除いて大部分がスギ植林地ですが、山頂直下まで舗装された道があり、山頂までのアプローチが簡単なこと、登山口付近は広葉樹雑木などが植栽され、開けた場所もあって採集がしやすいことなどの理由により、灯火採集を主体とした採集例会が計画されました。
石割岳の昆虫については、本会会員の城戸さんが、2000年〜2004年に7回に渡って甲虫類の詳細な採集記録を報告されています。総計で山地性甲虫を中心に843種を記録されています。
城戸克弥(2000)福岡県石割岳の甲虫類[I].北九州の昆蟲,47(1):13-22.
城戸克弥(2000)福岡県石割岳の甲虫類[II].北九州の昆蟲,47(2):149-156.
城戸克弥(2000)福岡県石割岳の甲虫類[III].北九州の昆蟲,47(2):157-161.
城戸克弥(2000)福岡県石割岳の甲虫類[IV].北九州の昆蟲,47(2):165-172.
城戸克弥(2001)福岡県石割岳の甲虫類[V].北九州の昆蟲,48(1):11-18.
城戸克弥(2002)福岡県石割岳の甲虫類[VI].北九州の昆蟲,49(1):17-22.
城戸克弥(2004)福岡県石割岳の甲虫類[VII].北九州の昆蟲,50(2):97-98.
しかし、それ以外の昆虫となるとほとんど皆無で、久留米昆の地元ということもあって2-3年前から、採集会を開こうとの声が上がっていました。
2013年秋にはそのための下見を岩橋会長、築島さん、私で行い、予報的な報告を出しています。
(下見の写真、右から、築島さん、岩橋さん、私)
今坂正一・築島基樹(2013)昆虫相調査地、石割岳の下見を終えて. KORASANA,(81):80.
この中で21種の甲虫を報告しましたが、そのうち9種は城戸さんの報告には含まれておらず、山の感じも好感触を得ました。
2014年、一旦、夏期に採集会が計画されましたが、雨天のために流れてしまいました。
そして今年、満を持しての採集例会となったわけです。
今回は、夜間の灯火採集が主体と言うことで、お昼過ぎから出かけました。
自宅からほぼ1時間で登山口付近の広場(標高650m)に到着。この場所で灯火採集の予定です。
案内板によると、山頂付近の自然林には、ケヤキ、イロハモミジ、ホオノキ、カツラなどがあるようです。
山麓にはシイ、ヤマボウシ、ミズキ、コナラ、ヒメシャラ、トチなどが植栽されたと記されています。
広場にはすでに2台の車が止まっていて、事務局の国分さんの姿が見えました。
もう一人、会員の斉藤さんも早くから来て、山頂まで上がっているようです。
暗くなるまでにはまだ数時間あるので、周辺で採集してみることにしました。
斜面を上がりながら、樹葉などを叩いてみます。
林縁の低木の葉を叩いてみると、ホオノキセダカトビハムシが落ちてきました。
この種はホオノキなどのモクレン科につくハムシですが、付いていた葉はモクレン科ではなさそうです。
アレッと思っていると、今度は、黒いトビハムシが・・・。
こちらも、ホオノキに付くホオノキコミヤトビハムシ Yoshiakia iwatensis Takizawaでした。
この種はまだ九州から正式には記録されていませんが、大分・宮崎両県でも採集しており、今回が福岡県初です。多分、ホオノキがある山地であれば、結構、どこでも見られる種のようです。
見渡してもホオノキは見えませんでしたが、ホオノキ食いが2種同時に見られたと言うことは、近くに生えていたのかもしれません。
林道に上がりながら枯れ木、立ち枯れなどを叩いていると、マルバネコブヒゲカミキリ、ハスオビヒゲナガカミキリ、ビロウドカミキリなどが落ちてきて、樹葉からはクロキモンカミキリ Menesia akemiae 四国,九州が落ちてきました。
この種は、上翅斑紋が茶色っぽくくすんでいることから、黄色紋のクッキリしたキモンカミキリから区別された種ですが、認識されたのが比較的最近であるためか、福岡県内では記録されていないようです。
さらに、キノコの付いた立ち枯れからアカネメナガヒゲナガゾウムシ Phaulimia rufobasis 本州,九州が落ちてきました。
近似のシリジロメナガヒゲナガゾウムシ Phaulimia confinis 本州,四国,九州,対は翅端が広く白くなるのに対して、本種は茶色いままで、区別できます。シリジロメナガは比較的普通ですが、アカネメナガは稀で、福岡県内では記録されていないようです。
さらに、立ち枯れから、見慣れないヒメクモゾウムシの一種も落ちてきました。
この種はミツオビヒメクモゾウムシ Telephae trifasciatusよりやや縦長の体型ですが、上翅基部には小楯板の後方に、黄金色の丸い斑紋が大きく広がっており、既知種には該当しないように思われます。
ご存じの方があれば、種名をご教示ください。
結局2時間余りで、駐車している広場から上、標高差100m程度の範囲で採集した甲虫は次の通りです。
コメツキダマシやハネカクシの一部など、同定できなかったものを除いて、92種が採れていました。
日暮れにはまだ間がありましたが、そろそろ、灯火採集の準備です。
今回は参加できなかった岩橋会長が灯火採集セットを貸してくださったので、みんなで手分けして張っていきます。
セットし終えてから、それぞれ、持参した弁当を広げます。
駐車スペースの下はスギの植林地でしたが、先頃から伐採しているようで、今日もスギ材を満載したトラックが降りていきました。見透しは大変良くなっているようです。
夕食後、私はライトFITを設置しに下の部落周辺まで降りていきました。
水物や、河原にいるものなどを狙ってみようと思ったのです。
3-4分降りたキャンプ場の下あたりの渓流にライトFIT1を、それから1分ほど降りた渓流の堰堤を見下ろす橋横にライトFIT2を、さらに仁田原部落まで降りて、川沿いにある県道57号との分岐あたりのバス停裏にライトFIT3を設置して、灯火採集の場所に戻りました。
午後7時頃、城戸さんが奥さん同伴で見物に見えました。
私に会う所用があったからですが、氏はこの地ではさんざん採集されているので、今日は見るだけで、採集例会の応援団のつもりだったかもしれません。
それでも、点灯時から片付けまでつきあっていただいて、四方山話も大変楽しく、参加いただいてありがとうございました。
午後8時前くらいに点灯、気温も湿度も高く、条件は良好。
(灯火採集点灯開始、左から国分さん、奥が斉藤さん、右は城戸さん)
ぼちぼち虫が来始めてこれならなんとか、と思った矢先に大粒の雨が落ちてきました。
「今日は雨は降らんはずなのに・・・」とぼやきながら、急いで、各人の車に退避。
ちょっと小降りになるまで約20分、車から出て確認すると灯火セットはびしょ濡れでグショグショ、それでも、虫は蛾を中心に次々飛んできます。
本日は蛾屋さんは来ていないのでその点残念でしたが、国分さんがなるべく採集されていたようです。
私は城戸さんと甲虫を見ながら、あれこれつまんで、多少はそれ以外の雑昆虫も採集しておきました。
スクリーンでの灯火採集の成果は次の通りです。
雨のせいで、微小な甲虫はあまり飛来してこず、その点が多少残念です。
それでも、ニセノコギリカミキリ、コクワガタ、ノコギリクワガタ、スジクワガタ、コクロコガネ、ヒゲナガクロコガネ、ヒメスジコガネ、コヒゲナガビロウドコガネ西日本亜種、セスジカクマグソコガネ、オスグロオオハナノミ、オオアオミズギワゴミムシなど、いろいろ採集できました。
いろいろなカミキリモドキに混じって、オオメカミキリモドキ Nacerdes ocularis 本州,四国,九州,屋が1♂飛来しました。
(オオメカミキリモドキ♂)
この種は九州では九州脊梁系の山でしか採れないようで、長崎・佐賀両県の記録はありません。石割岳でも初めてです。
また、ケシキスイとしては大型で前脛節が特徴的なオオキマダラケシキスイ Soronia fracta 北海道,本州,九州,対も1♂が飛来しました。
すでに、城戸さんによって、石割岳から記録されていますが、私は初採集でした。長崎・佐賀両県の記録もありません。
あと、この鯰風のハネカクシ、ルイスクビブトハネカクシ Pinophilus lewisius 本州,九州,伊(三宅,御蔵),屋もなぜか福岡県の記録がないようです。
相変わらずの小雨の中、蛾は盛んに飛来しましたが、甲虫はもう新しいものが来なくなったようで、午後9時半過ぎに、採集を終了しました。帰宅して調べてみると、スクリーンで採集した甲虫は49種に上りました。
それから、国分、斉藤、城戸の3氏と4人で雨でドロドロの灯火採集道具を片付け、国分さんのトラックに積み込みました。それで、採集会は終了、各自帰宅の途につきました。
これらを乾かして後処理をされた国分さん、大変ご苦労様でした。
私の方は、それからさらに、帰りながらのライトFIT回収です。
まず、小渓流の岸辺につるしたライトFIT1です。
ミヤマクワガタとノコギリクワガタ、ナガチャコガネなど11種入っていました。
堰堤上の橋横に架けたライトFIT2には、クロシデムシ、ニセノコギリカミキリ、ハスオビヒゲナガカミキリ、ヒゲナガクロコガネ、ヒメスジコガネなど31種が入っていました。こんな山中でもトックリゴミムシが入っていたのは意外でした。湿地ぽい場所があったのでしょうか。
他に、乾いた河原などに広く見られ、灯火にも良く飛来するアリヅカムシ2種、ナミエンマアリヅカムシ Trissemus alienus 本州,四国,九州,平戸とヒロエンマアリヅカムシ Trissemus cubitus 四国,九州(長崎・佐賀・大分・宮崎)も含まれていました。
このうち、なぜか、♂の触角の先端5節が広がり顕著な特徴を持つヒロエンマの方は、福岡県の記録がありません。
(ヒロエンマアリヅカムシ♂)
最後に、集落近くの河川脇にかけたライトFIT3です。
こちらは、平地の田んぼや河川周辺に多いヒラタドロムシ、フタモンクビナガゴミムシ、ツマアカナガエハネカクシ、上記同様2種のアリヅカムシと共に、狙ったツヤナガアシドロムシ、キスジミゾドロムシ、イブシアシナガドロムシ、アワツヤドロムシの4種のヒメドロムシ類が入っていました。採れた甲虫の種数は35種で、3つのライトFITのうちでは最も多いようです。
これらの大部分が、平地〜低地性の種と思っていましたが、むしろ、水田や用水路など、人為的な環境に適応している種群のようで、そういう環境があれば、標高に関係なく生息できるのかもしれません。
アワツヤドロムシは、一般に、瀬戸内海に流れ込む河川に生息していると考えられていましたが、もう少し広く、西日本各地に分布するようです。それでも、九州では佐賀・長崎両県には分布しないようで、福岡県でも、分布は東半分に偏っている感じがします。矢部川水系では初めての記録と思われます。
以上、今回の石割岳で採集した甲虫は、未同定のものを除いて172種を数えることができました。
このうち、未記載種の可能性のあるヒメクモゾウムシの一種を含めて福岡県初記録6種、石割岳初記録51種です。
斉藤さん、国分さんもそれぞれ採集されているし、甲虫以外のチョウ、蛾、カメムシ、その他の雑虫も極力採集したので、それらも合わせて同定していただいて、記録したいと考えていますので、それなりに、成果のあった採集例会と言えると思います。
参加いただいた斉藤さん、国分さん、城戸さんご夫妻、ありがとうございました。
今後、また採集例会を計画した折りは、さらに多くの会員各位の参加をお願いします。