10年ほどブランクがあったが、2011年に阿比留さんから電話があり、「また、長崎の虫の同定を頼む」とのこと。
阿比留さんは、2009年に心臓病で手術を受けられたそうである。そのリハビリもあり、連日、長崎市白木町の自宅から歩いて登れる彦山周辺に散歩に出かけ、そのついでに甲虫を採集されていたそうで、それらの虫の同定を頼まれたわけである。
阿比留さんは、2009年秋から2010年12月までに、彦山を中心として、愛宕山、甑岩、豊前坊、金比羅岳などで、のべ110回の虫取り散歩に出かけられ、甲虫445種を採集されていた。
報告作成には、標本の受け渡し、文章の相談等々、阿比留さんと会って話すことが必要となり、2011年2月、長崎昆の総会にかこつけて久しぶりに長崎を訪問し、懇親会で楽しく歓談した。
報告には、現地の彦山の様子も知りたいと思ったので、翌日、彦山を案内していただいた。
この様子については、私のホームページにも掲載し、できあがった報告にはこの時の写真も掲載した。
ホームページ
長崎昆総会と阿比留さん採集の彦山産甲虫(その1)
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=122
長崎昆総会と阿比留さん採集の彦山産甲虫(その2)
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=123&viewmode=thread&order=ASC
(彦山山頂、阿比留さんと)
今坂正一・阿比留巨人, 2012a. 長崎市彦山とその周辺の甲虫類(2009-2010) −彦山虫採り散歩で得られた甲虫の季節変動など−. こがねむし, (77): 37-58.
阿比留さんは、シーズン中は、天気と健康状態が許せばほぼ毎日、彦山に出かけられていた。
それも彦山山頂までのほとんど同じコースを同じ時間かけて往復されていた。
採集はほぼビーティングだけで、登山道周辺からそう外れることなく、一様に繰り返されていた。
盛夏の時期は除いて、余り虫のいないと思われる秋も冬も、続けられていた。
虫取りが本来の目的であればこんなことはしないのであるが、阿比留さんの主目的はリハビリの為の散歩であった。
また、阿比留さんは微小甲虫の分類は苦手なので、落ちてくる物は何でも厭わず拾ってこられた。
ということで、ただビーティングして歩くだけの採集が、結果的には、甲虫発生の季節変動を的確に表現できるモニタリング調査になっていた。
この結果から、長崎市周辺の低山地では、種数・個体数ともに、昼間の普通の採集で見られる甲虫は5月後半〜6月前半にピークになり、盛夏は夏枯れでで極端に少なくなり、再び10月後半にやや小さいピークがでることが解る。
阿比留さんは、その後も、2011年には同じく彦山にのべ65日出かけて、361種を採集された。
今坂正一・阿比留巨人, 2012b. 長崎市彦山とその周辺の甲虫類(2011) −彦山虫採り散歩(2)で得られた甲虫の2010年度との比較−. こがねむし, (78): 9-25.
2012年の長崎昆総会の折からは、阿比留さん宅に宿泊をお願いして押しかけることになった。
翌日は、新たに虫取り散歩に加えられた愛宕山を見て回った。
このあと、2014年まで、このことは恒例行事になった。
2012年度は彦山に23日出かけて234種、愛宕山に24回出かけて202種、北浦に36日出かけて222種採集されている。
今坂正一・阿比留巨人, 2014. 長崎市彦山とその周辺の甲虫類(2012) −彦山虫採り散歩(3)と新たな2カ所ほかで得られた甲虫−. こがねむし, (79): 34-61.
2012年の秋以降は、助手の高見さんと共に、北浦に畑を借りて農業を楽しまれ、そこでの観察を、高見さんと共著で書かれている。
阿比留巨人・高見みち子(2014a)ハッカハムシ採集記−長崎市での140年ぶりの採集−. こがねむし, (79): 29-30.
阿比留巨人・高見みち子(2014b)畑作業の中で多数見つかったスジビロウドコガネ. こがねむし, (79): 3-4.
ということで、2013年の長崎昆総会の折は、阿比留さんに北浦を案内していただいた。
2013年度も愛宕山と北浦で虫取り散歩を続けられており、その成果は、先日長崎昆会誌に、阿比留さんと連名で投稿した。
2014年度も愛宕山と北浦で虫取り散歩を続けられたはずで、2月の総会時には、他の数人と共に野母崎にサタサビカミキリ探索に出かけた。皆で斜面を上り下りして、幼虫の材を探した。
そして、樺島の池にも転戦し、ゲンゴロウ類やゴミムシ類を探した。
この時はまだ、阿比留さんは元気だった。
7月初め、野母崎にサタサビカミキリ探索に出かけた。2月の材から誰も羽化させることができなかったので、梅雨時期のこの湿気の中なら、再発見できると思ったからだ。
当然、阿比留さん、野田さんも誘った。しかし、直前に阿比留さんから、ドタキャンの連絡が入った。
体調や年齢云々と色々言い訳をされていたが、「阿比留さんらしくない」と思った。
サタサビカミキリの方は、まさしく、狙ったとおりに43年ぶりに再確認できた。
それを伝えた後、何日かして阿比留さんも出かけて、採集されたらしい。
10月になって、野田さんから阿比留さんが入院されたことを伺った。
突然のことでビックリしたが、どうも、先が無いような話だった。
12月初め、2013年度の愛宕山と北浦での虫取り散歩についての報告を投稿した。
入院中で、面会は無理とのことであったので、阿比留さんには正月前に書面で校正をお願いした。
高見さんからOKの返事をいただき、発行を心待ちにしていた矢先の訃報だっただけに非常に残念である。
阿比留さんは亡くなられたが、来年提出される原稿の共同著者でもあり、まだ、暫くは、阿比留さんの名前は、会誌上で見られることになりそうである。
永年のご厚情に感謝し、ご冥福をお祈りしたい。