4月10日、高良山のFITを回収に出かけましたが、冬虫はもう終わり、春虫はまだ本格的に出ていないという、ちょっとした端境期です。
キノコピットフォールトラップもトビムシだけがいっぱい入っていて、壊れたFITの下だけを使用した改良型に取り替えました。
平地のカエデの花は早々と咲き、例年より1週間〜10日ほど早いようです。
ちょっとすくってみましたが、ケシジョウカイモドキとハラグロハナムグリヨツメハネカクシ Eusphalerum solitare Sharp、ナガサキニンフジョウカイ(Asiopodabrus sp.未記載)などがいただけで、まだ、虫の発生は草花には追いついていないようです。
良い天気の中で、ワラビが沢山出ていたのでおかずに持ち帰ることにしました。
林縁を叩き、ケシマルハナノミ、チャイロヒゲブトコメツキ、アラハダトビハムシを落としましたが、まだまだ虫は少ないようです。
それで、方針を切り替えて、スプレーイングをやってみることにしました。
高良山の南斜面の中腹に、シイ林などかなり良い林沿いに林道が通ってまして、そこを走りながら、立ち枯れやキノコの生えた倒木などを見つけて、スプレーイングをやってみようと思ったわけです。
車道沿いには所々桜の立ち枯れがあり、そのうち、2-3本はカワラタケなどのキノコもついていました。また、林道下の斜面に、ところどころキノコの生えた倒木や、樹皮の剥げかけた立ち枯れなども見られました。
1時間くらい掛けて、立ち枯れ7-8本のスプレーイングをやったでしょうか?
シートの上に落ちてきて、目で見て拾った甲虫が次の写真です。
左下から、オオクチキムシ、アオツヤキノコゴミムシダマシ、マルツヤキノコゴミムシダマシ、ベニモンキノコゴミムシダマシ、ヤマトデオキノコムシ、ヒメクロデオキノコムシ、
上の列左から、ツヤヒサゴゴミムシダマシ、カツオガタナガクチキ、クロオビカサハラハムシ、ヒレルクチブトゾウムシ、ヒメクロコメツキ、クロマルケシキスイ、コヨツボシアトキリゴミムシ、
もう一つ上の列は、カシルリチョッキリ、ボウサンクチカクシゾウムシ、ツツキノコムシ類、オオヒメキノコハネカクシ、アカバツヤクビナガハネカクシ、ネアカクサアリハネカクシ、チビクロモンキノコハネカクシです。
そして、その上に、ツツキノコムシ類とタマキノコムシの一種、アカホソアリモドキ、クワノキクイムシが見えています。
先日から、スプレーイングをちょっとやってみて、目に見えていない虫がかなり落ちてきていることが解ってきました。
(スプレーイングの成果2: 裸眼で見つけられなかった分)
それで、今回は、パッと見て虫と確認でき、毒ビンに確保する虫以外にも、シートに残っている泥やゴミに見えるものを全て容器に回収して帰ることにしていました。
そして、そのゴミを顕微鏡下でソーティングして、見つけた甲虫が次の写真です。
個体数で3-4倍、種数で2倍程度、最初の写真で写ってないものとして、トビイロマルハナノミ、ダルマチビホソカタムシ、平野(2014)によるウエノマルヒメキノコムシ Aspidiphorus uenoi Forrester、チビクビボソハネカクシ、ヒゲブトハネカクシの一種、アリヅカムシの一種、チビハナゾウムシ、チビヒョウタンゾウムシ、ベニモンツヤミジンムシ、多数のキクイムシの一種と、さらに多数のツツキノコムシ類が含まれています。
平野幸彦(2014)日本産ヒメキノコムシ科について. 神奈川虫報, (182): 57-62.
従来は、この後者の写真の分を見過ごして捨てていたわけです。
何ということでしょうか!!!
特に沢山入っているらしいツツキノコムシ類をちゃんと見て、マウントしてみました。
川那部(2003〜2005)を首っ引きで調べてみた結果、なんとか、8種が含まれていたことが解りました。
つまり、
フタオビツツキノコムシ Cis bifasciatus Reitter 本州,四国,九州
ゴマフツツキノコムシ Cis hieroglyphicus Reitter 本州,四国,九州
キタツツキノコムシ Cis seriatopilosus Motschulsky 北海道,本州,四国,九州
チュウジョウエグリツツキノコムシ Ennearthron chujoi Nakane et Nobuchi 北海道,本州,四国,九州,ト宝
ケナガナガツツキノコムシ Nipponocis longisetosus Nobuchi 北海道,本州,四国,九州,屋
カタキバツヤツツキノコムシ Octotemnus japonicus Miyatake 本州,四国,九州,屋
ツヤツツキノコムシ Octotemnus laminifrons (Motschulsky) 北海道,本州,四国,九州(福岡・長崎諫早公園・大分),伊,対,平戸,種,屋,ト(悪),奄,沖縄,宮,石,西,与那
ヒメツヤツツキノコムシ Octotemnus parvulus Miyatake 北海道,本州,四国,九州,南西諸島
の8種です。
マウントした台紙の厚みが4.5mm程度、虫の小ささが際立っています。
このうち、フタオビツツキノコムシ、ケナガナガツツキノコムシの2種は少ないと書かれていますが、その他の種は、普通、極めて普通などと書かれています。全ての種が日本本土に広く分布する種のようで、ホストをちゃんと探せば、結構どこにでもいる種かもしれません。
しかし、当然、こんな風に1度に8種ものツツキノコムシ類を採集し、こんなに多くの個体を一網打尽にしたことは無く、初めての経験です。
さらに、ケナガナガツツキノコムシとヒメツヤツツキノコムシの2種は福岡県の記録がなさそうです。たぶん、体が極端に小さいことと、同定がとても難しいことが記録が少ない理由のようです。
1種ずつ、写真を紹介します。
◎フタオビツツキノコムシ
この種は上翅の2つの黒帯で、同定は容易です。長崎産を見たことが有りますが、自分で採集したのは初めてです。主として暖地に見られる種のようです。
◎ゴマフツツキノコムシ
本種とミツアナツツキノコムシの♂の腹節中央には2-3個の腹孔が有ります。本種は上翅が黄褐色で、不明瞭な黒褐色の紋があることになっていますが、割と全体に黒ずむ事が多く、2種の区別は難しいです。前胸の毛はやや短く、寝ているので光りを当てると、光って見えます。
◎キタツツキノコムシ
本種は上翅の毛が長く、ほぼ列上に並ぶことで、タテスジツツキノコムシ、タイワンツツキノコムシと共に、他の種から区別されます。ただ、この3種の区別が難しいそうで、便宜的に、日本本土産の黄色っぽくて大型のが、タテスジツツキノコムシ、黒っぽくて小さいのが本種、琉球産の小さいのがタイワンツツキノコムシと理解しています。
前種などとも多少似ていますが、前種では前胸の剛毛が寝ているのに対して、こちらは直立しているので、光りの加減では毛が見えにくいことが有ります。
◎チュウジョウエグリツツキノコムシ
頭の両側に有る三角の突起の中央に溝が有り(赤矢印)、体色や、全体に短い剛毛がビッシリ生えていることなどが特徴です。
◎ケナガナガツツキノコムシ
前胸の巻き毛の長い毛と上翅の毛の色が金色一色で有ることで近縁種から区別されます。
◎カタキバツヤツツキノコムシ
体長1.3mm前後。飴色で、♂の左大あごには、斜め上に向かって牙状のトゲが生えていて、一見大あごの先端が二股になっているように見えます(赤矢印)。頭頂付近には一対のコブ状の突起(黒矢印)が有ります。体はツヤがあり、毛はほとんどありません。
◎ツヤツツキノコムシ
体長2mm前後で前種よりかなり大きめ。黒褐色で、若い個体は黄褐色、♂の大あごは左右異形、左大あごは三叉状で大きく、一番上の突起は鋭く長く牙状(赤矢印)、頭頂付近は二つのひさし状に突出し(黒矢印)、先端に毛が生えています。♀は左右の大あごは同形。体はツヤがあり、毛はほとんどありません。極めて普通の種です。
◎ヒメツヤツツキノコムシ
1.1mm前後と、日本産ツツキノコムシ中最小、前胸は光沢が無く、微毛がまばらに生えています。
ということで、だいたい同定できました。
以上の種も♀ではなかなか同定が難しく、雌雄が一緒に採れて、しかもある程度数があって、比較しながら見ていかないと同定は難しいようです。なんと言っても、1mm〜4mm程度の虫ですから、裸眼で見つけるのは、老眼ではまず不可能になっています。
薬を使うと言うことで、多少後ろめたさを感じながら、それでも、多くの人がこの採集法にやみつきになっているのも、今回は十分に納得しました。
川那部 真(2003〜2005)日本産ツツキノコムシ科検索図説I〜VIII. 甲虫ニュース, (142):1-6;(143):1-6; (144):1-6; (145):1-5; (146):1-5; (147):1-6; (148):1-5; (149):13-17.