6月16日に、満を持して大野原に出かけました。
目的は、ハギチビクロツツハムシの♂です。
昨年、6月25日に2回目の大野原行きを果たし、キアシチビツツハムシと勘違いしながら、本種を初めて採集しました。
未知の種と思わなかったため、10個体ほどを採集しましたが、最盛期と思われ、その気になれば三桁でも採集できたと思われるほど、個体数は多かったように思います。
自宅で詳細に調べた結果、初めて、国内で記録のない種と判明し、あわてて♂を探しましたが、すべて、腹節後部に産卵用の凹みを持つ♀であることが判明しました。
また、8月始めにも採集していたので、あるいはと思いましたが、やはり♀でした。
♂交尾器を確認しないと種が確定できないので、昨年度はとうとう未同定種として、仮に、ハギチビクロツツハムシという和名を付けて記録し、正体の解明は、今年に持ち越したわけです。
前回の大野原の報告に書いたように、5月28日時点では、まだマメ科食いのハムシたちはほとんど出現していませんでした。
前置きが長くなりましたが、そんなわけで、6月25日以前の、♂が出てくると思われる日を待ち望んでいたわけです。
大野原に着くと、さっそく、昨年ハギチビクロツツハムシを最初に見つけたマルバハギの群落に直行します。
さっそく、マルバハギを箒で掃いて、ビーティングネットで受けていきます。
サクラサルハムシ、マルキバネサルハムシはかなり個体数が増しています。
いきなり、オオアオホソゴミムシが葉上から落ちてきました。
ススキ以外にも、この時期には、さまざまな草上に這い上がって、捕食しているのでしょう。
同じ捕食者のホソサビキコリも見られました。
マルバハギ葉上には、これからエサとなるハムシ類などが、あふれるほど発生しますので、捕食者はそれらのことをよく知っているのでしょう。
今年は梅雨入りもしたばかりで、シーズンも10日くらいは遅れているようなので、「まだ、時期が早すぎたかな?」、と思いながら、掃いていくと、それでもハギチビクロツツハムシはいました。
多少細っぽいし、足も長く見えるので、「今回は♂が確保できたかな。」と、目的が達せられたと思い、少し余裕が出てきました。
なんとか、生態写真も撮ります。
数は多くありませんが、ぽつぽつ見られ、それでもいる株といる場所は決まっているようです。
その周辺を繰り返し掃いてみます。
結構活発で、ぐずぐずしていると飛び立ってしまいます。
マルバハギから大きな褐色のハムシが転がり落ちて、見るとドロノキハムシです。
マルバハギの合間に丈の低いヤナギが生えていて、それにいっぱい付いています。
図鑑で見ると、ヤマヤナギではないかと思います。
見渡すと、あちこちにこのヤナギが生えていて、ドロノキハムシも沢山います。
2-3個体拾って、また、マルバハギに戻ります。
相変わらず、ハギチビクロツツハムシは時折ポツポツ見られる程度で、どう見ても発生初期と思われます。
ポツリと、微小で毛深い茶色いハムシも落ちてきました。
どうみてもDemotina(アラゲサルハムシ属)です。
この属は、大部分、シイやクヌギなどブナ科の木本で見られ、草原の草(マルバハギ)から落ちてくるとは思いませんでした。
林縁まで100mもないし、クリのひこばえも点在していますから、そちらから来たのでしょうか?
Demotinaは、昨年、クヌギの葉上でも採集し、フタモンアラゲサルハムシ Demotina bipunctata Jacobyとして記録しましたが、思い直すと、あれはどうも、カサハラハムシ Demotina modesta Balyの間違いのようです。
原稿を作った年末の時点では、Demotinaはほとんど理解できていなかったということが、自身でも確認できます。
マルバハギを掃いていくと、次々にDemotinaが落ちてきます。どうも偶然ではなさそうで、葉を囓っているのもいます。
よく見ると、上翅の基部と、その後にある白紋後方に濃色の紋がぼんやりと見えます。
あるいは、タノオアラゲサルハムシかもしれません。
帰宅して検鏡してみると、腹節末端節の側縁のみ、弱い山形の歯状の構造が見られ、手前の2, 3節の側縁は波打つだけで、ちゃんとした歯状にはなっていません。
このことから、フタモンアラゲ種亜群であることは間違い有りませんが、歯状の構造がはっきりしたフタモンアラゲや、タノオアラゲではなさそうです。
頭楯は縦長で、フタモンアラゲに似ていますが、最初の印象で思ったタノオアラゲサルハムシ(頭楯は横長)とは明らかに違います。
もちろん八重山産のクシバアラゲサルハムシ Demotina serriventris Isonoとも違います。
腹節は黄褐色で、丸っこい体形や黄褐色の体色からも、角張って寸詰まり、腹部も含めて全体的に黒っぽいフタモンアラゲと区別できます。
体長は2.5-2.8mm程度で、フタモンアラゲとほぼ同じ大きさです。
特徴的なのは、上翅が全体に半球状に丸まって盛り上がることです。
側面の写真を、この後、林縁で得られたアラゲサルハムシの写真と並べてご覧に入れましょう。
(上:ハギアラゲサルハムシ側面、下:アラゲサルハムシ側面)
後翅も、飛ぶための本来の長さからは多少短くなっているようで、写真のように上翅よりやや長い程度です。
これでは、あまり飛べそうな感じがしません。
(ハギアラゲサルハムシ、左:上翅、右:後翅)
結局、本種は、今のところ、国内産に該当する物が見あたらず、タノオアラゲサルハムシに次いで、仮称ハギアラゲサルハムシ Demotina sp. 2とでもしておく他なさそうです。
「草原には、次々に未知の種がいるものだ」、とつくづく思います。
さらに、マルバハギからはかなり小型のコナライクビチョッキリそっくりな種がいくつも落ちてきて、こちらも活発に歩き、すぐ飛んでしまいます。
コナライクビチョッキリとは違うと思いながら、なかなか同定できないでいましたが、インターネットにオトシブミとチョッキリのサイトを発見し、ここの写真と説明からチビイクビチョッキリであることが判明しました。
マルバハギ上では、様々な発見がありましたが、林縁も気になっているので、そちらに移動します。
木の葉をビーティングネットに掃きながら移動していくと、葉上から強烈な赤が目に飛び込んできました。
ベニツチカメムシです。
佐賀・長崎では、低山の尾根沿いのボロボロノキで良く見られる種ですが、こんな草原の林縁で見られるとは思いませんでした。
突然、乾いたパンパンという音や、ざわざわという人の話し声が聞こえました。
何かと見回すと、丘の向こうに赤旗が見えます。
どうも、自衛隊の射撃訓練が行われているようです。
大野原に通うようになって、初めて見る赤旗です。
その直前の、ベニツチカメムシの出現が、暗示的です。
あわてて、車に引き返し、場所を変えます。
皆さんも、くれぐれも黄旗や、赤旗が立っている場所には近づかないこと、そして、自衛官の指示には従うことをお奨めします。
いつもの、溜め池間の湿地草原に来て、見渡してみますが、旗も自衛官も見えません。
落ち着いて昼食をし、この周辺を探索してみます。
イネ科の草の間に、黄色い花が咲いていて、ランのようです。
図鑑で調べるとカキランと思われ、陽湿地に生えることになっています。
初めて見るランなので、何かいないか探してみましたが、まったく囓られた跡もありません。
あっちこっちに少数が固まって生えています。
ヤナギの上では、コガネムシの♂が♀を追いかけていました。
ちょうど梅雨の頃に見られ、梅雨明けには見られなくなります。
オオナルコユリの上には、もう虫の姿はありません。
それでも、ずっとさがしていくと、ナガトビハムシも1♀だけ見つかりました。
ホストの方、図鑑を見直したところ、オオナルコユリではなく、アマドコロかもしれません。
実を確認する必要がありそうです。
こちらはもうシーズン終わりのようです。
(補足:植物を教えていただいている小原さんによると、アマドコロだそうです。)
ノアザミの方も、念のため見ていきます。
掃いてみると、ウリハムシモドキ Atrachya menetriesi (Faldermann)がたくさん落ちてきます。
ホストはマメ科などと書いてあり、昨年は、マルバハギで多く見られました。
ノアザミを食べるのかどうかは解りませんが、個体数が多いので、そこら中の草上を歩き回っているのかも知れません。
これだけウリハムシモドキに占領されたら、ササキクビボソハムシも居づらかろう、と思いましたが、1♀だけ見つかりました。
キラッと緑に光る虫がいて、思わず手に取るとルリナガツツハムシです。
今年も本種が出る時期になったようです。
まったく、コガネムシ同様、梅雨の虫と言っても良いようで、梅雨が明けるといなくなってしまいます。
アジア大陸の草原に広く分布する種ということになっていますが、梅雨のない大陸ではどうしているのでしょう。
あちらでも雨期があるのでしょうか?
さっそく、溜め池の向こうの、昨年のルリナガツツハムシの多産地を確認しに行きます。
しかし、まだ少し時期が早いのか、チガヤの穂の白い丸は見られず、メドハギの育ちも悪いようです。
まだまだ発生初期のようで、メドハギから少数個体を確認しただけです。
また、注意してはいますが、今のところ、同じマメ科のマルバハギには、ルリナガツツハムシは見られません。
昨年訪れた6月25日というのは、偶然、本種の最盛期だったのでしょう。
またまた、別の場所に移って、ノアザミを掃いていくと、白い点のあるマメツブ様のものが落ちてきました。
前回見つけたオオシロモンサルゾウムシで、ノアザミを掃いていくと点々と落ちてきます。
本種はホストが不明だったので、目星を付けたノアザミと共に持ち帰り、容器に入れて置いたところ、翌朝、太い葉脈に穴を開けて、髄のようなところを食べている個体を発見しました。
ホストの1つとして、ノアザミを上げて良さそうです。
普段はじっと静止しているので、顕微鏡下でも、写真の撮りやすい虫です。
ところで、「ようやく目的の♂が採れ、これで正体が解明できる。」と、勇んで戻ってきて検鏡してみたところ、ハギチビクロツツハムシのお尻にはすべて産卵用の窪みがあり、またまた、全て♀でした。
前回、姿が見れなかった5月28日からの半月間に、♂が発生して、既に姿を消したとは考えにくいので、あるいは♂はいないのではないかという疑いが生まれました。
ツツハムシ亜科や、Cryptocephalus属内で、♂がいないで♀だけで処女生殖をする種の存在は、今のところ知られていないと思います。
まだ、半信半疑ですが、もしそうなら、それはそれで、かなり面白い発見になるのではないかと思います。
その証明はなかなか難しいですが・・・。
(補足:大野原のハギについて、マルバハギかヤマハギか混乱して、今回の文章も、アップした当初、ヤマハギに変更する旨を書いて、すべて、一旦、ヤマハギと表示しましたが、その後、小原さんに再確認したところ、大野原のものは、マルバハギで良いそうです。ということで、本文中にヤマハギと書いていたものを、すべてマルバハギに訂正しました。ご教示いただいた小原さんに感謝いたします。)