例年、年末に忘年会を開催していましたが、今年は1月23日に、年明けてからの新年会として開催しました。
会場は吉野ヶ里駅近くの吉野ヶ里温泉です。
出席者はアセスメント調査に携わっている虫屋と大学関係者、それに虫屋の警察官・教諭で、今年で4回目です。
温泉(スーパー銭湯)に浸かって、階上で宴会、同じ敷地内で宿泊といういつものパターンです。
出席者は、九大関係者では、比文の細谷さんと横川さん(二人ともクワガタの研究者です)。
アセス関係では、わざわざ加古川から駆けつけていただいた矢代さん(関西ハチ研事務局)、
鹿児島から休日高速1000円で走ってきた塚田さん(鹿児島昆)を始め、
三宅さん(大分昆事務局)、祝さん(本会幹事)、今坂、古川さん(佐賀昆事務局)、
また、アセス会社に勤務されている大城戸さん、西田さん、久村さん、宇木さん、
日田の名物警察官の佐々木さん、長崎県北部の高校教諭の松尾さんの、総勢14名です。
各人各様に、早めに来て、温泉で暖まってから、三々五々会場に集まりました。
佐々木さんは、開口一番、今、興味の中心であるカミナリハムシ属 Altica1の話題です。パソコンを見せ、標本もあれこれ持参されています。
今坂はそれを予想して、照明付の顕微鏡と、若干の標本を用意しておりました。
暮れに松村さんからいただいた北海道産のスジカミナリハムシを見せます。
亜種にされている九州産と違って、なるほど、上翅の側縁には、深い溝と、縦の隆起線があります。いただいたのが♀で、♂交尾器は確認できていませんが、九州産とは亜種というより、完全な別種でしょう。
九州産をスジカミナリと呼ぶのに、どこがスジかと、思っていましたが、なるほど、北海道産はスジに違い有りません。
今年は是非♂も入手したいものです。
(上:スジカミナリハムシ原亜種、下:同、上翅側縁)
松尾さんが、五島宇久島の標本と、オオサルハムシの翅の模型を示し、後翅の開く時の折れ目の順番について説明しました。
上翅のすぐ下のがたたんだ状態、その下が開いた状態です。指導された高校生の研究発表で使用された物だそうです。
実際の発表の要旨は、後で紹介します。
あちこちで、虫の話題に花が咲き始め、騒然としてきました。
(左:佐々木さん、右:三宅さん)
ほぼ、全員そろったので、乾杯をして、
今回はカニ・魚介などの鍋をいただきながら、歓談します。
少々腹を満たしてから、一人ずつ、自己紹介や、好きな虫のことを話します。
(上:矢代さん、下:大城戸さん)
(初参加の、上:松尾さん、下:宇木さん)
なんと、さまざまな本を出版した人が目白押しで、
増補改訂版の「昆虫の図鑑 採集と標本の作り方」の著者の一人、塚田さん、
「日本のクワガタムシ・ハンドブック」の横川さん、
「大分県のカミキリムシ」の三宅さん、
「おまわりさんの標本箱」等々エッセイ集の佐々木さん
それぞれ、自身の本の宣伝をし、持参した人は、即売会を始めました。
購入する人は、著者のサインを求めていました。
互いに、別刷り等を持ち寄って、交換されています。
古川さんからは対馬のツシマキモンチラシなどの、そして、細谷さんからは、昨年出かけられた、トカラ列島のコガネや水性甲虫類の別刷りをいただきました。
今坂は、今年早々に、佐々木さん、北大の松村さんと共に、メーリングリストを使ったハムシの情報交換会(クリ・クラ)を始めましたが、今日出席された方の半数近くは、すでに、この会にも参加していただいています。
この前のトピックに案内を出してますので、興味が有る方はそちらも併せてご覧下さい。
ここには、九州で活発に活動されている方たちが集まっていらっしゃるようです。
10時に一次会は終了し、会場を変えて二次会と成ります。
一次会は三宅さんの音頭でしたが、二次会は最年少の久村さんの音頭で乾杯します。
若いのに、堂々としたご挨拶で、アラフォー世代から、感嘆の声が聞かれました。
引き続き、虫の話に花が咲きましたが、翌日の声を聞いた頃お開きとして、寒い中、宿舎に引き上げました。
(ホテルにたどり着いた、左:今坂、右:佐々木さん)
<高校生の研究紹介>
松尾さんから託された高校生の研究発表のレジメ2編は、大変興味深く、有意義なものでした。
どちらも、文献としてはまだ公表されていませんが、機会が有れば是非公表していただきたいので、その期待を込めて紹介しておきたいと思います。
1.「オオサルハムシの研究」西海学園高校科学同好会 平成19年度長崎県高等学校科学発表大会(H19. 11. 10)
他の文章・図版もすべてそのレジメから引用。
これは、松尾さんが指導されて、発表されたものです。
松尾さんは、2002年に地元の長崎県吉井町(現・佐世保市)五蔵池で、オオサルハムシを発見されました。
(上:オオルリハムシの集合、下:産地である吉井町の位置)
本種は、サルハムシでも最も大型の種の1つで、本州,四国,九州に分布する大陸系の種ですが、当然、この発見まで長崎県内の記録はなく、九州でも福岡県内で平尾台など3ヵ所の分布が知られていた程度で、非常に珍しい種です。
当然、ホストや生態も良く知られておらず、多産地を発見されたことから、生徒達と一緒に調べられた物と思います。
まず、入手可能な図鑑・文献、インターネツトなどから、本種について知られている事柄を網羅しています。
その上で、どのようなことを調べるか、そのテーマが述べられています。
多産地の五蔵池で四季を通じてオオルリサルハムシを観察し、現地の植生の季節的変遷、確認できた他の動物・鳥・昆虫類をあげています。
その結果、本種が生息する五蔵池そのものの環境が大変に貴重な場所であることを強調されています。
次いで、本種の食草を発見され、それが、アオカモメヅルであることを確認されています。
従来は、本種の食草としてシロバナカモメヅルが知られていましたので、第二の本種のホストの記録です。
シロバナカモメヅル自体は変種で、何種かの通称にも使われているようですから、精査が必要と指摘されています。
本種の生態についても、現地での観察と飼育から、観察結果をまとめています。
サルハムシの仲間は、幼生期を土中すごし、落ち葉や根などを食べて生活するとされていて、その観察は困難を極めます。
そのためか、今回の研究でも、幼生期の観察には、成功されていません。
是非、今後、観察方法などを工夫して、チャレンジしていただきたいものです。
一方、飼育により、成虫の行動についてはいくつかの新発見をされています。
産地の五蔵池では、7-8月のみ水が溜まった本来の池の状態になるようですが、それ以外の時期には水が無く、本種の成虫は、年に一度、湛水期以前の4月下旬〜6月下旬に出現し、それ以外の時期には姿を消すようです。
上記のサルハムシ一般の生態からすると、少なくとも土中に産卵されたはずの卵は、7-8月は水底の土中で生息することになりそうで、どの様にして孵化、そして幼虫が生活するのか、非常に興味深いところです。
是非この点も解明して欲しいと思います。
成虫の行動の観察では、かなり興味深いことも発見されています。
つまり、成虫は決して飛ばないそうです。
その機構として、後翅が退化している、あるいは、ちゃんと羽があるのに飛ぶ行動をしない(できない)、の2つの仮説を立てて検証されています。
その説明の小道具として、上に紹介した後翅の模型になるわけです。
後翅は飛ぶのに十分と思われるだけの長さや幅があり、ちゃんと、上手に折りたたまれているにもかかわらず、羽を広げようと言う行動をしないそうです。
模型では、翅脈のどの部分から、どの順番で開くかを実際に検証し、そのとおりに折りたたまれています。
この発想はなかなか面白いと思います。
この、折りたたまれたものを順に解明していく手順と方法は、鈴木邦雄氏による、オトシブミの揺籃の葉の巻き方を、折り紙における山折り、谷折りの手法で説明して検証した研究が有名ですが、これらの翅脈の研究にも応用して、折り曲げ方のタイプ分けをすることで、系統関係などの理解に役立つかも知れません。
ついでに、ヨモギハムシの後翅についても図示されていますが、この図のヨモギハムシでは、折り曲げられる翅脈から先の部分が、かなり貧弱で、太い支脈もかなり省略(退化)されているので、ちょっと、飛べそうにありません。
ハムシでは、完全に後翅が退化して消失し、当然飛べなくなっている種群もたくさん存在しますが、一見、後翅が存在しているのに、あまり飛ぶところを見たことがない種も結構あります。このヨモギハムシなどは、その代表例だと思います。今後、どの程度羽が短く(あるいは面積が狭く)なったら、あるいは、どのていど翅脈が細くなったら飛べなくなるのか、そのあたりの検証も必要かも知れません。
オオサルハムシでは、ほぼ完全と思われる後翅があるのに、それでも飛ばないで、擬死をして、落ちて逃れる、と言うことのようで、その理由として、体にアルカロイド系の毒を保有していて、捕食されにくいから、と結論づけられていますが、さらなる検証が必要なようです。
もう一編、
ハナムグリ類のすみわけについての発表のレジメも預かっていますが、
ちょっと長くなりましたので、
その紹介は次回に譲りたいと思います。