「鈴鹿市の自然」の紹介

常々、ジョウカイボンの同定を依頼されることのある三重県の生川さんの紹介で、鈴鹿市環境政策課より、「鈴鹿市の自然−鈴鹿市自然環境調査報告書−」が送られてきました。

鈴鹿市により3月に発行されたばかりのこの本は、ずしりと重い802ページの本で、試しに重量を量ってみると3.2kg有り、A4版のノートパソコン相当の重さです。

以下に案内チラシを掲載します。鈴鹿市役所に直接出向いて購入されるか、あるいは以下へ電話、ファックス、メールで申し込み、振り込み用紙を送って貰って、代金5000円を払い込めば、着払いでこの本が届くというシステムのようです。
(代金:本代5000円+着払い送料)

鈴鹿市役所環境政策課環境保全グループ
kankyoseisaku@city.suzuka.lg.jp
Tel. 059-382-7954
Fax. 059-382-2214

チラシにもありますように、地形・地質・化石、植物・コケ・キノコ、ほ乳・両生・は虫類、魚・貝・甲殻類、そして、昆虫・クモなど、鈴鹿市の自然系(Nature History)のほぼ全ての分野の、それも、かなり精度の高いデータがぎっしり詰まっていて、全生物種約7700種の目録が採集データを伴って、掲載されています。

平成16年から18年までの3年間余りに実際に調査をした結果をベースにして、文献記録も加え、植物や昆虫などでは、専門家に同定を依頼して、最新の学名を使用してありますので、鈴鹿市の現在の自然史を丸ごと記録した本と言っても過言ではないと思います。

この地域でアセスメント調査を実施されるにあたっては必携の書となることと思います。文献調査はほとんどこの本一冊で大丈夫なので、その点ではものすごく楽チンです。
また、各地のファウナに興味を持たれている方、各同好会の諸氏、地域リスト作成を計画されている方にも、是非とも、一度手にとって熟読して頂きたいと思います。本作りやページ割、最新の学名・和名の確認、文章の書き方に到るまで、色んな面で参考になると思います。

この本では、全て、三重県鈴鹿市域に生息する種を扱っています。生川さんによると、今回の調査は、各分野の専門調査員約70名と、調査観察会に延べ1,000名以上の市民の方々にも協力していただいた点が、大きな特徴だということです。

昆虫類は4312種が記録されています。主要なところでは、甲虫2082種、ガ1037種、チョウ88種、トンボ70種、直翅類95種、ハエ目115種、ハチ類277種、カメムシ目333種です。

本文にも書かれていますが、1つの市町村で2000種を越える甲虫が記録されている例を知りません。私自身がまとめた長崎県の島原半島では、20年かかってようやく1900種余りを記録することができ、お隣の長崎・佐賀県境の多良山系では、嬉野の西田さんと二人でやはり20数年かかって、同様に1900種ほどでした。

鈴鹿市では、それを生川さん始め総勢11名の調査員が3年7ヶ月ほどの短い調査期間で、2000種を超える種を記録されたわけです。当然、ありとあらゆる調査方法を試みられていますが、その調査能力たるやすばらしいものがあります。本文中でも、鈴鹿市に生息する種の70%程度は記録したという記述があり、その自身のほどが伺えます。

甲虫類担当の生川さんが、オオキノコムシを始めとするヒラタムシ上科の専門家であることと、有能な調査員が多く参加されたことで、これほどの結果が出たのだと思います。

注目すべき種として、鈴鹿市と菰野町・四日市市に分布するマヤサンオサムシの固有の亜種(スズカオサムシ)、固有種のシャクダイジンメクラチビゴミムシ、ハバビロコケシマグソコガネ、イチハシシギゾウが記録され、新種と考えられるナガゴミムシの一種、ヒメヒラタホソカタムシの一種、クロチビホソヒラタナガクチキムシ(仮称)などが発見されているようです。

その他、ドウガネアナバケハネカクシ、キソコクロコメツキ、オオシマホソナガクチキ、ハバビロカレキゾウムシ、オオヒョウタンゴミムシ、ウミホソチビゴミムシ、ミヤマダイコクコガネ、カタモンナカチビオオキノコ、ヤマトオサムシダマシなどの記録が注目されます。

今回の調査は、市の環境基本計画の具体的な施策を実行するために必要な基礎資料を得るために計画されており、今後の継続的なモニタリングも考えられているようです。

そう言う意味で、この報告書の昆虫の部分について、作成された鈴鹿市に今後の希望を述べさせて頂きますと、第一に、バランスの点で、甲虫以外の部分にさらに力を入れて頂きたいと思います。
通常、アセスメント調査などで結果を集計しますと、甲虫は全体の35%程度になるのが普通です。つまり、昆虫全体では甲虫の約3倍くらいの種数が生息している計算になるわけです。甲虫の現在の水準に合わせるのでしたら、さらに、市域でそれ以外のガ・ハエ・ハチ・バッタ・カゲロウ・カワゲラなどで、1700種程度は追加可能と言うことになります。

それと、今回は種リスト作成とデータの集積までできたので、今後は、それらを使用しての解析作業が必要になろうかと思います。標高や植生、人為使用など、環境区分ごとに種を整理して、どういう微環境にはどのような微ファウナが存在し、それに人為が加わることで、全体として、どのように変化していくのか、そこのところを分析・整理していく必要が有ろうかと思います。その上での、環境基本計画策定ということに事は進んでいくべきと考えます。

また、特定の大型ほ乳類や、鳥類の存在と、それらに依存する昆虫類の関係など、他にもさまざまな、解析が可能と思います。
今後とも、モニタリングを継続され、市域の自然を把握して行かれるようお願いいたします。

昆虫以外の掲載内容は以下の通りです。

<植物>
群落・植生と植物層相の概要、帰化植物などの説明があり、204枚の植物景観や種のカラー写真が付いています。
植物目録は大部分が上記期間中に確認された物を主としたリストで、2137種が上げられています。

その他、蘚苔類133種、キノコ186種が報告され、注目されるキノコ70種あまりが発生期・場所・種の特徴と共にカラーで図示されています。

<動物>
ほ乳類:海棲種2種・陸棲種26種、マイルカ、ニホンザル、ツキノワグマ、カモシカ、ムササビ、リスなども記録されています。

鳥類:156種。ハヤブサ、オオタカ、クマタカ、オオルリ、コゲラ、キビタキ、エナガ、フクロウ、ササゴイ、ダイサギ、カンムリカイツブリ、トモエガモ、オオバン、カワセミ、シロチドリなど。生態写真23葉。

は虫類:海棲のウミガメなどを含めて14種。アカウミガメが砂浜に時折産卵に立ち寄るそうです。イシガメ、スッポン、ジムグリ、シロマダラ、ヒバカリなど。

両生類:18種。カスミ・ブチ・ヒダサンショウウオ、ヒキガエル、ナガレヒキガエル、ナガレタゴガエル、ナゴヤダルマガエル、モリアオガエルなど。

魚類:淡水・汽水棲を含めて40種。スナヤツメ、ホトケドジョウ、アカザ、アユカケ、メダカ、カワバタモロコ、ギギ、ニッコウイワナなど。

貝類:陸産71種、淡水13種、海産125種。陸産では、ホラアナゴマオカチグサガイ、クチマガリスナガイ、ナガオカモノアラガイなど。淡水ではチリメンカワニナ、コシダカヒメモノアラガイ、イシガイなど。海産ではイチョウシラトリガイ、サビシラトリ、ヒメマスオなど。

甲殻類:52種。オサガニ、アミメキンセンガニ、スベスベオウギガニ、クロベンケイガニなど。

クモ類:337種。三重県内で記録されているクモの種数がこれらを含めても510種ですので、今回の鈴鹿市産リストの精度がいかに高いか解ると思います。
ヤマトカレハグモ、コタナグモ、シノノメトンビグモ、カギフクログモなど三重県初記録種が11種発見されたそうです。

なお、販売部数は500部で、3月16日から販売が開始され、3月22日現在の残部は250部となっているそうですから、購入されます方は早い機会に申し込まれた方が良いと思います。