先日、ホタル類の系統に関するDNA解析の論文が、国際学術雑誌Geneに、名古屋大学の提髪(さげがみ:現・大場)玲子、九州大学の高橋直樹、名古屋大学の大場裕一の3氏により発表されました。
詳細は当ホームページの最新の昆虫の話題のコーナーに掲載していますので、そちらをご覧下さい。
Gene誌は、遺伝子解析にもとづく進化研究の論文掲載を特色とする査読付き国際誌(出版元はオランダのエルゼビア社)であり、世界的な論文検索データベースPubMedからもアクセスすることができます。
Reiko Sagegami-Oba, Naoki Takahashi, & Yuichi Oba, 2007. The evolutionary process of bioluminescence and aposematism in cantharoid beetles (Coleoptera: Elateroidea) inferred by the analysis of 18S ribosomal DNA. Gene (400): 104-113.(PDF)
提髪・大場両氏は、先に、コメツキムシ類についてのDNA分析の論文を、大平仁夫博士と共著でMol. Phylogenet. Evol.誌に発表されましたが、今回の論文は一連の第二弾に当たります。
氏等の目的は、甲虫の中で、生物学的発光機能を獲得したホタル類−コメツキムシ上科が、どのような系統群に属し、進化のどの時点でこれらの形質を獲得したかを解明する点にあります。
以下に、その要約の一部分と、私に関連がある、ジョウカイボン科の分析結果の部分の抄録を掲載します。
要 約
ジョウカイボン科の4つの主要な亜科(ジョウカイボン亜科、コバネジョウカイ亜科、チビジョウカイ亜科、クシヒゲジョウカイ亜科)が、1つのクレードを形成することを示した。
ホタル科の6つの亜科はまとめられて、2つのグループ: Amydetinae + Lampyrinae + Photurinae と、Cyphonocerinae + Luciolinae + Ototretinaeに分類されることを示した。
Drilaster属とStenocladius属は、Ototretinaeのメンバーであることを示した。
これらの結果は、従来の伝統的な分類学に一致しているが、最近発表されたDNAおよび形態にもとづく解析の結果とは異なっている。
3.2. ジョウカイボン科
ジョウカイボン科の単系統性は、これまで何度か否定されてきた。たとえば、Miskimen (1961)はコバネジョウカイ亜科を科へと上げ、ジョウカイボン科から外した。また、BranhamとWenzel (2001, 2003)の系統解析では、ジョウカイボン科の多系統性が示唆されている。
しかし、今回の我々が行った分子系統解析の結果は、ジョウカイボン科の4大亜科であるジョウカイボン亜科、コバネジョウカイ亜科、チビジョウカイ亜科、クシヒゲジョウカイ亜科を含めて、ジョウカイボン科が単系統であること示している(Fig. 1 and Table 1)。
この4亜科の中では、ジョウカイボン亜科とクシヒゲジョウカイ亜科が姉妹群となる(Fig. 2)。同様の結果は、28SリボゾームDNA解析のデータセットからも支持される(データ未掲載)。
ここに示したジョウカイボン科の系統図は、先に発表されているBrancucci(1980; Fig. 4A)による推論とは一致しなかったが、今坂(2004; Fig. 4B)によって推定された系統図とは一致を示した。
図4 Brancucci(1980)による系統図
図5 今坂(2004)および、今回解析した系統図
今坂正一, 2004. ホタル上科の分類に関する最近の進歩. 昆虫と自然, (39): 23-26.