アオハムシダマシ属をめぐって(その5)

日本産Arthromacraアオハムシダマシ属の研究事始め

日本産アオハムシダマシ属Arthromacraの種を最初に記録したのはLewis (1895)で、
Arthromacra viridissima (原産地:宮ノ下、大山、東京、日光、人吉)、
Arthromacra sumptuosa (原産地:日光中善寺)、
Arthromacra higoniae (原産地:肥後の湯山)
の3種を新種記載した。

併せて、Marseul (1876)が記載したLagria decora (原産地:兵庫)を本属に移して
Arthromacra decora (分布:摩耶山近郊の神戸)とし、
日本産を4種とした。

次いで、Kono (1929)は日本産の再検討を行い、上記5種について現在使用されている以下の和名を与えた。
アオハムシダマシArthromacra viridissima、
アカハムシダマシArthromacra sumptuosa、
ヒゴハムシダマシArthromacra higoniae、
アカガネハムシダマシArthromacra decora 、
クロケブカハムシダマシArthromacra robusticeps。

さらに、
ツマアオハムシダマシArthromacra apicalis (原産地:日光)と、
(図は北海道大学に保存されているホロタイプ)

ケブカハムシダマシArthromacra abnormalis (原産地:台湾 阿里山: 当時日本領だった)
の2種を新種記載し、日本産を7種とした。

戦後の研究はNakane博士から

Nakane(1963)により、
アマミアオハムシダマシ Arthromacra amamiana (原産地:奄美大島イカリ)
を新種記載した(図は北海道大学に保存されているホロタイプ)。

さらに、大図鑑において、日本領でなくなった台湾産のケブカハムシダマシを除いて、
アオハムシダマシ、アカハムシダマシ、アマミアオハムシダマシ、アカガネハムシダマシ、クロケブカハムシダマシの5種を図示し、
さらに本文中で、ツマアオハムシダマシとヒゴハムシダマシの2種に言及し、以上日本産7種を解説した。

その後、Chujo(1985)は、アマミアオハムシダマシを沖縄本島から、
日本新記録のA. abnormalisをウスイロハムシダマシと改称して石垣島から記録し、
甲虫図鑑の中で上記8種を解説した。

A博士による本土産の統合

A博士は、日本産ハムシダマシ科全体の再検討を行い、
Arthromacraの構成種それぞれの種のタイプ標本の外形写真と♂交尾器を示した上で、
アオハムシダマシ、アカハムシダマシ、ヒゴハムシダマシ、ツマアオハムシダマシの4種をA. decoraのシノニムとして処理し、
この種にアオハムシダマシの和名を与えられたことは、先(その3)に述べたとおりである。

Nakane博士の再検討

E氏との約束や、自身の結婚、転居、転職などが重なり、10年余りアオハムシダマシ属の研究を中断したまま放置してしまった。
その間にNakane博士が、国内にさらに複数種が存在するとして、
オオアオハムシダマシ Arthromacra majuscula (原産地:上高地近傍の徳本峠)、
(図は北海道大学に保存されているホロタイプ)

キアシアオハムシダマシ Arthromacra flavipes (原産地:京都市大悲山)
(図は北海道大学に保存されているホロタイプ)

の2種を新種記載された。

さらに、
ニシアオハムシダマシ Arthromacra kyushuensis (原産地:鹿児島県栗野)、
(図は北海道大学に保存されているホロタイプ)

ミヤマアオハムシダマシ Arthromacra kinodai (原産地:宮崎県北川町上祝子)
(図は北海道大学に保存されているホロタイプ)

の2種を記載し、
合わせて、ヒゴハムシダマシArthromacra higoniaeを復活されたが、
アオ、アカ、アカガネの異同については言及されていない(和名は今坂, 2005による)。

以上の結果、文献上に関する限り、その時点で国内に
アマミアオハムシダマシ、
アオハムシダマシ Arthromacra decora、
キアシアオハムシダマシ、
ヒゴハムシダマシ、
ミヤマアオハムシダマシ、
ニシアオハムシダマシ、
オオアオハムシダマシの7種が分布することになった。

私も、同様に、本土産アオハムシダマシ属は一種ではないと考え続けており、Nakane博士の考えを支持して、今坂(2001)において長崎県島原半島よりアカハムシダマシ、ミヤマアオハムシダマシ、ニシアオハムシダマシの3種を記録し、引き続き、今坂ほか(2002)において、長崎・佐賀県境の多良岳よりアカハムシダマシとニシアオハムシダマシの2種を記録した。
この状態が、私の研究のスタートラインとなった。