最新ハムシ事情図説6 カサハラハムシ属紹介1 (再録)

本トピックは2010年3月にアップしたものの再録です。

ホームページを始めて17年目になりますが、さすがに、システムも古くなり、セキュリティの脆弱性が指摘されたので、今年(2023年4月)にリニューアルしました。それ以前に、約半年かけて、以前のトピックも移動させたのですが、なぜか、本トピックは消滅しているようです。と言うことで、ここに復活させます。今後とも、ご利用いただければ幸いです。

今回から、2度に渡って、日本産カサハラハムシ属(Demotina)の紹介をしたいと思います。

Demotina属の種は難解で、私自身これまで、同定できるのはほんの一部でした。

メーリングリストを使用したハムシの情報交換会クリ・クラのメンバーから、同定依頼を受けて、初めて本格的に調べ始めました。
幸い手元に、いくらかのパラタイプと、ほぼ全種の同定ラベル付きの標本を所有していましたので、属内の他の種も含めて、一通りは区別できることが解り、その結果をクリ・クラ上で紹介しました。

ここに、その内容について絵解き検索の形に直して転載したいと思います。
本属の同定と生態研究などの一助になれば幸いです。

紹介を始める前に、この難解な種群の研究を遂行され、日本産の大部分を解明された礒野昌弘氏に敬意を表します。あわせて、貴重なパラタイプを始め、ほぼ全種の同定ラベル付きの標本を、戻して頂いたことについて、礒野氏に心よりお礼を申し上げます。

今までは、貴重な標本をただ保管していただけでしたが、おかげさまで、なんとかご厚意に報い、標本を生かすことが出来たのではないかと考えています。

なお、木元・滝沢(1994)のハムシ図鑑において、Demotinaの属和名として使用されている「カサハラハムシ」というのは、大野さんの解説(日本産ハムシ科名彙: 1971)によりますと、本来は、キカサハラハムシ(この後に紹介)のことのようです。ここでは、由来を名和梅吉(1935)に比定していますが、理由は述べていません。
興味のある方は文献を調べてみて下さい。

さて、カサハラハムシ属の紹介の前に、本属のハムシによく似ていて、混同されることの多い2種、キカサハラハムシ、クロオビカサハラハムシと、本属との区別点についてもお知らせしておきます。
これら2種とカサハラハムシ属は以下の検索で区別できます。

A. 背面や上翅には

(図1)

図1

  立った細い剛毛を疎生する→
  キカサハラハムシ Xanthonia placida

(図2)

図2

  湾曲して寝た鱗毛を密生する→Bに進む

B. 前・後肢が、

(図3)
  

図3

中肢より肥大し、
  腿節前縁の歯状突起も巨大化する→
  クロオビカサハラハムシ Hyperaxis fasciata

(図4)

図4

  中肢とほぼ同様、
  腿節前縁の歯状突起はごく小さいトゲ状→
  C. カサハラハムシ属 Demotinaへ進む

<種の説明>
○キカサハラハムシ Xanthonia placida Baly
本州,四国,九州,佐,八,三宅,対,五,ト

体形が細長く(写真左)、腿節には明瞭な突起を欠く(写真右)。

(図5)

図5

新鮮な個体は全身白粉に被われ、体色は黄褐色、個体によってはさまざまに暗化する。

♂交尾器は以下の通り(左:背面、右:側面)。

(図6)

図6

♀腹部末端節(写真)は、側縁の一部と後縁がやや波打ち小さい突起を備える。

(図7)

図7

本種は、カサハラハムシの語源と言われていますが、そのことは、クワの害虫ということと関係がありそうです。

かつて養蚕が盛んな時期には、本土にはクワ畑がそこら中にあって、ブナ帯以上の寒冷地を除き何処でも見られたものです。
6-8月に採集していますので、夏季だけに成虫が見られるようです。

養蚕の衰退と共に、同じクワを加害するトラフカミキリやムネホシシロカミキリなどはほとんど見られなくなりましたが、本種は現在も、畑脇に残存したわずかなクワや、山林のヤマグワなどがあれば、結構見られるようです。

種小名は柔和な・やさしいなどの意、淡色の体色の形容か・・・。

○クロオビカサハラハムシ Hyperaxis fasciata (Baly)
本州,四国,九州,対,壱,平戸,天草,甑,屋

体型は幅が広く、ガッシリしていて(写真左)、前・後肢が、中肢より肥大し(写真右)、腿節前縁の歯状突起も巨大化する。

(図8)

図8

木元・滝沢図鑑で、「体背面には細い剛毛と幅広い鱗状のものが密生する」と書かれていますが、細い剛毛は観察できませんでした。

上翅鱗毛は、白黄色~褐色~暗褐色と、複数の色の毛が見られ、それらの配置と、上翅のベースの色との複合で斑紋(黒帯)が形成される(写真)。

(図9)

図9

♀の腹部末端3節の側縁には、歯車のような四角な歯が一定間隔で並び(写真上)、末端節中央部分(写真下)には、三角に尖った歯状突起が、剛毛と互い違いに、ノコギリの歯のように並ぶ。

(図10)

図10

今のところ確認したものは♀のみ。

腿節とトゲの肥大以外は、Demotina属の特徴も大部分あてはまるので、同じ属に入れても良いような気もします。

本種は、海岸から山地まで、常緑~落葉の広葉樹林の葉上で広く見られる種ですが、ブナ帯まで上がると見られないようです。

ホストは、図鑑ではナラ類とされていますが、九州では主にアラカシ・クヌギ・コナラなどの葉上で見られます。もちろん、これらの樹種が混じる他の樹木の葉上でも見られます。

単独で落ちてくることが多く、あまりまとまった個体数が一度に採れることはないようです。
林床の落葉中で成虫越冬をするようで、8月を除くほぼ年中成虫を採集しています。

種小名は、帯状のの意、上翅のクロオビのこと。

<日本産カサハラハムシ属>

さて、ここから本題のDemotina属です。

Isono(1990a, b)の総説と、その引用である木元・滝沢(1994)のハムシ図鑑の記述を参考に紹介してみます。

Isono, M., 1990a. A revision of the genus Demotina (Col., Chrysomelidae) from Japan, the Ryukyus, Taiwan and Korea. I. Jap. J. Ent., Tokyo, 58(2): 375-382.

Isono, M., 1990b. A revision of the genus Demotina (Col., Chrysomelidae) from Japan, the Ryukyus, Taiwan and Korea. II. Jap. J. Ent., Tokyo, 58(3): 541-554.

木元新作・滝沢春雄(1994)日本産ハムシ類幼虫・成虫分類図説. 539pp. 東海大学出版会.

なお、Isono(1990a, b)は、種を区別する重要な要素の1つとして、雌の受精嚢の形を使用していますが、観察が難しいのと、ハムシ図鑑でも引用されていないので、その記述については省略しています。

日本産Demotina属は、次の3種群に分けられています。

  1. オオアラゲ(major)種群
  2. マダラアラゲ(fasciata)種群
  3. カサハラ(modesta)種群

これらは以下の検索表で区別されます。

C. ♂の翅端会合部が

(図11)

図11

  側縁部分よりはやや鋭角的に、それも、
  ほんの少し(後方ではなく)下方へ、
  突出する。

(図12)

図12

  ♀は肩部から翅端にかけて、
  上翅側縁と平行な隆起条(角張った稜)を備える。
  
(図13)

図13

  中~大型(体長: 3.5-4.2mm)で、
  雌雄共に触角と肢が長く、 
  細長くスマートな体形→Eへ進む
  1. オオアラゲ(major)種群

(図14)

図14

  ほぼ直角に近く、少なくとも、
  翅端が側縁部分より下方に
  はみ出すことはない。

(図15)

図15

  ♀は上翅側縁と平行な隆起条を備えない。

(図16)

図16

  触角と肢はより短く、体形も太く短い→Dへ進む

D. 腿節の先端前と、脛節のほぼ中央と先端前に、

(図17)

図17

  暗色環部分を持つ→Fへ進む
  2. マダラアラゲ(fasciata)種群

(図18)

図18

  肢は全体赤褐色~黄褐色→G へ進む
  3. カサハラ(modesta)種群

  1. オオアラゲ種群
    オオアラゲ種群は、検索表では、♂の翅端会合部が側縁部分よりは少し後ろまで、尖って突出することで分けられています。
    この特徴は微妙で、それも背面からではなく、後ろから観察しないと良く解りません。
    ハムシ図鑑の検索表では「後方へ鋭く突出する」となっていますが、雌雄どちらの特徴かも説明がなく、ここでまず、つまづいてしまうかも知れません。

実際はこれは♂の特徴で、それも検索の写真(オオアラゲ♂)に示した程度です。
直角よりやや鋭角的に、それも、ほんの少し(後方ではなく)下方へ突出すると言った感じです。
一方、♀では、この特徴はほとんど解りません。

絵解き検索Cのもう一方に、突出しないという台湾産 D. decoratella♂の翅端を図示してみました(日本産では、オオアラゲ種群以外に♂が知られていません)。
こちらはほぼ直角に近く、少なくとも、翅端が側縁部分より下方には、はみ出してはいません。

もう一つ、本種群の♀は肩部から翅端にかけて、上翅側縁と平行な隆起条(角張った稜)を備えるという特徴があります。
この点についても、Isono(1990)も、ハムシ図鑑にも、雌雄どちらの特徴かということは書いてありません。
実際は♀だけの特徴で、♂ではほとんど確認できないようです。

♀の上翅肩部から側縁に平行な隆起線は、ニシアオハムシダマシ群でも確認した特徴で、彼らの♂は交尾の際、この部分に爪をかけて、♀をしっかり把握して交尾を維持する一助にしていました。
オオアラゲ種群でも、そのような用途が考えられますが、観察はしていません。

オオアラゲ種群の特徴は、むしろ、Demotina属内では中~大型で、雌雄共に触角と肢が長く、細長くスマートな体形にあるかもしれません。
上に紹介したキカサハラハムシの体形にもやや似ています。
♀の腹部末端節の後縁中央には、多少尖った細かい歯状突起があります。

日本産は琉球産の2種のみで、♂交尾器と上翅側縁の稜の形で区別できます。
琉球列島中央部の、それぞれ2諸島の固有種ですから、系統的には古いタイプかもしれません。

E. ♀の上翅側縁の稜は

(図19)

図19

  より弱く、肩部から翅端前1/3くらいまで。

(図20)

図20

  ♂交尾器は背面から見て細長く、側面から見て、
  特に湾曲部より先の部分が長い→
  1a. オオアラゲサルハムシ Demotina major

(図21)

図21

  強く、特に後半は稜の内側が圧せられて特徴的。

(図22)

図22

  ♂交尾器はより短く太く、
  特に湾曲の始まる位置がより先端に近いので、
  背面から見るとはかなり太短い→
  1b. ササカワアラゲサルハムシ Demotina sasakawai

<種の説明>
1a. オオアラゲサルハムシ Demotina major Chujo
沖永,沖縄
(図23 左: ♂、右: ♀上翅側縁)

図23 左: ♂、右: ♀上翅側縁

♀の上翅側縁の稜はより弱く、肩部から翅端前1/3くらいまで(写真右)、
♂交尾器は背面から見て細長く、特に湾曲部より先の部分が長い。
側面からの写真で確認すると、湾曲の始まる位置も、次種より基部に近いところから、始まっているのが確認できる。

♀の腹部末端節の側縁は細かく波打ち、後縁中央には目立たない細かい歯状突起が数個ある。

(図24)

図24

種小名は大きなの意。

1b. ササカワアラゲサルハムシ Demotina sasakawai Nakane et Kimoto

(図25 左: ♂、右: ♀上翅側縁)

図25 左: ♂、右: ♀上翅側縁

♀の上翅側縁の稜は強く(写真右)、特に後半は稜の内側が圧せられて特徴的。

♂交尾器はより短く太く、特に湾曲の始まる位置がより先端に近いので、背面からはかなり太短い印象を受ける。

♀の腹部末端節は、後縁中央のみに、三角に尖った歯状突起が、剛毛と互い違いに、ちょうど、目立てをしたノコギリの歯のように並んでいる(写真)。

(図26)

図26

奄美大島の固有種として知られていますが、手元に徳之島産1♀があり、これは新産地になると思う。
います。

ハムシ図鑑の著者の一人、滝沢さんのご教示では、オオアラゲ種群の琉球産の中には、まだ未知のものが存在するそうですから、ご注意下さい。
種小名はササカワさんに因むものでしょう。

  1. マダラアラゲ種群
    本種群は、♀しか確認できませんでした。
    マダラアラゲ種群の特徴は、Demotina属内ではより大型で、腿節の先端前と、脛節のほぼ中央と先端前に、暗色環部分を持つ(写真左)のが特徴です。

(図27)

図27

成熟個体では、腹面の大部分と上翅の基本は黒~黒褐色(写真右)です。

上翅基部後方に丸いお椀状の突起を持っています。

日本産は本土産3種が知られ、上翅の斑紋や、肩部お椀状突起以外の突起物の有る無し、その形状などで区別されます。
♀の腹部末端節の側縁は種によって違いますが、多少なりとも三角形に尖った細かい歯状突起があります。

F. 上翅基部のお椀状突起の後部には

(図28)

図28

  逆八の字状に白色鱗毛を備え、その後方~翅端まで、
  目立った隆起やコブ状突起は無い→
  2a. マダラアラゲサルハムシ Demotina fasciculata

(図29)

図29

  白色鱗毛による白紋は無く、
  上翅後方側方に目立った隆起や
  コブ状突起を装う→Gへ進む

G. 上翅中央後方から上翅端にかけて

(図29)

図29

  短い直線的な隆起条を備える。
  3.8mm前後でより小型→
  2b. コブアラゲサルハムシ Demotina tuberosa

(図30)

図30

  数個のコブ状突起を備える。
  4.2-4.5mmとより大型→
  2c. イマサカアラゲサルハムシ Demotina imasakai

<種の説明>
2a. マダラアラゲサルハムシ Demotina fasciculata Baly
本州(埼玉以西),四国,九州,八,三宅,四沖,対,五,天草,甑,屋

(図31)

図31

3.3-4.2mmと本種群ではより小型。
背面を被っている鱗毛は黄褐色、上翅基部のお椀状突起の後部には逆八の字状に白色鱗毛を備える。その白紋の後縁は波打って、3片状。
白紋の後方~翅端まで、目立った隆起やコブ状突起は無い。

(図32)

図32

と言いつつ、翅端前には窪みやチョツトした突起があり(写真)、このことは後の2種も共通で、マダラアラゲ種群の共通の特徴のようです。

(図33)

図33

腿節のトゲ状突起は、三角形で小さい。

♀の腹節先端3節の側縁には三角形に尖った歯状突起が並び、末端節中央の歯はほとんど目立たない(写真)。

(図34)

図34

本種は、海岸から山地のブナ帯まで広く分布し、シイ・カシ・クヌギ・クリ・コナラなどの葉上に多く、それらが生えている林内では他の樹上でも見られます。成虫で越冬し、ほぼ周年見られるようです。

なお、種小名は繊維の束の意で、鱗毛の白紋の事を示しているのだと思われます。

2b. コブアラゲサルハムシ Demotina tuberosa Chen
本州(神奈川以西),四国,九州(福岡・佐賀・大分・熊本),対

(図35)

図35

3.8mm前後で、前種とほぼ同様。
上翅鱗毛はやや細く、密度も疎。
上翅中央後方から上翅端にかけて、短い直線的な隆起条を備える(写真右)。

腿節にあるトゲ状突起は三角で、他の2種より大きく強壮。

(図36)

図36

♀の腹節先端2節の側縁には、やや尖った歯状突起が並び、末端節中央の歯はほとんど目立たない(写真)。

(図37)

図37

本種は低地では見られず、山地性。常緑広葉樹林帯の上部からブナ帯にかけて、クリ・コナラ・シデなどの葉上で採集したような記憶があります。
熊本県五家荘葉木では、次種と同じ場所で採集しており、当初は混同していました。

なお、種小名は瘤状の突起の意で、和名もそこから付けられていると思います。

2c. イマサカアラゲサルハムシ Demotina imasakai Isono
九州(熊本県五家荘葉木)

(図38)

図38

日本産Demotina属中最も大型で、4.2-4.5mm。上翅幅が広く、ガッシリしていて、体形はクロオビカサハラハムシに似る。

背面を被っている鱗毛は黄褐色だが、かなり細く、密度も疎。
上翅後方の合わせ目側方に大きく丸く突出した突起1つを備え、その斜め前に2個、やや側方に2-3個の小さなコブ状突起を備える(写真右)。

腿節のトゲ状突起は、腿節自体はより太いのに、ほぼ直角の三角形で短く、目立たない(写真)。

(図39)

図39

♀の腹節先端節には、側縁先端半と後縁のみに、三角形に尖った歯状突起が並ぶ。

(図40)

図40

原記載と手元のパラタイプ標本を確認するまで、意識していなかったのですが、本種は九州の中央脊梁・五家荘葉木で、筆者が1984年の6月と8月に採集した9♀だけが知られているようで、他には記録がありません。

手元の標本箱からさらに6月に採集した2個体(♀)を発見したので、都合、11個体が採集されていることになります。

この採集地は、故・大塚 勲氏に案内して頂いた場所で、氏のベースグラウンドの1つでしたから、あるいは九州大学総合研究博物館に所蔵されている大塚コレクションの中に本種が含まれているかも知れません。

五家荘葉木は標高1000m足らず、石灰岩質で白い岩肌がむき出しになっており、ミズナラ、シデ、カエデなど落葉樹を主体とする渓谷です。

最新ハムシ事情図説6 カサハラハムシ属紹介2につづく