第2回甑島調査(夏)の、上甑島6月25日の続きです。
〇牧の辻段(土砂崩れ跡) 87種(*9種) 6月25日から27日
遠目木山の後は、夕方近くなったこともあり、急ぎ、あと何カ所かライトFITを設置することにしました。
まず、遠目木山の林道の延長先、牧の辻段の土砂崩れ跡に向かいます。
土砂崩れ地の倒木や伐採木にライトFITを設置します。
(牧の辻段のライトFIT)
翌26日、ライトFITの回収をしましたが、フタモンウバタマコメツキが10♂と多量に入っていた以外、期待するほど虫は入っていませんでした。
オオアオモリヒラタゴミムシ、ハギキノコゴミムシ、クロヘリアトキリゴミムシ、クシコメツキ、イガラシカッコウムシ、トウキョウムネビロオオキノコムシ、イボタサビカミキリ、ノミヒゲナガゾウムシの一種、ウスモンツツヒゲナガゾウムシ、キスジヒゲナガゾウムシ、ヨシブエナガキクイムシなど14種が含まれていました。
このうち、ノミヒゲナガゾウムシの一種は、現在この種群を研究中の、九大院生の今田君のご教示によると未記載種のようで、光沢がなく背面は白い微毛で毛深く、ただ、エリトラの微毛の色は一様ではなく微かにC字の紋が見えるのが特徴だそうです。太平洋沿岸や九州を中心にあちこちから採集されているそうで、詳細は研究中と言うことでした。
(ノミヒゲナガゾウムシの一種、頭胸部、上翅)
26日と27日にはそれぞれ少し時間を掛けて、林道沿いを叩いてみました。遠目木山の林道への入り口付近は、道沿いの山側斜面が伐採されていて、残念ながら伐採木は大部分搬出されて残っていませんでしたが、それでも他所と違うものが見られました。
アオバアリガタハネカクシ、ビロウドコガネ、ヒラタチビタマムシ、クロツヤハダコメツキ、コシキクチボソコメツキ、ネアカクロベニボタル、クロハナボタル下甑島亜種、カマキリタマゴカツオブシムシ、ムナグロナガカッコウムシ、アカグロムクゲキスイ、ヨツボシテントウ、モンクチビルテントウ、ニジュウヤホシテントウ、ナミアカヒメハナノミ、チャイロヒメハナノミ、トゲナシヒメハナノミ、チャオビヒメハナノミ、オオスミヒメハナノミ、オキナワカミキリモドキ、クビカクシゴミムシダマシ、キマワリ、アトモンチビカミキリ、ビロウドカミキリ、イボタサビカミキリ、ヤマイモハムシ、アオバネサルハムシ、アオガネヒメサルハムシ、クビアカトビハムシ、キスジヒゲナガゾウムシ、ツツノミゾウムシなどが得られました。
このうち、ヨツボシヒメゾウムシ*は伐採木に見られましたが、初めて採集した種です。紀伊半島と九州北部(福岡・大分)、筑前沖の島、対馬の記録があるようですが稀な種のようです。
(ヨツボシヒメゾウムシ、交尾中のカップルと、♀)
ここで得られたクビカクシゴミムシダマシは、全体に小型で細長く、上翅の肩部が張らず狭まり、翅端前で太くなり下ぶくれの翅形、九州本土や本州産とは多少違うように思えました。
(牧の辻段産クビカクシゴミムシダマシ)
ゴミダマ大図鑑では、下甑島産が本土と同じ、クビカクシゴミムシダマシとして掲載されていたので、下甑島産、九州本土産(島原市産)と本州産(京都市産)を並べてみました。
秋田勝己・益本仁雄(2016)日本産ゴミムシダマシ大図鑑. 月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ 9, 302pp.
(クビカクシゴミムシダマシ、左から、下甑島芦浜産、島原市赤松谷産、京都市杉峠産)
京都市産は上翅の肩が張って側縁は平行、四角っぽい翅形、点刻は大きく深く、間室は盛り上がって、クッキリと目立ちます。京都市産→島原産→下甑島産と、より肩の張りは弱くなり、点刻は浅く、間室も平らになるようです。
上甑島産は下甑島産よりさらに、上記の傾向が強まり、肩はすぼまり、翅端に向かって広がり、点刻は小さく間室の盛り上がりもほとんどフラットになります。
あるいは、奄美大島に産するアマミクビカクシゴミムシダマシ Stenochinus oshimanus (Nakane)に似てくるように思えますので、今後、詳細な比較が必要になるかもしれません。
國分さんはキタキチョウとヤマトシジミを見ただけで、チョウは飛ばないので、ビーティングを続け、ムナグロナガカッコウムシ、ベニヘリテントウ、カトウカミキリモドキ、ルリスジキマワリモドキ、フタオビミドリトラカミキリ、キイロタマノミハムシ、ハイイロトゲトゲゾウムシなどを採集されていました。
〇中野(砂防ダムの周辺) 45種(*3種) 6月25日から26日
夕刻になってきたので、あと1カ所、ライトFITを掛けることにして、宿への帰り道に当たる中野のダム堤に寄りました。ダム堤周辺に3個掛けてから、まだ暗くなるまで時間があり、少し周辺を叩いてみました。
(中野のダム堤にかけたライトFIT)
キアシハラグロハネカクシ、ムネスジコガシラハネカクシ、ムナグロナガカッコウムシ、カワムラヒメテントウ、ヨツボシテントウ、モンクチビルテントウ、ナミアカヒメハナノミ、チャイロヒメハナノミ、カノコサビカミキリ、ニセビロウドカミキリ、アカガネサルハムシ、ヨモギハムシ、イチモンジハムシ、ヨツモンカメノコハムシ、チビヒョウタンゾウムシ、コシキオビモンヒョウタンゾウムシ、シロアナアキゾウムシ等が落ちてきました。
國分さんもガサゴソ叩いてましたが、サツマコフキコガネ、ベニヘリテントウ、ニジュウヤホシテントウ以外は今坂と同じものでした。
宿は今回も春と同じ「民宿みかく」。宿に着くなり雨になり、夜半には強く降っていたようです。晴れも今日までで、予報では明日からずっと雨マーク、風も強まりライトFITが飛ばないか少し心配になります。
<6月26日> 上甑島2日目
心配した昨夜の雨も小降りになり、朝からなんとか動けそうで、さっそく宿を出て、中甑のはずれ、湿地のヤナギ林を見に行きました。
〇中甑 5種 6月26日から28日
(中甑、湿地のヤナギ林)
ここにライトFIT3基を掛けましたが、この日も夜半から強い雨と風で、27日にはほとんど吹き飛んでいました。気を取り直して再度設置したのですが、28日の回収でも入っていたのは以下の5種のみ。
キイロチビゴモクムシ、イツホシマメゴモクムシ、コイチャコガネ、アオドウガネ(本土亜種1個体)、カトウカミキリモドキ
湿地性甲虫を期待しての設置でしたが、上甑島では、今のところ湿地らしい種は見つかっていません。
その後、先に上げた中野のダム堤にかけたライトFITを回収して、前回、気になりながら行けていなかった須口池を探索に出かけました。天気も薄日が射し回復してきたようです。
〇須口池 50種(*9種) 6月26日から27日
須口池はなまこ池の手前にある、やはり海岸沿いにある汽水湖です。それでも塩分はなまこ池より少ないようで、岸辺には広くヨシや水生植物が繁茂しています。しかし、池に踏み込んでしばらくスウィーピングしてみましたが、湿地特有の昆虫はほとんど確認できませんでした。
(須口池)
海側には、風衝地特有の海岸性樹林に被われた岸壁が迫り、石ころ海岸が広がっていましたが、やはり、砂浜はありません。
(須口池の海側)
それでも狭いながら、やや砂混じりの海岸植生があり、風が吹く中にあってもハナバチなど訪花性の昆虫が飛び回っています。セリ科の白い花にはアカスジカメムシがビッシリついており、黒いヒメハナノミが沢山とケナガカミキリがいました。この白い花は小原さんに確認したところ、ボタンボウフウだそうです。ご教示いただいた小原 静さんに感謝いたします。
(ボタンボウフウ)
(ケナガカミキリ)
黒いヒメハナノミは、畑山さんのご教示によると、下甑島で3種のクロヒメハナノミとその隠蔽種が含まれていたので(今坂, 2019)、狙っていました。ボタンボウフウには大型のと小型のが沢山いて、てっきり、3種は含まれていると思っていたのですが、小型の1種にはよく見ると銀色の紋があり、フタモンヒメハナノミでした。
それでも、クロヒメハナノミと、(仮称)コシキクロヒメハナノミが4♂1♀含まれていたようで、勿論、上甑島からは初めてです。
(コシキクロヒメハナノミ)
道路沿いにはなまこ池同様、ウバメガシを中心とする低木の林が広がっており、樹葉やこれにからまっているツルの花、枯れ木からも色んな甲虫が落ちてきました。
(道沿いの低木林、掛けたライトFITが見える)
フジチビヒラタエンマムシ、アオドウガネ(本土亜種1個体)、ヒメヒラタタマムシ、コシキクチボソコメツキ、ホソシバンムシの一種、カイモンヒメジョウカイモドキ♀、マルキマダラケシキスイ、ヨツボシテントウダマシ、クロスジヒメテントウ、ツヤナガヒラタホソカタムシ、チャイロヒメハナノミ、トゲナシヒメハナノミ、ホソクビアリモドキ、フタオビミドリトラカミキリ、キイロクビナガハムシ、アカクビナガハムシ、アカガネサルハムシ、セアカケブカサルハムシ、ヨモギハムシ、ヨツモンカメノコハムシ、クロケシツブチョッキリ、サカグチクチブトゾウムシ、リュウキュウハナゾウムシなどが見られました。
このうち、カイモンヒメジョウカイモドキは鹿児島から長崎までの九州西岸沿いに分布する種で、クロスジヒメテントウは琉球から九州西岸を福岡県の離島までと、太平洋岸では紀伊半島や神奈川県の記録も知られています。
(カイモンヒメジョウカイモドキ♀、クロスジヒメテントウ)
また、リュウキュウハナゾウムシはなめこ池に続く発見で、キイチゴ類をホストとする種のようです。当初は、ノイバラにつくイチゴハナゾウムシの未熟個体かと思っていました。琉球から九州西廻りに五島の平島まで分布するようです。
(リュウキュウハナゾウムシ背面、側面)
さらに、ホソクビアリモドキが得られたので、下甑島産と同じくトカラ亜種(今坂, 2019で瀬々野浦、青瀬、瀬尾で記録しました)かと思っていました。しかし、上甑島産は頭や前胸は赤褐色で、♀のため♂交尾器は確認できていませんが、九州本土と同じ亜種のようです。
この種も上甑島と下甑島で亜種が棲み分けているのか、それとも、混生しているのか、今後の調査が楽しみです。
(ホソクビアリモドキ、左から、下甑島産トカラ亜種♂、♂交尾器、上甑島産本土亜種)
國分さんはこの他にクズノチビタマムシ、ホソカッコウムシ、ヒロオビジョウカイモドキ、フタホシテントウ、アトモンマルケシカミキリ、アラゲサルハムシを採り、アオスジアゲハ、キタキチョウ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ルリシジミ、ルリタテハ、イシガケチョウ、ツマグロヒョウモン、コミスジを目撃したものの、ビーティング中でネットを持ってなくて採集はできなかったそうです。
今坂はモンキチョウ1♂を採集しました。
帰りがけに、道沿いにライトFITを設置しましたが、夜半に心配したとおり、翌27日には見事に風で吹き飛ばされていました。
FITはやはり林内の風が当たらない場所に下げないとダメで、特に風には弱いようです。
お昼になったので、また、長目の浜展望所へ出かけて、弁当を広げます。
その後、すぐ近くの、新道の開通で廃道になった旧道沿いで少し叩いてみました。
〇長目の浜展望所 33種(*2種) 6月26日
道横に転がった枯れ枝からは、コシキハネナシサビカミキリが転がり落ちて、こんな低標高の道路沿いでも採れたのは意外でした。下甑島の尾岳など高地の発達した樹林にいるものと思っていたので、上甑島にもいることは知りませんでしたが、調べたらちゃんと記録されていました。
(コシキハネナシサビカミキリ)
アトモンチビカミキリ、ワモンサビカミキリ、ビロウドカミキリ、ニセビロウドカミキリ、アトモンマルケシカミキリなども落ちてきて、このあたりも、ちゃんと探せばそれなりに面白いのかもしれません。この道沿いも北側斜面になりますので。
他に、ハラアカモリヒラタゴミムシ、コヒゲナガハナノミ、ムネアカナガタマムシ、サビキコリ、コシキクチボソコメツキ、ムネアカクロジョウカイ、ミドリサルハムシ、フキタマノミハムシ、イノコヅチカメノコハムシ、ハスジカツオゾウムシ、ヒサゴクチカクシゾウムシ、チャバネキクイゾウムシなどが採れました。
國分さんはアカタテハ(1♀)、イシガケチョウ(2♂)、クロコノマチョウ(1♂)を採集し、キタキチョウ、ヤマトシジミ、ルリシジミを目撃され、甲虫ではクロツヤハダコメツキ、ナガゴマフカミキリ、ハスオビヒゲナガカミキリ、シロスジドウボソカミキリ、コフキゾウムシを追加されています。
(左から、ムネアカナガタマムシ、ハスオビヒゲナガカミキリとシロスジドウホソカミキリ)
それからなまこ池へライトFITの回収に出かけて、遠目木山の近くに戻ってきました。
遠目木山の林道へ入る手前に、左に入る道があり、この道は遠目木山の林道の50m程度低い位置を平行に走っている林道(農道?)の様です。ちょうど農地(道下)と樹林(道上)の境目に当たり、木は小さく、日当たりは良い感じでした。採れた虫がだいぶ違うので、遠目木山の林道と区別する意味で上甑島里と表示します。
〇里 49種(*4種) 6月26日から28日
農道を少し走ると山側に白い花が見えました。ここまで、上甑島では虫の集まりそうな花を見ていなかったので、さっそく探索します。
この花はまだ蕾が殆どでキガシラアオアトキリゴミムシ、フタイロカミキリモドキ、リュウキュウヒメカミキリ、フタオビミドリトラカミキリくらいしかいません。それでも2-3日すれば開花して、もう少し花が開けば虫が集まると思います。この花は帰宅後小原さんに見ていただいて、琉球などでは良く庭木にも使われるモクタチバナであることが解りました。
國分さんは白っぽいシジミを追いかけてネットしてみると、サツマシジミでした。
(モクタチバナと國分さん)
ということで、この花を狙って、27日も里の農道を訪れました。前日と逆方向から来たところ、アワブキに似た満開の白い花を見つけました。昨夜来の雨でグッショリ濡れていましたが、チョウなども吸蜜して飛び回っています。
(満開の白い花)
前日の花より、こちらがさらに虫の集まりが良さそうで、國分さんはさっそく吸蜜に来ていたシジミ類を追いかけています。この花はやはり小原さんによるとチシャノキだそうで、本州(中国地方以西)、四国、九州、から琉球、台湾、中国に分布するようです。
國分さんはヤクシマルリシジミ(1♂1♀)とアマミウラナミシジミ(1♀)をネットされ、次々に飛来するアオスジアゲハ、キアゲハ、ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、モンシロチョウ、キタキチョウ、ヤマトシジミ、ルリシジミを目撃・確認されたそうです。
さらに、この道沿いでテングチョウ(2♂)を採集し、アカタテハとイシガケチョウを確認されたそうです。チョウはやはり山林より、こうした開けた耕作地と樹林の境目のあたりが、種類が多く、狙い目のようです。
私も負けじと花の近くまで登り、つなぎ竿の網をふるいます。花には極彩色の昼間飛ぶ蛾、キオビエダハャクも吸蜜に来ていました。すぐ横にホストのイヌマキがあり、納得です。
(チシャノキと吸蜜に来たキオビエダハャク)
この花には、ヒメアシナガコガネ、ラインアシナガコガネ、ヒラタハナムグリ、ハナムグリ、アオハナムグリ、オキナワコアオハナムグリ、オオシマアオハナムグリ口永良部亜種、シロテンハナムグリのコガネ類、ベダリアテントウ*、大量のアマミヒメハナノミを始めとするナミアカ、フタモン、チャイロ、ヤマモト、ナガトゲのヒメハナノミ類、ホソクロハナノミ、オキナワ、フタイロ、カトウ、キバネのカミキリモドキ類、ヨツスジハナ、リュウキュウヒメ、フタオビミドリトラ、ホタル、ケナガのカミキリ類、ネムノキマメゾウムシ、アオガネヒメサル、クロウリ、キバラヒメ、クビアカト、コマルノミのハムシ類など多数の甲虫が集まっており、今回の上・下甑島両島で最も(というより唯一の)虫の集まりの良い花でした。
このうち、アシナガコガネかクロアシナガコガネ?と思った種は、帰ってからちゃんと検鏡してみたところ、ラインアシナガコガネでした。本種は広島以南の中国地方と、九州に分布しますが、離島から報告されるのは初めてと思われます。
(ラインアシナガコガネ)
また、小型のシロテンハナムグリと思った種はオオシマアオハナムグリでした。本種は琉球では島ごとに亜種が区別されていますが、黒銅色の体色や背面の強い点刻から、口永良部亜種だろうと思います。本亜種は口之永良部島以外の記録は無く、上甑島で採れたのは注目されます。
(オオシマアオハナムグリ口永良部亜種♀、背面、腹面)
(オオシマアオハナムグリ口永良部亜種♀、頭と前胸・上翅、強い点刻に注目)
小型のハナムグリは腹面が緑銅色で、オキナワコアオハナムグリでした。
甑島列島では、コアオハナムグリも記録されていますが、確認できた個体は全てオキナワの方で、あるいは、コアオハナムグリは元々分布していないか、あるいは、オキナワコアオハナムグリに駆逐されてしまった可能性もあります。
さらに、ハナムグリは2個体確認しただけですが、頭と足、腹面はかなり緑がかっていました。九州や本州では、例外なく、ハナムグリの頭と足、前胸側縁と腹面は赤銅色です。しかし、男女群島産は綺麗な緑色で、上甑島産はこの男女群島産と同色です。
(ハナムグリ、a. 上甑島産、b. 長崎県島原市産、c. 男女群島産)
下甑島からもハナムグリは記録されていますが、今坂はまだ、標本を確認していないので、どのような色をしているか不明です。
極めつけはアオハナムグリで、背面は赤銅色味のある個体から通常の緑色の個体まで、同じ花に飛来していました。また、腹面は黒色に近いものから、通常の明るい赤銅色のものまで、様々な色合いのものがいました。
(上甑島産アオハナムグリ背面)
(上甑島産アオハナムグリ腹面、左の列の個体ほど黒い)
下甑島産は数個体しか見ていませんが、背面は通常の緑で、腹面は赤銅色で、やや暗い感じもしますす。
(下甑島産アオハナムグリ背面、腹面)
一方、五島列島と種子島にはアオハナムグリ五島亜種が分布します。
この亜種は赤銅色から赤紫色を呈することが知られていますが、種子島では緑の個体もいるようです。
(五島若松島堤産アオハナムグリ五島亜種♀背面)
それより、この亜種の確実な特徴は頭、足、前胸側縁、腹面が黒色になることです。
もちろん、九州本土の原亜種は、頭、足、前胸側縁、腹面は赤銅色です。
(アオハナムグリ2亜種 頭胸部、左から五島亜種: 五島若松島堤産、原亜種: 熊本県白髪岳産)
(アオハナムグリ2亜種 腹部、左から五島亜種: 五島若松島堤産、原亜種: 熊本県白髪岳産)
上甑島産アオハナムグリは本土産と同じく頭、足、前胸側縁、腹面が赤銅色の固体が優勢ですが、かなり黒い固体も混じっています。しかしこの腹部が黒化した固体も僅かに銅色光沢は残っており、(五島亜種に相当する)金属光沢の無い全くの黒色固体は見ていません。
背面はかなり赤銅色味が強い個体も混じりますが、緑ベースの個体が多いようです。
以上の変異から推測すると、上甑島産は、元々九州本土と同じ原亜種が分布していたところに、五島亜種が一部侵入し、現在、そのハイブリッド状態になっているものと思われます。
今後どのように推移するのか、興味深いので、注視していきたいと思います。
下甑島産については、数が少ないのでもう少し多くの個体を見てから判断したいと思います。
28日もこの花で追加しようと思って、下甑島への乗船直前まで粘ってみましたが同じものばかりで、道路上を歩いているマイマイカブリを追加しただけで、特にめぼしい種は見られませんでした。
(マイマイカブリ)
モクタチバナの花も再度確認したところ、大分開花していて、リュウキュウヒメカミキリが多く飛来していて、ヨツスジハナカミキリも見られました。
(上甑島産ヨツスジハナカミキリ、♂、♀)
甑島産の本種については、入江(1981)は、「♂後脛節は弱く膨らみ、九州産と屋久島産の中間」とコメントしています。
それで、九州産(長崎県雲仙産)、対馬産、上甑島産、屋久島産を並べてみます。
入江平吉, 1981. 下甑島のカミキリムシ. 北九州の昆蟲, 28(3): 127-131.
(ヨツスジハナカミキリ♂背面、左から、雲仙産、対馬産、上甑島産、屋久島産)
上翅の斑紋だけ見ると、上甑島産は九州産とは異なり、対馬産と屋久島産の中間的な感じがします。
また、上甑島産の♂後脛節はほぼ直線的で弱く反り、膨らみは少なく、九州産の強く膨らみ、膨らみの部分で背面側に強く反るものとは、明らかに異なるように思えます。
ほとんど膨らまない屋久島産とも明らかに区別でき、この中では対馬産に似ています。
(ヨツスジハナカミキリ♂左後脛節、左から、雲仙産、対馬産、上甑島産、屋久島産)
藤田ほか(2019)では甑島列島産は上・下合わせて、九州本土産と同じ亜種との表示がありますが、その図版を見ると、上甑島産はむしろ五島の福江島・中通島の亜種 ssp. iijimai Fujitaの方がより近い感じがします。
藤田 宏・平山洋人・秋田勝己, 2018. 日本産カミキリムシ大図鑑(1). 月刊むし・昆虫大図鑑シリーズ10, 324pp.
下甑島産については、私は♀しか採集していませんが、有馬さんが採集された下甑島片野浦産を紹介します。
(有馬さん採集の下甑島片野浦産ヨツスジハナカミキリ、左から、♀、♂、♂)
この写真を見ると、下甑島産は特に♂で、上翅の上から2番目の黄紋の、合わせ目側が前方に広がっており、むしろ、九州本土産に似ています。しかし、♂後脛節の膨らみは強くなく、上甑島産と同程度です。
甑島産ヨツスジハナカミキリは検討した数が少なく、五島亜種も所有していないので、今のところ、亜種は?としておきます。