前回、虫取りのリハビリを開始したとして、「2020年久留米の春」としてお知らせしました。
その後も、天気の良い日は、午後から2-3時間、サクラ見物をしながら、足慣らしをしています。
3月23日、25日、29日、4月2日、4日、6日と、以下に示した久留米市周辺の概念図にある地名の場所で採集を繰り返しています。
その中で、若干、面白い種も見つかりましたので、山編と、川編の2回に分けて紹介します。併せて、サクラ見物もお楽しみください。
〇高良山(こうらさん:標高312m) 3月23日、29日、4月4日
久留米市の市街地の東側、筑後川の南側に屏風のように連なっている水縄(みのう)山地の西端のピークで、山頂直下に筑後一宮の高良神社があります。
ここから、尾根沿いにうねうねと道路が続いており、最高地点は東端に近い鷹取山(標高802m)です。
自宅から5-6kmと近いので、ちょっと山へ、という気分の時はここへ出かけます。
ピークを過ぎて、夏目漱石の歌碑のそばの菜の花回りに置いたイエローパンFITには、多数のハエ、ハチと共に、少数の甲虫が入っていました。
左から、キスジノミハムシ、ナツグミシギゾウムシ、アトボシハムシ、そして、ダイコンハムシです。
この山道を走るときは、車の上にはカーネットを付けて走るのですが、なかなか、高知の冨田夫妻の成果のようにはムシが採れません。
大部分は空中を浮遊しているハエ、ハチで、甲虫ではヒゲブトハネカクシ類、キクイムシ類、ムクゲキノコムシ類など、名前がわからない種が大部分です。
しかし、時には、通常得られない種も入り、29日には、ミナミナガヒメタマキノコムシ Liocyrtusa onodai Hoshinaが入っていました。
この種は屋久島産で新種記載され、記載者の保科さんは、屋久島固有種あるいは南方系種と考えられていたそうですが、その後、大分県や本州各地で見つかり、広く分布する種と解ったようです。2mmほど丸マルした種で、上翅全体に点刻を密生するのが特徴です。福岡県では初めてです。
そこから、数分ほど東へ走ると耳納(みのう)山です。
○耳納山(みのうさん:標高368m) 3月29日、4月4日
21日にはまだ蕾だったアラハダキイロハナムグリハネカクシのポイントのサクラは、29日にはちょうど満開でした。ヤマザクラとも、ソメイヨシノとも違いますが、種までは解りません。
掬ってみると、やはりアラハダキイロハナムグリハネカクシとハラグロハナムグリハネカクシ、ケシジョウカイモドキ、アカタデハムシ、ズグロキスイモドキなどの常連さんがいます。
道横の草地にはイエローパンFITも設置していました。
29日にはイタドリハムシ、ニセマルガタゴミムシ、オオヒメテントウ、アカバツヤクビナガハネカクシなどに混じって、イヌノフグリトビハムシが入っていました。
本種は草地に珍しくない種ですが、久留米周辺ではまだ採れていませんでした。
さらに、5分ほど上って、上陽町の方へ降りると、枡形山直下のクヌギ林に着きます。
○枡形山(ますがたやま:クヌギ林の標高は450m) 3月23日
ここで立ち枯れを見つけたので、スプレーをしてみました。
スウィーピングやハンマーリングもやってみて、得られた甲虫は以下の通りです。
左から、ツノブトホタルモドキ、ツブノミハムシ、アカホソアリモドキ、ホソマダラホソカタムシ、ドウチビキカワムシ、タマキノムシの一種、ナガヒゲブトコメツキ、サシゲトビハムシ、ホソルリトビハムシ、カミヤチビシギゾウムシ(久留米周辺で初めて採集)、ハモグリゾウムシの一種、クワノキクイムシ。
さて、尾根沿いはこれくらいにして、南側の谷、高良内にも通ってみました。
○高良内(こうらうち:標高121m、200m) 3月29日、4月2日、4日
久留米市の中心部を流れる高良川を上流にたどると、住宅を抜け、田畑を抜け、高良山南麓の谷間に入ってきます。
緑肥のレンゲ畑の先の、谷の入り口の斜面に、桜と赤芽、そして新緑の対比を見つけました。
川沿いの谷間を入って、地道の林道へ折れます。
この周辺を叩いてみます。所どころに、セイヨウカラシナの菜の花も咲いています。
いつもの春の虫達ですが、ツマキアオジョウカイモドキ、ケシジョウカイモドキ、キベリチビケシキスイ、クロフナガタハナノミ、スイバトビハムシ、シロオビナカボソタマムシ、ヒメカメノコテントウ、イチゴハムシ、ムネアカキバネサルハムシ、マダラアラゲサルハムシ、ヒメジョウカイ、アカバツヤクビナガハネカクシなどの姿が見えます。
中に、ダイコンサルゾウムシとそれよりやや大きいサルゾウムシが混じっていました。調べてみたら、森本先生と城戸さんが、国内初記録として記録されたオオダイコンサルゾウムシ Ceutorhynchus obstrictus (Marsham)でした。
(左:ダイコンサルゾウムシ、右:オオダイコンサルゾウムシ)
森本 桂・城戸克弥, 2016. 日本新記録オオダイコンサルゾウムシ(新称)の分布と生態. 月刊むし, (548): 38-40.
本種はヨーロッパ原産で、北アメリカ、カナダ、韓国などで記録されています。
森本・城戸の報告では、国内初として、九州(福岡県北西部海岸沿い)と対馬、筑前沖の島から記録されています。
その後の記録を調べていないので、国内の分布がどのように広がっているかは解りませんが、当初、海岸のハマダイコンで見つかっていた物が、河川敷のセイヨウカラシナなどをホストとしながら、内陸にも広がってきているのではないかと想像されます。
この林道の奥には、渓流沿いに流木の枯れ木を積み上げた場所があります。
ここに、前回、イエローパンFITを設置しておきました。
得られたのはオオアオモリヒラタゴミムシ、ヘリアカバコガシラハネカクシ、ケシジョウカイモドキ、キベリチビケシキスイなどたいしたものはありませんでしたが、中に1種だけ微小なハネカクシが目に留まりました。
(左:セスジチビハネカクシの一種、右:セスジチビハネカクシ)
右は樹林林床の落ち葉を篩って、比較的普通に得られるセスジチビハネカクシです。
問題は左の種で、体形が太短く、体色も黒く、なんと言っても赤矢印で示した前胸背中央の六角形の彫刻や、緑矢印で示した上翅の縦筋の形も、セスジチビハネカクシとは違っています。
この類の解説、渡辺(1979)を見てみましたが、ピタッと合う種は見つけられませんでした。
渡辺泰明, 1979. チビハネカクシ亜科(Micropeplinae)概説. 甲虫ニュース, (45): 1-8.
伊藤さんのご教示では、「北海道から1♂で記載されたサトウセスジチビハネカクシ Micropeplus satoi Watanabeに似ているが、異なる部分もありそう」と言うことで、詳しく調べていただこうと思っています。ご教示いただいた、伊藤さんにお礼申し上げ、是非、詳しく調べていただきたいと思います。
ここから、通常は渓流沿いに杉谷集落を経て上陽町に至る県道800号線が通っているのですが、土砂崩れで通行止めになっています。
先の高良山から枡形山を経て上陽町に至る道が迂回路と表示されていたので、バリケードの前から左折し、山へと登り始めます。
5分ほど上ると、かつて畑があったと思われる林縁の草地に出ました。
ここいらで、標高200mくらいで、周囲の南斜面には常緑樹が茂っています。ここでスウィーピングをしてみます。
左上から、キイロテントウ、コクロヒメテントウ、サメハダツブノミハムシ、スイバトビハムシ、
2列目、クロフヒゲナガゾウムシ、クロウリハムシ、ヤマトデオキノコムシ、フジハムシ、オドリコソウチビケシキスイ、ホソクビアリモドキ、クロフナガタハナノミ、ツブノミハムシ、ニセクロマルケシキスイ、ヒラタチビタマムシ、ケシジョウカイモドキ、下の茶色いのはウスグロヒゲボソコキノコムシ、
そして、右端は従来、シマバラチビジョウカイ Malthodes sp.として記録していた♀♂、この種は高橋直樹氏と今坂により、記載準備中です。
3列目、ナガハムシダマシ、ハラアカモリヒラタゴミムシ、カクムネベニボタル、ツバキコブハムシ、その下、イタドリハムシ、ブタクサハムシ、その下、ホソチビオオキノコ、スイバトビハムシ、ツマキアオジョウカイモドキ、ヒメクロトラカミキリ、ハヤトニンフジョウカイ♂♀
以上、山編では、のべ4日間の午後からの採集で得られた結果を紹介しました。その気で調べると、興味深い種もぽつぽつ出現してきます。
以下、川編に続く。