今年も、久留米昆蟲研究會では会誌発行に力を入れていまして、年度内に2冊発行の予定です。
その第一弾として、2017年1月末日に、会誌KORASANA 85号を発行されました。85号は全214ページ、84号が212ページだったので、2号続けて200ページ超えということになります。
久留米昆蟲研究會ではそのKORASANA 85号を3000円で頒布しています。
ご希望の方はこのホームページ左上の「おたより」をクリックして申し込まれるか、あるいは、直接、事務局 kokubu1951@outlook.jp
までお申し込みください。
なお、今年度はさらにあと1冊発行予定で、年会費は3500円ですから、今後も会誌を希望される方は、入会いただいた方がずいぶんお得になります。
85号の目次は次の通りです。
国分 謙一 [鳩山邦夫氏を偲んで]・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
溝部 忠志 [鳩山先生、有難うございました1]・・・・・・・・・・・・・3
行徳 直久 [傘寿を迎えたカブトムシ]・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
吉美信‐郎[2016年中の主な採集歴]・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
溝部 忠志 [クロッパメシジミの異常個体を採集]・・・・・・・・・・・ 7
國分 謙一 [八女市岩戸山古墳の蝶]・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
荒巻 健二 [随筆:田螺殴。たにしどの〜ほか]・・・・・・・・・・・・ 11
今坂 正一 [昭和初期に描かれた蝶画などについて]・・・・・・・・・・12
小林 修司 [2014年から2016年に英彦山で採集したカミキリム]・・・・・15
小林 修司 [福岡県筑前市朝日で採集した甲虫類など]・・・・・・・・・17
小林 修司 [福岡県朝倉市柿原で散歩中に見つけたコガネムシなど]・・・20
小林 修司 [最後のオキマル採集記]・・・・・・・・・・・・・・・・・21
築島 基樹 [シリアゲアリ属の巣からアリヅカコオロギを採集]・・・・・25
越智恒夫・今坂正一[四国石鎚山周辺のハナムグリハネカクシ採集期記]・26
今坂正一・築島 基樹・國分 謙―・齋藤 正治。江頭 修志
[カラ迫岳採集例会で確認された昆虫類]・・・・・・・・・・39
緒方 靖哉 [外来種マツヘリカメムシの福岡市東区美和台での採集例]・・65
緒方 靖哉 [福岡市東区地区におけるカミキリムシの採集記録と覚書]・・66
緒方 靖哉・大桃定洋 [シマバラナガタマムシを福岡県東区で採集]・・・73
緒方 靖哉 [宗像市城山産カミキリムシの採集記録と覚書]・・・・・・・74
江頭 修志 [熊渡山の甲虫(2)]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
齋藤 正治 [八女市岩戸山古墳の甲虫]・・・・・・・・・・・・・・・・84
小田 正明 [清水山とその周辺地域の昆虫(IV)]・・・・・・・・・・・・93
城戸克弥・今坂正一。岩橋 正
[「福岡県の希少野生生物,2014」掲載の甲虫類の採集記録と出典]101
城戸 克弥 [丸山式FITで得られた宗像市八所宮の甲虫類]・・・・・・・123
城戸 克弥 [福岡県宗像市で採集した甲虫類]・・・・・・・・・・・・ 139
城戸 克弥 [「福岡県のゴミムシダマシ上科」の訂正]・・・・・・・・ 159
田畑 郁夫 [ヒメクダマキモドキは♀が鳴いて♂を誘い♂♀が鳴き交わす話]163
田畑 郁夫 [頚吻群の♀外部生殖節、特にgonangulumと骨頭関節について]179
田畑 郁夫 [脈相ノート1]・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・193
正木 清 [チャグロヒサゴコメツキの地域変異について]・・・・・・ 207
築島 基樹 [クロモンチビゴキブリの採集状況について]・・・・・・・ 213
築島 基樹 [耳納山系におけるヒナカマキリの採集記録]・・・・・・・ 214
短報
築島 基樹 [日本ミツバチ分蜂群の捕獲記録(2016年)]・・・・・・・・・ 8
國分 謙一 [2016年タテハモドキの記録]・・・・・・・・・・・・・・・10
小林 修司 [福岡県朝倉市柿原でアオカミキリを採集]・・・・・・・・・16
小林 修司 [築上町でスネケブカヒロコバネカミキリを採集]・・・・・・19
まず85号の表紙ですが、以下のようになっています。
我田引水になりますが、実は、このナガサキアゲハは、今から約80年前の昭和13年7月6日に、私のカミさんの伯父さんにあたる人が描いた絵であります。
その顛末は、このホームページの昨年のトピックで紹介しておりますので、詳しくはそちらをご覧下さい。
昭和初期に描かれた蝶画
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=181
チョウ屋で事務局の国分さんから、「ぜひ会誌に、報告として書いて欲しい」と依頼されてホームページの内容を書き直して掲載し、さらに表紙にもその絵を使っていただいたわけです。
本文の内容について、会誌の目次の順に紹介します。
國分さんと溝部さんの、最初の2編は、昨年6月に急逝された鳩山邦雄氏への追悼文です。
氏は、チョウ採集と飼育で有名で、2005年に選挙区を久留米市に移された当初より、久留米昆に入会され、名誉会員として、総会・新年会・虫供養など欠かさず出席されました。
この追悼文については、2月15日付けの読売新聞地方版でも紹介されています。
全体にチョウの記事が少ないのが弱点ですが、甲虫はもとより、カメムシ、バッタ、ゴキブリ、ハチ、ウスバカゲロウ、ウンカ等々、昆虫のかなり多くの分野の情報が掲載されています。
随筆あり、採集記あり、地域ファウナの報告あり、分類学的な考察ありと、種々雑多、長短入り乱れて多彩です。
会員一人一人が、自身の好きな虫、集めている虫、研究している虫について自分なりの好みと視点で文章を書いて発表する、まとまりのない、こんな形こそが、同好者の集まりである地方研究会の会誌として、あるべく姿と考えています。そういう意味で、ここ何年かの会誌は、満足すべき状態と考えています。
今回、最も多くのページ数を掲載したのは、手前味噌ながら、共著も含めて64ページで私が、次いで、城戸さんが62ページ、田畑さんが44ページ、その他、齋藤さんの34ページ、江頭さんと築島さんの30ページ、緒方さんの14ページ、小林さんの10ページ、小田さんの9ページが続きます。
城戸さんと田畑さんの原稿は多すぎて、分割して次回に回したので、実際は、このお二人の原稿が大半を占めていました。
まず、昨年報告したハナムグリハネカクシの姉妹編として、今年は、愛媛の越智さんに四国石鎚山の採集記を書いていただきました。
これは、私のホームページに4回に渡って連載いただいたものを、会誌用にコンパクトにまとめていただいたもので、昨年(2016年)数回の採集行で8種を記録され、そのうち5種は未記載(新種?)と考えられるものです。
また、前年の九州産10種と比較しても、共通種は3種のみで、5種は違っていて、四国と九州で、15種も分布することが明らかになっています。
四国石鎚山のハナムグリハネカクシ採集記1〜4
1回目
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=176
2回目
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=177
3回目
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=178
4回目
http://www.coleoptera.jp/modules/xhnewbb/viewtopic.php?topic_id=179
次に、カラ迫岳採集例会で確認された昆虫類
前回に引き続き実施された採集例会の報告ですが、天候不順もあり、チグハグに、何日かにわたって実行されたのが、逆に功を奏したのか、7名の会員が出席されました。
そして、その結果、甲虫306種、蛾151種、チョウ26種、その他の昆虫128種、計611種が採集され、多くの専門家に同定していただいて、かなり大量の種を記録することが出来ました。
甲虫以外では、ヒメカマキリモドキ、エサキクチキゴキブリ、ムネツヤセイボウ、オオホシシリアゲ、クチバシガガンボなど、蛾では、キモンウスグロノメイガ、ジョナスキシタバなどの珍しい種が得られています。
また、甲虫では、未記載種と考えられる種が、セミゾハネカクシの一種とアバタセスジハネカクシの近縁種の2種、
さらに、福岡県初記録と思われる種が、ヒメメダカハネカクシ、ナミクシヒゲハネカクシ、ナガコゲチャケシキスイ、ハナノヒメハナノミ、クロアラハダトビハムシ、クロトゲサルゾウムシ、マツアラハダクチカクシゾウムシの7種が見つかっています。
県初記録ではありませんが、かなり珍しい種として、ヒコサンナガタマムシ、クロスジヒゲコメツキダマシ、シバタハナボタル、カタスジクロヒメハナノミも採集できました。
今年もぜひ続けたいと思っていますので、会員各位は、ふるって参加いただきたいと思います。
緒方さんによる福岡市産として、外来種のマツヘリカメシ、日本3例目のシマバラナガタマムシの記録も注目されます。
江頭さんによる「熊渡山の甲虫(2)」、齋藤さんによる「八女市岩戸山古墳の甲虫」、小田さんによる「清水山とその周辺地域の昆虫(IV)」も地道な調査の成果です。
このうち、齋藤さん報告のスズメバチヤドリキスイ(仮称)は国内初記録の種です。
城戸さんほかの「福岡県の希少野生生物,2014」掲載の甲虫類の採集記録と出典は、2014年に発行された所謂「福岡県RDB」の文献集です。
行政の例に漏れず、予算の関係で文献は全てカットして掲載されていなかったので、次回のことも考えて掲載しました。
城戸さんの2報告、「丸山式FITで得られた宗像市八所宮の甲虫類」と、「福岡県宗像市で採集した甲虫類」は、先年から宗像市の自然環境調査員としての活動の一部をまとめていただいたものです。
八所宮では所謂低地の鎮守の森ですが、アイヌコブスジコガネ、ムネアカセンチコガネ、ヒゴシマビロウドコガネ、ケシツブタマムシ、カクモンホソオオキノコムシ、アナバケデオネスイ、イチハシホソカタムシ、キイロアシボソテントウダマシなど意外な種が採れています。
特に、イチハシチビサビキコリと、キイロホソネスイの多産は注目されます。
また、宗像市の報では、ツノブトホソエンマムシ、アバタツヤナガヒラタホソカタムシ、オニヒラタホソカタムシ、モリモトチビキカワムシなどの珍品に加え、
オキナワコブエンマムシ、マメクワガタ、チビサクラコガネ、オキナワコアオハナムグリ、アカオオハナコメツキ、クリイロヒゲハナノミ、チビヒョウタンヒゲナガゾウムシ、ナガカツオゾウムシ、チャマダラヒメゾウムシなどの、琉球系、あるいは沿海性と思われる福岡県に分布するとは思えないような種も記録されています。
最近、県内(九州本土)に侵入したと思われるモンクチビルテントウ、ツシママダラテントウ、ヨツモンカメノコハムシ、オオダイコンサルゾウムシなども記録されています。
最近殆ど採れないので県によってはRDBに指定されているミドリカミキリやブドウトラカミキリの再発見も注目されます。
田畑さんの、「ヒメクダマキモドキは♀が鳴いて♂を誘い♂♀が鳴き交わす話」は、♀が♂を誘い鳴きをするという、まったく今まで聞いたことのない話で、氏の綿密な観察を元にした話だけに説得力があります。
また、「頚吻群の♀外部生殖節、特にgonangulumと骨頭関節について」と、「脈相ノート1」の記述については、門外漢としては、ただ呆然と見つめる感じです。
(頚吻群の♀外部生殖節挿画)
その挿図だけみても、よほど勉強していないと何のことだか皆目見当が付きませんが、凡人にとっては、正直、この人の頭の中は、一帯どのようになっているのかと考えてしまいます。
内外の文献を駆使し、考えに考えて、自分の中で熟慮得られた結論を、こちらも熟練された描画の技で表現されています。
形態学をちゃんと勉強されたい方は、田畑さんの報告は是非読まれるべきです。
最後に、正木さんの「チャグロヒサゴコメツキの地域変異について」ですが、めったに文章を書かれない氏に、なんとか文章を掲載していただいたという点において、1つの成果と考えています。
コメツキの分類は、非常に難しいのですが、中でも地域変異に関してはさらにその差が微妙で整理が難しく、あまり報告がありません。
今回のチャグロヒサゴコメツキは、全国的に見て、特に九州産が変わっていて、その意味で是非にとお願いして書いていただきました。
氏は地域変異に多大な興味をお持ちなので、また何か書いていただこうと考えています。