春の南大隅-雨と風と低温と- その3

南大隅二日目(5月9日)

当初の予報通り、未明から強く雨が降っています。

今日は、とても採集ができる状態ではないので、とりあえず、朝はゆっくりして、9時頃から動き始めました。

まだ、宿の周辺もどうなっているのか良く解らないので、周囲の偵察です。

(辺塚周辺の採集地地図)

辺塚周辺の採集地地図

まず、県道74号を伊座敷方向へ走ってみることにします。

(宿の前から伊座敷方向)

宿の前から伊座敷方向

雨は断続的に強く降ったり弱くなったり、雲も低く垂れ込めています。
宿から、地図の左方向(西側)へ100mほど走ると、辺塚川に橋が架かっていて、左折して200mほど先が辺塚漁港です。

(辺塚漁港)

辺塚漁港

船はあるので、ここから漁に出られているようです。

砂浜の先の方に自衛隊員が集まって、雨の中、何か演習をやられていました。

(砂浜の自衛隊員)

砂浜の自衛隊員

規模は小さいですが、この砂浜には若干の草付きがあり、川沿いの川岸には河畔植物が茂っていて、何か居そうです。
後日探すことにして、先へ進みます。

(砂浜と川沿い)

砂浜と川沿い

県道74号は広く走りやすく、県道563号とは大違い。
こちらは生活道路として、広く利用されているようです。
道は、畑と林の縁を縫うようにうねうねと峠に向かって登っていて、片方は照葉樹の林なので、道沿い何処でも叩けそうです。

多分、80年前の中根先生ご一行も、様子は違えど、ほぼこの道を辿られたものと思います。

この少し上の方に伐採跡があることを、来る前にグーグルで確認していたので、まずは、そこを見に行きます。

上の地図上で、県道74号の表示の、すぐ左下のV字カーブの左側が伐採跡でしたが、スギ植林の伐採だったようで、伐採後もかなり経っているようです。
雑木の伐採木の残りを期待したのですが、残念ながら採集ポイントには、ならなそうです。

せっかくなので、とりあえず、茂みの脇の裸地に、イエローパントラップを数基置きます。

(伐採跡)

伐採跡

道の反対側は、道沿いでも比較的大木の自然林でした。
ここから峠までの間は、それなりに大木もあり、FITなどのトラップも置けそうです。

(伐採跡の反対側の林)

伐採跡の反対側の林

峠は標高500mで、それなりの高さです。
眺めの良い場所から見下ろすと、見渡す限り自然林で覆われています。
道沿いに花を探してみたところ、所々にシイの花と、ミズキ、それにエゴの花が咲いています。
ただ、どの花も高くて、掬えそうな花はあまりありません。

峠から引き返しながら、道沿いで見つけた立ち枯れに、数基ライトFITを設置しました。

(道沿いの立ち枯れにライトFIT)

道沿いの立ち枯れにライトFIT

帰りがけ、県道から畑地の方へ入り、イノシシの檻と表示した矢印の先から右上に走る林道や、畑の縁を巡る道を探索してみます。

道沿いに植林は少なく、ほぼ雑木なので、何処でも叩けそうです。

途中、神社を見つけて入ってみました。
鳥居の横に、周辺の数社が合記されて辺塚神社として祀られたという案内板がありました。

(辺塚神社の案内板)

辺塚神社の案内板

また、鳥居の両脇には、それぞれ周囲数メートル以上はあろうかと言うアコウの大木と、イチョウの大木が聳えていました。

(鳥居の横の大アコウ)

鳥居の横の大アコウ

アコウの木は海岸沿いに流れ着いて分布を広げる種で、通常、波打ち際から数十メートル範囲で見られる種です。
この場所は標高60mあり、自生したとも思えません。

どちらにしても、大イチョウ共々、樹齢数百年は経ったように思える大木なので、いつから、どういう経緯でここに植わっているのか、興味を覚えます。

雨が強くなったのと、ちょうどお昼になったので、宿へ戻ることにします。

辺塚集落にあるお店はこの湊原食堂ただ一軒です。
当初、お昼の弁当の心配をしていたのですが、食堂を営業されているなら、昼には宿に戻れば良いわけです。

(湊原食堂)

湊原食堂

食堂には、結構、多くのご近所さんが詰めかけていました。
知り合いの噂話も聞かれます。

國分さんと一緒にチャンポンを注文しました。

午後も相変わらず雨が降っています。

午後は、昨日来るとき、気になった県道563号線の樹林を見に行くことにしました。
この県道沿いは全体として熊之細という地名が着いています。

打詰にある小田ポイントの廃棄林道は、地図上ではうねうねと山林を走り、この県道563号線の上部に繋がっていました。

県道563号線側の入り口付近はやはり平らで、少しは歩けるかとも思ったのですが、植林混じりで、雨の中、探索する気力が湧きませんでした。

峠の手前の標高589m付近で、このルート最大の渓流を横切っており、橋の欄干と、付近の木にライトFITを吊るしました。

(渓流)

渓流

(橋に下げたライトFIT)

橋に下げたライトFIT

(道横に下げたライトFIT)

道横に下げたライトFIT

周囲は大木が茂っていて暗く、渓谷は湿気が多そうで、何か居そうな気がしたからです。

トラップ設置後、戻ることにしました。

ちょっと下がった標高500m地点は、谷側が明るく開けていて、裸地と草地が見られました。
ここにもイエローパントラップを置くことにしました。

(熊之細のイエローパントラップ設置場所)

熊之細のイエローパントラップ設置場所

多少、小降り気味だった雨は、再び雨脚が強くなったので、このまま下って帰ることにしました。

宿に帰り着いて、濡れた衣服を脱ぎ、着替えて前日の虫を整理していると、國分さんが、小冊子を差し出しました。

部屋に置いてあった佐多地域のフリーペーパーのようで、この号は辺塚の特集号です。
周辺の観光地図もあり、この宿のことも詳しく紹介してあります。

(2021年3月発行「かぜつち」表紙)

2021年3月発行「かぜつち」表紙

(観光地図)

観光地図

この記事によりますと、湊原旅館の女将は湊原悦子さん。インタビュー時は77歳。
湊原家は、元々は林業を営み、昭和40年代、ガソリンスタンドと食堂、旅館を始められたそうです。
その頃、近くに自衛隊射撃場ができて、それと共に、道路や電気、ガスなどが整備され、買い物客も増え、個人商店もいくつか有った模様です。

悦子さんは20代で嫁いでこられてから、60年近く食堂と旅館を切り盛りされてきたようです。
町長も務められたご主人が亡くなられた後も、一人で湊原旅館と食堂を続けられているとのことです。

(湊原悦子さんの記事)

湊原悦子さんの記事

(旅館と食堂)

旅館と食堂

これは4年前の記事なので、現在は81歳。
自分で車を運転して、30分以上かかる伊座敷への買い出しと、料理、布団の上げ下ろしから、浴槽・部屋の掃除まで、全て一人でやられており、並大抵のことでは無いと思います。

夕方、雨が小降りなったので、宿の庭の灯火採集は点灯することにしました。

今日は、あちこち走り回ってトラップを設置しただけで、虫は何一つ採っていません。

夕食ではゾウリエビの昨日とは違う料理が出たので、もう運転はしなくても良いと、ビールをいただきました。
注文すると、最近では珍しい中瓶が出てきました。

夕食の後、暗くなってきたので、ライトを見に行きます。
結構風が強く、雨も小降りながら降り続いていて、虫の集まりはあまり芳しくありません。

寝るまでに、数回見回りに行き、20種が確保できました。

カラカネゴモクムシ○、キイロチビゴモクムシ○、キベリゴモクムシ○、ツヤマメゴモクムシ△*、ダイミョウツブゴミムシ○、ミイデラゴミムシ○、アカケシガムシ*、カドマルエンマコガネ○、ヒゲナガクロコガネ、マルトゲムシの一種△*、サビキコリ△、アカアシオオクシコメツキ○、オオハナコメツキ△、セボシジョウカイ△、キバネカミキリモドキ△*、ワモンサビカミキリ○、キボシツツハムシ○、クロウリハムシ○、ムネアカオオノミハムシ*、セマルヒゲナガゾウムシ△*が来ていました。

前日の灯火採集とは、6種しか重複していないので、天候にかかわらず、出来るなら点灯しておくものです。

なお、和名だけの種は本土系で鹿児島県を南限にする種、和名の後の△は本土系で屋久島・種子島までいる種、○は琉球~本州までいる南方系種、*は南大隅初記録種です。

このうち、ミイデラゴミムシは、頭と前胸が黒く、ちょっと悩みました。
近似種のうち、オオミイデラゴミムシとは斑紋パターンが明らかに違います。
しかし、八重山ににいるムナグロミイデラゴミムシには良く似ています。
八重山と南大隅では分布が飛びすぎているので、詳細に検討した結果、ミイデラゴミムシの極端に黒化したものと判断しました。

南大隅では、今のところ、ミイデラゴミムシだけが見つかっています。

色彩変異の大きい種群の同定は、なかなか難しいです。

(黒化の著しいミイデラゴミムシ)

黒化の著しいミイデラゴミムシ

つづく